貴公子花紀行〜山にも登らず植物観察

満開を迎えたキンコウカの群落
平成22年 6月20日(日)
【天候】晴れ
【同行】別掲


 梅雨時は予定が立てづらい。前線の微細な上がり下がりで天候がガラリと変わり、天気
予報もあまり当てに出来ない時季である。今日もそんな一日。曇りだという予想が一転、
強いにわか雨に周回予定を急遽途中で切り上げざるをえなくなったのでした。

 金勝アルプス方面に湿地の花々を見物に行くというMさんのプランに集まったのは4名。
前回ここを訪れた時は工事中だった新名神だが、草津田上ICが出来、立命館大学も移っ
てきてと、金勝アルプスを取り巻く環境が全く様変わりしていて面食らう。変わらぬ情景
を思い出したのは、大戸川沿いに走って桐生の集落に入ってからである。見覚えあるキャ
ンプ場の駐車場はシーズン中は有料だそうで、しっかり5百円を徴収された。(笑)

 まだ雲に切れ目があるけれど、湿って重い空気は悪い予感を抱かせる。北谷林道をしば
らく歩き、落ヶ滝方面への分岐を右に入る。物置小屋横を通って沢を渡ると、きれいに整
列して植林された杉林の中。数日来の雨で足元は悪い。左右から張り出した枝や下草が雫
を含んでおり、いつのまにやらズボンもびっしょり濡れる。すると予感が当たってついに
上からもポツリポツリと水滴が落ちてきた。この時はすぐに上がったが、心なしか雲の流
れが速くなってきたように思う。

 杉林とも分かれ、幾度か沢を横切って、分かれた北谷林道と再び出会う。直進して花崗
岩を穿って流れる谷川沿いに進む。巻き道を左にすごして、更に進んで奥まった場所にあ
る落ヶ滝に再会。20m程の滝は白っぽい花崗岩質の岩に懸かっているので明るい感じが
する。
『まるでTDLやUSJにあるアトラクションにある滝みたい』
誰かが思わず口にしたのが言いえて妙。滝の上、左側にある大岩がちょっとした地震でも
すぐに転がり落ちそうで、まさに今、地震があったらどうしよう?と考えれば少し不気味
な気分だった。(^^;

 先程の巻き道を進むとすぐに滝の上に出る事が出来る。繁みの間から先ほどの不安定な
岩が覗くが、下から見上げた時ほど不安定でないのは面白い

 この辺りから先は花崗岩の岩の重なりで、水が染み出る小広い沢になっている。土壌と
いえるものはほとんどないが、いわば酸性の貧栄養土壌。そんな所にだけ暮らす植物がい
る。滲み出た水が常に表面を濡らす一枚岩にモウセンゴケの大きな株が2つ3つ。直径お
よそ10cm、花の茎の高さ15cmくらいか。先端に白い蕾が見える。と、こちら側の小さ
な岩と岩の間のわずかな隙間にはイシモチソウ。ネバネバした水玉を光らせた5mm程度の
小さな葉をあまた茂らせて、小さい虫が引っかかるのを根気よく待ち受けている。梅に似
た白い花が咲くのだが今はまだ見えない。澄んだ細流が流れる岸辺には、針のような細い
花弁が黄色い線香花火に見紛うべきキンコウカ(金黄花)の群落がある。カキランはまだ
蕾が多かったが、キンコウカはタイミングよく最盛期を迎えたばかりらしく、遠めからも
一番目立っている。物の本によればキンコウカはユリ科の植物で、中部以北に分布すると
あるから、この滋賀県南部付近が南限であろうか。

 曇り空を映して、流れの灰色の水面に波紋が次々に現れだす。また降り始めた。今度は
ちょっと強めの雨だ。植物は何とか撮り終えたから、カメラをしまって沢を遡行する。ト
ラロープの補助がないと登りにくい岩の斜面もあってなかなか変化に富む道だ。落ヶ滝の
源流は染み出るように水が湧いてくる文字通りの源であった。

 鶏冠山と竜王山の間を結ぶ稜線に登り着く。我々男性陣はいずれも鶏冠山には登ったこ
とがあるので居残り、未踏だというTちゃんとTさんがザックをデポして山頂を極めに出
かけて間もなくだっただろうか。ついにゴロゴロという雷の音が響く。稲妻も光らず、バ
リバリと力任せに大気を引き裂く音でもなかったが、四方から低く轟くような雷鳴は15
秒近く続いたか。何かちょっと不気味な感じだ。たちまちやや強い雨がやってきて木の葉
を騒がすが、これはすぐに小止みになった。こりゃあ木々のない尾根歩きはヤバイねと話
していたところが、俄かに辺りは先ほど以上にうす暗くなってくる。と同時に、さっきと
同じような雷鳴が再び轟いた。もうこれはピストンで谷筋を降りた方が良いだろうという
ことになる。雨も今度は本格的になってきた。

 やがて帰ってきた二人を合わせて、来た道を戻ることにする。難所はロープ場の岩。滑
らぬように注意を払ってなんとかクリア。その頃からか雨が更に激しくなってくる。登山
道は即席の川に変身し始めている。何回か沢を渡渉せねばならないが、なんとか増水せぬ
前に渡り終えることが出来たのはラッキー。しかし結果的には古い山靴の中は川と化した
登山道で中まで濡れざるを得なかったから同じことか。(笑)

 傘を用意していたので眼鏡が水滴で見えなくなることもなく、何とか杉林まで戻ってく
ると、皮肉なことに空が明るくなって雨も上がる。何の因果か、一番ひどい時に歩いてい
たようなものだ。(笑)

 にわか雨の後も夏のようにすっきり青空とは行かず中途半端に曇ったまま。結局、名神
の草津パーキングエリアで雨を避けて昼食を摂ったのだが、また強い雨が降り出したから、
あのまま続行していても、また雨だったに違いない。そんなことで、還縦走とは行かなか
ったけれど、この梅雨時だ。雨前に花見物ができたからまあ良しとしよう。あまたの山行
の中にはこういうこともらあな。(笑)



【タイムチャート】
計測していません

■同行 たらちゃん、たるるさん、みずさん、


鶏冠山のデータ
【所在地】滋賀県大津市・栗東市
【標高】490.9m(三等三角点)
【備考】 金勝アルプスの主要な峰の一つで、南から望むと三角の
綺麗な形をしています。この鶏冠山から南の龍王山にか
けては、途中に天狗岩、耳岩等の奇岩が聳え、快適な稜
線歩きが楽しめます。また天狗岩からの展望は360度
で琵琶湖、比叡山、金勝アルプスの奇岩、三上山、栗東
トレーニングセンター等が一望です。
【参考】2.5万図『三雲』



コバノトンボソウ(ラン科ツレサギソウ属)
キンコウカ(ユリ科キンコウカ属)
イシモチソウ(モウセンゴケ科モウセンゴケ属)
モウセンゴケ(モウセンゴケ科モウセンゴケ属)

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