奥ノ谷山(オクノタン)〜芦生の極上尾根歩き

北側の尾根付近から奥ノ谷山
平成22年 5月30日(日)
【天候】晴れ
【同行】別掲


 ここのところ週末は好天続き。ウィークエンドトレッカーにとっては嬉しい限りだが、
今週末もいい天気らしい。今回も今月8日に引き続き若丹国境付近の山に出かけることに
なった。(笑) Mさんから五波峠を起点に中山谷山に出て、更に奥ノ谷山へ足を伸ばそ
うというお誘い。中山谷山までは何度か出張ったことがあって、その山頂からいい尾根が
東に続いていることは知っていたけれど、勿論その先は未踏。Webを検索しても奥ノ谷
山(オクノタン)に関してはあまり報告がない。それだけマイナーだという証拠だろう。
興味津々。さてどんなところなのだろうか?

 例によって千里中央駅のローソンで集合。午前7:00。久方ぶりのSさんとも合流し
て本日のメンバは3人だ。通い慣れた道を通って、美山町の田歌から延びる林道五波染ヶ
谷線に入り、しばらく走って今回の下山予定であるツベタ水谷沿いの林道へ右折する。ダ
ートの路面はそれほど荒れてはいないが、濡れた地面に枯れ枝が多く、タイヤハウスに巻
き込んでうるさいこと。200mほど進んだ辺りでMさんの車をデポ、次いで小生の車に
乗り合わせて五波峠に上がる。五波峠開発記念碑前には先行車が一台あるが、八ヶ峰に向
かったのだろう。

 先週の暑さに比べるとえらい違いで半袖では寒いくらいだ。薄手の長袖シャツを着用し
てきたのは正解だった。準備を終えて出発。五波峠から歩き慣れた東に伸びる稜線を進む。
下草のないブナやミズナラの林。うす緑の葉が陽の光に照り映える。落葉樹の林が最も輝
く時季である。その下をゆるゆると登っていく。エゾユズリハもピカピカの黄緑色の若葉
だ。

 20分ほどで右前方の短い斜面を登り、洗掘されたように窪んだ踏み跡を行くと、中山
谷山の分岐に出る。木彫りの案内板がかかる。ここからやや左手の劇下りを行けば若丹尾
根を権蔵坂や杉尾峠方面。右に折れれば中山谷山への尾根だ。一旦、鞍部に下って登り返
してまもなく、747m標高点を過ぎる辺りから尾根が狭まって、踏み跡もしっかりして
くる。苔むした古い倒木の転がる尾根を忠実に進んで自然に左手にカーブすると、中山谷
山の山頂に着く。誰の仕業か一角が欠けた三等三角点がポツンとあり、山名プレートもほ
とんどない静かな山頂だ。内田さんの『京都丹波の山』によれば、この辺りも以前は笹薮
だったとあるから、笹は根こそぎ数年前に枯れたらしい。今は格段に歩きよくなり、少し
山慣れた人なら楽に歩けるだろう。小休止。腹が減った。持参の魚肉ウインナー1本。

 さて、ここから先は未踏なので今までのようには行かず注意が要る。進路を地形図で確
かめる。600mくらい進むとCa770mの高みがあって、ここで南に折れなければなら
ない。そんなことを頭に入れつつ東へ。明瞭な尾根筋だがあまり歩かれていないのだろう、
踏み跡はほとんどなく獣道程度。先導するかのごとく、一頭の鹿らしい偶蹄目の新しい足
跡がそこへ付けられている。人間と同様に獣も歩き易い所を選んで歩いているみたいだ。
その鹿、四足駆動にもかかわらず、結構、斜面で滑っているではないか。(笑)

人跡は薄いがこんな極上尾根が

 木立を彩る茶色の斜面は根曲がり竹や笹が枯れた跡である。干からびた軸だけが残る。
北側には権蔵坂に連なる若丹尾根が起伏する。Ca770mの屈曲点のピークは鹿の子模様
の高い木のある広場である。ここは東側にも尾根があり、顕著なピークでもなく、且つ広
いので進路を間違えないようにしなければならない。すこし南東に進んでコンパスを確か
めて尾根に沿って南へ向かう。尾根を少し外れて直径1mくらいのヌタ場を見る。やがて、
俄然、周囲の林相が濃くなり、倒木なども増えてくる。

 地形図に掲載されている、芦生周辺の標高点には『P○×○』などと書かれた小さなプ
レートが懸けられているが、ここ766m標高点も例外ではなく勿論懸けられている。地
面には『京都大学』と刻まれた石標が立っていて、芦生研究林の境界を示すものらしい。
その石標の頭には矢印が刻まれているが、これは何を示すのだろうか。地形図を見ると支
尾根が北東と東南方向に下っている。途中の状況は不明だが前者は坂谷、後者は櫃倉林道
へ降りていけるようだ。
766m標高点ピークにあった京都大学の石標

 この辺りはほとんど高低差がない。北斜面などは笹枯れで、尾根筋は相変わらず林相が
濃い。尾根が微妙に分岐する箇所もあるので、コンパスで度々方向を確認していく。時折、
東方向が開ける。ブナノキ峠か傘峠らしいピークが意外に近い。

 少し小高い荒れた感じの高みは、ツベタ水谷方面への分岐点でもある743m標高点。
繁っていた笹はここも軸だけ残して悉く灰色に枯れている。前方が落ち込んでいるのでヒ
ョイと覗いてみると....。あれ?張り巡らされた黒い鹿ネットの向こう側(南側)に林道
があるではないか。地形図からもっと下で終わっていると思っていたのがここまで延びて
きているとは....。
しかも更にオクノタン方向にも延びている。ひょっとしてそのままオクノタンまで....。
が、そう上手くは問屋が卸さないのが世の常。50m位で林道は行き止まり。そこからは
獣道然の薄い踏み跡となる。コゲラが営巣しているのか、見慣れぬ侵入者に梢からしきり
に警戒音を発している。

 左方向、林道沿いに続いている鹿ネットは林道がなくなっても、まだ尾根に忠実に続い
ているのでこれを手係りに進んでいくことにする。すると、その鹿ネットに鹿の頭骨がぶ
ら下がっているのに出くわした。角から見て2、3歳位の雄鹿のものらしい。がんじがら
めになっていて、ネットから分離することが出来ない。ひっかかてからだいぶ年月が経っ
ているらしく、動物の餌になってしまったのだろうか、毛の痕跡は地面にあったものの、
あばら部分や脚の部分は皆無だった。

奥ノ谷山への尾根は文字通りのグリーンシャワー

 、Ca790mピークへの登りも笹が枯れていて軸だけが残り、斜面は歩き難い。付近は
芦生でも最も笹薮が濃いエリアという話を聞いたことがある。数年前ならすごい笹の密生
だっただろう。更に倒木が行く手を遮る。ネット沿いが比較的歩きやすい。そのネットも
芦生杉が生える平坦地が現れた頃には消えた。この辺りは少し判り難いが、やや右に曲が
りながら尾根は南下していく。

 その尾根上に大きな芦生杉が現れた。反対側に回ったみたら、なんと落雷で燃えた跡が
あるではないか。その所為なのか、人が2人位は入れる大きな洞ができているのは小野村
割岳への道沿いに立つ『雷杉』と同様である。「雨宿りに云いねえ」なんて能天気に喋っ
ていたが、なんだか獣が寝たような跡も残る。そんな状態なのに樹勢はまだまだ旺盛で、
青々とした葉を茂らせているのには驚く。見習わねば....って、何を見習うのかなあ。(笑)
これは雷杉にあやかって『雷杉(いかづちすぎ)』と名づけよう。(笑)

落雷のあった杉
雷杉(いかづちすぎ)と名づけた

 右手前方に奥ノ谷山らしき頂を見た後、尾根は直接そちらに向かず、奥ノ谷山の東の肩
に乗る。西(右)に折れて、奥ノ谷山の頂を目指して急斜面を少しだけ。タヌキかなんぞ
の糞を避けて、よっこらしょっとシャリバテの身を持ち上げれば、そこは小さな台地状に
なった山頂で、珍しく一つの欠けもないきれいな三等三角点(点名『芦生』)がある。他
には前述した標高点にかけられている、例の小さなプレートと同じ作者の手になる山名プ
レートが一つだけの簡素な山頂である。木が茂ってあまり展望には恵まれないが、かろう
じて中山谷山など北の稜線が見える。北西に目立つ山は八ヶ峰だろう。西には地形図通り、
奥ノ谷山とほぼ同じ高さのピークがあり、藪もなくこれを通って尾根通しにツベタ水谷へ
降りていけそうに感じだが、ツベタ水谷が水量豊富で険しそうな谷なので、林道にうまく
降り立たない限り苦労しそうな感じもある。

奥ノ谷山山頂の三等三角点
画像中央の木に山名プレートがある

 昼食の為、小一時間の大休止の後は、743m標高点に戻るべく奥ノ谷山の東の肩に下
りる。ふと足元はるかに下界の姿。あら?白い車が走っているではないか。どうも芦生に
向かう車道が見えているらしい。それにしてもここを下りていくにはかなり急峻な斜面を
覚悟しないとならないようだった。

 往路は結構あるなと思う距離も、復路は勝手知った事もあって短く感じるものである。
凡そ30分で743m標高点に着いて、今度は西に進路を採り、さきほどの地形図に載っ
ていない林道を降りていく。ほぼ尾根に忠実に織るように下りていくので、やはりツベタ
水谷沿いの林道が延びてきているのだと確信する。周囲は桧の若木。枝の下打ちもされて
おらず、あまり手入がなされていない。しかし桧は樹高3m程度。南向きの斜面なので明
るい。

 まだ若いホウノキが数本群生した箇所まで降りてくる。奥ノ谷山の西尾根が頭上もうあ
んな高い所に見えている。やはり奥ノ谷山から西に下りるのは難しそうだ。更につづら折
れ。次第に谷底の流れの音が大きくなってきて、やや湿った箇所に多いタニウツギのピン
クの花が増えてくる。やがて木の間越に左から右へ白い流れ。ところがそこへ行き着く前
に林道が土砂崩れで崩壊している。幸い、人間の通行に支障はなく、戻る羽目にならなく
て良かったけれど、車はとても通行できない。こんな箇所が数箇所あって、しかも林道工
事で露出した岩は板状節理で非常にもろい。崖の工事も必要となれば、ちょっとやそっと
の金では復旧は出来ないだろう。

 ようやくツベタ水谷まで降りてきた。谷をまたぐ鉄板の橋は健在で渡渉せずとも済んだ
のはラッキーである。山仕事の車がこの辺りまでは入ってきているようで轍の跡がある。
後はどんどん下るのみ。大きなサワグルミ、神社の巫女さんが持つ鈴のような形の白い花
冠を掲げたトチノキなどを見上ながらのダート林道。右手から坂谷が合流してくると地点
に林道の鎖ゲートがあって、20mほど先にMさんのデポ車が待っていた。

林道ゲートに戻って来た


予期せぬ遭遇を果たしたサルメンエビネ

 渓流釣りのおじさんが一人。釣れているのかいないのか?その横を通って車回収に五波
峠へと戻る。芦生の懸案の三角点峰を一つ解決。(^^)/~~ 極上尾根、サルメンエビネと
の予期せぬ対面もあって、充実の芦生の尾根歩きでした。


■同行: 幸さん、たらちゃん、みずさん(五十音順)

【タイムチャート】
7:00千里中央(集合地)
9:10〜9:15五波峠(駐車地)
9:40〜9:44中山谷山分岐
9:52747m標高点ピーク
10:07〜10:13中山谷山(791.8m(三等三角点))
10:26〜10:29Ca770m屈曲点ピーク
10:52〜10:59766m標高点ピーク
11:22743m標高点ピーク
11:55〜11:57雷杉
12:03〜12:35奥ノ谷山(811.0m(三等三角点))(昼食)
13:02743m標高点ピーク
13:50林道の橋
13:59林道ゲート
14:00車デポ地(ツベタ水谷林道)
15:00五波峠(駐車地)



奥ノ谷山のデータ
【所在地】京都府南丹市美山町
【標高】811.0m(三等三角点)
【備考】
若丹国境と由良川に囲まれた山域にあるマイナーな山で
す。幾つかのアプローチが考えられますが、ツベタ水谷
の林道からアプローチするのが最も簡便です。ただし、
林道終点から先はケモノ道程度の踏み跡しかありません
ので、地形図とコンパスは必携です。
【参考】
2.5万図『中』『久坂』



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