大所山〜静寂の山上の別天地へ

登山道途中の展望岩から大所山と下山した尾根
左奥に山上ヶ岳が見える
平成22年 5月 5日(水)
【天候】晴れ
【同行】たらちゃん、みずさん(五十音順)


 身内の不幸があってこのGWもバタバタしていた。それが納骨も終わり少し落ち着いた
ところでPCを開けると、GWの締めに大峰を歩きませんかというTちゃんの誘いがML
に流れている。天気も持ちそうだし渡りに船と手を上げる。行き先は名前だけは知ってい
た大所山。百合ヶ岳ともいい、ヤマケイの『日本の山1000』、新版の『奈良県の山』
に記載がある山であるが、以前からネットでは迷った云々の山行が散見されるマイナーな
山である。しかし、先日歩いてみれば2、3判り難い箇所はあったものの、指導テープも
多く予想したよりしっかりした道がある。そして何より単調な植林帯から尾根に上がった
時のどんでん返しが印象的な山であった。しかしながら今回下りに使った奥駈道分岐のあ
るピークから琵琶滝遊歩道へのやせ尾根は劇下りで、所々十分な慎重さが必要な山でもあ
った。

 7時ジャスト。いつもの千里中央でMさんの車に便乗させてもらい、近畿道、西名阪道
と辿って近鉄榛原駅前。渋滞もなく8時10分には駅前に到着。コンビニで買物などをし
ている内にTちゃんがやってくる。今日のメンバーはこの3名。大台へ行くお馴染みの国
道。川上村白屋を過ぎ、下多古で西に折れる。下多古は川沿いに延びた、鎮守もお寺もあ
る割りに大きな集落。そこを過ぎて更に川沿いに進んだところで斜面を駆け上がる。落石
の破片はあるがなんと立派な舗装路である。

 水汲みの車がくるという水場や宗像神社の赤鳥居を過ごして高度を上げていくと、林道
が大きく左へカーブする手前に物置小屋と林業用のヘリポートが見えてくる。ここが登山
口らしい。左のコンクリート階段は琵琶滝への道で今回下山してくる予定の所。右手の杉
林手前、キャンプ禁止の立看板のある所が今回取付きに使う道である。そんなことを確か
めていると、林道の先から車が下ってきた。大所山への登山口を探してうろうろされてい
たようで、小父さん二人、我々から登山口情報を得てホッとした様子である。

大所山登山口。看板横に標識あり

 準備を終えてちょうど9時半出発。杉林の中を登り始める。間伐や枝打ちがしっかりな
された杉林は明るく、しかも杉の一本、一本が太い。吉野の美林とはこのことだろう。そ
れもそのはず、江戸時代に植林されたという下多古村有林なのだそうだ。そして予想以上
に指導テープが多い。数少ないが吉野警察署のオフィシャル指導標まである。もっとマイ
ナーだと思っていたのがある意味で拍子抜け。以前、TVで琵琶滝が紹介され、某新聞社
系旅行会のツアーも組まれたことがある由。登山客が増えるのはいいが遭難されると地元
が困るわけで、そんなこともあって整備を進めたのだろう。

 ルートは林業用の作業林道で寸断されているがテープに従っていけば問題はない。その
林道も利用しながら、涸れ沢沿いに進んでいく。概して山仕事用の小道を登山道に兼用し
ているようで、ジグザグに斜面を登っていくので急斜面の割には登りやすい。足元にはあ
まり見かけたことのない斑入りで鋸歯のある葉を持つのやチョコレート色の芯を持つテン
ナンショウ。がなんといってもヒトリシズカの照り葉と白い花が目立つ。日が当たらない
沢筋の斜面にはヤマシャクヤクが群生しているけれど蕾は固い。

尾根まで植林下をひたすら登る

 この後も何度か狭い作業林道を横切りながら高度を稼いでいく。やがて左にあった小さ
な沢も源頭様になり、右に大きな岩が現れる。左に曲がったところの朽ちた丸木橋(錆び
て原形を留めない五寸釘が転がっていた)には足元注意の看板があるが、土石などで埋ま
ったのか橋を架けるほどの場所でない。(笑)

 30分も歩いたか、ちょっと早いが小休止。暑い。額から汗が流れるほどなのは今年初
めてだ。お茶といつもの赤飯おにぎりを一口入れる。その時だったか、Mさんが小さな花
を見つける。トウゴクサバノオのようである。普通、もっと湿った所に多いのだが...。
付近の石にコケが青く付着しているのを見ると、普段湿った所がここ1週間の晴天で土が
渇き気味だっただけなのかもしれない。

 再び涸れ沢を横切って右岸を登っていく。相変わらず植林の中である。斜面を巻きなが
らさらに高度を上げる。ここで小沢の中に水が現れたのを初めて見る。数m先のチョロチ
ョロと湧き出す辺りに塩ビパイプがあるところを見ると水場らしい。この辺りは出水もあ
るらしく少しルートが判り難いかもしれない。

 植林がまだ延々と続く。見上げてもまだまだ稜線らしいスカイラインも見出せずつらい
ところだ。ひたすら歩を進める以外にない。ただ、ここもジグザグに上がっていくので、
疲れは思うほどでもない。それでもようやくスカイラインの明るみが感じられ、あと数十
m高度を稼げば稜線だろうと思われる辺りに来た時、右手にぽっかり空間があり、大きな
露岩が埋まっているのを見つける。切れ落ちているので少々足元が怖いが、露岩に登ると、
今回のルートで初めてすばらしい景色に出会えた。南方向は遮るものなし。残念ながら黄
砂の影響で霞んでいるのは致し方ないが、それでも白髭岳のピラミダルな姿が登高意欲を
そそってくる。右手に大峰主稜。中でも台形の山は山上ヶ岳らしい。眼下にアプローチに
使った林道も見える。そして岩の鼻先には景観を盛り上げるように赤紫のミツバツツジが
花束のようである。

 踏み跡に戻って前方に見える稜線に向かってもう少し。と、飛び出した場所はそれまで
の杉桧林の単調さから一転、一気に開放された別天地である。GPSを確かめると127
0m標高点の西およそ270mの地点。稜線上はブナ、ミズナラなどの雑木林。林床は分
厚く落ち葉が堆積しソファの上にいるようだ。ただ、標高1300mの高地はまだまだ早
春で、麓ではあんなに若緑であったのが芽出しさえ終わっていない有様である。が、ムシ
カリだけはそれに先駆けて白い花を見せている。野鳥が鳴き交わす声も春らしい。

植林から解放された尾根上は別天地だ

 北側の眼下はるかには高原の集落の家々が点在している。北西方向には大峰の四寸岩山
らしい大きな山容がある。山頂に向かう稜線は北側が広くなっていて下草もなく庭園の風
情。枝打ちがされていないヒノキがうるさいので、その落葉樹の庭園を歩く。彼方にブナ
に囲まれた大所山の山頂が見えてくる。ややきつい斜面をゆっくり登るとまもなく山頂。
紀州わらじの会のお馴染のフクロウ標識、百合ヶ岳と勘亭流風に書かれた山名板などが、
三角点標石とともに立つ。コゲラらしいドラミングの音が響く中、独占した山頂に適当に
場を占めて食事とする。

大所山山頂。コゲラがドラミング

 30分余りの休憩の後、山頂から下山地点に向けて西へ移動する。一旦、コルに降りて
の登り返し。南側に行者還岳に似た傾いだ山が目立つが何だろう。馬蹄形になっている大
所山の稜線。左手になかなか鋭く見える大所山がある。すると西方向からヘリコプターら
しい爆音が聞こえてくる。そういえば山上ヶ岳で未帰還者が出たと新聞にあったがそれを
捜しているのであろう。

 下山地点のピークは地形図上では小さな円形の等高線があるCa1300mピークだ。琵
琶の滝方向を示すテープ以外に西に向かうテープがある。大峰奥駈道の五番関へ連なる尾
根を行くルートのようだ。それを辿って50m程度下っていくと、そこもゆるくカーブし
た別天地で、中央に主の如くブナの巨木が立つ。窪地であるが為に風から守られてきたの
だろう、直径は1mはあろうか。芽吹き始めたイワガラミをゴツゴツした幹に巻きつけて
佇立している姿は堂々としている。芽生えてこの方、登山者より獣の方を沢山見て来たに
違いない。そこここに鹿の糞が転がっていた。

巨大ブナと筆者(画像提供:Tちゃん)

 下降点のピークへ戻り、東の尾根に乗る。ここから先は往路とはガラリと変わって、急
峻なやせ尾根あり、杉林の劇斜面ありとスリル満点のアスレチックコースだった。まずは
苔むした露岩の重なりの中にシャクナゲのトンネルが現れる。七面山や大峰奥駈道に良く
似た雰囲気が漂う。残念ながら蕾は固く、一斉にほころびるまでにはまだ2週間程度はか
かりそうではあるが、咲けば一気に華やぐに違いない。

 手強いシャクナゲの枝を払いながら進んでいく。テープがなければ判り難い箇所もある。
特に大岩を乗越すところではセットしてある虎ロープの助けが必要である。下から見上げ
ると岩の大きさが分かろうというもの。そこに茂るシャクナゲやコウヤマキ。その向こう
の空間に登り歩いてきた稜線が垣間見える。

下山の尾根はさながら「正露丸」尾根
つまり”劇下り”です(笑)

 一旦治まった急斜面が再び斜度を増す。用意されたトラロープにすがってさらに杉の幹
に支えてもらってようやく下に降り立つ。結局、これから先も延々と植林が続いた。ただ、
植えた後はほったらかしの植林ではないので明るいのが救い。

 指導テープを追っていると微かだった水音が徐々に大きくなってくる。それが前下方か
ら全面的に聞こえ始めるとチラチラ白く泡立つい流れも見え始める。滝も見える。あれが
琵琶の滝?などと当て推量しつつジグザグに下っていく。やがて整備された琵琶の滝への
遊歩道が現れ、トンと降立った所には目立たない小さなプレートと赤テープのみが登山口
を示している。注意していないと見落としやすかろう。

 左の川下に向かえば駐車地の広場だけれど、折角なので琵琶の滝を見物しに行く。もっ
と近いのかと思ったが、なかなかどうして結構な距離と登りが控えていた。上から見えた
のは、はるか手前の小瀑だったようで、桟道や川にかかる赤い吊橋を渡って更に奥に向か
う。そして左手の岩場を登った先に東屋。滝見台らしくそこからようやく二段50mの滝
の全貌を見てとることが出来る。水量も多くなかなか豪快な滝である。東屋横の山桜はも
う散り果てていたが、滝と花筏の風情はさぞかしオツだったことだろう。

二段の琵琶の滝
二段目の滝は岩を穿って流れ出すように見える

 ところで東屋の手前にまだ先に向かう小道がある。「遭難捜索費用200万」云々の看
板が立っているが、滝の直下や滝の上に出られる道らしい。地形図を見ると琵琶の滝の上
流にもう一つ滝があるようだ。ところで駐車した広場には琵琶の滝遊歩道とあったが、な
んのなんの。これは立派にハイキング道。ハイヒールなんぞで来ると難儀するだろうなあ。
(笑)
琵琶の滝遊歩道入口。熊注意の看板がある。登山口はこの右

 さて、小1時間もかけて戻った駐車地には、先のおじさんたちの車は見当たらず、下関
ナンバーのパジェロミニが一台。川向こうに1台。後片付けをして着替えをし、途中の宗
像神社の小祠とコウヤマキを見学して帰途に着く。適度にワイルドな大峰のマイナー山は
GWの締めくくりに相応しく快い充実感と別天地の良さを存分に味わわせてくれる山でも
ありました。



【タイムチャート】
7:00千里中央(集合地)
9:22〜9:30大所山登山口(駐車地)
9:55〜10:10小休止
11:30〜11:32展望岩
11:35〜11:38尾根(1,270mピーク西270m付近)
11:55〜12:27大所山(1,345.8m(三等三角点))(昼食)
12:35〜12:52Ca1,320mピーク付近
14:05琵琶滝遊歩道出合
14:18〜14:35琵琶滝前の東屋
15:00大所山登山口(駐車地)



大所山(百合ヶ岳)のデータ
【所在地】奈良県吉野郡川上村
【標高】1,345.8m(三等三角点)
【備考】
百合ヶ岳とも呼ばれ、川上村下多古と高原の間にあって、
大峰主稜から東に派生する支脈上の峰です。南を流れる
下多古川にかかる琵琶滝がマスコミに紹介されたことで
一般に知られるようになりました。登山道はほぼ整備さ
れていますが、南の稜線は切れ落ちた痩せ尾根などもあ
り、歩行には注意とコンパス、地図が必要です。
【参考】
2.5万図『洞川』



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