北アルプスデビューは薬師岳
           【第1日】 室堂から五色ヶ原
浄土山南峰から龍王岳(左)と雲が湧く五色ヶ原。縁は大絶壁だ

平成22年 8月 7日(土)
【天候】晴れ時々曇り
【同行】別掲


 今年ほど梅雨明けがはっきりした年はない。それはいいのだが明ければ猛暑日が続き、
今にも夏バテ寸前。梅雨の時期には週末は雨に祟られ、ここのところ山歩きらしい山歩き
をせずに迎える恒例の夏山遠征。最近まで体調もいまいちだったこともあって、果たして
無事歩き通せるのだろうか?こんな風にいささかの不安を持っての北アルプスデビューと
あいなったのではあるが、終わってみれば全て杞憂に終わり、これ以上ない天候にも恵ま
れて、北アルプスの良さを存分に味わえた印象深い3日間と相成ったのである。それでは
北アルプスデビューのあらましの一端おば...。

 登山の前日は仮眠などというのは、白峰三山縦走の時に痛い目に遭っているので、今回
は富山市内のビジネスホテル泊。Webで予約してもらったが、なんと一泊¥3500と
いう安さだ。最寄りの新富町は富山随一の飲み屋街らしい。安そうで旨そうな店を捜し、
ゲンゲなんぞという富山の魚で一杯ひっかけて、英気を養う。勿論、良い子は夜更かしな
んかしません。なにせ翌日は午前5時発なのだ。(笑)

 翌日、午前5時。見上げれば意外に雲が多い。立山方面も雲の中。一抹の不安を残し、
一路、富山地鉄の線路と並行して立山駅前へ向かう。立山信仰の中心である雄山神社、岩
峅寺などを抜けて5時40分、順調に駅前に到着。もう多くの登山者や観光客が色とりど
りの服装でたむろしていて、その中にUさんや関東から1年ぶりに見るMさんの顔もある。
ケーブル始発は6時と聞いていたが、切符は5:10から売り出された由。取れたのは6
時半の切符だったが、予想より早い便が取れた。立山メインのTちゃんの友人は6時分が
取れたようだ。因みに室堂まで料金は¥2360である。

富山地鉄立山駅前にて

 まずはケーブルで標高凡そ1000mの美女平まで。標高差500m、約7分。ここで
バスに乗り換えるのだが、乗り替える前になんとザックの計量がある。10kgを超過する
と¥300必要なのだ。吾輩のを量ってみると10.2kg。うーん。払うべきか払わざる
べきか。そうだ!ザックにつけたデジカメを外せばいいんだ。(笑)

 毎年、ニュースにもなる雪の壁ができる立山道路は一般車通行禁止。バスは途中、称名
滝など名所に一時停車してサービスしてくれ、一気に標高2430mの室堂平だ。標高差
1500m近くを所要50分である。これを昔は二本の足で登っていたんだなあ。文明の
利器の有難いことよ。(笑) 

 バスのターミナルから出ると流石に寒い。ザックにつけた温度計の示度は気温14℃。
薄手の長袖シャツを出して羽織ることにした。

 室堂ターミナル前には名水百選、玉殿の湧水がある。玉殿といえば映画「剱岳」で夏八
木勲扮する行者の籠った洞穴だ。今日は1Lのペットボトル2個を携えてきている。内、
一本が空なので、行列に並んでこれに満たす事にする。

 室堂平。周囲を襞に残雪を残す立山連山が取り巻く。その山々が一風変わった感じに見
えるのは、ハイマツ帯など森林限界を越えている為に、いつも見慣れている木々に覆われ
た緑の風景ではないからだ。水を汲み終わったら道標に従って立山三山の一つ、浄土山へ
向かう。いよいよ薬師岳に向かっての三日間の縦走の第一歩である。

浄土山は雄山、別山と並んで立山三山の一つ

 石畳と云えば聞こえがいいがゴロゴロ石を適当に並べた一間幅の道である。前方に大き
く盛り上がるピークが第一の目的地の浄土山のようだ。前述のごとく、浄土山は雄山、別
山と並んで立山三山の一つ。高台から見れば、観光客も混じってカラフルな蟻の行列のよ
うに人々が遊歩道に連なっている。その後ろには噴火口の名残というミクリガ池の水面が
見え隠れする。道の左右には早くも高山植物が咲き乱れている。「??」一瞬とまどうが、
もうここは近畿にはない2400mもの立派な高地なのだ。(笑) イワイチョウ、チング
ルマ、ハクサンフウロ、ハクサンイチゲ、コイワカガミ等々。幸運にも花の最盛期に遭遇
したらしい。道は徐々に高度を上げ、小一時間で浄土山登山口の道標前に着く。そしてい
きなりの雪田だ。腐った雪に滑らぬように体重を垂直にかけて通過して斜面に取り付く。

 ああ、息が切れる。(笑) 最初は体調が回復していないのかと思った。が、考えてみれ
ば、文明の利器を利用して、3時間足らずの内に高度10m程度の市街から一気に240
0mの地点へ上がって来て、いきなり登り始めたのである。当り前か。休もうにもひっき
りなしの人で立ち止り難い。少し広い場所を見つけては息を整える。不思議なもので10
秒も立ち止ると平常に戻る。やはり少し空気が薄い影響だろうか。

浄土山の雪田に咲くチングルマ

 ゴロゴロ石や大きな岩の間をジグザグに抜ける。急登に思わず持ったハイマツのヤニが
手につく。ここまでだらだらと坂を登ってきているので、登山口からの標高差は150m
程度なのだが...。この斜面ごときに手を焼くようでは先が思いやられるなあ。(^^; 
それでも足を動かしている内に、左手方向に石積みが見えてくると山頂は近い。今まで喘
いでいたものが、もうすぐ山頂の声を聴くと現金なもので一気に元気が出てくるから面白
い。どこにこんなパワーがあったのか、足を速めて着いた広い浄土山の山頂には、林間学
校の生徒やらも含めて多くの人々が眺望を楽しんでいる。一ノ越のコルの向こうに雄大な
雄山が聳え立ち、室堂平が眼下に広がっている。右手200m先に観測施設のような建物
がある。近づくと富山大学の研究施設で、現在、建て替えの真っ最中である。その向こう
には奇々怪々なトロイデ型山容の龍王岳が目立つ。

 ここからは一ノ越を経て雄山へ向かう人も多いようだ。東一ノ越へ向かう水平道も遠望
され、大パノラマに圧倒されながら、龍王岳の肩を南に向かう。五色ヶ原山荘がまるで芥
子粒のごとく小さく見えている。今日はあそこまで行かねばならないのだ。遠いわあ。(^^;
しかも、その五色ヶ原の縁は大きくスパッと切れ落ちているではないか。聞けば安政地震
で大崩壊した立山カルデラの外輪なのだという。目前に展開する大自然の凄さよ。

鮮やかな茄子紺のミヤマトリカブト

 龍王岳は登らずにその肩を巻いて、岩屑と人間の頭大の石が転がるガラガラ道を下る。
この辺りもお花畑だ。ひときわ目立つのはミヤマトリカブトの鮮やかさ。ハクサンフウロ
やコイワカガミ、チングルマ。北の山陰には残雪も多い。これが高山植物に水分を供給し
ているのだろう。そしてこの先に待ち構えるは鬼岳との鞍部の大きな雪渓である。生来の
雪嫌いなこともあるが、吾輩にはこの雪渓横断が、今回の山行で最もいやだった。距離に
して50m位だろうか。先人の足跡があるのだが、踏み外すしてバランスを崩すと、ずる
っと斜面を下まで滑ってしまいそうだ。靴の踵を腐った雪に打ち付けてなるべく水平面を
歩くようにして進む。途中、Uさんにストックを一本借りて楽になる。渡り終わってホッ
として見物していたら、案の定、尻餅をついたりしている人がやはり幾人かいた。

鬼岳の手前の雪渓を行く

 こんなのが続けて2ヶ所ある。振り返れば峰々が屹立し、まるで地獄八景の針の山もか
くあらんという姿である。ひっくり返りもせずなんとか無事に通過したところで、鬼岳の
肩の登山道にちょっとした3畳程度の膨らみを見つけて簡単な昼食タイムとする。そこで
昨日、富山市内のコンビニで買ったお結び弁当を取り出し、さあ、その一つにかぶりつい
た途端である。つい手元が狂って"お結びころりん状態"。「ああ〜」の声もむなしくお結
びは転がった分、砂まるけ。仕様がないので真ん中だけほじくって食べ、残り一つと、高
栄養のクラッカー、魚肉ソーセージで我慢だ。ちょうど横にいた外人の若い男女ペアはサ
ラミをナイフで切りながら食べていたが、行動食になかなかいいではないか。今度、吾輩
もやってみよっ。

 昼食を摂った鬼岳東面を後にして、しばらく鬼岳の横腹をへつりながら進む。踏み跡が
傾いているので滑落に注意である。道は龍王岳同様ここも山頂を踏まずに通過していく。
途中にちょっとした梯子も出てきて少しスリルもあった。

 獅子岳には南北に二つ頂がある。ここで食事している登山者も多い。南が主峰で271
4mで、ここまで来ると南に五色ヶ原と山荘が指呼に見える。が、その近くにある鷲岳の
西側は前述したように切れ落ちた急峻な崖である。立山カルデラの外輪山に当たるわけだ。

 獅子岳からザラ峠までの下りは延々と長かった。ほぼ400mの標高差。最初は獅子岳
の台形状の山頂部を緩々下るが、その後は一気のジグザグの急降下だ。粘土質の赤土に岩
屑が乗っていて、ずるずる良く滑る。持てる灌木を手にしてなるべく三点確保を心掛ける。
それでも何度か石車に乗ってあわやの事態を呼んで、内心、ちょっと疲れた。
 
獅子岳からザラ峠への下山路から眺める
五色ヶ原(左上の台地、山荘も見えている)
中央は鷲岳、左奥が鳶山

 降り立ったザラ峠は名前の如く、ことに西側がガラガラした石が集積した斜面。暴れ川
の浄願寺川の源頭でもある。下っていく薄い踏み跡らしきものがあるが、地震で廃道にな
ったと聞くが、どこまで続いているのやら。東側は残雪と草付きの斜面だ。その昔、戦国
末期、秀吉の勢力に圧迫された佐々成政が遠州の家康と結ぼうと、自身が冬のザラ峠越え
をしたというが事実はどうだろう? 近くの鍬崎山に莫大な埋蔵金を残したという言伝え
と同じような類の話かも。(笑)

 五色ヶ原へはザラ峠から少し登りかえさねばならない。もう午前中の元気はないので、
ゆっくりと足を運ばざるをえない。考えてみればあの切り立った崖の縁を登っているので
ある。それがこんなゆっくりの坂なのが意外に思える。100m登りかえしをこなし、パ
ッと視界が広がった先に水平な緑色の地形が現れた。登山道はいつしか木道となってゆる
ゆると斜面を登っていく。左手遠くにカラフルなテントが認められるが、山荘はまだ見えず、
向こうの広い丘を登った先のようだ。

 今日の行程も終盤となったことで少々余裕が出てきたのか周囲の花にも目が行くように
なる。五色といわれるだけあって、流石に色とりどりの花が咲き乱れている。多いのはや
はりチングルマ。白い花弁を揺らしているものもあれば、咲き終わって薄茶の毛をなびか
せているものもある。そして明るい黄色のシナノキンバイにピンクのハクサンチドリやハ
クサンコザクラ、ハクサンフウロに派手なクルマユリが風に揺れている。

 丘に上がるとようやく待望の山荘が見えてきた。右手にゆるやかな鷲岳(2,617m)、
奥に鳶山(とんびやま 2,616m)が盛り上がる。いつものようにだんだん足が速まる。
玄関手前にテーブルがあって、先着の人々がビール片手に憩っている。
「おおっ!ビール!」
「お疲れさん」
「ホント疲れましたわ(笑)」

 山荘は一ヶ所に雑魚寝の形式ではなく6人部屋の個室だった。ヒュッテが老朽化で解体
されているので、ひょっとして混むのではないかと危惧したのだが、メンバは丁度6人で
もあり、一人一畳が確保できて他に気兼ねなく有難い。トイレも建物内にあり、しかも簡
易水洗。簡易水道施設も完備、水も非常に豊富で快適。さっき見た鷲岳の中腹の雪田が水
源らしい。そんなわけでさらに嬉しいことに風呂もあるとのこと。一服していたら女性占
有時間が終わったとのことなので早速入浴に行く。6、7名は同時入浴可の存外大きな浴
槽だった。自家発電施設も充実していて蛍光灯もわりに遅くまで点灯していたようだ。た
だ一言、惜しむらくは食事が値の割にやや貧弱だったの誹りは衆目の一致するところであ
ろう。(^^;

 風呂上り。高原の涼風に吹かれ玄関前のテーブルで乾杯。レギュラー缶600円。巷の
温泉施設の倍額と値が張る貴重なビールだ。いつもよりしっかり舌で味わうことにしよう。
(笑) 同席のジモティーのおじさん二人組から枝豆の差し入れ。それぞれ肴を持ち寄って
四方山話に花が咲く。その間、時折、ガスが出て山々を隠すがすぐに晴れ、明日の天気も
よさそうだ。針の木岳、北葛岳、黒部五郎岳などがずらりと並ぶ深い黒部の谷の向こう側。
徐々に夕もやにかすんでいく。そろそろ夕食時だ。

 食事も終わり、騒々しかった隣のパーティも寝静まって白河夜船。鼾の音も。相変わら
ず吾輩は枕が変わって眠れないが、さて明日はどんな歩きが待っているだろうか。借りた
バンテリンを足に塗って明日に備えよう。

五色ヶ原から夜明けを迎えた立山連峰
雄山(中央)と龍王岳(左)




【タイムチャート】
5:00ビジネスホテル発
5:40〜6:30立山駅
7:30〜7:50室堂ターミナル
8:45浄土山登山口
9:25〜9:35浄土山(2,831m)
9:45〜9:52富山大学立山研究所の小ピーク
10:50〜11:05鬼岳東面
12:10〜12:25獅子岳(2,741m)
13:25〜13:42ザラ峠
14:25五色ヶ原山荘

【同行】裏人さん、幸さん、たらちゃん、まきたさん、水谷さん(五十音順)



■『【第2日】 越中沢岳を越えスゴ乗越小屋こちら

■『【第3日】 そしてついに薬師岳こちら


立山(浄土山)のデータ
【所在地】富山県中新川郡立山町
【標高】2,831m
【備考】 雄山(3,003m)、別山(2,880m)とともに、
立山三山を形成します。山頂部は台地状ですが北峰と南
峰に分かれており、北側の鞍部の一ノ越を挟んで雄山と
繋がり、南峰には富山大学の立山研究施設があります。
■日本百名山
【参考】
エアリアマップ『剱・立山 北アルプス』



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