鍋倉山、藤倉山〜陽春再び花街道

今庄の街並から藤倉山(右奥)
平成22年 4月10日(土)
【天候】晴れ
【同行】単独


 桜も咲いてそろそろ春告げ花のことも気になる季節。去年初めて訪れた藤倉山はどんな
具合だろうか。今年は天候不順とでもいおうか、季節外れの温かさの日があると思えば、
その翌日に雪が降ったりで、季節の進み具合を読むのが難しい。そこで今年毎年カタクリ
祭りを開催する南越前町に先月末に問い合わせたところがまだまだ固い蕾だということだ
った。それで一週間延期したこの10日に出かけてみた。数日前からのポカポカ陽気に誘
われたのか、期待通り春告げ花はピンクのじゅうたん。遠路はるばる歩きに来た甲斐もあ
るというものでした。

 最近の高速は土曜の方が混む傾向があるが、瀬田東で3kmの表示があるものの、順調
に走って北陸道へ。ミツバツツジのピンクが鮮やかで伊吹にも雪は見えないがないのに、
金糞岳と思しき山は真っ白である。

 今庄ICで降り、R387を少し戻ったJR今庄駅前の無料駐車場に車を入れる。おり
しもザックを背負って山準備の二人連れ。湯尾峠に向かうと思いきやカタクリ祭りの会場
へ直行するようだ。うらうらと暖かい。ほんの一週間前の冬に逆戻りしたかのごとき寒さ
はどこへ行ったのだろうか。保育園の古色蒼然とした桜も満開。青空バックに思わずシャ
ッターを切る。

 旧街道の町並みを歩く。洗濯物を干す若い主婦の方も、おばあさんも挨拶を交わしてく
れる。勿論、自転車の小学生も。こんな光景、都会ではもう何十年前に廃れてしまったな
あ。(^^;

 やがて八十八ヶ所への登り口を過ぎて杉林。いにしえの幹線国道である北国街道は今は
北陸自然歩道に指定されている。一里塚跡付近にはキクザキイチゲの群落があるのだが、
あったあった。白や薄紫の大きな花が杉林の明るい日陰で微風にそよいでいる。

 サンダーバードが大阪に向けて疾走していく。駐車場で準備していた時に金沢へ向かっ
て行った白鷺の方が車体は綺麗やな。などと下らぬことを考えているうちに杉林が途切れ
て、八十八ヶ所のハイキングコース標識前。ようやく坂道となって道の左右にカタクリが
現れ始める。土壌が肥沃なのか葉も花も大ぶりである。そして以降、エンゴサクなどとと
もに旧街道の両側をパステル色に彩るのだ。道は大きくスイッチバック式に高度を上げて
いき、野面積みの石垣が現れれば湯尾峠だ。

 芭蕉の句碑と東屋の横からほんの少し登って湯尾城跡方面の尾根に出る。カタクリのじ
ゅうたんだ。逆光で眺めればピンクに透ける花弁。まだ反り返っていない初々しい花も多
い。まるでそこに座る八十八ヶ所の石仏に捧げる供花のようである。

カタクリ畑

カタクリ

 湯尾の方から捕虫網を持った家族連れが上がって来たのをしおに孫嫡子神社方面へ出発
する。

 天然痘にご利益があったという孫嫡子神社横を抜ける。八十八ヶ所の石仏が散在する参
道は適度な勾配を持つ尾根だ。石仏はじっくり眺めてみると薬師如来が多く見受けられる。
病の平癒を祈る人が多かった証であろう。今も昔も変わらない庶民の願いだ。

 芽吹きが始まったとはいうものの、まだ褐色が大勢を占める林に白いハンカチのような
ものが微風に揺れる。タムシバは普通は高い梢の先に咲くものだが、ここでは目の先に咲
いていて、顔を近づけるとほんのり甘い香りがする。左に目をやるとヤブツバキの真紅の
花。まるで源平の戦いであるなあ。
明るい八十八ヶ所参道

 七十三番の釈迦如来の祠付近で一旦水平となった道が再び傾斜が増して、一登りすると
左手にアンテナ施設と祠が現れる。等身大の大きなお地蔵さんが立つ地蔵堂の前から今庄
テレビ放送所施設横に出ると四等三角点『八十八ヶ所』。標石に捕虫網を抱えた小父さん
がどっかと腰を据えていた。

 赤い「ごくらく橋」(といって渡るべき川はありません)を渡ると弘法寺の境内。去年
は沢山の人出だったと思うが今日は誰もいない。この寺は無住の寺らしい。大師堂を過ぎ
て、いよいよ縦走路へ。高圧鉄塔の辺りで南に折れる。

 ここからしばらくは急降下だ。途中に先ほどとは異なる系統の高圧鉄塔(北陸幹線(松)
甲bP43)がある。この辺りの景色は最高で目の前に鍋倉山の山体。その向こう遠くに
これから歩く藤倉山から燧ヶ城に伸びる尾根が眺められるが、日陰の襞には雪を残してい
る。背後には日野山や雪をかぶる越美の山々がある。丈の低いコブシの真っ白の花は目が
痛いくらいだ。

イワウチワ

 そんなに降らなくてもと思うくらい降っていくと、鞍部の両脇にイワウチワを見出すこ
とが出来る。斜面で少し足場が悪いので注意しながらデジカメに収める。さて、この後が
急登。ここのところの運動不足でことの外きつい。息を整える回数が増える。足元に咲く
白やピンク、朱色のショウジョウバカマも目に入らない。マンサクの花があったはずなの
だが、こんな体たらくなので見逃してしまう。(^^; 

 北陸電力の敦賀線bP1の鉄塔下を抜けて、ようやく鍋倉西谷の分岐に到着。ここから
はほぼ水平の道だ。座るのに手頃な倒木があったので腰掛けて、太い息をつく。フーッ!

 200mほど進んで、最高点と思しき辺りで今年も昼食。確か去年も食事はここだった
はずだ。(笑) 登山道から少し逸れた所にどっかと座り込む。ラーメンの湯を沸かしてい
ると、ギフチョウが他のタテハチョウと縄張り争いをしている。日ごろはヒラヒラと飛ん
でいるくせに、争いとなると動きも俊敏であるなあ。(笑) 一時間近く山頂にいたけれど
誰も通らない。声といえば小鳥の鳴き声くらい。北陸道もトンネルになっているのでここ
まで登ってこない。静か。食後のコーヒーを飲んでいると眠たくなってくる。いかん、い
かん。よっこらと掛け声をかけて腰を上げる。歳だなあ。(笑)

春を招くタムシバ。背景はホノケ山

 鍋倉山と藤倉山の間にはそれほど深い谷間はない。東側が植林のあんまり潤いのない道
が続く。時折、ホノケ山のピラミダルな山容が右手に展開するくらいだろうか。藤倉権現
の御神燈へ出るエスケープルートがある鳥山跡分岐を抜けると、次第に登りとなって今度
はきれいなブナ林が展開する。所々に残る雪は藤倉山への尾根に上がる寸前にちょっとし
たミニ雪田?を残す。斜面上にあるので滑ると厄介だが幸い先人の残した足跡があって、
そこへ足を入れれば雪を踏み抜いたり滑ったりする恐れはなさそうだ。慎重に足を運んで
藤倉山のブナ尾根に上がると、後は山頂まではゆるゆると500mプロムナード。さすが
にブナの芽出しはまだまだでも、枝先は何となく赤く膨らんでいるように感じる。萌え初
めの産毛の生えた煙るような林を眺めるのはもう少し先である。

藤倉山山腹のブナ林

 前から賑やかな話し声がする。藤倉山の山頂で団体さんが食事の真っ最中だ。それを避
けて、反射板の鉄脚元にザックを落ろす。今日も去年に劣らず大展望で、白く雪を被る越
美の山々が重畳と並ぶのは圧巻である。双眼鏡で覗くと真っ白な白山らしき高みがその奥
にある。八合目付近より上はどうも雲の中の様子。今年は去年よりも遅くまで雪が残って
いそうに見えた。

 藤倉山の東尾根もいいプロムナードが続く。ブナ林の下にはユズリハやマンサクが目立
つ。北陸電力の巡視路分岐を見つつ、露岩が鎮座する602m標高点を過ぎると敦賀線
14の高圧鉄塔。ただし展望はもう少し下がった所にあるもう一つの高圧鉄塔(北陸幹線
甲bP47)の方がいい。刈り払いされているので北から東にかけては遮るものがない。
ことに今庄の街並みは一望で、北国街道を心棒にして軒を接する様は昔とあまり変わって
いないとのことだ。金属のきしむ甲高い音が聞こえてきた。停車していた貨物列車がいか
にもやっこらせーと掛け声をかけて動き始めたようだ。その脇をサンダーバードが駆け抜
ける。ここから見ればなんとかゲージの鉄道模型そのもののようである。

 まだしばらく下りが続く。それが少し治まってくると、ちらほらと再びカタクリの花が
現れ始める。土塁で固めた城の堀切らしい跡が2ヶ所次々に現れると、その先で小さな台
地になるが、ここが源平の時代から戦の場となった燧ヶ城跡で、旧今庄町の標識他、幾つ
かの石碑が立つ。燧ヶ城の三角点は少し分かり難かったけれど、今は草が刈られて判り良
くなっている。最寄にある石碑の石積みで小休止。なんだか最近好きになった甘納豆を口
に放り込む。

 道は尾根が日野川にぶち当たって沈み込むで行くのを避けて、回りこむように今庄の街
に向かって降りていく。街に近づくに従って犬の声や生活音が大きくなってくる。突然、
線路の音が響き、モスグリーンの車体が長々と続くと思ったら、トワイライトイクスプレ
スが北に向かっていく姿である。

 カタクリの花姿が増えてくる。と、やがてカタクリの保護区域の最上部に出てきた。も
うこれだけカタクリを見ると食傷気味だなあ。(笑) 斜面一面のカタクリの中、順路に従
って進んでいく。円通寺の観音堂の前。前回はここんぉ石段を下りたのだが、今回は順路
に従って神社の方へ回っていくと、実はこっちがメインなのだった。(笑) ひときわ濃密
にカタクリの花が咲き乱れている。意外と撮影で行き倒れ状態の人が少ないではないか。
通路が寝転ぶほどには広くなく、他の人の邪魔になるからだろうか。大阪近辺じゃこんな
風にはいかないなあ。

宿場町の風情を残す民家。ウダツが上がっている

 カタクリ祭りのメイン玄関は新羅神社だった。神社から旧街道に出て、折角なので北国
街道随一の宿場町の街並み散策がてら車に戻ることとする。国道は北陸本線の向こう側を
走っているのでこちらはほとんど車が走らないのがいい。おばあさんが老人車でゆっくり
と歩く。ベンガラ格子の色が残る民家。酒林の杉玉がかかる造り酒屋。脇本陣。うだつの
上がる古民家は奥行きもあってなかなか豪奢なつくり。昭和前期に地元の篤志家が建てた
洋館風の外観は旧今庄の町役場(今は公民館)。そして旧本陣跡の桜の古木は見頃を迎え
ていたので、しばらく花見と洒落込んだ。

 往路で出会った電気工事現場に出くわして駐車場をオーバーランしているようだと気づ
く。そこから往路を戻って駐車場までは3分ほど。同じ時期に下山したご夫婦も山装備を
解いているところ。気まぐれな今年の春の神。それでも北陸もまもなくツツジの季節だ。



【タイムチャート】
7:10自宅発
9:30〜9:40JR今庄駅前駐車場(駐車地)
9:53〜9:54弘法寺正面参道口
10:16〜10:30湯尾峠
10:52〜10:55八ヶ所山(338.3m(四等三角点))
11:00弘法寺大師堂
11:06高圧鉄塔(北陸幹線甲bP43)
11:20高圧鉄塔(敦賀線bP1)
11:42〜12:12鍋倉山(516m)(昼食)
12:20鳥山跡(御神灯分岐)
12:48〜12:50藤倉尾根
13:00〜13:12藤倉山(643.5m(三等三角点))
13:25602m標高点ピーク
13:27高圧鉄塔(敦賀線bP4)
13:39〜13:41高圧鉄塔(北陸幹線甲bP47)
14:01〜14:05燧ヶ城(270.0m(四等三角点))
14:20新羅神社
14:45JR今庄駅前駐車場(駐車地)



鍋倉山、藤倉山のデータ
【所在地】福井県南条郡南越前町(今庄)
【標高】 鍋倉山 516m
藤倉山 643.5m(三等三角点)
【備考】
越美山地の西端、蕎麦どころで有名な今庄の西に並ぶ里
山です。カタクリをはじめ、春を告げる花々が多く、駅
からも近く手軽に登れるので、春先には関西からも多く
のハイカーが訪れます。なお、藤倉山は北から東の展望
がよく、白山や越美の山々が見渡せます。
【参考】
2.5万図『今庄』




藤倉山東尾根の高圧鉄塔(北陸幹線)から歩いてきた山並みを見る。左が鍋倉山
鍋倉山の右奥が八十八ヶ所。右の麓が今庄の街並み。中央奥に日野山


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