涼風味方に峰山リベンジ

大天狗岩南の痩せ尾根付近から見る峰山
平成22年 9月11日(土)
【天候】晴れ時々曇り
【同行】たらちゃん


 梅雨が明けていきなり猛暑がやって来た七月後半だったか、とても低山は歩けたもので
はないので、1000mの稜線を歩こうと企てたジョウブツ山(両佛山)と峰山の稜線山
歩。元々、明神平周辺の山に登ると電波塔を戴いているのでどこからでも判別できる山が
あって、それがジョウブツ山と妙な名で呼ばれることを知って興味を抱いていた。地形図
を見るとそのジョウブツ山の南の稜線沿いにもう一つ三角点がある独立峰があって、繋げ
れば涼しく歩けそうだと思ってトライしたところが、気管支の調子が思わしくなく息切れ
の為に、ジョウブツ山の三角点を拝んだだけで引き返したことだった。そのリベンジの機
会が意外に早く9月にやって来た。実際に歩いてみると、展望には恵まれないものの、広
葉樹の雑木林、痩せた岩稜、急登降といろんな要素がコンパクトに詰まった静かないいコ
ースであった。最後はやはた温泉で汗を流し、さっぱりとして帰途についたのだった。

 待ち合わせ場所は近鉄榛原駅前。6時20分頃、車で自宅を出たのだが、途中コンビニ
に寄っても集合時間の8時の20分前には駅前に着けた。駅前はいつもに比べて人が多く、
駐車スペースもほとんどないくらいだ。電車が駅に着く度、多くの人が吐き出されて停車
中の観光バスに吸い込まれてゆく。バスのフロントガラスに張られた紙の日本女子プロ選
手権の文字で合点がいった。近くのゴルフ場で開かれいるゴルフのギャラリーだったのだ。

 麦谷の林道は前回よりも整備されて、落石なぞも取り除かれていて有難い。この前は皆
無だった薊岳方面への登山口にも2台の車が駐車している。でも、林道を更に進んだNT
Tのゲート前にはやはり1台の車もない。車を降りると下界とは大違いで半袖では少し寒
いくらいの風がある。これくらいの方が歩くには程良い。「最高のコンデェーションや!」

 準備を終えるとまずは瀬戸地蔵さんへ。祠の周囲の一際太い杉数本は、地蔵越が昔なが
らの道であることを示している。柔和なお地蔵さんはどれほどの過客を眺めてきたのだろ
う?地蔵の辻から西の斜面に登る。10分足らずで前回、食事した南の展望地。やや逆光
だが、赤ー山から西に派生する稜線上の山々や白鬚岳が居並び、その奥は大台ヶ原らしい
高みが青い。 

 植林地を抜けると雑木林の尾根となって、やがてブナも散見されるジョウブツ山の南斜
面だ。前回はこの斜面さえ少し息切れを感じたものだが、今日はまず大丈夫である。あの
時、残り花が咲いていたバイケイソウももう立ち枯れて、黒い残骸を晒している。右手に
掘り下げられたNTTのアンテナ施設の取付け道路終端には、なぜか20kmの速度制限標
識があった。(笑)
NTT施設の取付け道の終点の標識

 両佛山はまたの名を『天狗の俎石』というそうだが、その俎石が粉々に割れたような露
岩を縫って、NTTの建物工事から伐採を免れた木立を歩くと、まもなく草生した林道に
飛び出してびっくりする。NTT施設の取付け道路から派生した形で伸びる林道には、な
ぜか所々に石畳が残っている。

右の林道と別れて左の尾根を進むと
両佛山の西峰(最高点)に出る

上の画像の白い矢印の
標識を拡大したもの

 林道といってもうまく自然に帰りつつあるいい散歩道、という風情で意外なほど違和感
がない。ハウチワカエデやシデの木陰下は涼しい。ずっとこんなプロムナードが続けば苦
労はないのだけれど、やがて左に「ー山 両佛山」と書かれた勘亭流の道標(上図)が現
れる。それに従って 林道から別れて斜面をしばらく辿ると、ハウチワカエデの大木が中
央にある丸い高みに行き着く。プレートが下げてあって、それには『両佛山 西峰最高点
1310m』と表示されている。確かに三角点峰よりわずかに高い。でも、ここも展望は
ない。

 この両佛山西峰で尾根は方向を変え、南方向に折れて下る。この辺り、踏み跡はやや薄
いが適度な感覚で出現する白テープを拾いつつ、尾根を外さないようにたどれば問題はな
い。むしろ問題なのは小さなピークに出た時で、えてしてピーク前後で尾根の方向が変わ
ったり、複数の尾根が派生したりするのだ。ここは地形図とコンパスで方向を確認したい。

 下草もなくどこでも歩きやすい。小さな露岩の点在する部分を過ぎると1290mの標
高点のはずであるが、標高点はやや主稜を外した所にある。というか、尾根が広がって西
にも尾根が張り出しているから、やや分かり難い形状を示しているのだ。というわけで進
行方向を微修正だ。
ー山。札がなければ通り過ぎてしまう

 緩々とした斜面を20分前後歩くと次のピーク、ー山に行き着く、ー山というから険し
そうに思えるけれど、その山頂といってもハウチワカエデの林の中の、プレートが無けれ
ば知らずに通り過ぎるだけのような場所である。地形図を見ると勾玉に似た形状の扁平な
台地で、山名プレートを懸けるなら、この先に出てくる、下降する際にトラバースしなけ
ればならない大岩の上に乗る台地の方が、ー山としては相応しいように思えるのだが。そ
の台地は直進しようとすると崖となって道は行き止まりのように見える。周囲を見回すと、
左手の方向に踏み跡が急斜面を下っているのがわかる。面白いのはこの斜面を下る部分は
非常に明瞭な踏み跡にもかかわらず、何故か最もテープ密度が高いのである。

 スリップに気を付けて小刻みなジグザグを下っていくと、多分、ー山の名の由来となっ
たと思われる大岩をトラバースしていることがわかる。但し、地形図には岩の印はない。
踏み跡はその大岩の下を横切って、再び雑木林の中を急激に下りていく。先ほどまであん
なに指導テープがあったのに、この付近には何となくこっちだろうと推量できる程度の薄
い踏み跡が続くにもかかわらず、テープ類はほとんどない。何かアンバランスだが、忠実
に踏み跡を辿ればまた草生して最近使われた形跡のない林道へ出る。先ほどの林道とつな
がっているのだろうか。いや、それよりもエアリアを見ると、ここは以前、氷瀑を見物に
行った御船の滝に近い。あの時に歩いた林道は滝への道の分岐後もなお、山腹を巻いて向
かいの山に登っていったが、ひょっとしてそれと繋がっているのかもしれない。あて推量
だけれどそんな気がした。誰か証明してくれないだろうか?(笑) 尚、ジョウブツ山方面
に向かう場合、林道からー山の斜面への取付きを示す小さなプレート(幅15cm程度)が
判り難いかもしれない。赤いプラ杭が埋まっているので手掛りになるだろう。

 アケボノソウが林道のそれも真ん中に点々とあって、白い花を沢山咲かせている。余談
だが、なんでアケボノソウというのだろうか? 花は白くて曙のピンクっぽい感じもない
し...。しいていえば、花弁のぽつぽつとした模様が明け染める前の消えゆく星に見え
ないこともないが...。とはいえ、なかなか秋口が似合う清楚な花ではある。

 ここも150mほどの林道歩きで、注意深く見ていけば再び尾根の突端に小さな標識を
見出す。それに従うと、尾根上はしばらく倒木の嵐で歩きにくいが、次第に心地よい風の
吹くしっかりした快適道に変化する。丈の短い柔らかいイネ科の草が密生する中のあぜ道
のような明快な道である。

 しばらく細い尾根が続き、門柱のように露岩が左右にある間を抜ける。右手に木々の間
から大峰の大日山に似た鋭い峰が望見されたが、峰山かと思いきや、のちに峰山の西にあ
る突起のピークだと判明する。

大天狗岩付近にて(画像提供:Tちゃん)

 Ca1210mピークの大ブナを見物した後、「大天狗岩」のプレートがあるCa1180
mのピークまでやって来ると、周囲の風景は一転して俄然、荒々しさを増してくる。山の
上にいるとどこが天狗岩かわからないが、中奥渓谷から眺めると岩壁が続き、その中に目
立つ岩が望まれるのであろう。赤茶けた2m位の露岩を越えて、倒木も目立つが、ブナや
シデ、ナラの古木が繁る岩稜を進む。左手は中奥川支流の深い谷で、シャクナゲなどの樹
林が隠してくれているが、木々がなければちょっと怖い急峻さである。

痩せ尾根を往く

 その岩稜歩きが終わると案外深いコルに向かって劇下り。吊橋でも懸けてくれれば楽な
のにという愚痴も出る。(笑) 目の前に現れた板状節理の岩を右から巻いて、後は高度差
30m位の胸突き八丁の最後の急斜面登りである。うっすらとあるかなしかの踏み跡があ
って、ジグザグに登っている。それに従って登るが息も絶え絶え。(笑) しっかりした立
木に掴まって息を整えつつ行くと、やがてNHKの共聴アンテナが見え、東西に長い峰山
の山頂の西側に飛び出す。欠けのない綺麗な三角点標石が山頂やや東側に埋まっており、
その横に例のフクロウマークの山名板を見つける。これが立つ山に登ると何だか嬉しくな
るのは何故だろうか。(笑)
お馴染みのフクロウ標識と
三角点のある峰山山頂。南側は植林だ

 NHKの共聴アンテナの横で食事の準備。ひしゃげた古いアンテナがほっぽり出してあ
る。ということはこのアンテナの為の道が南の中奥から上がってきていそうだが、ちょっ
と見てみたけれど、植林の中にそれらしきものは見当たらない。峰山については中奥から
の山行記録もあるが、アルバイトがしんどい割にそれに見合うだけの風景も植林の中には
なさそうである。やはり北からのアプローチが楽ちんだろう。(笑)

 30分ほどの大休止で疲労回復後、帰途に就く。今回は普通の山行と異なって帰路の方
が登りという変則山行だ。心して行きましょう。(笑) しょっぱなから劇下り。登ってい
た時は踏み跡がほとんどないので帰りは進行方向に注意がいりそうだなどと思っていたの
に、上から眺めてみると、立派に踏み跡があるではないか。忠実にそれを辿れば、存外滑
ることもなく鞍部に出て、板状に風化の目立つ大岩を巻いた(落石に注意)後、右手の高
みへ登り返す。続く痩せた岩稜を抜けて赤茶けた露岩の上に立ってみる。峰山は地形図を
見ると崖マークが至る所にある山なのだが、岩上から見ると東西に長い峰山は意外に優し
い姿だ。(先頭の画像)が、その片鱗は東側に覗く赤っぽい岩肌に見せており、中奥渓谷
から眺めれば大天狗岩といい、さぞかし急峻な山に見えることであろう。

 途中、大普賢岳など大峰の山並みや眼下に井光の里を見て、細い草尾根を戻る。倒木帯
に戻ってきたが、左手(西)に林道が見え始めたので、倒木跨ぎのアスレチックを止めて
降りてしまうことにしたら、尾根取付き点の高々30m手前であった。(^^;

 後は林道からー山への、登りがジグザグの不明瞭な部分に注意するのみ。でも降下でな
くて登りだから、高い方へ進めば岩が出てくるので安心。最後の急登をこなして難なく岩
の上に出て、緊張感を解く。そして時たま現れる白いテープを拾って森林浴を楽しみつつ
出発点へ戻ったのだった。

 瀬戸地蔵さんにリベンジ終了、無事帰還を報告しておく。やっぱり車は自車のみで、薊
岳の登山口にも車もなく、今日も誰にも遭わずに山を下りる。そしてやはた温泉で一っ風
呂だ。いい湯加減の檜風呂。何よりいつも混んでいないのがいい。暑い暑いと云いながら
も、湯船から眺める大又川の清流を隔てた裏山の上を流れる雲は、もう秋の気配でありま
した。




【タイムチャート】
6:20自宅発
7:40〜8:00榛原駅前(集合地)
9:05〜9:15NTT管理道ゲート前(駐車地)
9:42〜9:47ジョウブツ山(両佛山)(1,307.9m 三等三角点)
9:58林道から尾根取付き点
10:00両佛山西峰(最高点 Ca1,310m)
10:26〜10:27ー山(Ca1,300m)
10:42林道出合
10:54林道から尾根取付き点
11:20〜11:22大天狗岩(Ca1,180m)
11:48〜12:20峰山(1,208.9m 三等三角点)
12:49大天狗岩(Ca1,180m)
13:44ー山(Ca1,300m)
14:02両佛山西峰(最高点 Ca1,310m)
14:12ジョウブツ山(両佛山)(1,307.9m 三等三角点)
14:25〜14:30地蔵越西300m付近の展望地
14:37NTT管理道ゲート前(駐車地)



ジョウブツ山(両佛山)のデータ
【所在地】奈良県吉野郡東吉野村・川上村
【標高】1,307.9m(三等三角点)
【備考】 台高北部にあって、木ノ実ヤ塚、二階岳から西に派生す
る稜線上の山です。東側を地蔵越の古道が通っています
が、NTTの電波塔と麦谷林道のお陰で楽に登れるよう
になりました。山頂は展望はありませんが、ブナなどの
雑木林に囲まれて静かです。ところで別名『天狗の俎石』
はどこから付けられたのでしょうか。
峰山のデータ
【所在地】奈良県吉野郡川上村
【標高】1,208.9m 三等三角点
【備考】 ジョウブツ山(両佛山)から南に延びる稜線上の独立峰で
す。南と東の山脚は中奥川に削られ、荒々しい岩肌を見
せる山でもあります。北のジョウブツ山と繋ぐと、静か
な森林浴コースが楽しめます。
【参考】2.5万図『大豆生』



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