清水峰〜知る人ぞ知る極上尾根

清水峰山頂。中央にフクロウマークが...
平成22年10月11日(月)
【天候】晴れ
【同行】水谷さん


 今日は前々から少し気になっていた奥高野の清水峰。その周辺ではなんということのな
い山ではあるが、奈良教育大学の実習林の中にあることで自然林が残され、人工林の多い
中にあって異彩を放つ山である。10月の秋晴れに恵まれて、そんな懸案の山に登り、愉
しんできました。

 紀伊半島を縦断するR168は以前はちょくちょく使っていたルートだが、近頃はとん
とご無沙汰。その間に旧大塔村の土砂崩れの跡は修復されていたが、道路の付替工事が大
々的に行われていて迂回路がややこしい。

 赤谷オートキャンプ場の案内板を目印に、十津川支流の川原樋川の左岸を進む。伯母子
岳を源とする川は水量豊富だ。砂利採取場を過ぎ、最後の民家を後にしてしばらく。鉄橋
を渡ると、左手に奈良教育大学の奥吉野実習林の建物が姿を現す。その先はもう赤谷オー
トキャンプ場の敷地である。

 とりあえず路肩の広まった部分に駐車させてもらう。実習林の敷地にデリカが置かれて
いるので誰か泊まっておられるようだ。駐車の許しをもらおうと管理事務所に出向くも扉
には鍵がかかっている。耳をそばだててみたがどうも留守らしく諦めて山準備。川原樋川
の瀬音が大きい

 登山口表示のあるゲートを開けて敷地内へ。地面の苔がやたらほじくり返されているの
はイノシシの仕業だろうか。次いで目につくのは「マムシ(ハビ)に注意」の警告。そん
なに居るのだろうか。居ることは居るのだろうが、マムシに事寄せて、敷地内にみだりに
入るなという警告とみた。(笑) 円形建物横の杉林の斜面につけられた階段が取付きらし
い。入山届のノートが置かれていたのでMさんが記帳する。そして8:25スタートだ。

奈良教育大演習林管理棟裏の登山口

 先達の山行記にもあったように、最初の杉林の登りが一番の難所である。直登はとても
不可能で、つづら折れに道がつけられているのだけれど、それでも結構きつい登り勾配で
ある。おかげで一気に高度が稼げて、赤茶色した実習林の建物の屋根も葉陰の遥か下にな
る。それはいいのだが、気温が15℃程度にもかかわらず、風がなくて一気に汗が噴き出
してくる。

 15分足らずで最初のベンチがある赤谷回廊分岐。ツクバネカシの祠の標識もあるので
帰りにでも寄ってみよう。小休止の後、少し歩き良くなった道を進む。左に夫婦松(もう
枯れてしまった赤松)の標識を確かめて、さらにジグザグに高度を上げる。標高が550
m程度になると、だんだん雑木が増えてくる。やや傾斜の緩んだ斜面を斜めにいくと、目
の前が小広くなって、間伐材の丸太でできた大きなベンチ。十坪平と書かれた標識が置か
れている。標高は凡そ670m。平坦な台地は人間の手が加えられたらしい。切り出した
木材を運搬するリフトが置かれていたらしく、鉄製の赤錆びた滑車付きの運搬具やブレー
キ装置の残骸が往時を忍ばせている。
十坪平

 いつの間にか周囲に人工林はなくなり全くの自然林。中には一抱えもあるミズナラの大
木もある。808m標高点の手前約60mで再びベンチのある分岐がある。沢コースと頂
上コースとあるが、まずは『トチノキ回廊』と呼ばれる沢コースで大トチノキを見に行か
ねばならない。まっすぐな水平道は林道くらいの幅がある。それが沢の源頭のような大き
く湾曲した斜面を横切る部分では消えてしまう。小砂利と土で出来た斜面は、雨が降れば
人が頻繁に歩かない限り、すぐに道を消してしまうのだろう。再び道が現れた。この辺り
の広葉樹林は素晴らしい。まだ夏真っ盛りと云える程な青々とした葉を茂らせてはいる。
が、それも間もなく、大気が寒さに引き締まって来れば紅葉黄葉に染まるに違いない。

 沢の源頭を緩くカーブして、復活した道をしばらく進んだ頃、右手前方、登山道から2
0mほど離れた斜面に、とてつもない巨樹が2本現れた。HPにあった大トチノキはこれ
だろう。巨樹まで踏み跡ができていたが、こぶし大から赤ちゃんの頭くらいのゴロ石です
こぶる歩き難い。踏み跡の横に張られたロープが重宝する。それにしてもデカい。樹齢1
00年以上はあろう。幹回りは6.8mあるという。間際まで行ってそれを実感する。根
元は大きな洞になっており、その洞だけでも直径1mはあるだろう。内部は人一人が雨宿
りに使うにも十分で、クマも冬眠したことがあるのではなかろうか。(調査によれば近年、
その形跡はないそうだ)
大トチノキ。人と比べてください

大トチノキの苔むした樹肌

 登山道へ戻ってさらに続く水平道を辿る。やがて関電の火の用心標識が出た。道の下か
らは沢の音が聞こえ始める。そして道が左にカーブすると同時に水音が一段と騒がしくな
ってくる。小瀑が連続していて、白く泡立流れ落ちる水の動きがとても素早い。この付近
がシャクヤク沢と呼ばれる場所であろう。と、前方に一つ人影を認める。久しぶりに遭遇
する登山者は単独兄さんである。聞けば奈良教育大の関係者の方で、管理事務所前に置か
れていたデリカはこの方の所有であった。道理で応答がなかったはずだ。(笑)

 小休止の間にいろいろ立ち話。なんでも以前、学生OBを連れてここで弁当を使ってい
た時、目の前にこの岩が転がり落ちてきたのだと傍の岩を指さす。今日はそれを検証しに
来たのだという。見れば直径1m大の500Kgは優にありそうな大石である。これは怖い
わ。ようこそご無事で。そんなことを耳にすると、今にもどこからか何か落ちてきそうな
気がしていい気持ちはしない。思わず知らず、心持ち沢から離れていたのだった。(^^;

シャクヤク沢に咲いていた白いトリカブト

 ヤマシャクヤクの姿はなかったが、珍しい白いトリカブトが咲いている。盛りは過ぎて
いたがともあれカメラに収めておいてと。さてここからどのコースを採ろうか? シャク
ナゲ沢を遡行するのと、7番鉄塔経由で平田平から山頂を目指すコースのここが分岐点な
のだ。対岸に登って右手に現れたいい道を少し行くと分岐の標識があった。当初は平田平
経由で行く予定だったけれど、実習林の山案内には前者のコースでと書かれていたので、
あっさりシャクヤク沢を遡行することに切り替えて、先ほどの場所まで戻ることにした。
しかし、かえってこのコースの方が曲者だったのである。(^^;

シャクヤク沢

 シャクヤク沢の左岸を辿っていく辺りまではまだ良かったのだが、沢を渡って右岸に移
る頃から道が怪しくなってきたのだ。以前はしっかりした道があっただろうことは丸木の
階段の痕跡があることで判る。しかし、沢の上部の土と砂の混じった柔らかい斜面を水平
にトラバースする道なんて、大雨が何度か降れば消して下さいというようなものではない
か。黄色のペンキがあるので進路を見失うようなことはないが、それがなければとても行
けたコースではない。(^^; 足を取られて滑り、悪戦苦闘しながらもなんとか右岸の斜面
を登り、「ヤマシャクヤク採集禁止」看板付近の小さな涸れ沢の突当りで左に折れて、よ
うやくか細いながらも踏み跡らしさを取り戻したので一息つく。さらにしばらく山腹を巻
いて上がった所が関電の送電線川原樋川線8番鉄塔である。フーッ。ようやく南側に清水
峰らしい高みが姿を見せた。

 それにしても、下に関電の例の火の用心マークがあったから、辿ってきた道は巡視路の
はず。一般に巡視路は整備が行き届いていて、我々にとってその存在は心強いものなのだ
けれど....。行者還岳近くの巡視路もひどかったが、ここの場合も整備しているんだろう
か?(笑) 近頃は僻地ではヘリコプターで鉄塔の巡視をすると聞いたこともあるが...。

 8号鉄塔から先はうって変わってこれぞ巡視路という道だ。幅1mはある直線路である。
巡視路ならこう来なくっちゃあ。(^^; 木々の茂りでやや薄暗いが、5分も歩く内に分岐
に出る。左の道は808m標高点近くの分岐で分かれた頂上コースに違いない。実習林の
HPの案内図で「新道」となっている道だ。これは下山道に使うことにして、ややきつく
なった斜面を黄色ペンキに導かれながらえっちらおっちら。10分ほどで次の9番鉄塔に
着く。その手前に以前には道があったような雰囲気の部分があったが、HPの案内図の灰
色部分の道がこれらしく、今はほとんど廃道状態のようであった。

 斜面は徐々に尾根道らしくなって、周囲は綺麗な自然林である。間もなく現れた112
7m標高点ピークは丸い感じのピークで、尾根筋はここで南から南西に方向を変え、ヒメ
シャラの赤い幹が目立つ極上尾根へと我々をいざなう。そしてここからが今日のハイライ
トなのである。
清水峰への尾根のブナ

 下草もなく歩きやすい尾根には踏み跡が消えたり出たり。大きな木はないが点々と素直
なブナの木。学生の為だろう「ここはブナ林です」と書かれた標識がぶら下がっているの
が微笑ましい。Ca1170mピークを上下し、鞍部から一登りすると、赤い実がたわわな
ムシカリやアセビに囲まれた清水峰の狭い山頂に出た。一坪足らずの空き地に欠けのない
綺麗な三等三角点があり、その横には何かの碑か昔の無名墓のような石が鎮座する。わら
じの会の例のフクロウマークはここにもきっちりとあった。(笑)

 山頂からの展望は思うに任せないが、唯一、東方面が開けていて、大峰山脈南部が見渡
せる。ちょうど南奥駈といわれる部分である。弥山、八経ヶ岳は雲をかぶっていたが、一
際ピラミダルな釈迦ヶ岳が印象的。さらに南には笠捨山や行仙岳らしい山影がある。先月、
伯母子岳から見た姿と同じだがやはり大分近くに見える。と、右手斜め下方向、木の間隠
れに集落が見える。はてどこだろう?十津川村の何れかには違いないが。田畑らしいもの
も見えるので、方角からして風屋付近なのかも知れない。

清水峰山頂から見る大峰山脈南部。中央が釈迦ヶ岳

 最初は小鳥の鳴き声にも思えたけれど、先ほどから微かに聞こえていたチリンチリンと
いう音がにわかに大きくなってきた。誰かやって来たようだ。やがて現れたのは、想像通
りシャクヤク沢で遭った先生だった。我々が最初、平田平方面から山頂へ行くと云ってい
たので同じ方向に向かわれたとのこと。我々は分岐で気が変わってシャクヤク沢遡行コー
スを採ったのだが、「そちらはどうでした?」と聞くと、やっぱり途中で道が消えるもの
の、黄色ペンキがあるとのことだった。このペンキは以前、学生が道を失って下山せず大
騒ぎになったのを教訓に設置したのだそうだ。因みにくだんの学生君は十津川方面の尾根
に迷い込んでいたそうである。

 チキンラーメン小カップと助六の昼食を終え、撤収の準備。もう少しゆっくりするとい
う先生に挨拶して、お先に下山にかかる。もう一度、全長凡そ900mの極上尾根のプロ
ムナードをそぞろ歩く。太い枝が折れて、漫画のタコの口みたいになった大ブナは「タコ
ブナ」と勝手に命名する。周囲が見渡せる展望台みたいな部分があれば最高だけれど、ほ
とんどが林の中。時折、多分、荒神岳方面と思われる北方の高い山並みが垣間見える程度。
どんどん下って新道の分岐まで戻ってくる。 

 新道と名付けられた道も、山腹に無理やり付けたような辺りは、消えかけかつ路面が斜
めで歩き難い部分がある。が、それも一興。(笑) やがて自然林は人工林にとって代わら
れる。ほぼ等高線に沿ってゆっくりと下る道は、なぜか大阪教育大と書かれた看板が立つ
辺りで、ようやく尾根を下り始める。若干の倒木があってここもやや歩き難いが、808
m標高点に向かってジグザグを切りながら一気に近づいていく。それも次第に緩やかにな
ってくると、そこは808mの標高点で、ものの1分もせぬ内に往路の沢コースとの分岐
へと出た。

 あとは往路を下るのみ。だが、最後の植林帯の下降は想像以上のものだった。歩いてい
る内に右膝に少々違和感が出だしたほどである。右膝に負荷をかけぬようにステッキで庇
いながらの歩行となる。(^^; ツクバネガシの祠の辻で一息入れる。そうそう、祠を見に
行かねば。20mほど先に石垣を積んだ部分があるのがそれだろうか。あまりはっきりし
なかった。期待倒れ。

 ジグザグの単調な下りは飽きてくる。しかも膝が笑い出して踏ん張りが利かなくなって
くる。が、道の幅が狭いので油断すると転落の危険がある。教育大の建物の屋根が見え始
めた時は、正直、ほっとしたものだった。円形建物横。無事帰着したことをノートに記し
ておく。

 車の所で後片付けをしていると、くだんの先生が下りてきた。挨拶して、実習林を後に
する。奥高野の自然林の山は手強いながらもなかなか楽しませてくれる山でありました。




【タイムチャート】
6:00自宅発
8:20〜8:30奈良教育大学奥吉野演習林ゲート登山口(駐車地)
8:44〜8:48最初のベンチ(ツクバネガシの祠)
9:10〜9:17十坪平(標高670m)
9:37〜9:40沢コース・尾根コース分岐(標高800m)
9:58〜10:04トチノキの巨樹
10:13〜10:20シャクヤク沢
10:25〜10:28平田平コース・シャクヤク沢コース分岐
10:49〜10:56高圧鉄塔(川原樋川線bW)
11:00尾根コース新道出合
11:10〜11:11高圧鉄塔(川原樋川線bX)
11:151,127m標高点ピーク
11:50〜12:25清水峰(1,186.2m(三等三角点))(昼食)
12:551,127m標高点ピーク
13:05尾根コース新道出合
13:28808m標高点
13:29〜13:32沢コース・尾根コース分岐(標高800m)
13:45〜13:47十坪平(標高670m)
14:07奈良教育大学奥吉野演習林ゲート登山口(駐車地)



清水峰のデータ
【所在地】奈良県五條市(旧大塔村)
【標高】1,186.2m (三等三角点)
【備考】 伯母子岳から東に派生する尾根にあって十津川村と五條
市(旧大塔村)の村界を扼する山です。北側一帯は奈良
教育大学の奥吉野演習林の区域で、周囲が植林である中
に残存する自然林は貴重です。中でも周囲6.8mもの
トチノキは奈良県一と云われるだけあって、一見の価値
があります。登山道は黄色ペンキでマーキングされ迷う
ことはないでしょうが、一部、ルートが崩壊している箇
所があるので注意です。
【参考】2.5万図『上垣内』



トップページに戻る

inserted by FC2 system