夏山予行演習は栃生から武奈ヶ岳

武奈ヶ岳から釣瓶岳
平成22年 7月31日(土)
【天候】晴れたり曇ったり
【同行】たらちゃん、みずさん


 ここ数年、夏休みには夏山に遠征するのだけれど、ここ1ヶ月ほどはなんだかだと、た
っぷりの山歩きからはとんとご無沙汰である。やっぱり夏山の前に一度くらいはトレーニ
ングをとTちゃん。舞台は比良山。くそ暑そうやなあと尻込みする小父さん。でも、夏山
を前に全然山へ行かないのもねえ...。

 6時半、Mさんの車で出発。出町柳からの京都バスでやってくるTちゃんとは8:41
坊村でおち合う約束なのだが、夏休みの週末、琵琶湖でレジャーを楽しむ客の車で湖西道
路が渋滞しており、やきもきするも何とか8:25に坊村着。無料駐車場で準備する時間
も何とか確保できた。

 登山客ばかりを乗せた朽木学校前行のバスは定刻通りやってきた。Tちゃん以外の乗客
は全てここで降りて、あとは貸切状態である。10分ほど揺られて朽木栃生。バス停から
少し戻った新しい民家の横の林道に釣瓶岳まで5kmと記された標識と地蔵峠を示す木柱が
立つ登山口がある。一台の車から下りた3人連れの中年男女も登るようだ。偶々居合わせ
たジモティーのおじさんに駐車位置で咎められている。確かに路上駐車や無断駐車は地元
の方々にとっては迷惑だろう。やはり最寄りのお宅に声をかけるべきだろう。我々も気を
つけよう。

朽木栃生の釣瓶岳登山口
『地蔵峠 コメカイ道』の古い道標がある

 さて、谷沿いのジメッとした林道を登っていく。木陰が思いのほか涼しいので助かる。
やがて左にカーブすると彼方に廃屋が現れ、その手前右から山道が始まる。そこにも無住
らしい民家があるが、なぜか犬が一匹軒先で寝そべっているのが不思議である。

 古い墓地を右に見て杉木立の中。湿り気の多いあぜ道のような感じだ。と、眼を足元に
移した時だ。何やらチョコレート色のゆらゆら立ち上がるものがふと目についた。どうい
うわけか、てっきりミミズか何かだろうと気にも留めなかったのだが、それからしばらく
して前を歩くTちゃんのズボンのひざ裏。ヒョコヒョコ尺取りしながら蠢く物が...。
「うわっ。ヒルやあー!」。
私の声にパニックに陥るTちゃん。これははたき落して事なきを得たが、さて自分は大丈
夫かと思わずズボンの裾をたくしあげると、「ギョッ!」居ました、居ました。長さ5cm
近いでかいのが2匹も。ライターの火を近づけろなんて悠長なことは頭に浮かばず、これ
も思わずはたいたら、ポタリと落ちてくれました。お蔭でズボンと靴下は血だらけ。(翌
日の患部は4mm位の黒い痕跡として残っていました)これで2回目の被害だけれど、ダニ
やブヨよりはよほどまし。痛くも痒くもないし、ちょっと血が止まらないだけ。口蹄疫で
鹿も減ってることだし、蛭も生活大変だし。少し献血しておきましょう。(^^; とは負け
惜しみ。
被害にあった左脛

 コメカイ道といわれるだけあって、湖西の平野で収穫された米を人力や馬で運んだので
あろう。道は杉林の中をジグザグにつけられており、距離は長くなるがほとんど坂を感じ
させない巧妙なつくりになっている。ある部分では大きく洗掘されていて今なお古道の風
格さえ感じさせる。やがて道は雑木林の中となりいい雰囲気。赤松も多くみられて、昔は
沢山のマツタケが採れたことだろう。そしてコナラやヤマモミジなど黄葉紅葉の木々。秋
深まれば錦秋の道になるに違いない。

植林帯を抜けるといい雑木林が広がる

 バテぬように登山口からしばしば休憩を入れながら、ほぼ1時間で地蔵峠の分岐にやっ
てくる、釣瓶岳まで3.2km。ほぼ1/3の行程だ。右手に折れて昔、肥料や牛の飼料を
刈り取ったというホトラ山を巻いて進むと、右手にようやく稜線が顔を出してくる。所々、
倒木はあるものの、相変わらず歩きやすい道が続く。

 やがて現れた笹峠分岐で小休止。道標があるが笹峠は道が崩壊して悪路とマジック書き
がある。確かに少し先を覗くと斜面が崩れて道がなくなっているような印象があった。道
標に従って目の前の斜面を斜めに釣瓶岳へ向かう。ここからは今までのような明快な小道
ではなく、傾斜を増した踏み跡となる。下草もなくどこでも歩けるので、はっきりした踏
み跡がつきにくいのだろう。ただ、地元の消防本部の火の用心の金属プレートが適宜ぶら
下げられているのでいい目印になる。ここもコナラなど落葉樹の森で秋や春はさぞ素晴ら
しいことだろうと思われる。やがて稜線が現れて、笹枯れの斜面を登り切ると尾根の上に
出た。ここには道標はなく、曲がり角を示す三色テープがあるくらいなので、我々とは逆
に栃生へ降りる場合は少し注意が要りそうだ。

 小憩して右に折れ尾根の南下を開始する。幸いガスが沸き、日光の直射を防いでくれる。
今のうちだ。前方のガスに隠れる高みを目指す。ピラミダルな形状をしていて、あれが釣
瓶岳と思ったが、残念ながらイクワタ峠北峰と呼ばれる923mの小ピークなのだそうだ。
ここを過ぎるとイクワタ峠はすぐそこで、栃生まで3.8kmの道標と、曲がりくねったブ
ナが一本中央にあって目立つくらいで、あまり峠らしくない峠である。

 釣瓶岳に向かって約200mの登りである。木立がなくシダの繁茂する斜面。これが暑
い。ガスが切れ、直射日光にモワッとする熱気が体全体にまとわりつくのだ。どっと汗が
噴き出す瞬間。確実に体力を奪う。当然、休憩回数が増える。兎に角、木立の中へ逃げ込
みたい。涼風の吹く場所を探して、一刻も早くとシダ原を抜ける。

 釣瓶岳北方3、400mの地点までやって来た。涼しい微風が吹き抜けるのでここで大
休止を取ることにする。ここから眺めるとイクワタ峠北峰もなかなかの美人である。西側
の木陰から、安曇川べりの集落が覗くが、蛇谷ヶ峰や琵琶湖の姿はまた現れたガスで望む
べくもない。快晴の日光の直射とのトレードオフだから、これは仕方がないところである。

 大きな杉と国境を示す『界』と刻まれた石標が立つ釣瓶岳には、最初から前後していた
3人の男女パーティが昼食を終えたところ。車の都合でここから戻るそうだ。それを見送
っているとにわかに暗くなった空からポツリと来た。夕方と勘違いしたヒグラシが合唱を
始める。幸い、それ以上の天候の悪化はなく、やがて明るくなる。ガクウツギの白さが目
立つ山頂である。
釣瓶岳山頂

 比良山系の最高峰、武奈ヶ岳へは釣瓶岳から1.8km。この間、細川越まで100m下
って、200m登り返すことになる。釣瓶岳直下の急降下を過ぎればなだらかなアップダ
ウンと、細川越から先の、武奈ヶ岳の長い北稜を単調なペースでグイグイ登って行くのみ。
この内、細川越から武奈ヶ岳までは、八淵ノ滝へ下山する時に歩いたコースだ。時折、木
立の中は涼しく爽やか。時折ある木立が切れ間からは、遠かった武奈ヶ岳が次第に近づい
てくるのが分かり、山頂の標識と立っている人が識別できるようになる。

 北稜は雪の為か大木がなく、ドウダンツツジなどの灌木が多く雰囲気のいい林である。
ここで無線交信が初めてというTちゃんに入感。丹但国境の高竜寺ヶ岳にいるTさんや、
遠く白山にいる歩く無線機さんとも交信でき感激するTちゃんである。

 武奈ヶ岳はいつ来ても溢れるほどの登山者がいるものだが、流石に猛暑をおして登山す
る人は少ないようである。それでも十数人の登山者がたむろする山頂。曇が太陽を隠して
くれたおかげで気温は24℃、風があって心地よい。木陰での昼寝には最高だろうなあ。

 歩いてきた北稜遠く、釣瓶岳の姿がある。良くぞあそこから歩いてきたものだ。(笑) 
といって、山の熟練者には大した距離ではないのだが...。小半時も休みをとってそろ
そろと腰を上げる。旧スキー場方面とのT字路を右に折れて、武奈ヶ岳の西南稜。ここは
初めて歩く道だ。

 小さな岩尾根。ホオジロらしい鳥が枝先に留まり盛んにさえずっている。岩場を降りる
と喬木のない荒地が続く。前方には遠く蓬莱山や打見山など南比良の山々が起伏している。
振り返れば双耳峰風な武奈ヶ岳があり、先ほどすれ違った登山者の小さな姿が斜面を行く。
足元に青紫の花があって、一瞬、マツムシソウかと思いつつも実は咲き初めのウツボグサ
だと教えてもらう。

武奈ヶ岳西南稜
その先に御殿山がある

西南稜から武奈ヶ岳を振り返る

 熱が籠る性質があるのかシダの原は暑い。小さなピークを登り返して、ようやく背の低
い灌木帯に入ると一転涼しい空気に包まれ一息つく。

 ワサビ峠も樹林に囲まれた小さな広場で全く展望はない。左方向にコヤマノ岳、中峠へ
の分岐道があるが、樹林に潜り込む坑道のようだ。これを見送って、あとはチェックポイ
ントの御殿山までは小一時間の道のりになる。大した距離ではないのだが、御殿山への登
りが今日最後の登りである。それだけにちょっと疲れた体には殊の外こたえる。先行して
いた見知らぬ小父さんと入れ替わるようにして頂に立つが、ここも展望はない。

開最初はこんな風情のある路も...

 しばらくは落葉樹のいい林が続く。小さな沢の源頭ではヤマモミジなど紅葉樹の林であ
る。秋は歩くだけで深紅に染まりそうな雰囲気である。その落葉の林が何時の間にか杉林
にとって代わる。総体的にこの坊村のコースは傾斜が急な所へ持ってきて、粘土質でその
上、浮石が多いときているのですこぶる歩きにくい。油断をすると転びそうで、最悪、斜
面を転がり落ちそうな個所もある。しかも延々と杉林が続く中を、細かくジグザグを切る
のでいい加減うんざりしてくる。
単調な杉林の急斜面に思わず『もうええ』

 高度が下がるに従い気温も上がってきたようで、生ぬるい風がモワッと上がってくる。
川で水遊びでもしているのか、近くのキャンプ場かららしい子供の嬌声や、国道を走る車
の騒音が徐々に大きくなってくると、杉木立の下に灰色の路面が見え隠れするようになる。
明王院の屋根を修理する人影もはっきりしてきて、退屈だった斜面くだりも大団円に近づ
く。そして斜面に引っ掻くようにつけられた御殿山コースの登山道は、明王院の裏に降り
立つ。少々膝が笑っていた。

 千日回峰の舞台として有名な明王院は本殿を修築中。その前を通って朱塗りの橋を渡る。
明王谷からの登山道と合流して、瀟洒な比良山荘の前を抜けて20mも行けばR367だ
が、その前にトイレの洗面所で顔を洗う。ぬるい水だけど気持ちがいい。そして下山後の
楽しみにしていたコーラ。曙橋が架かるたもとに自販機があるのは先刻承知。小銭を入れ
るのもどかしく何はともあれコーラをぐい飲み。これがなんともいえず美味いのだ。(^ ^/

 曙橋を渡って安曇川の対岸から比良の山並みを望む。これでリフトが動いていた頃の話
だが正面、そして八淵ノ滝、栃生、坊村と武奈ヶ岳への主だったコースを歩いたことにな
る。久しぶりのみっちり山歩き。夏山の予行演習に役立つだろうか?(笑)

 まだ日は高く、蝉の声がまだまだかまびすしい盛夏の坊村の昼下がりである。


【タイムチャート】
6:30自宅発
8:25〜8:41葛川坊村BS
8:52朽木栃生BS
8:54〜8:58釣瓶岳登山口
9:50地蔵峠分岐
10:22〜10:30ササ峠分岐
10:45〜10:55尾根
11:05イクワタ峠
11:40〜12:05釣瓶岳北300m付近(昼食)
12:18〜12:25釣瓶岳(1,098m)
12:43〜12:45細川越
13:25〜13:45武奈ヶ岳(1,214.4m 三等三角点)
14:16ワサビ峠
14:25〜14:35御殿山(1,097m)
16:03坊村登山口



武奈ヶ岳のデータ
【所在地】滋賀県大津市
【標高】1,214.4m(三等三角点)
【備考】 琵琶湖の西、南北25kmに及ぶ断層山脈、比良山脈の
主峰です。比良の名はアイヌ語の『ピラ』(険しい)に
由来するといわれ、又、武奈ヶ岳はブナの多い山から命
名されたといわれます。頂上は360度の大展望で、白
山、御岳が眺められる場合もあるそうです。登山道は東
のイン谷口、西の坊村等が一般的です。JR湖西線比良
駅、京都出町柳駅からバス便があります。
■日本二百名山■近畿百名山■関西百名山
釣瓶岳のデータ
【所在地】滋賀県大津市
【標高】1,098m
【備考】 比良山脈のほぼ中央部、武奈ヶ岳の北方約1kmに位置す
る独立峰ですが展望には恵まれていません。北方を古来、
重要な連絡路だったコメカイ道が通じており、今も登山
路として利用されています。
【参考】エアリアマップ 山と高原地図『比良山系』



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