郡界尾根で東雨乞岳

東雨乞岳より北東方向を見る。中央はイブネ

平成23年10月30日(日)
【天候】曇りのち雨
【同行】別掲


 今月の定例オフはSさんのフィールドである鈴鹿。中でも最も好きだとおっしゃる雨乞
岳の一部バリエーションルートを含めた静かな道を案内していただくという趣向である。
午後から降り出すという生憎の天候に予定ルートを端折らざるを得なかったが、そろそろ
色づき始めた木々にしっとりとした秋を感じる山行となりました。

 久々に11名が集まるオフの日曜日。明け方に降ったらしく路面が濡れている。見上げ
れば、もう半日泣き出すのを持ってくれろと願わざるをえない雨模様の空である。が、待
ち合わせ場所の土山に着くと悪化が遅れているのかほんのり薄日が射してくる。

 鈴鹿スカイラインは武平峠トンネル以東が通行止で、武平峠を利用する三重県側からの
登山者がいないので空いているだろうとの予想通り、武平峠手前600m辺りにある駐車
場には先行車は皆無である。もっともこんな天気だから登るのを断念した人も多かろうが。
(笑)
雨量観測所の横が茨谷の登山口
 気温は15℃と暖かい。中腹ではまだあまり色づいていない落葉樹も、標高も800m 位になるとほんのりとした色合いを示し始めている。スカイラインを少し戻ったヘアピン カーブに武平峠の雨量観測の小屋がある。ここが取りつき。すぐに2mほどの沢を渡るが これが茨谷と呼ばれる谷だそうだ。滑らぬようにして対岸の杉林の急斜面に取りついて登 り始める。つづらに道がついているので、急登の割には息が切れない。ぐんぐん高度を上 げて直径1mはあろうかという大杉の根元を過ぎる。左手が開けて山頂が半分雲に隠れた 鎌ヶ岳の鋭い姿が望めるようになる。意外に近い。松尾川と松山谷の間の支尾根がアップ ダウンを繰り返して、最後は鈴鹿スカイラインの車道の崖となって沈んでいる。  尾根に上がった所は『いっぷく峠』と呼ばれる場所で、所謂”峠”のイメージではない が、急登をふぅふぅ息を切らせて上がって最初に息を鎮めるのにはうってつけの場所なの で命名されたのだろう。云いえて妙とはこのことだ。立ち木に白いペンキで名称や標高が 記されている。北方向に分岐があるのは旧沢谷峠からの踏み跡で、これは帰路に利用する ことになるとのことである。
旧沢谷峠付近の紅葉
 ここからは西へCa950mの無名ピークを越えて、柔らかい色合いに色づき始めた木々 の間を急降下する。振り返れば黄色や赤のグラデーションだ。下りきった所は谷の源頭の 浅いU字型の曲線地形を示す。旧沢谷峠と呼ばれる地点だ。ここを下ればクラ谷分岐に出 るはず。東側が開けており、茂みがないので先程よりも鎌ヶ岳がはっきり見える。周囲の 山々の姿もはっきりとしていて雨はまだ大丈夫のようだ。眼下にはスカイラインが覗いて いて、蟻ほどの大きさのバイクが走っている。スカイラインの路面に黒いタイヤ痕が無数 についていたけれど、対向車の心配もほとんどなく、ローリング族の格好のレーシング会 場になっているようである。(笑) しばらく鹿フェンスの残骸の横を進み、小刻みにアッ プダウンを繰り返してゆくがほとんど高度は上がらない。10分ほどで現れた南北方向の 尾根に切り返すように登ると沢谷ノ頭と呼ばれる967m標高点ピークに着く。なだらか で小さな高みが二つあるが全く目立たない。と、顔にポツッと来た。ついに来たか。  踏み跡はしばらく北に進んで再び西方向に戻る。尾根はCa900mの鞍部を過ぎると狭 まってきて尾根を歩いている実感が湧いてくる。やがて三人山の東尾根に取付くと傾斜が 徐々に増し加減になる。それでも三人山の手前までそれほどの急登はない。そして落ち葉 に覆われたゆるやかに起伏する雑木の広場に出る。『いいなのコバ』だ。折角なので、左 に見える三人山と呼ばれる1014mの標高点ピークに寄っていく。ザックをコバに置い て、チョチョイと緩い登りを一息だ。三人山は丸い円錐状の高みで、木々に囲まれプレー トが2枚架かるのみの狭い頂きは展望こそないが殊のほか静かで、滋賀県営林bU8の杭 が埋まる。ここから北にある七人山も山名の由来がはっきりしないらしいが、ここはエア リアマップにも山名の記載がない。差し詰め七人に対抗して命名したのではなかろうか。 (笑)
いいなのコバ付近にて
 ザックのデポ地に戻って、小憩の後、木々の向こうに姿を現した東雨乞岳を目がけて最 後の登りに入る。しっとりとした気持ちのいい雑木林である。緩やかに山腹を行き、途中 のちょっとした平坦地を見つけて休憩。三人山より少し標高は高くなったようだ。一服し ている間に騒がしくなったのは木々の葉に雨が当たる音である。今までも断続や強弱を繰 り返していた小雨も降るたびにその強さを増し始めている。  東雨乞岳の大きな斜面をゆっくりと踏みしめながら進んでゆく。ヒメザサのような絨毯 状に広がるひ弱な笹だったのが、高度を上げるに従って雨乞名物の熊笹に変化してくるの が面白い。次第に木々も疎らになって、山頂が近くなったことが分かる。背丈程もある濡 れた笹が煩わしい。それが両側から被さって踏み跡を隠し、地面から突き出た切り株につ まづかぬよう注意がいる。ササの葉に雨粒が当たって騒がしくなる中、ジグザグに登り続 けるとようやく傾斜も緩んでくる。更にくねくね辿っていくと三角点がないのが不思議な くらい遮るものもない山頂広場。これで二度目の東雨乞岳である。
東雨乞岳から左に御在所岳、右に鎌ヶ岳
 雨なのにまだ存外視界がいい。西にここより若干高い雨乞岳本峰のなだらかな姿。笹原 の中、本峰にへ向かうグループの上半身が見え隠れしている。右に首を振ると台形状のイ ブネの姿があり、雲の海の彼方に山頂だけぽっかり島のように浮かんでいるは比良山系だ ろうか。東方には御在所岳と鎌ヶ岳がとりわけ印象的だ。そういえば今年は入道ヶ岳にも 登ったから、北と南から両山を眺めたことになるわけだ。さながら東雨乞パノラマ劇場で ある。本来なら当然、パノラマを鑑賞しつつここで食事となるはずだろうが、雨なので林 の中の方が良かろう。名残惜しいが数分で山頂を後に先に進むことになる。雨乞岳本峰ピ ストンも残念ながらカットである。  東雨乞岳の笹原の台地から急降下するすぐ手前から、七人山方面へ向かう為、左の笹の 中へ折れる。勿論、テープ類はおろか確たる踏み跡もない経験者のみぞ知るバリエーショ ンルート。電池を交換する為に遅れた小生をUさんらが待っていてくれたので左折地点が 分かったようなものの、そうでなければ直進していたろう。が、小生を待っていてくれた 所為で、今度はUさん含め我々3人が先行メンバと離れてしまった。笹原には薄いケモノ 道が錯綜し、先行メンバの痕跡か否かも定かでないので、これはと馬鹿声自慢の小生が「 おーい」と何度か叫ぶ内に、右手の斜面下(東)方向から反応があった。斜面を一気に下 りていったようだ。声の方向を頼りに、トラバースしながら雨に濡れた笹を漕いで滑るよ うに降りていくと、先行メンバのカラフルな姿が目に入った。フーッ。  ところでちょっと疑問。あの笹原で直進する踏み跡はさてどこへ向かうのだろうか?S さんに確かめてみると、意外な答えが返ってきた。実は東雨乞岳へ登りに使った道そのも のなのだった。先日、掲示板に最終的にアップされたルート図より前にアップされたルー ト図を持参してきていた為、てっきり別の道だと先入感があったのだ。(^^; そういえば 御在所岳や鎌ヶ岳が進行方向に見えていたのも道理である。  展望岩があってこれから下る先が見える。山々の中腹以下は何時の間にやらガスに包ま れている。今はほとんど上がっている雨だけれど、何時まで持つだろうか。笹が消えると 格段に歩きやすくなった。微かな踏み跡が出たり消えたりの斜面は薄茶と黄色をまとった 雑木林。分厚い腐葉土と落ち葉に覆われて弾力がある。やがて鞍部と思しき小広い疎林に 出る。『東の平』と名がついているそうだ。正午も廻り、雨も小止みなので今の内にここ で食事。雨の為に立食にならずに良かった。あれほど惨めなものはないから。(笑)
『東の平』付近にて
 とはいえ食事を終えて一服していると急に雨脚が強まってきて、ついに本格的な雨の兆 し。カメラをザックに仕舞い、ザックにはカバーをかけざるを得なくなる。これ以後、残 念ながら画像は無しです。(^^; それより前線通過で空気が入れ替わったのだろう、半袖 では少し寒くなってきた。ウインドブレーカを着込んでおこう。  降りて来た方向からほぼ直角(北)に折れて七人山方面に向かう。山麓を縫うように水平 に踏み跡が現れた。200mも行くと谷が現れ、今までとは一転、指導テープが賑やかで 字がかすれた古い道標もある。エアリアマップにも記載があるクラ谷ルートだ。少し遡行 すれば七人山のコルで七人山も近いが、省略しそのまま谷を下る。  ここは初めて雨乞岳にやって来た時に下った道のはずだがほとんど記憶に残っていない。 右に左に何回も渡渉しながらのコースは、芦生の櫃倉谷の奥に似ている。谷が底深くなる と踏み跡はそこへ降りていくという風につかず離れず。時たま古い永源寺町が設置した標 識がある。下るに従ってクラ谷も広くなり、空もやや開けてきて明るくなる。古い炭焼き 窯の跡。右手に見える尾根上を朝は歩いていたことになる。  谷と別れて右の高みへと踏み跡は上がっていく。クラ谷と沢谷の合流点を分ける小尾根 を乗越す箇所である。少し足場が悪く、ザレた部分は踏み跡が消えやすい地点だ。山腹を 巻くようにして最高部を越えると再び流れ(沢谷)が現れるが、流れる方向が今度は逆方 向になるのでちょっとばかり感覚が狂う。沢谷はクラ谷に比べて緩やかで沢谷峠まで緊張 を解いてのんびりと歩ける。最後は流れ自体もなくなり、その枯れた小沢を歩いて沢谷峠 に出た。ここで武平峠への道と分かれて南下すれば往路の『いっぷく峠』である。  こんな急斜面を登って来たのだろうか。いっぷく峠からの下山路は滑りやすいので立ち 木にすがっての下山だ。朝はのっけからきつかったはずだ。(笑) 周囲を眺める気もなく、 登山口に向かってただひたすらに下るのみ。およそ20分で雨量観測所の建物とドライブ ウェイが見えた。沢谷で汚れたストックの先を洗い路上に出た。  少し小降りになった雨の中、駐車地へ戻るまでのドライブウェイから眺める山並みは、 まるで東山魁偉さんの一幅の絵を眺めているようだ。後半は雨だったけれど、それほど寒 くもなくつつがなく山行を終えた。通常では歩かないルートを教えていただき、Sさんに は感謝。参加の皆さんお疲れ様でした。
■同行: 裏人さん、北山さん、さかじんさん、幸さん、たらちゃん、たるるさん、
     二輪草さん夫妻、水谷さん、sachiさん(五十音順)

【タイムチャート】
7:00千里中央ローソン前(集合地)
8:55〜 9:02武平峠西600m駐車場(駐車地)
9:05武平峠雨量中継局(登山口)
9:31〜9:33いっぷく峠
9:46旧沢谷峠
10:03〜10:06沢谷ノ頭(標高964m)
10:46〜10:50三人山(1,014m標高点)
11:37〜11:40東雨乞岳(1,226m標高点)
12:12〜12:32東ノ平(昼食)
12:44〜12:45七人山のコル手前(1,204m標高点)
13:52〜13:53沢谷峠
13:59〜14:00いっぷく峠
14:20武平峠雨量中継局(登山口)



東雨乞岳のデータ
【所在地】滋賀県甲賀市(旧土山町)、東近江市(旧永源寺町)
【標高】1,226m
【備考】 鈴鹿山系第二の高峰である雨乞岳本峰の東に位置します。
山頂は灌木もない丸い裸地になっており、本峰より展望
が優れ、全方位を見渡すことが出来ます。とくに御在所
岳から鎌ヶ岳のシルエットが良く、雨乞岳に登るなら必
ずセットにして登りたい山です。
【参考】
2.5万図『御在所山』



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