近江坂逍遥

晴天の近江坂の峠から
遠く伊吹山と長浜市街、琵琶湖には竹生島が浮かぶ
平成22年 4月24日(土)
【天候】晴れ
【同行】単独


 若狭と丹波、あるいは近江を結ぶ古道には、根来坂、粟柄越、愛発越など、今も残存し、
なお風情のあるものが多い。近江坂もその内の一つ、近江と若狭を結ぶ最短経路の一つで
ある。三重嶽や大御影山へのルートとして何度か歩いたことがあるが、晴天に恵まれたこ
の週末、また歩きに行くことにした。

 単独行の適当さ加減で家を出たのがもう8時すぎ。GSやコンビニに寄ったりした上に、
湖西道路も混んでいて、起点のビラデスト今津に着いたのはもう10時半前だ。5時過ぎ
には帰宅したいこともあって、あわよくば大御影山まで行ってみようとの目論見はこの時
点で早々と放棄である。(^^; 

 標高が500m近いビラデスト今津ではまだ桜がきれい。300円也の協力金を払って
平池横のT字路付近に車を止める。先行車が1台だけとはやや意外だった。

 セラピーロードと名づけられた林道を杉林に向かって100mも行けば大御影山登山口、
近江坂の案内がある。砂防工事の説明板があって、工事関係者の1BOX車が杉林の中に
1台置かれてある。その横を通って手入れの行き届いた植林帯を抜けると後は明るい雑木
林だ。

 小川を石伝いに渡る。プーンとヒサカキの花独特のガス臭が濃い。見れば枝元いっぱい
に小さな白い杯状の花をつけている。その根元にピンクのイカリソウ。が、艶々のオオイ
ワカガミはまだ蕾である。
人馬の足によって洗掘された近江坂

 蛇行する道を一登りするとバイパス道と尾根道の分岐。ここは左のバイパス道を選択す
る。山腹を巻いていく道の左下の谷から豊かな水音。所々に小刻みな滝を懸けているよう
だ。山肌の華やぎは山桜とタムシバ。 マンサクのくしゃくしゃと目立たない花が目の前
に。そこへタイミング良く鶯の谷渡り。北国のしかも標高800m。都会近くの里山に比
べて季節の歩みは遅いようだが、何はともあれ春は確実にやってきているのです。

 炭焼き窯跡らしき穴ぼこを過ぎて、再び尾根道(近江坂)と合流する小さな峠から見る
春霞の琵琶湖はいい。竹生島が浮かび海津大崎の半島が張り出すのが良く見える。遠く霞
む独立峰は伊吹山。いにしえ人もここで一休みして、さぞかし景色を賞でたに違いない。

 再び尾根に出て洗掘された古道を歩く。あれ?日陰にまだ雪が残っている。ズボズボと
沈んで歩き難いことこの上なし。しかも融け始めて一部は泥濘。悪い方の山靴で来れば良
かったなあ。(^^; しかし足元ばかり気にしているととんでもないことになる。雑木の横
から張り出す枝がすこぶる邪魔で、思わず裾を引っ張られるわ、また結構、倒木もあって
一度ならず頭をぶつけるわ。(笑) まあ、これも山歩きの一興だろう。

 ピンクのイワウチワの横で整った小さな白い花が目に付き始めた。この付近に多いバイ
カオウレンの花である。直径1cm程度の小さい花なのだが染みのない白さが目立ってな
かなかの存在感である。敬意を表して1枚デジカメに収めておこう。

 大きくカーブすると山の中の盆地のような植林帯。ここには日陰の所為か多くの雪が残
る。ステッキでブスブス穴をあけながら通過する。再び、尾根道。シャクナゲのトンネル
になった部分がある。このシャクナゲ、枝が固く、ヤブになった部分は非常に歩き難いも
の。しかも今年は裏作のようでほとんど蕾がついていない。残雪や泥道に苦労しながら、
峠からおよそ40分で滝谷山分岐に到着だ。

 カタクリが姿を見せ始める。しかし葉っぱが出ているのみで花や蕾の姿はない。葉もま
だ小さいので、花爛満となるにはもうしばらく時間が必要だろう。そして間もなく林道と
いう辺りに、ここだけぽっかりと土俵のような円形に整地されたようになっているのは、
ヘリコプターの離着陸用の場所なのかもしれない。その切り開きのおかげですばらしい展
望が眼前に展開する。金糞岳から伊吹山、霊仙山から鈴鹿。比良山系と琵琶湖を囲む山々。
マキノから海津大崎、長浜、彦根と続く湖岸線。竹生島、沖ノ島などの島々。時々、聞こ
える自衛隊饗庭野演習場かららしき腹に響く低音がつや消しだが、それもしばらくで聞こ
えなくなる。後は、強い風の音と野鳥の声のみ。他にはグツグツと湯がたぎる音。静か。
その静かさを御馳走にいつものラーメン。

 食後のコーヒーをすすりながら、北方向を眺めると、よさげな林の小高いピークがある。
地形図の849m標高点ピークだろう。食べ物を片付けながら、ちょっと寄り道していく
気になり、もう少し北へ進むことにする。溝と化した道に残る雪が増えてくる。そして林
道には一面まだ残雪が残っているようである。去年、まだ暑い時期に三重嶽から東側に下
山して、てくてく、延々とこの林道を東の抜土まで1時間半位は歩いたっけ。そんなこと
を思い出す。
台地より847mピーク

 さて、849mピークは近江坂からも山頂らしきものが100m程先に見えていて、今
の時期ならヤブもなくどこからでも登れるのだが、近江坂が林道へ降り始める手前にある
薄い獣道らしいのを辿るのが一番簡単。ミズナラ、ブナがいい具合に林立し、窪みに雪が
残る地面のそこここにイワウチワが咲き乱れる。東西に長い山頂にはプレート類は何もな
い。当り前か。まあ好き好んでこんな無名ピークへ来る輩もいなかろうが...。しかも
展望は存外悪く、西には谷筋に雪を残す三重嶽、北に大御影山が木の間越しに覗くくらい。
今の時期にこれだから葉が茂ると皆無であろう。しかしこんなあまり人手の入らない自然
の山の方がこの辺りではお似合いである。

847mピークの風景

 山頂を当てもなくあちこち踏み荒らしてしまった。それでは来た道を引き返すことにし
よう。気温が上がったのか、往路より流れ出る雪解け水が多くなっている。道の一部はま
すます泥田状態だ。(^^; 途中で大谷山方面を見晴かしていたら、単独兄さんが追い抜い
て行った。誰もいないと思っていたからちょっとドッキリ。本日二組目のヒト。(笑)

 バイパス分岐で今度は尾根筋を通る本来の近江坂を行く。大谷山の左手に大く根を張る
山があるのは大御影山らしい。山頂の反射板が同定の目印だ。この辺りから見えるとは知
らなかった。ここから見るとやはりかなり遠いなあ。(笑)

近江坂からおおらかな大谷山を望む

3時少し前、ビラデスト今津の駐車地へ戻る。途中で遭ったのは2組、都合3名の山人の
み。風の音以外は鳥とシカの声だけの静かなそれでいて春の息吹を感じ堪能できた1日だ
った。寒い冬を経験するほどその後の春の訪れはいいものです。実感。



【タイムチャート】
8:00自宅発
10:20〜10:25ビラデスト今津(駐車地)
10:42近江坂・バイパス道分岐
10:59〜11:02近江坂・バイパス道合流
11:39滝谷山分岐
12:05〜12:52林道250m南の台地(昼食)
13:00〜13:04847m標高点ピーク
13:42滝谷山分岐
14:25近江坂・バイパス道分岐
14:42近江坂・バイパス道合流
14:53ビラデスト今津(駐車地)



近江坂のデータ
【所在地】滋賀県高島市、福井県若狭町(旧三方町)
【標高】
【備考】
江若を結ぶ古道の一つで湖西の高島市今津付近から福井
県三方町を結びます。900m級の山越えにしてはなだ
らかで、馬に乗っても越えられたといいます。今津山上
会の尽力によって、現在は江若国境の山々への登山路と
して親しまれています。
【参考】
ビラデスト今津発行『西近江と若狭の山歩きマップ』



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