リハビリ山歩は芦生トロッコ道

改めて歩くのは6年ぶりのトロッコ道
平成23年 4月30日(土)
【天候】薄曇り
【同行】単独


 思いがけなく生まれて初めての入院生活は三週間近くに及び、その間、常に安静を強い
られることとなった。退院した今となっては早く元に戻したいのだが、しばらくは過激な
運動は再発防止の為には遠慮する方が良いとのことで、ボチボチ進めざるを得ない。そこ
で、術後一ヶ月を過ぎて、一時間程度の里山へ。そして今日はもう少し距離と時間を延ば
して3〜4時間の山歩ができる所を物色し、芦生のトロッコ道を久方ぶりに歩くことにし
た。幸いこれを書いている今現在、特に違和感なし。他方、肝腎の耐力を戻すには、これ
から大分時間がかかりそうな雲行きである。(^^;

 丹波道路は社会実験とかで無料。但し、震災で6月で終了かも。お蔭で2時間ほどで須
後の駐車場へ。ところがこれが満杯。駐車場中央にも縦に車が入れてある。当方もとりあ
えず一台分空いていた中央の車列の最後尾に駐車したが、車の出入りで接触されてもかな
わないので、駐車場入口横の建物脇にスペースを見つけてとめる。

 実は、今日は芦生へ行く手前の八ヶ峰へ五波峠から歩くつもりだった。ところがなんと
林道へ入ってすぐに『土砂崩れの為、通行止』の看板に当てが外れてしまったのである。
帰宅して調べてみると雪の為の倒木多数ということだ。こんな時、代わりに何処へ行こう
と迷うものだけれど、芦生のトロッコ道もリハビリ山歩の候補地の一つだったので迷わず
こっちへやって来たという次第。迂闊にもエアリアマップも忘れて家を出てきていたから、
これで良かったかもしれない。(笑)

 早速準備をして京大研究林の事務所前へ。芦生付近には年に何回も来るけれど、改めて
トロッコ道を歩くのはなんと6年ぶり。森林軌道はH20に経済産業省から近代化遺産の
一つに挙げられている云々の案内板がある。こんなのなかったよなあ。しかし、由良川架
橋近くに民家が新築された以外、大学の建物自体は以前のまま。木工所の『安全+第一』
のスローガンなんてこの頃めったに見かけないけれど、昭和のレトロな感じが出て懐かし
いなあ。

 一番奥の民家では田植えの準備の為か、耕運機の出番。遅い桜は満開を少し過ぎた頃だ
ろう。それを眺めながら軌道のレールの間を進む。杉林は下草が整理されてすっきりして
いる。ミヤマカタバミの白い花があちらこちらにポッポッという感じで。水が湧きだ岩場
近くにはイカリソウのピンクの花。拙宅ではとっくの昔に散ってしまったけれど。

 薄曇りだが暑くも寒くもない心地よい気候。由良川のせせらぎの音。芽吹き始めた木々
の萌木色。向かいの山肌を彩るヤマザクラの白さ。湧水が垂れる岩陰から聞こえるヒキガ
エルのくぐもった様な鳴き声。一年の内で最もいい季節。齢を重ねれば、重ねるほどこの
若い生命力が羨ましくなるものだというが、自分も少し実感する年頃になってきたのだろ
う。

 灰野に近づくと話し声が聞こえてきた。テントを数張り張ったグループが杉木立の中で
車座になっている。佐々里峠へ抜ける旧道の谷に架かる橋を渡っていると親子連れが引き
返してきた。

 「あら?橋が落ちている」思わず呟いた。赤崎谷のトロッコ軌道が落ちているので架け
られた正式版のもの。ところがこれも中央から折れて落ちている。渡れる場所はないもの
かとレール沿いに谷を見ていくと向こう岸に踏み跡がある。そして、崩落して飴のように
曲がったレールの旧架橋の手前に流れに架設された沈下橋?が....。なんとレールを針金
で束ねて置かれているのだ。これなら増水してもある程度は大丈夫なのでは....。(笑)

赤崎谷の木橋は朽ちて崩落している

代わりに旧ルートに廃レールで作られた架橋がある

 小ヨモギ谷のケヤキ林が見えてきた。左手には小屋があったはずだが、更地のようにな
っている。廃材が積み上げられ、その横に転がっている赤錆びた釜は五右衛門風呂の釜だ。
昔、その幹の近くで小キジを処理したことのある(ごめんなさい)大きなイチョウだけが
淋しげに聳えている。山手の斜面のケヤキ林はまだ芽吹きを見ず、梢が心なしかうっすら
黄緑にけぶるのみだ。
小ヨモギ谷の小屋は崩壊して更地に

 徐々に由良川の谷も深まり、流れも白さを増す。トロッコ軌道も崩落していたり、雪の
重さに耐えきれず根こそぎ倒れた木が通せんぼをしていたりと、アスレチック度が増して
くる。日陰に残る腐った雪も増え、そこに足を踏み外したのか、ほとんど白骨化した鹿の
死骸と体毛の山が残る。冬場、足でも骨折すれば餓死するしかないあろう。

 なんとか次々現れる難所?を、滑らないように岩に転がる鹿の糞の横に手を置いたりな
ど、常より慎重を心掛け、三点確保を励行しながら、一つ一つ越えて対岸のフタゴ谷の落
差50mはありそうな滝も見つつ、もうそろそろ刑部谷と思われる辺り。またもトロッコ
道が崩落している。ここはオフィシャル?の木製のハシゴのような桟道が懸けられている
のだが....。しかし、片方の木製の支柱が朽ちて斜めになっており、いかにも危なっかし
い感じがする。文字通り”危ない橋”は渡るつもりはない。無理してカズラ谷の小屋まで
行くこともなし、ここらで引き返すことにしよう。由良川の流れの音の中からカジカの声
が聞こえた。

傾いた桟道に大事を取って引き返す

 往路では難所と思えた崩落地点も、降下が危ないだけで登る場合はそれほどでもない。
小ヨモギ谷の小屋跡を過ぎて、赤崎谷の川原まで戻り、ミソサザイの小気味よい鳴き声を
聞きながら食事にした。湯を沸かしてラーメンを啜り、食後のコーヒーを飲むのはなんと
一ヶ月半ぶりだ。今更ながら健康が一番だと実感する。

 帰りはいつもながらぶらぶらと。岩場に多いイワウチワ(トクワカソウ)も今年は開花
が遅かったようで、まだまだたくさん咲いている。白っぽいのや、ピンクの濃いものなど
見ていくと、それぞれ個性があるものだ。そのうちの一つを選んで、たまには花の裏から
撮ってやる。

 ぼってりとした白い花びらが落ちている。タムシバらしいので見上げてみたが、逆光で
あるのと崖上高くであるので何処で咲いているのだかわからない。杉の梢のてっぺんから
はオオルリらしい鳴き声が降ってくる。あんまり人間を恐れていないようだけれど、残念
ながら姿は確認できずじまいであった。

 湿った岩の上にヤマルリソウの綺麗な水色。そういえばヤマルリソウを綺麗に撮った写
真がないのだった。ちょっと押さえておこう。イワナシの花も二輪見つける。陽の当たら
ない所には少ないように思うのだが。これは素人の認識不足かもしれない。(笑)

 というような具合にちょくちょく足を留ながら戻っていくのだけれど、灰野を過ぎる頃
からちょっと足がだるくなってきた。病院での三週間近くに及ぶ安静は、普通でも衰えて
いるメタボ一歩手前のおっさんの耐久力を予想以上に且つ確実に奪っていったものと思わ
れる。これは復旧までに長丁場を覚悟せねば....。(^^;;

 戻った駐車場の桜は時折の風で花吹雪。地元産品を売る店でコゴミを買って帰る。今晩
の酒の肴にしましょうか。それにしても酒だけは一ヶ月も一滴も飲まなかった癖に、すぐ
に復旧してしまうんだから言葉もないなあ。(笑) なんとか無事に終えたリハビリ山歩。
次はもうちょっと高低差をつけてみますか。

ヤマルリソウ

トクワカソウとも呼ばれるイワカガミ

ミヤマカタバミ




【タイムチャート】
8:10自宅発
10:25〜10:33京大芦生研究林須後駐車場(駐車地)
11:05灰野
11:12芦生奥表示板
11:40赤崎東谷
11:49コヨモギ谷小屋跡
12:12フタゴ谷表示板
12:15傾いた桟道(撤退地点)
12:40コヨモギ谷小屋跡
12:50〜13:33赤崎谷(昼食)
14:01〜14:07灰野
13:40京大芦生研究林須後駐車場(駐車地)



京大芦生研究林のデータ
【所在地】京都府南丹市美山町
【標高】約300〜960m
【備考】
京都府の東北端、滋賀県と福井県に接する由良川の源流
域、約42平方キロに及ぶ京大農学部の研究林で、大正
10年から100年間の契約で地元から借用しているも
のです。研究林の為、開発から免れ、熊、狐などの動物、
日本海と太平洋相それぞれの代表的な植生と相まって動
植物の宝庫で、世界遺産への登録も論議されています。
交通アクセスは京都駅からJRバス、南丹市営バスなど
を乗り継ぐ必要があり、本数も少ないので車が便利です。
【参考】エアリアマップ 山と高原地図『京都北山2』



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