8月最後に稲村ヶ岳

登山道から大日山
平成22年 8月29日(日)
【天候】晴れたり一時曇り
【同行】単独


 夏休みの遠征以来、どうも山らしい山に行っていない。この猛暑。懐の関係で自室にエ
アコンはなく、夜でも33℃超えの部屋であれこれ山行準備する気にならないのだ。(笑)
とはいえ早や今年の8月最後の週末。少しくらい山らしい山で歩かないとというわけで、
2年ぶりに大峰の稲村ヶ岳。それなりに汗だくの歩きの中にも吹く風は涼しく爽やかで、
酷残暑の都会では到底味わえない秋を感じさせてくれたのだった。

 単独の気楽さで今回もスタートは遅い。7時過ぎに家を出て、途中、給油しつつ水越の
トンネルを抜ける。ところで何はともあれ、まずは食料と飲み物を仕入れなければならな
いのであるが、いつの間にやら下市口まで来てしまう。そこで目に留まったのがスーパー
のオークワ。看板になんと朝の7時から営業とある。これから先にはコンビニなんてもの
はないから助かった。ちらし寿司と蕎麦セットが¥298と安い。(^^; これにお茶のペ
ットボトルを3本購入。小腹押さえを買い忘れたが、これは途中の黒滝茶屋で焼き草餅で
も手にとることにしよう。

 ハガクレツリフネが満開の母公堂近くに車を置いて準備する。登山口の案内標識では山
頂まで3時間。本来ならもう一時間は早めに来て出発した方が涼しくていいのだが。まあ
終始樹林の中の道は日光に炒られることはないので安心だけれど。

ハガクレツリフネ

 この頃とみにエンジンのかかりが遅い。のっけからぜいぜいと息を切らし、杉林の中の
やや急な坂を五代松新道分岐まで20分もかかってしまう始末。もう汗だく。お茶をガブ
リ。

 最初の橋を渡って左に折れた所が水場になっているのだが、コップだけがポツン。水は
完全に枯れている。ギンバイソウも茶色い花柄のみで一寸寂しい感じ。周囲はよく手入れ
された明るい植林帯なのだが、それだけに単調な景色。法力峠はまだかまだかとただ黙々
と足を前に動かすのみ。途中の洞川を見下ろす唯一のビューポイントがこれも文字通り唯
一のアクセントである。

 何人か次々に降りてくる人とすれ違う。時刻は11時前。「ほんとはこうでなくてはね
え」(笑) やっとのことで法力峠。標高1215m。登山口からは凡そ300mの登りだ
ったが、予想以上の汗だ。朝は薄いトースト一枚だったのでシャリバテもあるのかも。草
餅を一個。美味い。

 ここからは植林に代わって雑木林も現れてくるが、しばらくするとまた植林帯がしばら
く続く。トイレ小屋跡や大三輪中学校の登山記念碑を過ぎると、ようやく待望の雑木林に
なってくる。右手前方に大日山がニューッと顔を出す。南に弥山が見えるはずだが、ガス
でかすんでいるのは快晴だと思っていたので予想外であった。
 高度が上がるとモミなどの針葉樹が目立ってくる。ブナの灰白色の幹も目につきだして
いい雰囲気。小さな石仏の角を左に曲がり、ミヤコザサが目立つようになれば、稲村小屋
はもうすぐだ。
小糠雨の稲村小屋

 その稲村小屋の手前の岩のへつりへやって来た頃合いだったか。さっきから弥山の方が
ガスで隠れていたのだけれど、それがこちらにもやってきて少し雲行きがおかしくなって
くる。ほどなく日が翳って灰色っぽい空から霧雨のような小糠雨のような非常に細かい雨
が落ちてくる。雨脚が強くなったらいやだったが、幸い、それ以上に強まることもなく、
丁度、正午だったので小屋の前のテーブルを借りて昼の用意をしようとする時にはほとん
ど止んでくれた。小屋のご主人が雨宿りしてもらっていいよと声をかけてくれたが、山の
高みは流れるガスの彼方であったものの、なんとか大丈夫そうである。

 小屋から先が稲村ヶ岳のハイライト。ミヤコザサの中にブナ、ミズナラ、ナナカマド、
ツクシシャクナゲの林が続く。稲村ヶ岳の名前の由来となった深緑の大日山の天を指す姿
が透けて見える。

ブナ、ミズナラの林に光が射す

 丈の低い笹に覆われた気分のいいプロムナードを、楽しみながらゆるゆる登ろうかと思
った時だった。にわかにブーンと羽音。赤っぽい黄色と黒色の斑っぽい虫が視野の端に入
る。スズメバチではなさそうであったが、アブの一種らしく頭の周りをしつこく周回して、
おちおち歩いていられないのには閉口する。タオルを振り回して追っ払いながら50mも
進んだ所でようやく諦めたみたい。山を歩いていて何が嫌だといって飛ぶ虫ほど防ぎよう
がなく嫌なものはないのだ。(^^;

大日のキレット

 晩春にはオオミネコザクラガ見られる大日山の東側の岩壁沿いの難所を抜ける。ツクシ
シャクナゲの茂る急坂を抜けると、大日山のキレット。初めてやって来た時は凄い所だと
舌を巻いたものだが、今日まであちこち徘徊した身には、あの時の感激がなくなってしま
ったのは些か寂しい気がする。(^^; 今回は大日山はパスして先へ進む。山頂を巻くよう
にして一旦南に出、戻るようにして30mほど登れば、稲村ヶ岳の三角点で、その横に展
望台がある。

 その展望台では先着の男女と単独小父さんの3名がいて食事中である。ザックを置いて、
まずは喉を潤し、おもむろに双眼鏡を取り出す。東側は山上ヶ岳から大普賢岳に連なる大
峰主稜である。耳を澄ますとホラ貝の音。お花畑の左手には西の覗があるが、双眼鏡を覗
いてみると山伏の白装束が認められ、だれがが修行の最中らしい。その向こう遠く、あれ
は曽爾高原の山々か、そして青山高原の風車群の白い支柱がかすんでいる。北には金剛、
葛城、二上、生駒と続く山並みが手に取るようで、大和平野から遠く大阪のビル群も眺め
られる。ところが残念ながら南の弥山、八経ヶ岳はガスの中である。ひとしきり景観を楽
しんでいたら20分ほどがあっという間に過ぎて行った。

 往路で悩まされた羽音を復路では幸い聞くこともなく、無事稲村小屋へ戻る。テーブル
が空いていたので、熱い緑茶と草餅で一服。小屋の小父さんがまたやってきて、稲村ヶ岳
に何人くらい残っているか尋ねてくる。「すれ違った組も入れて7、8人ですかね。」
いい景色だったと付け加えると、昨日も夜は橋本や五条、大阪の街の灯が綺麗だったそう
である。一度見てみたいものだ。因みに新発見。コーヒーもいいが、熱い緑茶もなかなか
山に合うものだ。なんといっても単価が安いのだ。 (^_-) 

 気が付けば一面の曇り空。小屋からの道は傘をさしても歩けるが、やっぱり雨はいやな
ので、そろそろ潮時と腰を上げる。結局、雨は来ず、下るに従って少し青空も覗くように
なる。法力峠、五代松新道分岐でそれぞれ小休止しながら、やや速いペースで降りる。

 無事を感謝して母公堂へ挨拶して行こうと賽銭を放り込んでいると、堂守の小父さんか
ら腰掛けてコーヒーでも飲んでいきなさいと声がかかる。それでは遠慮なしに頂くことに
したら、紙カップのコーヒーと共に素朴なあられ菓子を、お連れ合いが出して下さった。
コーヒーを味わいながら小父さんと四方山話。確か、おじいさんが堂守されていたような
と数年前の話をすると、もう亡くなられたとのこと。小父さん自身もこれのお世話になっ
ていると、台車の酸素ボンベを指さす。去年まで煙草を吸っていたとかで、やはり煙草で
呼吸器の調子を落とした小生も、なんで吸っていたんだろうと今更ながら思う今日この頃
である。
安置してある理源大師や飯綱大権現、役行者とその母親や奥駈道などについて話してもら
っている内に、いつの間にやら小一時間近く話していたようだ。そろそろ腰を上げねば。
仏足のキーホルダーを買ってご馳走になったお返しにする。「ごろごろ水」の駐車場は空
きを待つ車が列をなしている。山上ヶ岳へ登る参拝客で旅館街も結構な賑わいである。

 下市口の狭い街中での信号待ちの列以外はさして混みもせず明るい内に帰阪できた。あ
まりの暑さに皆外出を控えたのだろうか。大峰に来ていて実感しなかったが、今年最後の
8月の日曜のこの日、豊中は全国一の暑さ38.2℃を記録したとか。それでも夕日を受
けたかなとこ雲が茜色に輝いて、朝夕は涼風もそよぐようになってきた。知らず知らず少
しは秋めいてきたような。空が澄みだしたのか、夜半に見た月は心なしか白さを増してき
たようだった。



【タイムチャート】
8:10自宅発
9:40〜9:45母公堂(駐車地)
10:05〜10:06五代松鍾乳洞方面分岐
10:52〜10:57法力峠
12:00〜12:20山上辻(稲村小屋)(昼食)
12:35大日のキレット
12:50〜13:11稲村ヶ岳(1,725.9m 三等三角点)
13:25大日のキレット
13:40〜14:00山上辻(稲村小屋)
14:48〜14:50法力峠
15:16五代松鍾乳洞方面分岐
15:25母公堂(駐車地)



稲村ヶ岳のデータ
【所在地】奈良県吉野郡天川村
【標高】1,725.9m
【備考】 大峰山寺のある山上ヶ岳から西に延びる山塊に位置し、
大峰山脈主稜と神童子谷で隔てられています。
戦前はここも女人禁制でしたが、戦後開放され、女人大
峰とも呼ばれます。
遠くから眺めると、稲藁を束ねた姿に見えることから名
づけられたようで古くは雨乞いの山でもあったようです
が、神奈備山とも考えられます。
近鉄下市口から洞川温泉行の奈良交通バスがあります。
■近畿百名山■関西百名山
【参考】エアリアマップ『大峰山脈』


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