緑輝く堀越峠から頭巾山

頭巾山山頂付近から歩いてきた若丹尾根を見る
矢印付近がNTTのアンテナ塔
平成22年 5月 8日(土)
【天候】晴れ
【同行】たらちゃん、みずさん(五十音順)


 週末は絶好のお出かけ日和だという。そこへ若丹尾根歩きのお誘い。GWを過ぎてちょ
っとお疲れモード、しかも大峰の山を歩いて3日後なので、うーむ、どうしようかと迷っ
たが、行かねば青い空を見て後で悔やみそう。やっぱり行きますか。(笑)

 7時に集合。JR亀岡駅を経由し、まずはR162で堀越トンネルを抜けて若狭側の下
山予定の野鹿へ。ここに一台をデポ。ついで来た道を戻り、出発点の堀越峠へ向かう。若
狭側から上がろうとしたのだが、吾輩の1BOXじゃ厳しそうだ。で、堀越トンネルをま
た潜って京都側から上がってみることにする。『京都丹波の山』の内田さんもこちらから
上がっているし、NTTのアンテナ施設も尾根にあるので舗装されているだろうと楽観視
していたら、これが若狭側と同じダート道だ。ドカドカガクガク。風で落ちた枝を巻きこ
むわ、赤子の頭大の石に車の底が鳴るわ。思わずアクセルを踏まぬ方の左足にも力が入る。
幸い若狭側より道路状態はましで、要所にUターン場所もあるので、行ける所まで行こう
と、もう少し先もう少し先と言っている間に何とか峠に着くことができた。フーッ!今ま
でがうそのようにこの辺りだけは路面がいい。(笑)

堀越峠。手前が京都側
頭巾山方向へは左の斜面を登る

 堀越峠は峠らしい峠だが、残念ながら石仏はない。(大正か昭和初めに新しくつけられ
た国道なのだ)見ると東側にも登り口がある。エアリアマップを開けると、タケガダンや
オバタケダン、若丹国境尾根を辿る踏み跡のようで、登って来た途中に入口標識のあった
棚野坂にも繋がっているようである。後刻、調べてみれば棚野坂には六地蔵もあるという。
こっちも魅力的だ。(笑)

 さて、準備を整えて西側の雑木林に踏み込む。若丹尾根なので予想はしていたが案の定、
指導テープがある。しかもヤブがないので非常に歩きやすい。今日は歩く距離が長いが、
これなら足もはかどりそうである。(笑)
 
 体にエンジンがかかっておらず、のっけの標高差約130mの急斜面は応える。息を切
らしつつ立ち木にすがって三点を確保しての登りだ。足元を覆うようにオオイワカガミ。
ポツポツとピンクの花を開いている。振り返るとNTTのアンテナ施設がもうほぼ同じ高
さである。と、下からバイクのエンジン音。一般車には少々つらいけれどバイクにとって
はここはルンルンの峠道なのだろう。

 登りきった所は「二三六」と刻まれた石標が埋まる小さなピークで、尾根はここで北(右)
に方向を変えるが、想像していたよりも明快な踏み跡が明るい日差しと新緑の中に伸びる。
「こりゃ、いいわぁ!」面々から思わず歓声があがる。標高は600m越えで、もう頭巾
山直下の急登以外には大きな登りはないはず。若丹県境尾根上の新緑のプロムナードを楽
しもうと指導テープを確認しながら進む。
若丹尾根はこんな感じでヤブもなく明るい

 なだらかな鞍部にやってくると、立ち木の標識曰く『熊壁坂』とある。熊壁は美山町福
居近くの集落。標識にはこの峠が明治期には若丹の主要な交易路の一つだったが、大正期
に入ると次第に西の横尾峠などに主役の座を譲った云々と、平成12年、小畑登さんとい
う方の筆になる説明がある。(惜しいかなもう故人になられたが、京北町の京都府立セミ
ナーハウスの先生だったそうだ)その横尾峠さえも今は山仕事や山人以外は訪れる人もな
い。こんな道にも栄枯盛衰があるわけだ。忘れられた熊壁坂だが、美山町側を確かめると
今でも洗掘された明快な踏み跡が認められる。よほど往時は人馬の往来が頻繁だったこと
を偲ばせる。

 ところで、エアリアマップに記されている『ムシュウ越』は、この熊壁坂のことだろう
と思われるが、”ムシュウ”とは一体何だろう。”虫生”? 旧上中町に”武生”(むし
ゅう)という集落があるそうだが、ここからは少し遠く無関係のようだ。

 若丹の尾根は女性的で、芦生などでよく見かける萌黄色のやわらかなU字を描く谷の源
頭部がここにもある。そんな場所にはムシカリの白い花が似合う。すると前方に立ち木の
ない円墳のような丘が現れた。その丘へちょっときつい斜面をこなすと、ハナヒリノキら
しい緑っぽい低木が散在する中央の頂には、三角点標石と測量の赤白ポールがまだ残って
いる。点名『西谷』の三等三角点だ。標高675.2m。結びつけられた赤い布切れには
「山登りは青春」とある。その側に立てば三等三角点にしておくには惜しい360度の展
望がある。西にこれから向かう頭巾山を盟主に山並みが連なる。直線距離でも5km位はあ
るだろう。まだ結構遠いわ。(^^;

 『西谷』を降りると一転、やや判り難い広い尾根になる。ここは京都側がヒノキ林、若
狭側は雑木なので、その境目を行けば間違いはない。時々現れる境界見出標の赤い金属板
が木肌にぐいっと食い込んでいるのがすごい。

 途中に現れる真北に進む尾根に惑わされないようほぼ真西に進んで、674m標高点の
小ピークでちょうど正午頃となった。小さく開けていて涼しいのでここで大休止。オッ!
ズボンの上を這うのは3mmほどのダニ。手前の笹で付いたかな?ダニを見たらなんだか体
中がかゆくなってきた。(笑)

 674mピークで尾根はまた方向を変えて広々となっていく。この辺りも少しややこし
い。さらに尾根は方向が一定せず湾曲しながら続く。大体、指導テープは不要な場所には
べたべたある癖に肝腎な所にはないものだ。ここもその例にもれない。コンパスと地形図
で進行方向を確認する。少し先で動物がうずくまったような露岩が現れたら正解。痩せた
雑木の枝がはびこって薄いヤブっぽい感じだが、良く確かめると鉈目が入っているのが判
る。この手入れがなければ抜けるのにもう少し時間を要したろう。小浜山の会の方々のお
蔭かも。感謝。感謝。結局、少々判り難いのは前述の二箇所くらいか。ヤブといえるヤブ
もなく快適で、エアリアマップで4時間半もかかると書かねばならなかった頃があったと
は信じられないほどであった。

 植林の為か若狭側の斜面一面をバッサリと切り通した箇所に出る。そこの立ち木に横尾
峠の標識を見つける。ここから先は一度経験がある。はず....。が、「あれ?こんな感じ
だったかなあ?」数年前に来た時に掴んだ横尾峠のイメージとは全く異なっていて、今、
眼前の光景など全く記憶がない。第一、あるはずの石仏がないのだ。とりあえず前方の高
みが710mピークに間違いなかろうと登ってみるが、まだピンとこない。狐につままれ
た気持ちでとりあえず南の明快な踏み跡を辿ると....。あった!あった!見覚えのある石
仏二体が...。そしてここにも横尾峠のプレートが...。

横尾峠。南へ行くと美山町福居

 ではなぜ横尾峠が二つもあるのか。どっちかが間違い?しかし、待てよ。古道が全て一
気に稜線を越える道とは限らないのではなかろうか。福居から登ってきた道がしばらく尾
根沿いに走り、もう一方のプレートのある部分から納田終へ下るとすれば、尾根上はすべ
からく横尾峠ではないのか。そう考えれば合点がいくというものである。

 石仏の祠前には以前にはなかった十二所権現参道の文字が刻まれた石柱がある。よく見
ると石仏の前部分にも『左 ときん山』云々の文字が読め、石仏が道標でもあったことが
分かる。一体、どれほどの時間、どれほどの数、往来する人々を見てきたことだろう。そ
んなことに思いを馳せれば、何か茫々とした感じがする。

 意味が分かって納得顔。まもなく大飯幹線bT0の高圧鉄塔を通る。山森(福居)への
下山路が分岐しているが、これは数年前に下山した巡視道だ。ここで頭巾山まで2.1km。

 これから先は良く踏まれた道で尾根が少々広がろうが、踏み外す心配はないほど道は良
い。五月を迎えた木々の新緑は素晴らしく、ハウチワカエデ、ウリハダカエデ、ナナカマ
ド、リョウブと秋が楽しみな木々が多い。アップダウンもないし、自然公園にうっとりし
ながら歩き、783mピークの南を掠めて、もう一つの783mピークにやってくる。こ
こまで来るともう頭巾山の前衛はすぐそこである。

 頭巾山の前衛峰から少しもったいないと思いながら鞍部への下りへかかる。左に「茨工
道」だったか、上谷を経て福居へ下る道を分けると、誰が架けたか『心臓破りの坂』のプ
レート。確かにきついが標高差は80m余りで距離的には短い。最初は直登の道もジグザ
グを切るようになり、鎮座するかわいい石仏を右に見て山頂の端に行き着くと、歩いてき
た若丹尾根を見渡せるすばらしい展望が待っている。出発点の堀越峠の近くにあったNT
Tの電波塔が芥子粒のように小さい。あんな所からよくやって来たものだ。(笑)

頭巾山山頂の十二所権現と湧出岩
二等三角点が社の裏にある

 一息ついて、見覚えある祠と避難小屋のある山頂。先着の小父さんが一人。節理のある
露岩の横の御神塔はあい変わらずのバラバラ状態。なんと祭の時以外はわざとそうしてあ
るのだそうだ。台風などで倒壊して破損させない為だろう。岩の上に乗ってみる。北に青
葉山の双耳峰が近く、若狭湾や大飯半島、内外海半島が良く見える。南から東には八ヶ峰
や芦生の山々がたたなづく青垣の古歌そのものの姿でうねっている。そんなのを眺めてい
ると「分け入っても分け入っても青い山」山頭火の句が自然に口をつく。

 小半時ほど憩った後、下山は頭巾山の山頂を西へ。生まれ故郷の名田庄から、少女たち
が綾部の郡是製絲の女工として働く為に越えたという若丹の”野麦峠”、尼来峠の方向と
すぐに分かれて北に下りていく野鹿(のか)コースをとる。周囲は昔は笹薮だったろうが
今は勢いが衰えている。それでも数本のスズコが採れた。

野鹿コースは劇下りの木の根道

 若丹の国境尾根は東西はなだらかだが南北は厳しい。頭巾山もその例に漏れず、北側は
今までとは一転してあちこちの露岩に荒々しさを見せる。やせ尾根には虎ロープも用意さ
れ、それを握って一歩一歩降りていくと、針葉樹で薄暗い中にポツポツとピンクが浮かぶ。
ホンシャクナゲがつけた花だ。他の地域では裏作のようであるのにここは当たり年なのか
沢山の花が見られる。しかも赤が濃い。北の斜面にかなりの本数があるようで、遠くの斜
面にもピンク色がちらちら眺められた。
濃い色のホンシャクナゲが咲く

 アスレチックでなかなか面白いやせ尾根だが、長くは続かずやがて植林下の単調な道と
なる。急斜面だが、登山道は植林の作業道を流用したものらしく、規則正しく帯を折るよ
うに下っていく。だからさっきから野鹿谷の沢音がかすかに聞こえてくるのだけれど、歩
く距離の割りになかなか大きくなってこない。(笑) それでも次第に水音は高まってくる。
ところが気づかぬ内にその水音が消えてしまった。下山途中から見た野鹿谷はなんと涸れ
沢なのである。ロータリークラブの看板の横から大きな石の転がる野鹿谷の川原へ出て、
コンクリート階段を野鹿林道に上がると、後は野鹿谷に沿って車のデポ地ヘのんびり戻る
だけだ。あれ?いつの間にやら谷に水が流れている。(笑) 路肩には野鹿谷のシャクナゲ
保護地域の説明板。あれだけのシャクナゲ、やはり名所なのだった。

野鹿谷の登山口

 谷縁には湿気を好むトチノキやカツラ、ハウチワカエデが多い。とりわけ見かけたトチ
ノキは大木で、腐食した幹の穴から3mばかりのカエデの木が生えている。それらの木々
のまだ浅い緑色は誠に目に優しい色合いで、いくら眺めていても飽きない。

 次々変わる風景にこんな地道の林道歩きもおつなもの。所々に小さな滝を懸ける谷を眺
めながら20分ほど歩いただろうか。辺りはいつしか見覚えある杉の美林。そこからデポ
したMさん車まではまもなくだった。歩いて分かったけれど、結局、野鹿林道は車をデポ
した杉林付近がもっとも狭く、その先の方は道も広く状態ものだった。(笑) ただ、地道
がいやな方は野鹿の滝近辺で駐車するのがいいだろう。杉林の地点で登山口まで高々1km
強、20分の行程である。

 最後に出発点の堀越峠へ車の回収。Mさんの軽四駆で、旧国道だったという堀越峠の道
を若狭側から登る。峠まで全線ほぼ一車線で退避所も少なく、ガードレールもなし。その
上、やっぱり四駆以外はお勧めできない路面状況だ。というわけで、普通車であえて登る
なら、やっぱり京都側からということになる。(笑)

 そんなわけでまたガタガタ揺られて堀越峠へ。相変わず、我々以外の車もない。約5時
間半の山旅。再び、ガタガタ揺られて峠をあとにしてR162に合流する。フーッ!また
ため息だ。(^^: グリーンシャワーに体も染まりそうな若丹尾根。静かで癖になりそうな
いい山域です。



【タイムチャート】
7:00自宅発
10:25〜10:40堀越峠(駐車地)
10:55〜10:58bQ36標石の小ピーク
11:10〜11:11熊壁坂
11:16〜11:17639m標高点ピーク
11:37〜11:38西谷( m(三等三角点))
12:10〜12:40647m標高点ピーク(昼食)
13:05横尾峠標識
13:11〜13:15718m標高点ピーク
13:18〜13:20横尾峠石仏前
13:25高圧鉄塔(大飯幹線bT0)
13:28〜13:30山森分岐
13:49〜13:51783m標高点ピークの南の肩
14:18783m標高点ピーク
14:46〜15:00頭巾山(871.0m(二等三角点))
15:01野鹿コース分岐
15:52野鹿登山口
16:15野鹿谷林道 登山口1.2km地点(車デポ地)



頭巾山のデータ
【所在地】 京都府南丹市(旧美山町)、綾部市
福井県大飯郡おおい町(旧名田庄村)
【標高】871.0m(二等三角点)
【備考】 若丹国境にある西の名山です。昔から雨乞いの山として
知られ、近在の尊崇を集めていました。山の形が山伏の
被る頭巾に似ているから名がついたと云われますが、銅
禁山が正しいようです。登路は綾部市古和木、美山町福
居、名田庄村野鹿からがメインコースです。
【参考】
2.5万図『口坂本』



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