三久安山〜北播磨、静寂のブナ山

明るい三久安山山頂
平成22年10月 2日(土)
【天候】晴れ一時曇り
【同行】別掲


 26日はSRCの月例オフ。久しぶりの参加になるが、行先も久しぶりの播州は波賀町
と一宮町(現在は宍粟市)の町界に聳える三久安山である。近年ガイド本に取り上げられ、
宍粟50名山にも選定されたことで徐々に名を知られてきた山だけれど、今も知らない人
の方が多かろう。かく云う小生も山名は知っていたものの詳細は知らず。送られてきたコ
ース図を眺め、急いでカシミールで緯度経度入りの地図を用意する。

 オフ当日。青い空、涼風も吹いて絶好の山日和。8:20、無事(到着寸前にちょっと
したトラブルはあったけれど...(^^; )集合地の山崎の道の駅に到着した。今回は人
数が4人なので、小生の車はここに置かせてもらって、少し前に到着していたUさんの車
に移乗する。

 播磨一の宮の伊和神社を過ぎてR29を北上すると、やがて音水湖の湖面が見えてくる。
引原川に架かる鉄橋のアーチで右折。姫路市野外活動センターの特徴あるデコレーション
ケーキ状の建物とキャンプ施設を左にして、舗装路を上がっていく。奥に行くにつれ雑木
が茂りやや鬱蒼としてうす暗い。斜面から土石が崩れ落ち、路肩が崩れている所もあるの
で車は注意が必要だ。国道からおよそ400mも遡ると三久安山の登山口である。宍粟5
0名山の真新しい標識の横に一台の軽自動車があるので、同好の先陣がいるのかと思いき
や、地元の釣りの方だった。聞けば小さいけれどアマゴがいるそうで、山の方ももう宍粟
50名山は完登したのだそうだ。マムシが出るので注意してとアドバイスをいただく。

三久安山の引原登山口

 準備を終えて賑やかに谷川右岸に沿う幅広の作業道の起点へ向かう。起点右手に目をや
ると杉林へ丸木橋が架かっていて、その先に2、3のピンクテープがあるのに気づく。今
日の周回コースだと多分、あそこに出てくるのだろう。下山コースは分かり難いと聞いて
いたが、あのテープが上から続いているのなら問題はなかろう。(事実、続いていた)

 もう朝露がつく季節。左右から張り出した草木の葉からのしずくで裾が濡れる。ナギに
似た葉をつけた植物が多くなる。ミツマタだと教えてもらう。こんな葉だとは知らなかっ
た。というのは葉より先に出る花の印象しかないからだ。斜面一帯を覆っているのは、和
紙で有名な杉原も遠くないので、和紙の原料として植えたからであろうか。異常な暑さだ
ったのに、もう早春用に花芽を用意していた。

 杉桧林の作業道らしい幅広の道は大きくジグザグを切って登っていく。谷川の流れの音
が徐々に遠のく。植林の隙間にある広い斜面の荒地。ここはもう秋の風情で、ボロギクが
白い綿毛を出し、ススキがおいでおいでをし、大きなムシカリの梢には赤い実が鈴なりで、
遠くらだと燃えているように見える。カケスが数羽、突然の闖入者に驚いて逃げていった。

燃えるようなガマズミの実と空には鯖雲。秋です

 やがて作業道は尽きて、荒地と杉桧の植林の境目を直登するようになる。結構な急斜面
は風も通らず暑い。鹿も歩いているらしく、時折、黒土の上を滑った鹿の足跡があり糞も
転がっている。植林帯の上部に出ると傾斜が少し収まったので、小休止して汗を拭く。

 ウリハダカエデの林を抜けて、再び傾斜を増した斜面をゆく。植林の下、そこだけ空間
ができたような作業道。ようやく斜面は尾根状を呈し始める。先程から黒い同軸ケーブル
が埋まっているのに気づいていたが、正体は尾根の中間に建てられた共聴アンテナだった。
まもなく芝栗の実が転がるこんもりした小さなピークに出る。三久安山への指導標の手前、
丈の低い草に囲まれて四等三角点『新道』(981.6m)はあった。

 今まで暑かったが日が翳って風が吹いてくると、じっとしていたらやや寒いくらい。本
の二週間前まではあんなに猛暑であったのに。今年ほど季節にメリハリがある年は記憶に
ないなあ。汗が引いて小寒くなったところで歩きを再開。その前に、針金が錆びて落ちて
いた矢印標識を掛け直しておこう。(笑)

 一旦、下って急登を登り返すとCa1010mの小ピーク。標高が1000mを越えるこ
の辺りまで来ると、ブナ独特の灰色の樹肌が現れ始めていい雰囲気。地形図以上の痩せ尾
根には、シデ、ミズナラに混じって比較的若いブナも多い。上から見ればなんだか人が地
面に突っ込んで逆立ちしたような面白い形の幹のブナもある。

人が地面に突っ込んで逆立ちしたような木が...
なんだ?こりゃ!

 小さなアップダウンを繰り返しながらも、徐々に高度を上げていく。その間、ほんの短
いながらもごつごつした痩せ尾根もある。小広いCa1020mのピークを越え、自然林の
林を縫って行くと、ようやく三久安山の稜線が前方に見え始めた。やや左に方向を曲げな
がら、その稜線に向かって一本調子の斜面を進む。そんな傾斜が緩んだら、ジャンクショ
ンピークは間近である。その山頂手前付近だったろうか。1m幅の作業道が横切っている
の気づいた。何処から来て何処へ続いているのだろうか?枯れ枝で通せんぼがしてあるが、
下山時に何気なく歩いているとフーッとそちらに引き込まれそうな雰囲気があった。

 ヒメシャラの茶色いすべすべした木肌を撫でて、ジャンクションピークに到達。そこは
三叉路になっていて、北は三久安山本峰へ、南へ向かえば林道を経て一宮町溝谷へと道標
が立つ。今日の下山はこの溝谷へのコースを採り、途中で別れて、起点の引原登山口へと
戻る手筈。そのコースを覗くと、チラッと登山口で見かけたのと同じピンクテープが垣間
見えた。これなら安心して戻れそうだ。(^^)
 
ジャンクションピークと三久安山
山頂の間のブナ林

 ジャンクションピークと三久安山の間は大きなブナが林立する自然林だ。中でも途中の
鞍部から三久安山の急斜面にかけてはとりわけ立派なものが多い。それらに見とれながら
最後の標高差20mを登り切ると、ブナやナナカマド、ハウチワカエデ等が疎らに生える
小広い山頂で、土俵の如く一段高い所に三角点と新しい山名標識の杭が立っている。山頂
からの展望は木々が邪魔して全くないので、昼食を摂った後は清々しい自然林が誘う東の
尾根を少し散歩することにした。

 東尾根。100m程度辿ってみた。すると期待通り、木々の間から藤無山、須留ヶ峰が
指呼の間。遠く蘇武岳や妙見山らしき高い山が青く霞むのも目に入る。東北側、一際どっ
しりと根を張るのは氷ノ山で、双眼鏡を覗けば山頂には避難小屋らしき建物がある。

 幹が斜めのハウチワカエデに登ったり、ブナヒラタケを取ってみたり。山名標識横で記
念撮影したりして、ふと時計を見ると「ええっ?」もう1時間以上もたむろしているでは
ないか。単独行ならこんなことはザラだけれど、グループの時は珍しい。(笑) そろそ
ろ下山にかかろうか。とはいえまだ午後1時。順調ならば3時には登山口へ戻れよう。

 ジャンクションピークへ戻って、溝谷方面へ向かうべく南へ劇下りを降りる。自然林の
細い尾根。殊の外、左手斜面は急峻だ。三久安山へは引原からピストンする人が多いのか、
こちらのコースは往路に比べると格段に踏み跡が薄く、所々、不明瞭な方向変換箇所さえ
ある。とはいえピンクの指導テープを追えばまず間違いはないようだ。町界尾根を示すの
か、コンクリ杭も続いているのでこれも道筋の手掛りになる。

 やがて、踏み跡は西側が植林、東側が雑木の境界を行くようになる。並木みたいにブナ
が続き、中には一抱えもあるような大物も佇立する。地面には夥しいブナの実の殻だが、
全て去年以前のものらしく中は空である。今年は不作らしい。クマが里に出没するのも道
理か。

 もうほとんど役に立っていない鹿ネットが出てきた。倒木と露岩で怪しい部分もあるが、
概ね鹿ネットの左側を歩くように踏み跡はついている。ただ、自然につけられた感じがせ
ず、強引につけられた踏み跡のようで、サルトリイバラなども多く、やや歩き難い。その
内、左手が開けてきて北から東にかけての山々が見渡せる場所に出る。同定できる範囲で
は、北から端正な藤無山と須留ヶ峰。扁平台地そのものの段ヶ峰。笠杉山、千町ヶ峰に、
アンテナを戴く暁晴山等などがずらりと並ぶ。この内の幾つかは過去に登ったことがあっ
て懐かしい限りだ。

 ジャンクションピークを出て最初の小ピークがアセビで覆われたCa1020mのコブ。
溝谷コースはここから東へ尾根を降りていく。「ハシゴを経て林道」と私製標識は溝谷コ
ースを示している。尾根をそのまま南下すれば「林道奥」。溝谷コースで現れる林道の終
端部分へつながるという意味らしい。なにやら少々判り難いが、地形図を見れば納得だ。
今居る尾根の東側400m付近に南北方向に長々と林道があるのだ。とりあえず小休止。

蓮華岩トンネル(溝谷)と林道奥(引原)
の分岐のあるCa1020m峰

 ミヤマママコナが盛りを迎える中を歩いて溝谷コース分岐から20分弱だろうか。目の
先の尾根上に10mはあろうかという苔むした大岩がドーンと出現した。三久安山は蓮華
岩山の別名もあるそうだから、これが蓮華岩だろうか。窪みにギボウシなども生え、湿り
気を帯びているからまるで天然の植木鉢状態である。南側から見ると、中央が割れていて
「蟻の戸渡り」みたいな部分がある。試しに覗いた人の話では通過は無理とのことだった。
ところで、実はここは地形図に1019m標高点と記された場所なのだけれど、1019
mは岩の上までの高さだろうか?それとも地面までなのだろうか? 閑話休題。

 大岩を後にした辺りから踏み跡がやや怪しくなってくる。左手が伐採した後のような荒
地で、ザラザラと赤っぽい土砂が歩くと崩れて歩き難い。ピンクテープが杉林の中に入っ
てやや尾根の下を行くようになって、歩き難さがややましになった。そして再び尾根に出
ると、幼木や雑木が刈られて放置されたような荒れた感じの高みに達する。ここがコース
の方向転換地点のはずだ。

 お茶を飲んで休んでいると、背後のくさむらからTちゃんの声がした。三角点を見つけ
たのだそうだ。地形図にはその印はないはずなのだが、行ってみると見慣れた標石ではな
く金属標識の四等三角点が埋め込んである。新しい赤白ポールも立っていて、まだ設置さ
れて間無しとみた。そういえば、近くのフトウガ峰でも四等三角点が新設されていたのを
思い出す。(帰宅して調べると、点名『三久安東』。2年前の8/20の埋標であった)

 ここで、ちょっと疑問。梯子コース分岐にあった「林道奥」コースはどこで分岐したの
だろう?考えられるのは、先程、ピンクテープに導かれてザレたトラバース道から尾根を
縦断して内側の植林下へ入ったのだが、直進方向にもテープがあって引き込まれかけたの
がそれかも知れない。新設の三角点から左手の伐採尾根を見ると作業道があるようで、そ
れへと繋がっているの様な気がした。

 さて、三角点からルートは方向を変えて、西方向の植林尾根を下っていく。サルトリイ
バラなどの下草が茂って、指導テープがなければ本当にこっちなのか少々疑って不安にな
ってしまうほど。左手の杉は手入れが悪いのか、一様に黄色く梢が枯れていて異様だ。そ
れにかまわずどんどん下ると久方ぶりに道標が現れた。矢印標識には誰が書いたのか『音
水湖』のマジック書きが添えてある。それに従って尾根を逸れて左に折れると、そこは清
々しい雑木林の尾根で、9月末とも思えない青々した葉を茂らせた木々が周囲を飾る。そ
んな木々を通して往路に登ったの尾根筋が垣間見えた。

 再び、植林下へ入る。傾斜がきつくなり、一旦緩んでまたきつくなる。何処からともな
く沢の音が聞こえ始め、ゴールの近いことがわかる。そして標高700m辺りで指導テー
プは北を向く。真っ直ぐ西へ行っても林道に出くわしそうだが、肝腎の林道へ降りる部分
の法面が崖状になっているからかもしれない。そして最後の劇下りに入る。木々の間から
林道終点が見えてきた。倒木が転がる枯れた沢にはアケボノソウの花。ミツマタも出てき
て、えいっ!と少し飛び降りる形で降り立つと、そこはちょうど起点の草生す丸木橋のた
もとだった。
引原登山口南側の急斜面から降りてきた

 時刻は15時少し前。オフも無事終了。装備を解き、充実感で満たされながら岐路に着
く。途中、道の駅「南波賀」で、美味しいというアーモンドマーガリンを買って帰る。冷
蔵すると硬くて、パンに塗る際に延びが足らないのが少し難点だが、噂に違わずなかなか
の美味。次回は一回り量の多いのを買ってみよう。今日も一組の登山者にも、幸いマムシ
にも出遭わずだ。久しぶりの北播磨。静かなブナ山を皆さんと愉しんだ一日でした。



【タイムチャート】
6:10自宅発
8:20〜8:30道の駅『山崎』(集合地)
9:12〜9:20引原登山口
10:10〜10:15植林地の上部のウリハダカエデ林
10:25〜10:40四等三角点『新道』(981.6m)
11:20〜11:25ジャンクションピーク(Ca1,110m)
11:39〜12:56三久安山(1,123.2m 三等三角点)
13:06〜13:07ジャンクションピーク(Ca1,110m)
13:22〜13:27溝谷分岐
13:41〜13:43大岩(1,019m標高点)
14:06〜14:12四等三角点『東三久安』(.m)
14:51引原登山口


■同行: 裏人さん、幸さん、タラちゃん(五十音順)


三久安山のデータ
【所在地】兵庫県宍粟市(旧波賀町)
【標高】1,123.2m (三等三角点)
【備考】 北播磨の名山藤無山から南に生野高原などと並行して延
びる山塊に位置する山で、山頂周辺や1000mを越え
る尾根上にはブナの自然林が残ります。以前は林道を利
用して東の一宮町溝谷から登るのが一般的だったようで
すが、宍粟50山に指定されたのを契機に、西の波賀町
引原からの道がメインになりつつあります。
【参考】2.5万図『音水湖』



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