雲山峰〜早春の紀泉高原を歩く

パノラマ台から大阪湾。左に淡路島、右に関西空港、右奥は神戸方面、画像でははっきりしないが明石海峡大橋の橋脚も

山中渓からの登山道途中から雲山峰
平成22年 2月28日(日)
【天候】晴れ
【同行】別掲


 和泉山脈と呼ばれる紀泉を画する山並みにお邪魔をすることは、年に2、3回程度と少
ないのであるが、西の端に当たる低山域には何度か訪れたことがある。爼石山という大阪
では数少ない一等三角点があるからかもしれない。(笑) ところがこの山域での最高峰で
ある雲山峰はなぜか今まで未踏のままだった。今回の定例オフはこの雲山峰が舞台である。
いつかはと思いつつも空しく時のみが経っていたので、渡りに船。でも低山とはいいなが
ら、JR山中渓駅から取付いてJR六十谷駅へ下山という長丁場だ。この所、安直山歩き
ばかりのこの身、果たして最後まで歩き通せますかどうか。(笑)

 集合場所はJR山中渓駅に8:10と早い。ということは6:35の地下鉄。というこ
とは....5時には起きなくちゃ。久しぶりにこりゃ早いなあ。(^^; まだ日の出前の暗い
朝。夜来の雨がまだ降っている。単独行じゃ、たぶん中止してるだろうなあ、なんて家を
出て道々考えつつも、地下鉄、阪和線と乗り継いで山中渓駅へと向かう。今日の総勢は5
名。途中、電車の中で3名、駅で既に待っていたTさんとも無事合流する。天気は回復す
るというものの、空は依然として暗く、予報に反して肌寒い。山中渓名物の桜の蕾もまだ
まだ固いようだ。
山中渓駅。大阪府唯一のJRの無人駅だ

 山中渓は熊野街道の宿場として栄えたらしく、今でもその面影を残す山峡の集落は渓流
沿いに細長い。駅前の観光案内図を見れば、関所跡や葛城二十八宿の石碑、日本最後の仇
討ち現場などもあって、ここだけ歴史探訪してもなかなか面白かろう。

 大阪府下のJRの駅では唯一の無人駅を後に車道を南へ進み、葛城二十八宿の経塚を見
物したりなど道草を喰いつつ歩くと、私製の道標が見つかる。それに従って右に折れ、山
中川に架かる橋を渡り、JRの踏切を越える。南天の実や白梅が美しい民家の庭を眺めな
がら行くと、なんだか異様なモニュメントが目に入る。ハイキングコースの起点終点を示
す阪南市が造ったアーチだ。銀色なのは銀の峰ハイキングコースの連想かららしい。小生
に云わせてもらえば、税金の無駄遣い以外の何物でもないような....。もっとましな使い
道はなかったのかねえ。

 まあそれはさておいて、阪和道の高架を潜ればいよいよ山道である。取付きには道標の
外に、和歌山労山の赤い布切れなどがぶら下がっている。

古道の雰囲気を残す登山道

 いきなりの急登。右手からは雨で増水した騒がしい水音が聞こえてくる。一気に高度を
稼いで、やがて先ほど潜った阪和道もはるか下になると傾斜も大分落ち着いてくる。周囲
が北摂や丹波の山とはやや違った雰囲気をかもし出すのは、この時期なのに緑がやや濃い
ことからくるのかもしれない。暖地らしくウバメガシ、ヤブツバキ、シイ、カシなど常緑
の木々やウラジロなどのシダ類が多いのだ。だからこの時期でも見通しが聞きにくく、道
以外に踏み込むと藪が濃い。道は畦道と見紛うばかりに良く踏み込まれ、古い間道の趣き
もあって、いい雰囲気。ときどき、チラリと泉州の平野部や海が垣間見られるのもいい。

 歩き始めて小一時間程で出た尾根のT字路は、雲山峰と銀の峰コースとの分岐だ。雲山
峰へは後廻しにして、まずは少し東へ行ってみる。20mも行けば古い石造りのベンチが
ある第一パノラマ台で、大阪湾の展望がまことに絶佳である。海に浮かぶ船が点々。佇ん
でいるこの辺りのどんよりとした曇り空とは対照的に、白亜の観音像の立つ淡路島や関空
島にはまばゆいばかりに朝日が射している。雨でチリが払われて、明石海峡大橋もこんな
にも近いのかとびっくりするほど指呼の間だ。明石、神戸のビル群も確認できる。刻々と
変する見飽きることのない景色が広がる。

 ひとしきり景色を楽しんだ後は引き返して本命の雲山峰へ向おう。天気の回復を知って
か、小鳥の鳴き交わす声。早くもウグイスの笹鳴きが混じっているようだ。そういえば明
日はもう弥生3月だなあ。ゆっくりと高度を100mほど上げていく。四つ辻が現れたら、
雲山峰への道から50mばかり反対側へ行くと、三等三角点『滝畑』がある。四ノ谷山と
名づけられているようだが展望は全くない。でもプレート類は賑やかで、中に写真のよう
なレトロな少女絵が貼ってあったのが不思議であった。

四ノ谷山山頂にあったレトロな少女絵
???です

 四ノ谷山からは紀泉の国境を歩くことになる。雲山峰まで直線でほぼ2.6kmと先は
長い。とはいっても標高差は最低部からでも170mくらいであるからルンルン気分で歩
ける。カクレミノ、ソヨゴ、ミヤマシキミとこの辺りも常緑樹が多く、どこからともなく
漂ってくるのはヒサカキの花の独特の匂い。やはり北摂に比べてかなり早いようだ。時折、
残置されているPPテープはマツタケの立入禁止な名残らしい。そういえば砂混じりの尾
根には赤松が多い。

 353m標高点ピークは右を巻きながら進む。関電の巡視道があるのでこれを利用して
も遊べるのではなかろうか。ほとんど標高差のない道を進み329m標高点を過ぎるよう
になると、ようやく雲山峰らしき山の姿が見え隠れするようになる。

 所々、土が流れてしまい雨で濡れた岩盤が現れた部分があるので慎重に進むと、初めて
南の和歌山県側を一望できる露岩の小さな台地に飛び出した。前に横たわる支尾根が邪魔
をして紀ノ川の流れまでは望めないけれど、竜門山や飯盛山など紀ノ川の南岸の山々や海
南方面の海が眼に入る。その手前、高圧鉄塔の向こうの山が雲山峰らしい。こちら側から
眺めるとどれが本峰かよくわからない台形型の姿である。

 この付近は中央構造線という大地溝帯の域内。足元の露岩も東西方向にねじれているの
もその為か。この付近も少し濡れているので滑らないように注意して再び雑木林の中へ。
展望地で見えた高圧鉄塔(多奈二火力線bR6)を過ぎれば雲山峰まではもう700mく
らいだ。鳥取池への分岐が幾つかあり、その中には最近整備されたような丸木階段の急坂
もある。右下はるかに鮮やかな緑色をした鳥取池がある。

 雲山峰も山頂直下は短いが急勾配。シャリバテを押して体を持ち上げていくと、小さな
祠のある結構広い山頂に出た。祠と見えたのは葛城二十八宿のもので、多くの碑伝が納め
てあり、三角点はその前にある。しかし名前に反して展望は利かない。Mさんに依れば、
もっと南に歩いて446mの標高点ピーク(地蔵山と名付けられていた)の南側の台地か
らの展望が素晴らしいのだそうだ。お昼はもう少し我慢してその台地近辺の風の来ない所
でということになる。

 先にも書いたが雲山峰はどこが山頂だかよくわからないのっぺりした山である。ほとん
どアップダウンがない内に地蔵山を巻いて南側に出る。この間にも鳥取池や和歌山県側の
落合へのルートなど多くの分岐がある。山の大きさや高さなど細かいことは置いて、和歌
山や阪南に住む人達には、この山域は神戸の人達にとっての六甲みたいに親しまれる山な
のだろう。この後もあちこちに整備の行き届いたルートに出くわして、その数は数え切れ
なかった。

 それにしてもいい眺めだ。ビッグホエールの白い屋根が目立つ和歌山市街から、遠く生
石高原などの海南の山々、住友金属の製鉄所のある紀ノ川の河口、紀伊水道に浮かぶ島々。
薄日が射して朝よりは春らしく霞み始めたけれど、登ってきて良かったと思う瞬間である。
みんな考えることは同じで、数組のパーティが食事中。この先の広場には団体さんがいる
らしいので、ここで我々も食事としよう。

地蔵山南付近から和歌山方面
和歌山市街と紀ノ川、海南方面の海が見える

 食事を終えた後は折角なので地蔵山にも行ってみよう。しかし「行く」というほどでも
ない。林の中をほんの20mほどだ。ちょっとした空間に三角点に似た頭に十字を刻んだ
標石は図根点を示すものである。雑木があるので見晴らしはあまり良くない。ちらちらと
周囲が見渡せる程度だ。というわけですぐに引き返す。因みに図根点は実際に測量する時
に使用する三角点を補完するものとのことである。

 さて、午後の部、最初の目的地は井関峠。地形図を見れば判るのだが、この地蔵山で道
は二分する。井関峠には右に折れねばならないが、なんとなくそのまま左方向へ行ってし
まいそうになる。左は広場を経てJR紀伊駅方面。もっともバリエーションは幾つもあっ
て、紀伊駅方面に下っても、墓ノ谷を経由して六十谷に出ることもできる。我々も少し広
場に寄っていくことにしたが、案外広い場所で、中央にウバメガシの巨木が主のようにデ
ーンと構えている。ここも素晴らしい展望は食事した所と同じ。麓の小学校などがよく遠
足に使うんじゃなかろうか。

 Mさんはここでエスケープして紀伊駅の方へ降りるというので夕刻の再会を約して別れ
る。引き返して地蔵山の裾を巻いた後は急勾配をジグザグに下りていく。今日一番の急勾
配だったのではなかろうか。それもすぐに落ち付いて、その後は水平な明るい遊歩道が続
く。井関峠まで2kmほどの距離があるが、峠手前で短い急降下がある以外はほぼ水平で、
ゆっくり歩いても小一時間で到着してしまう。幕末の鳥羽伏見の戦いで敗れた会津兵達が、
和歌山城を目指して落ちて行ったという井関峠。整備がどんどん進み、始めて来た時とは
えらく様変わりして、その上、東屋まで建てられていたから、最初は本当にここが井関峠
と疑った。古い標識を見てそういえばとやっと思い出せた次第である。(笑)

 井関峠と大福山を結ぶ稜線が今回では最もアップダウンがある。途中に籤法ヶ嶽、懺法
ヶ嶽、くじ法ヶ嶽などとややこしい地名論争のある小ピークがあるからであるが、結局、
国土地理院の地形図にもあるように、今は懺法ヶ嶽で落ち着いたようで。地形図の381
m標高点ピークが懺法ヶ嶽東峰、その西の高みが懺法ヶ嶽西峰と標識も変更されている。
もっとも西峰はどこが山頂かわからないが、ベンチが置かれていて大福山や六十谷方面を
見はるかす気分のいい所である。ここから東に位置する366m標高点ピークは無名らし
いが、そこへ登る踏み跡入口の私製プレートには「バベ尾」と書かれてある。366m標
高点から南西に張り出す尾根のことかもしれない。

 林の中のやや急な斜面を少し登ると、俎石山方面、六十谷方面への道と出会う。大福山
の山頂へは石灯籠のある道をほんの少しだけ上がる。ここはこれで三度目。誰もいないの
は意外であったけれど、ますます整備が進んだ山頂からは南に和歌山市街、西に岬町の多
奈川付近と相変わらずの大展望で眺めながら小休止。チョコレートで口寂しさを紛らわせ
て、あとはもう六十谷まで下るのみだ。

 大福山から南へ。細いカリンの木に祠とベンチがおかれたミニ展望台を左に見た後は、
やがて気分のいい尾根道になる。いつの間にやら雲が取れ、青空が広がっている。左手の
山並みを眺めると、籤法ヶ嶽西峰の展望テラスが望める。その山並みの後ろからポコッと
頭を出しているのが雲山峰らしい。とすると昼食をとったのはあの辺りか。ずいぶん歩い
たものだと変に感慨深い。「あんよ」は偉いっ!。

六十谷道

 奥辺峠には祠と淡輪や札立山への分岐があるが、東側が広い谷状でちょっと変則的な峠
である。木製のベンチとテーブルが置かれた風景に見覚えがある。そうそう、前回来た時
に食事したのはここだったのだ。そうそう思い出した。あの時は祠の背後の尾根道を札立
山へ向かったっけ。今日は祠の前の六十谷道。しかしながら地形図の点線路は辿っていな
いようだ。谷道へ降りず山裾を辿る道が続く。すると直川村、有功村の境界石が道の真ん
中に現れた。少し調べたところによれば、昔、水争いか土地の境界争いがあったと聞く名
残なのだということだ。

 札立山分岐、奥畑分岐など六十谷道にも沢山の分岐がある。その内に「水飲み場」と書
かれた標識が目に付いた。昔は道は下の谷筋を通っていたらしく、現在の道ができた為に
水が枯れたのだという。そういえば道はいつの間にか太くなって林道になっている。

 岩神山の分岐で道は小さな切通しを越えていくのだが、すぐ左手に観音山の分岐が現れ
る。地形図を確かめると、こちらの方が駅に近そうで、且つ面白そう。ということで観音
尾根ルートを進むことにして、左の小さな尾根に入り込むと、そこは灰白色をした幹が並
ぶヤマモモの林である。そういえば北摂の粟生の自然歩道にも里近くにはヤマモモが多か
ったのを思い出す。食べられる赤い実が一杯取れるので、救荒作物として植えられたのか
もしれない。でもこれだけヤマモモが多いのも珍しいことだ。

観音尾根のヤマモモの林

 明るい雑木林の尾根である。ちょっとした高みには観音山と書かれた標識がある。25
8m標高点付近だが展望は開けておらず、直川観音の裏山っていう意味だろうが、標識が
なければ全く気付かないほどのものである。

 そこからすぐのアンテナ尾根の分岐(急傾斜)を過ぎる頃だったろうか。膝にちょっと
した違和感が出てきた。石の上に乗って無理な方向に足を向けて、体重をかけてしまった
のかもしれない。下り坂では木の幹で体を支えるなどして少しかばいつつ歩く。やがて、
木立の下から白っぽい廃軽四輪が見えてきて、最後の斜面をゆっくりと草むした林道に降
り立つ。フーッ。水平道になると、膝はどうもないようである。

 林道はすぐに二股。右を選択。すると倉庫の扉みたいなもので道が遮断されているでは
ないか。幸い開けることが出来たが、どうも私有地らしいし、わざわざ扉を開けて入り込
むわけにも行かぬから、ここから登り口に近づくのは無理だろう。多分、先程の二股を左
に行くのが正規ルートなのかも。

 とにかく新興住宅地に出てきた。お次に目指すは直川観音。犬を散歩させているジモテ
ィの小父さんに聞けば、道なりに進んで突き当たりを右に行けという。指示されたように
行くと、やや?なんだかおかしい、行き止まりだ。どこかで間違ったのかも。そこで左の
児童公園の奥が林になっており、直川観音の境内に続いているのだろうとみて、いつもの
強行突破を図ることになる。薄い踏み跡はすぐに消えたが、しばらく緩斜面を下る内に木
の間越しに建物の屋根が見えるようになり、ポツンと一基だけ立つ墓石の前に出た。墓の
前の小道を左に行けば寺の境内であった。

直川観音本堂

 直川観音がこんな大きなお寺だとは思わなかった。正式には大福山本恵寺。現在は日蓮
宗寺院だが昔は真言宗で開基はなんと役小角。本尊の千手千眼観音は小角の作と言い伝え
られる古刹ある。自然石で出来た200段はある石段を降りる。石段両横の桜や楓の若芽
はまだまだ固そうだったが、斜面には早くもタンポポ、タチツボスミレが咲き、一足早い
春の風情である。仁王門を抜けると庭木の手入れが行き届いた富裕な民家が並ぶ旧市街。
そしてまもなく千手川沿いの道となり、後は右手に歩いてきた山並みを望みながら、阪和
線の六十谷駅を目指すのみである。

 六十谷駅は山中渓駅とは違って、さすがに駅員さんがいる。但し1名。おりからチリ地
震の津波の影響で紀勢線が運転見合わせに遭遇してドキッとしたものの、阪和線は通常通
りということでホッと胸を撫で下ろす。定刻通り紀州路快速はやってきて、夕刻6時前に
は天王寺のスペイン料理店で打ち上げ。空けたワインは6人で5本だったかな?(笑)

 あっという間に宴の時間は過ぎて、フワフワと家路に着いたのでした。同行の皆さんあ
りがとうございました。



■同行: 高やん、たらちゃん、水谷さん、もぐさん(五十音順)

【タイムチャート】
8:10JR山中渓駅(集合地)
9:30雲山峰登山口
9:00〜9:08第一パノラマ台
9:26〜9:32四ノ谷山(363.6m(三等三角点))
9:46353mピーク横
10:14〜10:25南方向の展望台(小休止)
10:54高圧鉄塔(多奈二火力線bR6))
11:18〜11:22雲山峰(490.0m(三等三角点))
11:45〜12:17地蔵山(446m)南(昼食)
12:55〜13:00井関峠
13:16〜13:20懴法ヶ嶽東峰(381m)
13:25懴法ヶ嶽西峰(Ca360m)
13:39高圧鉄塔(多奈二火力線bQ9)
13:42〜13:50大福山(427m)
14:18〜14:18奥辺峠
14:25〜14:29大同寺・有功中学校、谷コース分岐
14:52〜14:56岩神山・観音尾根分岐
15:00観音山(258m)
15:20大福山登山口
15:38〜15:45直川観音
15:57JR六十谷駅



雲山峰のデータ
【所在地】和歌山県和歌山市
【標高】490.0m(三等三角点)
【備考】 和泉山脈の西部の最高峰です。山頂は眺望絶佳とは行き
ませんが、南に下った辺りはウバメガシの古木が残る広
場になっており、和歌山平野から紀伊水道が一望にでき
ます。
【参考】2.5万図『淡輪』、『岩出』



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