甲津原から千草越で往く雨乞岳

雨乞岳南尾根の登山道から左にイブネ、中央奥は水晶岳、右奥に御在所岳、右は東雨乞岳

雨乞岳南尾根の登山道から東雨乞岳(左)と右に雨乞岳

平成22年 4月30日(金)
【天候】晴れのち曇り
【同行】単独


 今年もGWがやって来た。でも明日から数日、所用で山へ行けないので、GWの中では
最も空いている日だろうと、30日、鈴鹿の雨乞岳へ向かうことにする。(平日にもかか
わらず高速は休日割引なのだ)少しアプローチは長かったのであるが、目論見通り淡い清
々しい大気の中、グリーンシャワーを堪能することができた。単独行の場合、行くまで少
し億劫でも、行くと気持ちのいいのが山ということを改めて実感する一日でもありました。

 北国街道や近江坂を歩いたりして、この頃ちょっと古道づいているが、今回も近江と伊
勢結ぶ間道千草越をアプローチに使って杉峠へ出て、北のイブネ、クラシ方面に行くか南
の雨乞岳に行くかはその時の気分次第で決めようというアバウトなコース取り。天気も最
高、さあ出かけましょう!といってもやっぱり出発したのは8時と遅い。(笑)

 予想違わず、名神は車は多いもののスムーズ。順調に八日市ICから八風街道を東へ進
み、小学校が見えたら南方向へ折れる。川沿いに行けば良かったのだが、甲津畑の集落内
に入ってしまう。立派な民家の庭先に見事な臥竜の松があるのには驚いた。とって返して
川沿いに進む。この川は和南川。千草越の横を流れる渋川とは違うので不思議な感じがす
る。
岩ヶ谷林道起点。手前にパジェロミニが1台あっただけ

 グリーンランド永源寺の取付け道路の分岐付近に車を置く。1台の先行車もない。(実
は岩ヶ谷林道起点に1台のパジェロミニがあった) 気温は10℃で少し寒い。水量豊富
な渋川の水音。山吹が真っ黄色の花を揺らせている。

 10分ほどでよく手入れされた植林の中に、通行止のとうせんぼのある岩ヶ谷林道起点。
いよいよ千草越。杉峠までは3時間の長丁場だ。もっともしばらくは幅一間程の地道の林
道。正確に千草越の旧道を辿っているわけではなく、奥にあった鉱山から鉱石を運ぶ荷車
が行き来しやすい様に付け替えられた部分もあるようだ。

千草越行程図

 この辺りの渋川はまだまだ広い渓谷。川原の木々は芽を吹いて、黄緑や薄い赤に霞んで
いるように見える。15分ほどで鉄製の砂防堰の横にある千草越の説明板の前に立つ。あ
れ?雨乞岳と杉峠が同じ標高だ。(笑)正しい標高差は林道起点から800mなのだが...。

 善住房隠れ岩への小道があるので行ってみる。川が蛇行している部分に飛び出した何の
変哲もない岩である。本来の千草越は対岸。そこを通る信長をここから狙撃したというこ
とだろうか?それよりも点々と咲く赤紫のミツバツツジが綺麗で、澄んだ水と相まって、
バーベキューに絶好の場所だった。(笑)

 再び植林帯。桜地蔵はその中にポツンとあって、カラフルなよだれかけが扉一面に奉納
されていて、今も熱心な信仰を集めているようだ。桜地蔵というよりも椿地蔵の方が相応
しく、背の高いヤブツバキから赤い花がポタリポタリと地面に落ちている。祠の前のシャ
クナゲにも、この前の大御影山同様蕾がなかった。やっぱり今年は裏作らしい。杉峠はこ
の桜地蔵からも100分。まだまだ道のりは長い。

春爛漫の千草越


 鉄の橋を渡るとまもなく避難小屋が見えてくる。そしてタイジョウはここからと書かれ
たオフィシャル道標がある。避難小屋といい、道標といい、以前にはなかったような...。
もっとも最近、記憶はとみに曖昧だから確言は出来ないが。

 この後、木橋で支谷を渡り、木製の簡易吊橋で岩を噛む清流を渡ると、千草越はいよい
よ山道になり、渋川の渓谷の上をへつる道となる。ミソサザイの賑やかな鳴き声が渓谷中
に響き、ミツバツツジが崖に咲く。春爛漫の景色である。

 およそ10分から15分間隔で東近江市の説明板が現れて小休止を取るのに都合がいい。
左に炭焼き窯の跡を見て進むと少し広やかな場所に出る。ツルベ谷の出合といわれイハイ
ガ岳や大峠の分岐がある古屋敷跡。確かに何時の頃まで生活していたのか、杉桧林の下の
あちらこちらに石垣跡が残る。この辺りまで来ると前方に杉峠らしい鞍部が見え出す。だ
が、まだまだ高い。近くで鳴き声が「ミッフィーーー...」と聞こえる黒っぽい鳥が枝
先に止まっている。なんていう鳥だろう。デジカメを向けピントを合わせようとすると、
えてして逃げられるのだが今回もやはりその例に漏れずである。

 また橋を渡る。広い河原のような場所は雑木のきれいな場所だ。やたらとトリカブトも
多い。まだ芽出し前の大きなシデの木の下に石碑と炭焼窯があって蓮如上人旧蹟とある。
なんでも浄土真宗の隆盛を嫌って比叡の衆徒が追いかけて来たのを炭焼窯に隠れて難を逃
れたという言い伝えがあるそう。言い伝えは古くからあるようで天保六年の銘のある南無
阿弥陀仏と彫られた石柱も立つ。炭焼き窯前の板のベンチで小休止とする。

 再び吊橋を渡って登り返す。この辺りから向山鉱山跡にかけて、シデの大木が林立する
箇所だ。大人2、3人が手をつながねばならない位の大木もある。今は寄生したシダの緑
だけが目立つが、もう少したてば若葉が萌え出て美しいだろう。と思うのもつかの間、グ
ーッと腹の虫が鳴いた。鉱山跡の説明板の前で、オコワお握りを一口放り込んで宥めるこ
とにした。杉峠まではあと40分である。

一反ボウソウ

 枝の広がりが一反もあるということで『一反ぼうそう』と呼ばれるミズナラを左に見て、
きつくなった山道を登る。ここにも避難小屋があり、簡易トイレも谷にある。その避難小
屋の横を抜けると、ようやく水の音も聞こえなくなる。砂礫の斜面に人馬が踏み固めて船
底のようになった小道は、水場を経てジグザグに杉峠の鞍部に向かって行く。そして見覚
えのあるぐにゃりと曲がった孤杉が一本そびえ立つ杉峠。と、声が聞こえてくると思った
ら、朝明側の斜面に珍しく大学生風の二人連れの若者。朝明渓谷から上がって来たそうで
ある。雨乞岳までの所要を聞くので30分位かなと答えたところで、南に行くか北に向か
うか決めかねていたのが雨乞岳方面に決める。そうそう、初めて雨乞岳へ登った時に、頭
を打ち損なった三角点標石に会いに行くのもよかろう。

杉峠。右が雨乞岳、左がイブネ、直進は千草越を朝明へ

 今までとは180度うって変わって、標高差200mの急登。まずは斜面を登って明快
な尾根筋に上がらねばならない。若い衆(古い言い方や(笑))はどんどん先に行ってしま
う。中年オヤジにはとてもついていけん。(^^; それでも峠がどんどん下に。向かいのア
ゲンギョの裸地が一気に目の高さになる。尾根上は小笹の原。ハルリンドウが群れ咲いて
いる。先ほどの若い衆が尾根から少し降りた笹原で食事中。雨乞岳に登ってからにしよう
と思っていたのだが、確か上は笹のブッシュだし、こちらもついに我慢ならず、少し先の
露岩の陰で大休止にすることにした。枝を広げたツクシシャクナゲが一本。今年は花芽な
し。
ハルリンドウ

 本当にいい景色。湖北の大谷山や赤坂山にも似た大らかで女性的な感じのする東雨乞岳
の起伏を歩く人が見える。山頂にも人が一人。その左奥にガレた水晶岳から御在所岳の山
並みだ。北には大きな跳び箱みたいなイブネ、クラシ。タイジョウらしきピークも見えて、
数年前にSさんのオフでカクレグラから縦走した尾根なのだなあと懐かしく思う。西には
歩いてきた渋川の渓谷が意外に大きく深い。その向こうは近江の米どころ。そして東側に
は伊勢平野で天気がよければ海が見えることだろうが、残念ながら今日は黄砂が飛来して
いるとのことである。

 食事道具を片付けて忘れ物の点検を行って出発。雨乞岳の前座尾根に乗ると、いよいよ
雨乞岳の姿。笹の丈がだんだん高くなってきた。と、ついに吾輩の背丈を越してしまった。
歩き難い。かえって小柄な女性の方が笹のトンネルの中で歩きよいかも。ちょうど目の高
さに笹の葉が来るので背の高い人は注意が必要だなあ。(笑) しかも黒土の斜面は滑る。
ズルッと行きかけては雑木の幹を持って、時折あるテープを頼りに泳ぐように進むと、平
坦になって、笹の切り開きのような無人の山頂に出た。憎っくき三角点標石と対面。『元
気やったか?』(笑)

 山頂には確か雨乞岳の由来となった池塘があるはずなのだが、枯れているのか確認でき
ない。三角点からは南にひときわ目立つ鎌ヶ岳の姿があった。

 一息つく。さてこの先どうしようか。東雨乞岳までピストンしようか。しかしなんとな
く端折る気になる。これで浮かせた3、40分の時間でゆっくりしていこうか。杉峠に戻
って、イブネ方向へ少し登り返して見る。御在所岳や国見岳がよく見える。双眼鏡で覗く
と山頂に人が立っているのが分かるくらいだ。そんなわけで15分ほども双眼鏡を覗いて
いた小生である。

向山鉱山跡の流しだったと思われる建造物

 以前、来た時にはヤマシャクヤクの花が多かったので探しながら下るけれど見つけられ
ない。(T_T) 花とともに往路で見逃したものを見つつ歩く。向山の鉱山跡。往時のセメン
ト製の流しがあった。茶碗の欠片も転がり生活臭がぷんぷん。こういう廃村とか好きだな
あ。こんな生活の痕に郷愁を感じるのは私だけだろうか?

蓮如上人が難を逃れたという炭焼き窯の広場

 蓮如の旧蹟の丸太のベンチに座って湯を沸かしてコーヒーブレーク。少し寒いので熱い
コーヒーが美味い。いつの間にか日が翳っている。林道を下っていると灰色の雲が空を覆
ってきて、雨乞岳の方が霞み始めた。早目に下りてきてよかったかな。久方ぶりの鈴鹿。
やっぱり奥が深い鈴鹿でした。



【タイムチャート】
8:00自宅発
9:25〜9:32グリーンランド永源寺分岐付近(駐車地)
9:45岩ヶ谷林道起点
10:10〜10:13善住房隠れ岩
10:30〜10:32桜地蔵
10:51古屋敷跡(ツルベ谷分岐)
11:05〜11:07蓮如上人旧蹟
11:25〜11:28向山鉱山跡
12:07〜12:15杉峠(1,042m)
12:35〜13:00雨乞岳南尾根の岩(昼食)
13:05〜13:08雨乞岳(1,237.7m 三等三角点)
13:30〜13:44杉峠付近
14:10向山鉱山跡
14:27〜14:40蓮如上人旧蹟
14:52〜14:53古屋敷跡(ツルベ谷分岐)
15:12桜地蔵
15:32善住房隠れ岩
15:48岩ヶ谷林道起点
16:00グリーンランド永源寺分岐付近(駐車地)



雨乞岳のデータ
【所在地】滋賀県甲賀市(旧土山町)、東近江市(旧永源寺町)
【標高】1237.7m(三等三角点)
【備考】 鈴鹿山脈の主峰御在所岳から西に派生する鈴鹿最深部に
位置する山です。荒々しい鈴鹿の中にあって、珍しく大
らかな山容を示し、山頂一帯は笹原で特に東雨乞岳から
は360度の大展望が得られます。北の肩に千草越の古
道が通じ。これを利用すると歩行は長いですが楽に登れ
ます。
■近畿百名山
【参考】エアリアマップ『御在所・霊仙・伊吹』




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