七種薬師〜地獄鎌尾根環縦走再び

地獄鎌尾根と奥から顔を出す七種薬師(西尾根より)
平成22年 5月22日(土)
【天候】晴れ
【同行】別掲


 播磨の夢前町にある名山七種三山の一つ、七種薬師から南に伸びる尾根は俗に地獄鎌尾
根と呼ばれている。大きな岩壁や馬の背の岩稜が続くからだが、この日曜にあった山の会
の5月例会はその地獄鎌尾根を通って七種薬師へ登り、ゴリラ岩へと結ぶ環縦走。私にと
っては二度目であるが、標高は低いもののなかなか面白いコースだったのを覚えている。
難を言えば出発点が牧場でちと臭気が気になることか。(笑) ところが日曜はほぼ確実に
雨の予報。残念ながら5月例会は中止のやむなきに至る。が、そこは転んでもただでは起
きない面々。前日の土曜は好天予想なので有志だけでも行こうかということになる。集ま
ったのは4名。暑かったのとやっぱり前回と同じくゴリラ岩からの下降は途中から道なき
道を往ってしまったが、付いた葉屑などを雪彦温泉で落としてさっぱりして、帰途に着い
たのでした。

 夢前町役場、現在は姫路市の夢前支所近くで県道と別れて、東の峠へ向かう新道へと折
れる。口蹄疫の影響で、出発点の村田牧場から部外者立入禁止のお触れがある懸念もあっ
たけれど、とくに警戒している様子はない。すんなりと明王池手前の牧場北端の空き地ま
で入らせてもらった。目の前で乳牛が餌を頬張りながら「変な奴が来よったな」風の目で
見ている。(^^; それにしても不思議なのは、牛舎の向かいにオーナーのものなのか、大
きな洋館風の住居があること。臭くてたまらんと思うがなあ。それとも窓は金輪際開けな
いということなのかな?でも今日は風向きの加減かそれほどの臭気がない。

地獄の一丁目にようこそ(笑)

 もう二度目なので取付きは分かっている。案外青く澄み切った明王池の水を見ながら、
堰堤を渡ったすぐの山肌に取り付く。椿やヒサカキ、カシなど常緑樹が多くて少し暗い感
じの急斜面は、訪れる人も多くなったのか前回よりも道が明瞭になったような感じがする。
ずるずる滑りやすい斜面を一気にこなして赤い案内標識のある尾根上へ。濃い繁みの中は
無風状態で暑かったが、尾根まで上がってしまうと微風がある。加えて梅雨時と違って大
気にそれほど湿気がないので、木陰は涼しくて助かる。ゆるゆるとCa300mの小さな高
みに上がる。ゴリラ岩と明神山が真西に見える。

夢前町のランドマーク明神山と
ゴリラ岩のコラボレーション

前回歩いたのは3月。今回は5月半ば過ぎ。踏み跡の左右が繁ってヤブっぽくなっている
のではと懸念があったが、それなりにたくましくなっているものの、案ずるほどでもない
のは幸い。とはいえ、シダが背丈以上に被っている所も一部ある。しかもこの時期、こと
に鬱陶しいのがクモの巣攻撃。顔にまつわりついた時の気持ち悪さと来たら....。が、そ
れを一手に引き受けてくれたのは先頭を行くMさんだ。最後尾を行くとその心配もなくこ
りゃあ楽ですバイ。(笑)

 377m標高点ピーク手前からお目当ての地獄鎌尾根が片鱗を見せる。長さ20m位の
やせ尾根は青灰色の板状節理のもろい岩で出来ている。岩上はネズや松が多く、繁みにな
るとシモツケらしい白い花をつけた低木やモチツツジが混じり、そこは日本庭園さながら
である。377mピークを越えて再びシダのはびこる中を進み、鞍部へと下りると、いよ
いよ鎌尾根の核心部へと進んでいくことになる。

 鞍部の潅木帯を抜ける。前方に鎌尾根名物赤岩がデンと稜線上に鎮座する姿と、右手に
根を張る薬師峰の姿が目に入ってくる。奥行きがはっきりしないので、一見、ロープがな
ければ登りようのない絶壁に見紛うけれど、さにあらず。実際は凹凸のある斜度40度く
らいの岩だ。途中にテラスもあってとっついてみれば登りやすい。とはいえ、そのテラス
に立って振り向くと、ここを下りに使うのが躊躇われるほどの結構な高度感がある。尾根
向こうに、出発点の明王池、牧場が緑に覆われた谷間に小さい。

鎌尾根の主役、赤岩
テラスに立つ人と比べて下さい

 赤岩は岩と繁みの左の境目を行くこともできるが、岩を斜め右手に上がって行くのがノ
ーマル?ルートらしい。岩の上部の灌木帯に空間があって指導テープがある。今回は素直
にそれに従う。痩せ尾根右手は特に絶壁なのだが、木々がそれを隠してくれている。窓の
ように空いた箇所から大声で叫ぶと、向かいの岩壁と何度も交わす自然のエコーの響きが
すごかった。(笑)

 直立岩が門のように立つ辺りまで来ると鎌尾根も終わりを迎える。十字峰まではヤブツ
バキなどの常緑樹で少々暗い道である。十字峰は云い得て妙、地形図で見ればそのものず
ばり、十字型の尾根を持っている。薬師峰にはその十字峰の山頂には行かずに右にトラバ
ースするのだが、皆さんシャリバテだというので、兵庫山岳会のプレート横を少し登った
斜面で昼食となる。やたらハエが多いのには閉口したが木立の下は涼しいのがいい。

 昼食後、あらためて薬師峰へ。十字峰からはかなり急登だが、ゆっくり25分足らずで
薬師峰の山頂に着くことができる。倒木のある鞍部も常緑樹が多くてやや暗いが、すぐに
明るく気分の良い雑木林になる。途中、右手の木立が開けて地獄鎌尾根が手に取るように
見える場所がある。見る分にはよくまああんな所をと思わないでもないが、実際は木々が
カムフラージュしてくれて、名前ほど恐ろしい所ではない。

七種薬師の登りから見る地獄鎌尾根の絶壁

 山頂直下の南には薬師峰の名前の由来となった前ノ庄の銘が光背に刻まれた薬師如来坐
像が祠の中で健在。幾らかのお賽銭が置かれているのは山人が安全祈願のために置いてい
ったものか。直上の二等三角点標石のある円形の頂きからは、低木が邪魔するけれど七種
山、七種槍が近い。七種滝も見えるはずなのだが見落とした。

 10分位、山頂にたむろして十字峰へ。昼食場所から少し登った十字峰の山頂。ここを
北上すれば七種山。西に行けば西尾根を回って明王池へ戻ることが出来る。つまりくるっ
と環縦走ができるわけだ。こちらは倒木などもあって踏み跡はややうすいが、以前よりも
障害物が減っているし、中級者以上にとってはハイウェイだろう。(笑) 尾根の南側の露
岩に立てば、薬師峰と十字峰が重なって見える。鎌尾根は西から眺めると、木々が覆って
いて荒々しい感じは気ぶりにも見せてくれない。

十字峰と薬師峰(奥)

 露岩から再び疎林の中に入って少し登ると屈曲点のピーク。左(北)へ90度曲がって
また細い岩尾根歩きだ。それにしても気になるのは十字峰と屈曲点ピークを結ぶ尾根の中
央から下っているスラブ状の大岩。初めて来た時に取付きを間違った、植林の中の林道を
詰めればその先端に取付くことが出来るのかも入れない。

 こちらも細かなアップダウンが連続する狭い尾根。モチツツジのピンク、時折、咲き遅
れたミツバツツジが彩りを添える。下るに従って肩の辺りまでシダがかぶって歩き難い部
分も増えてきて意外に疲れる。しかし景色は良く、右手には新庄の集落と圃場整備が進ん
だ水田。ゴルフ場、ピラミダルな明神山の姿。左手は往路の鎌尾根である。

 深いシダの繁みをかき分けて登った四等三角点『岩ヶ谷』の小ピークで小休止。シダは
北斜面に多かったが、三角点ピークから先はそれも少なくなって歩きよくなる。ここまで
来るともうゴリラ岩は近い。前方の水平状に盛り上がった木立の付近が確かゴリラ岩の額
の生え際に当たる場所だ。左にゴリラ岩の下に降りる踏み跡を過ごして、トラロープを張
った崖の上に出る。茶褐色の岩の中央に鼻部分がちょこんとある。今日はそこまで行って
みよう。

 岩の迂回路はちょっと荒れていて倒木が進路の邪魔をし、踏み跡の崩れている箇所があ
る。滑落しないように少なからず注意が要る。岩の縁をへつって行くのも同様に神経を使
う。しっかりした立ち木の助けを借りながら無事通過して、ゴリラのあご付近にやって来
た。ゴリラの顔の上に上がるにはここからが一番安全。いつも雨水が流れる場所なのか凹
面があってそれを辿れば鼻まではすぐ。高さ2m位の円柱状の岩。そしてゴリラの額に当
たる垂直崖には、噂に聞いていた「村内安全」と刻まれた役行者像がちょこんとの岩の窪
みに嵌め込まれて、前ノ庄方面を見つめていた。

ゴリラ岩の鼻(中央の突起部分)を目指し登る

西ゴリラ岩の鼻にへばりつく変なおじさん
(画像提供 Mさん)

 ゴリラ岩の南側の尾根に出ればいいのだろうが、白テープが木立に巻かれているのに釣
られて今回もゴリラ岩の顎部分から下山にかかる。前回より上手く下りることはできない
かな?の色気も...。案の定、やっぱり途中でテープを見失う。とりあえず開けた浅い谷を
行けば池に出るだろうと進む内におびただしい倒木に行く手をふさがれてしまう。止む無
く斜面に逃げて倒木帯を迂回する。湿った腐葉土と枯葉で足元は覚束ないが、まもなく巻
き終わると、駐車地向かいの洋館らしき白い建物が木の間から望まれるようになった。や
れやれと思う内に飛び出たのは明王池の堰堤近くの繁みからである。前回より更に悪戦苦
闘?の時間は長かったようだ。前回はもう少し北側に出てきたと思うが、相変わらずの道
草でありました。(笑)

 最後に汗をかき、枯れ葉の微塵も被ったので、最寄の温泉に行こうということになる。
近いのは雪彦温泉。以前、雪彦山に登った帰りに立ち寄ったことのある温泉だ。確か入浴
後に竹輪だったか魚の練り製品をお土産にくれたような記憶がある。あれから露天風呂も
出来たそうで、往路の県道へ戻って雪彦山方向に北上。下山時の西尾根から見えたスダジ
イかマテバシイの赤っぽい新芽が目立つ山を左に見て8kmほどで到着。程よい湯温の露
天風呂で汗を落とす。受付のお姉さんに聞いたが、残念ながら練り物配布は3年程前に止
めたんだそうである。

 日が長くなったなったものだ。明るいうちに帰阪する。またまた遊ばしていただきまし
た。同行の皆さん、お疲れ様でした。



■同行: たらちゃん、みずさん、もぐさん

【タイムチャート】
7:15千里中央(集合地)
9:30〜9:35村田牧場最奥の牛舎横(駐車地)
9:40明王池
10:00尾根到達
10:16〜10:24377m標高点手前(小休止)
10:52377m標高点
11:03大岩下
11:10〜11:15大岩上
11:50〜12:15十字峰(Ca550m)(昼食)
12:40〜12:47七種薬師(616.2m 三等三角点)
13:05〜13:10十字峰(Ca550m)
13:28〜13:35展望岩
13:37屈曲点ピーク(Ca480m)
13:32〜13:34四等三角点『岩ヶ谷』 (335.0m)
13:55〜14:00展望岩尾根
14:15〜14:25四等三角点『岩ヶ谷』 (335.0m)
14:33〜14:40ゴリラ岩上部
14:45〜14:55ゴリラ岩
15:15林道
15:18村田牧場最奥の牛舎横(駐車地)



七種薬師(薬師峰)のデータ
【所在地】兵庫県姫路市夢前町、神崎郡福崎町
【標高】616.2m(三等三角点)
【備考】 七種山、七種槍と並ぶ七種三山の一つです。四等三角点『
岩ヶ谷』や「ゴリラ岩」のある通称西尾根から見る姿は鋭
く、登高意欲をそそります。山頂には薬師如来の石仏が祀
られていて、山名の由来となっています。登山路は東の福
崎青少年野外活動センターからと夢前町の村田牧場からが
ありますが、中でも紹介した地獄鎌尾根の切り立った岩稜
から登るコースはスリル満点です。
【参考】2.5万図『前之庄』



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