白山眺めに荒島岳

小荒島岳から望む荒島岳の偉容
平成23年10月 9日(日)
【天候】晴れ
【同行】単独


 三連休、久しぶりに晴天が続くとの予報。空気もカラッとして山歩きには絶好の日より。
さて、どこに行くかねえ。ドライブがてらちょっと遠出でもしようか。ならば福井県唯一
の百名山、荒島岳なんかどうだろう。二ヶ月前に登った白山を横から眺めてみるという趣
向もいいかもしれない。

 目的地が決まれば次は下調べ。自宅からは往復500km超ある。ヤフーで登山口である
勝原スキー場までのアクセス時間を調べると4時間弱と出た。更に登山口から山頂までは
3時間半程度かかるらしい。休憩を入れて4時間は見ておいた方が良かろう。となればな
るだけ早い時間から登りたい。登山口近くでの前夜車中泊も考えたが、まあそこまでは必
要なかろうと当日未明出発に落ち着いた。

 ところで、この下調べの後で一つ気が付いたことがある。勝原登山口の標高は340m。
山頂は1,524mなのだ。「えっ?標高差1,200m?」鈍った体で大丈夫なのか?い
ささか不安を覚えながらの山行とあいなったのである。

 目覚ましを午前4時にセットして前夜は10時就寝。といっても早く起床せねばと思う
となかなか寝られたものではない。まあ、横臥しておれば体は休まるものだと自身に云い
聞かせて、枕元でラジオ深夜便を聴きながらうとうと。熟睡とまでは行かなかったが、い
つの間にやら少しは眠ったようで、気がつくと3時半前だ。窓を開けると星空。いい天気
らしい。真っ暗な中、洗顔してトーストとコーヒー。自宅発は4時20分。静かな中でシ
ャッターを上げる音がやけに響く。近所迷惑かなあ。ご容赦。朝刊配っているバイクが止
まっている。ご苦労様です。弁当を買いに入った近所のコンビニには、こんな時刻なのに
客がいる。遊びに徹夜らしい若者、マンガ読んでるフリーター風の男。老婆。何してんね
んやろ。

 吹田から名神をひた走ると彦根付近で白々と夜が明けてきた。鈴鹿方面の山の端がピン
クに染まり綺麗。北鯖江PAでトイレ休憩後、福井ICでR158に乗り換えた後はひた
すら岐阜白鳥方面へと走る。

 何となく見覚えのある大きな鉄管の下をくぐる。するとすぐに鳩ヶ湯温泉の案内板があ
る。思い出した。数年前、白山三ノ峰へ登る際に使った道だったのだ。その温泉への分岐
から間をおかずして、目的地の勝原スキー場の案内が出た。こんな近くだとは知らなかっ
たなあ。(^^;

 時刻は7時半。予定より1時間早く到着出来たが、登山口前のスキー場の駐車場はすで
に満杯。一段下の駐車場に駐める。日本百名山の人気の高さを思い知った思いである。(笑)

 風があって少し寒い。気温は12度くらいだろうか。薄手の長袖シャツじゃつらいかも。
念のためレインウェアは持参してきているけれど、歩けば温もるだろう。一寸様子見。

朝日を浴びて勝原スキー場の
ゲレンデからいざ出発
 勝原スキー場は雪不足と客減少の為、2年ほど前に廃業したそうだ。最初はそのスキー
場のコンクリートの管理道を歩くが、並行して走るリフトの支柱はもう蔓草が絡みつきは
びこっている。平坦に見えるがゲレンデは結構な傾斜で、管理道はウォーミングアップに
最適だ。眩しい朝日を浴びて、同時出発の2、3のグループとしばらく一緒に上がる。1
0分ほどで、旧第一ロマンスリフトの終点に出、ここからは右に折れて山腹をトラバース
して登る道となる。赤紫のツリフネソウが鈴なりに咲いている。白いキク科の花はヒメジ
ョオンだろうかヨメナだろうか。しかしとてつもなく歩き難い道だ。拳くらいから子供の
頭大まで、石がゴロゴロした道は浮石だらけである。油断すると足を挫きかねない。さっ
きまで寒かったのに汗が噴き出てきた。カーブの踊り場でもうびっしょりの長袖を脱ぐ。
お茶は1Lペットと0.5Lペットに7分目ほど持っているが、空気も乾燥しており、こ
れは喉が渇きそうだ。不足なら調理用の水を飲料に回さねば。(^^;

高度を上げると北に経ヶ岳が姿を見せる
 いつの間にか高度は上がり、ススキの穂の向こうに険しい山容が目に付き始める。経ヶ
岳を含む山並みらしい。眼下には九頭竜川の蛇行した谷筋だ。やがて前方から話し声が聞
こえてくると、ちょっとした広場があって、先行のグループが小憩をとる姿がある。その
横に朝露を乗せた大きな黒い滑車状の機械が放置されている。第二ロマンスリフトの終点
跡らしい。なぜか荒島岳登山口の標識が立っていて、ここから樹林下の本格的な山道とな
るようである。ここまでほぼ1時間。水分補給と腹ごしらえの為に小休止とする。ついで
にこれからの行程を地形図で確かめると、勝原コースは4つに分解できるようである。@
登山口からリフト終点 Aリフト終点から標高1,015m地点 B1,015m地点から
シャクナゲ平 Cシャクナゲ平から山頂。それぞれ40分から1時間の行程である。今、
第一ピッチを終えたわけだ。次の目標は尾根が一旦平坦になる標高1,015mの地点で
ある。

 一転、トンネルの様な深い樹林の中を行く。しばらくはジグザグの道で、進入禁止の為
に張られた様なロープ沿いに進む。そしてロープが途切れると尾根を一本調子に登るよう
になる。いつの間にか周囲はブナ、ブナ、ブナ。これは第一級のブナ林だろう。冬季の雪
深さの為であろう、奇怪な形をしたもの、コブだらけのもの。極めつけは『トトロの木』
と呼ばれる樹齢300年は経た大ブナである。

北陸のブナ林はどこも一級品だ
トトロの木と呼ばれる
一際大きいブナ
魁偉なブナの大木
血管のようなブナの根
 力を込めて浮き出た血管のように絡み合った根が登山道の表面を覆っている。大きなブ
ナの幹を支え、潤しているのは俺だと云わんばかりの迫力である。京都の鞍馬などで杉の
根道は歩いた事があったがブナは初めてだった。

 大勢の人が休んでいると思ったらベンチが置かれていて、そこだけ樹林が切れて窓のよ
うになっている。『白山ベンチ』と標識がある。真正面に見えている白山連峰をみんな眺
めているのだった。白山といえば所々の山襞に雪を被った姿を想像するが、当然ながらこ
の時期は雪は見えない。

 これでもかと歩き難い段差の坂道が続く。それがふと緩やかになる時がある。1,01
5m標高点はそんな場所の一つで、こんもりとした台地である。『深沢の頭』1,015
mと表示がある。地形図上の標高点はもう少し先のようであるがまだ行程はようやく半ば。
先は長い。(^^;

 標高点から少し下がっての登り返し。またいやな階段道である。少し上がっては踊り場
風の場所で立ち止まり、立ち止まっては歩き始める単調な繰り返し。えらいなあ。先は長
くても足を前に出していればいつかは目的地に着くだろう。(笑) そんなことで1,01
5m標高点辺りからずっと目の前に立ちはだかるようにあったさしもの山並みも次第に低
くなってきて、やっとその上に乗れたのが1,204m標高点ピークであるシャクナゲ平
である。中平コースとの合流点でもあり、少し荒島岳方面へ向かった所には佐開コースが
出合う。ちょっとした切開きは格好の休憩場所で茶店があれば儲かりそう。(笑) とりあ
えず露岩に腰掛けて一休み。喉の渇きをいやす。バランス栄養食品を一口。ようやく一息
ついた。ついた所で目の前のリンドウの青い蕾にも気がついた。ナナカマドの赤い実もた
わわだけれど、名前の由来のシャクナゲはどこにあるのだろう。(笑) 5分ばかり休んで
最後の標高差350mを頑張るか。これが乳酸濃度が濃くなった脚の筋肉には、まことに
きつかったのである。(^^;
シャクナゲ平で見かけた鮮やかなナナカマド
 下りたくないのに2、30mばかりの下りがある。鞍部で佐開コースを合したらいよい
よ荒島岳への最後の登りに突入する。日本人の脚の長さを無視したような段差のついた岩
の自然階段や丸木階段。その階段部に土止めの為か”かすがい”状の鉄杭が打たれている
のだが、土砂が流れてこれが浮き出ており、足を引っ掛けると非常に危ない”罠”になっ
ている。木梯子も出てきた。この辺りが『もちがかべ』と呼ばれる難所なのだろう。しか
も狭いから下山する人がいれば、とりわけ団体でも来ようものなら、すれ違いに大渋滞だ
ろう。幸い今日は団体さんと遭遇せずに助かった。(^^;

 高度が1,300mを越えると、赤茶色の幹皮が剥がれたダケカンバが現れてくる。そ
の隙間から小荒島岳のポッコリとした隆起が覗ける。その向こうには大野市街が霞んでい
る。登山道は概して斜面の左手を辿るので、樹林が途切れると経ヶ峰や大長山方面の見晴
らしが良い。ちょっとした平坦地には前荒島、中荒島とプレートが架かる。まだひとしき
り滑る山道を登らねばならないが、ようやく荒島岳の本峰が姿を見せる。その山腹はもう
やや赤みや黄みを帯びて、間もなく迎える錦秋の序曲だ。

 滋賀の湖南市から来たという同年輩の小父さんと「きついですなぁ」と嘆きあいながら、
深く掘れて半円状になった溝を急登して前衛峰をなんとかクリアする。こうして傾斜が緩
んだのは何度目だろう。すれ違った人が頂上はすぐそこですよと教えてくれる。灌木が途
切れて荒島大権現の小祠が眼に入った。(やっと着いたか。もう登らなくていいのだ。)
とため息が漏れるくらいの長い道のりだった。(^^; 

 頂上は結構広く、20人くらいだろうか先着の登山者が散らばって思い思いに食事した
り、展望を楽しんだり。実はこの小広い山頂にはかつて反射板や電波中継施設などが置か
れていたそうだが、数年前に撤去され、従前の荒島権現の奥宮のみの姿に還ったという。
登山者の一人としては喜ばしいことではある。まずは中央の一つの欠けもない無傷の立派
な一等三角点を撫でる。運よく標石の横の露岩がぽっかり空いていたので店を広げること
にする。次いでザックを下ろして楽になって目当ての展望を愉しむことにした。

荒島岳山頂。トンボが群れ飛ぶ
 秋で空気が澄んでいるはずなのだが、大きな高気圧の下降気流の影響か少し靄がかかっ
ているのが残念である。にもかかわらずどちらを向いても素晴らしい長めだ。北東の白山
方面には特別に展望図が設置してある。それと照らし合わせながら眺めれば、最も目立つ
は御前峰に別山。その肩からちょこんと顔をだすのが三ノ峰だそうだ。雪は見えない。そ
の左手方向には経ヶ岳や六呂師高原。北西に小荒島岳の向こうに大野市街。その周りには
水田が碁盤の目のように整然と並び、九頭竜川の流れが蛇行する。山頂の南に移動すると
眼下は深く険しい谷である。奥に一つピラミダルな山が目立つが何だろう。(屏風山だと
後日判明)能郷白山や冠山が見えるはずだが、打ち寄せる波のような山並みにどれがどれ
だか状態である。(^^;

山頂から白山(中央が御前峰、右に別山)
 こうして白山を眺めながら登山者の切れ切れに漏れてくる話を聞くともなく聞くと、ジ
モティーは当然多いとして、とりわけ関西からの人が多いようだ。横の小父さんは出雲か
ら、昨日は白山とのこと。今年から山を始めた兄さんは大津だそうだ。百名山の中では、
車でも鉄道でも割にアクセスのいい山である。

 そんなことどもを思っていると「あっ!」湯を注いだ即席きつねうどんの容器が蓋をふ
さいだ石ごと倒れてしまった!。ラッキーなことに麺はまだほぐれておらず、土も付着し
ていない!急いで入れ直して湯を沸かし直す。味は薄くなっていたが何とかうどんは食べ
られた。(^^; それにしても某7/11の”鯖ほぐし弁当”は美味い。

 食後のみかんを食べたところで正午を過ぎた。登山者が次々に上がって来る。下山で渋
滞も嫌なので早めに下山するとしよう。

 登るより、下る時が怖い道である。水分が滲み出てくるのか、土止めの丸太はぬるっと
している。濡れた浮石も多く滑りやすい。ひとところに重量をかけるのは禁物。といいつ
つも、幾度か滑りかけ、一度は手をついて掌が泥まみれになる羽目になった。それでもな
んとか着衣は汚さないで『もちがかべ』を抜けてシャクナゲ平へ戻ることができた。往き
とまた同じ石に座って一服する。

 座った足元にはオオバコにチカラシバが目に付く。所謂、山の植物とは違う街中の植生
の植物がみられるのは、たぶん、登山者の靴などに付着してきたのだろう。白山や大台ヶ
原の登山口には靴を拭うマットが置かれていたけれども、山の環境を守るのはなかなか難
しい問題ことが実感される。

 ところで時計を見るとまだ13時前である。折角なので、荒島岳の眺めが良いという小
荒島岳にも寄っていくことにしよう。エアリアマップを広げると、シャクナゲ平から中出
コースを20分、山頂休憩含めて約1時間の寄り道である。

『もちがかべ』付近から眺めた小荒島岳
 いい雑木林である。大きな木はないがブナやミズナラなどが混生する自然林である。道
沿いにはイワウチワやギボウシが多い。地形図では60mほど下って登りかえすようであ
るが、歩いてみるとほとんど高低差を感じることなくだらだらと下って行く感じ。鞍部は
ジュクジュクした泥濘地で、少し登りかえすと小荒島岳の分岐の道標が出て、登山路から
分かれて2分ばかり直登すると、ススキに囲まれた小荒島岳の頂に出る。今まで荒島岳の
全貌を眼にしていなかったけれど、うわさ通り目の前に迫力ある姿がデーンとある。さっ
き歩いた尾根筋も目で辿ることが出来る。やや色づき始めた山腹はまもなく錦織なす姿へ、
それはやがて荒々しい白い姿になるのだろう。

 誰もいないだろうと思いきや単独兄さんが食事を終えてザックのパッキングの最中であ
った。大阪から始発のサンダーバードで来たという兄さん、中出コースでやってきてこれ
から荒島岳に登るという。越美北線の列車の本数が少なく、乗り遅れると駅で野宿ですと
笑っていた。確かに越美北線は大野止まりが多く、終点の九頭竜湖まで行くのは日に数本
のみというローカル線だ。山歩きに車の便利さをつくづく思う。何時降りてもいいし、疲
れれば車中泊もできるし。但し酒は飲めないけれど。(笑)

 単独兄さんに少し遅れてこちらも小荒島岳を後にする。小荒島岳への往復はこの単独兄
さんと、他に一組の登山者とすれ違っただけ。勝原コースとは雲泥の差の静けさだ。険し
い所もないらしい。次回登る機会があるなら、深田久弥が登ったという、この中出コース
からだろう。

 もう基本的に登りはないので息を切らすことはない。その代り長い下りに爪先が痛くな
ってきた。やっぱり懸念していた右ひざに若干の違和感が出てくる。これからはサポータ
ーも用意した方がいいのかも。リフトの最上部からのガレ道とコンクリート道の急坂は殊
の外、脚に堪えた。帰り着いた駐車場の車はもう半分ほどに減っている。ザックを降ろし
残ったお茶を一気飲みする。

 下山は15時半と読んでいたけれど、15時10分と早かったので、一っ風呂浴びて帰
ることにする。R158を九頭竜湖側に15分ほど走ると、ホテル「フレアール和泉」の
建物が左手に見えてくる。九頭竜温泉平成の湯はこれに併設された日帰り温泉施設。利用
料はワンコイン500円。露天風呂もあるアルカリ単純泉は肌がすべすべする所謂美人の
湯である。ちょっとほっこりして家路に着く。途中のローソンでお決まりコーラを買って
高速の人。滋賀県内で渋滞に巻き込まれるも20時過ぎには何とか帰宅。疲れたびぃ。で
も当初の予定はほぼこなせたし、充実の疲れでもありました。

【タイムチャート】
4:20自宅発
7:30〜 7:40勝原スキー場跡駐車場(駐車地)
7:45勝原登山口
8:30〜8:40スキー場リフト跡最上部
9:03〜9:05トトロの木
9:22白山ベンチ(標高935m)
9:351,015m標高点
10:10〜10:20シャクナゲ平(1,204m標高点)
11:25〜12:10荒島岳(1,523.5m 一等三角点(昼食))
12:56〜12:58シャクナゲ平(1,204m標高点)
13:16〜13:22小荒島岳(1,186m標高点)
13:41〜13:45シャクナゲ平(1,204m標高点)
14:071,015m標高点
14:44スキー場リフト跡最上部
15:15勝原登山口
15:20勝原スキー場跡駐車場(駐車地)



荒島岳のデータ
【所在地】福井県大野市
【標高】1,523.5m(一等三角点)
【備考】 福井県大野市の南東にあり、大野富士とも呼ばれる秀麗
な山容の山です。深田久弥の地元の山で思い入れが深く
それもあって、1500m余りの山ですが百名山に選定
したともいわれます。しかしながら山頂からの展望は抜
群で特に白山の眺めがよく、視界が良ければ北アルプス
も一望できます。コースは勝原、中出、佐開とあります
が、勝原が最もポピュラーです。
■日本百名山
【参考】
2.5万図『荒島岳』



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