ブルッと震えて弥十郎ヶ岳

七年ぶりの弥十郎ヶ岳山頂
平成21年11月3日(火)
【天候】曇り時々晴れ
【同行】呉春さん


 本来は色づく芦生辺りの尾根を周遊しようというのがオフの目的であった。眠い目をこ
すり、まだ街灯が明るい午前4時半に起きて、6時にいつもの千里中央に集合して芦生に
向って出発した。今までの暖かさが嘘のように、選りによって11月初旬に寒波がやって
来て木枯らし1号が吹くとは、想像だにしていなかった。息が白い。

 大阪では青空。まあ幾ら寒いといったって11月もまだ始まったばかりやないの。たか
をくくっていたけれど、萱葺きの里を抜け、芦生に近づくに従って灰色雲は低くなり、降
り出した雨も強くなって...。と思ったら、フロントガラスの雨滴が流れない。やや?
シャーベットではないか。ミゾレだ。道端には昨日降ったらしい雪が残っている。
「ええ?何これ?今日はまだ文化の日やで」
まさか、こんなことだとは...。我輩は雪嫌い。寒いし、もう一気に気分は萎える。芦
生の駐車場に着くや否や、皆さんには悪いが開口一声。
「今日は止めますわ」
同乗のTちゃんは強行するらしいが、Gさんは風邪ひくのも嫌だしと帰るという。幸い、
Nさんが車で来ていて、まだ2台、車が残る。というわけで、我々2人は皆さんと別れて
南に転進することにした。

 さて、どこへ行こうか。地図が無いのでコースがはっきりしている山だなあ。とつこう
つ考えている内に、Gさんは弥十郎ヶ岳には未踏なのだという。それならと、久方ぶりに
弥十郎ヶ岳に照準を合わせる。

 帰宅して調べてみれば、初めて弥十郎ヶ岳に登ったのは97年。その次が02年。従っ
て、今日は7年ぶりなのだった。

 途中、小腹が空いたので、『かやぶきの里』の前の道の駅で栗入りおにぎりを一個購入
する。搗きたての餅でも丸めているのか、調理場では白い割烹着姿の地元のお母さん達が
暖かそうな湯気の中で立ち働いている。
これだけの水量の蓮如の滝は初めて

 日頃は通り過ぎるだけの蓮如の滝も、今朝は昨夜来の雨で水量が多く豪快なので、氷雨
ももろともせず、由良川の対岸まで寄って見物する。落差は70mだという。一気に落ち
る滝ではないが、周囲の黄葉に映えて階段状に落ちるさまは一幅の絵でありました。

 湯の花温泉から能勢町天王に出て籠坊温泉へ。寂れた風情は7年前とほとんど変わって
いず、7年前と同じように廃テニスコート前の広くなった路肩に駐車する。昔はバス停留
所の待合室だったらしいロッジ風の建物に掲げられた「猪名川渓谷県立自然公園」の文字
が何か寂寥感を誘う。
温泉コース入口。不動産会社の立入禁止のチェーンがある
左の建物が不可思議な建物だ

 確か登山口は神姫バスの下籠坊のバス停前の赤い橋だったような。古い登山案内図もそ
の横にあって記憶に間違いはなさそうだったが、橋にはチェーンが架けられ建築業者の立
入禁止の看板が横倒しになっている。まあ、とりあえず進んでみよう。すると以前は廃業
した旅館があった場所に、入口も何もかも電柵で囲われた白亜の建物がある。庭には仁王
や獅子に観音様といった雑多な石像が所狭しと置かれ、中でも裸の坊主頭の壮年オヤジが、
これも裸の二人の女性の肩を抱いた像はユニークだ。一体全体、何なんだろう。ちょっと
不可思議な空間ではある。

これは一体、何なんでしょうか

 しばらくは谷沿いのほの暗い植林の中。咲き遅れたマツカゼソウの白い花が風にそよぎ、
真っ赤に熟したマムシグサが単調な中にも鮮やかだ。やがて現れる沢の出合は左に採る。
よく見れば雑木に古い小さな私製標識が見つかるはずだ。涸れた沢が道の代わりみたいな
ものなので出水があると道が消えたりするのだろう、道は鮮明だったりそうでなかったり。
その内に周囲は雑木になり、古い炭焼き窯の痕跡を左に見る頃、沢も源頭らしくなだらか
な感じになってきて、上がった所は農文塾コースとの出合の峠。見覚えのある旧日置村の
石標や古いオフィシャル道標が立つ。峠の向こう側(辻川の源頭)からピンクの紐が上が
ってきていて、以前は薄かったように思う踏み跡もこちらより明瞭になっているみたいだ。
(どうもピンクの紐は境界を示す赤のプラ杭を埋設した場所を示すもののようである)

落ち葉の絨毯、農文塾コース出合

 小休止して左(西)へ。あれ?踏み跡が無くなった。少し後退。なんのことはない。ル
ートは峠の数m手前側についていたのだった。軌道修正してなだらかな尾根を進む。

 それにしてもふるさと兵庫50山にしては、整備が行き届いていない印象。というかこ
ちらはメインコースではなくなっているみたい。でも個人的には過剰整備よりはこれ位が
ちょうど良いように思う。そんなこともあってしっとりしずか。アカノツメやウリハダカ
エデ、リョウブなどが色づいて最後の派手さを競っているみたい。あんまり展望は無いが
秋の山の良さを感じられるコースだ。

 道はゆっくりと高度を上げる。少し登ったハハカベ山の小ピークに立つ石標前で休憩し
たが、このハハカベ山を下った先付近と、北に見えていた弥十郎ヶ岳へようやく向かいは
じめる転換点をなす無名ピーク辺りが植林で、朽ちた枝が散乱していて少々踏み跡が不明
瞭。しかも山仕事の目印だろうか白いテープが巻かれたヒノキがおびただしくあるので、
まことに紛らわしい。それでも何となく踏み跡らしいものは分かり、古いテープが要所に
あるのを見落とさないように、そして途中に3箇所ほどある、朽ちてバラバラになったオ
フィシャル道標を確かめながら歩を進める。

綺麗に色づくウリハダカエデ

 このコースでもっとも厳しい登りは竹谷コースとの出合がある尾根に上がる時。といっ
てもせいぜい2、30mの高度差である。ここまで来ればもう山頂は近い。真っ赤に色づ
いたウリハダカエデやアセビの間を抜けると、初登りの時に記念写真を撮ってもらった大
きな山名板がある山頂である。

 反対側から植林との境をなして、畑市の薬師ヶ原キャンプ場からの道が上がって来てい
る。こちらはまだ未踏だ。北西の伐採斜面はだいぶ雑木が伸びてきていて、篠山市街は一
望できなくなっているが、多紀アルプスは指呼で、一際大きい三岳、恐竜の背に似た小金
ヶ岳、ピラミダルな西ヶ岳の姿はなかなかのものだ。そして西北方向はるかに白く輝く山
並みが浮いているのを見つける。たぶん、初冠雪の便りがあった氷ノ山だろう。その時だ
ったろうか、遠くの谷で鹿の鳴き声が高く長く余韻を引いて響き渡った。

御仏河山頂から眺める多紀アルプス

 山頂の気温は7℃。風はほとんど無いので助かるが、流石にじっとしていると寒い。脱
いだウインドブレーカーを着込んで三角点の石に座り昼食とする。この辺りでこの寒さだ
し、灰色がかった雲も北から次々にやってくるしで、ずっと北の芦生の方は如何ばかりだ
ろうとGさんと噂することだった。 

 30分の大休止を切り上げて下山にかかる。山頂のやや南からは南側が見通せたはずだ
が、木々の成長はここでも顕著で、以前よりは視界が狭まっている。それでも山峡から阪
神方面の高層ビルが覗いているのが確認できた。

 ところで、山はえていて登る時より下山の時の方がコースを踏み外し易いもの。前述の
ように涸れ沢がコースになっている部分と、植林帯を通過する際に踏み跡が薄くなってい
て、以前より少々分かり難くなっているように感じたので、地図を持参していない身とし
ては、そんな場所では常よりも注意喚起しながらの下山だ。桧に管理用の紛らわしい白い
テープが巻かれた箇所では赤プラ杭の位置を示すピンクのリボンがいい目印になる。沢で
は常に水の流れていく方向、つまり下流に向えば問題はない。また『丸の中に城』(裏に
は『丸印に振』とあるので篠山の城東地区の林業振興公社かなにかの杭らしい)と書かれ
たプラ杭も沢ではいい目印である。

 今回、往路では気付かなかった665m標高点ピーク。5cm位の小さなプレートでそれ
と分かる。そこからしばらくして、尾根を外れて下り加減。山桜の大木の横を過ぎると農
文塾コースとの分岐のある峠は近い。右手から籠坊へ下る谷の源頭部が近づいて来、前方
に朽ちかけた道標が見えてくる。

 南に折れてみなの沢の源頭からゴロ太石の沢を下り、植林下に入るとこのコースもエピ
ローグ。結局、他には全く誰とも遭わないで降りてきた。取り付きの橋を渡って車道へ出
ても、車はほとんど通らない。人通りもない。そんなことは関係ないとススキが少し傾い
た陽に銀色に輝いている。ブルッと震えた西高東低の気圧配置は急速に緩み、空は青く、
下界は事の他、暖かである。晩酌用に能勢の豆腐屋さんで豆腐と厚揚げを少し買って帰途
に着く。



【タイムチャート】
11:00〜11:05籠坊テニスコート横の路肩(駐車地)
11:10籠坊コース登山口
11:42〜11:44農文塾コース出合
12:06ハハカベ山
12:30竹谷コース出合
12:35〜13:05弥十郎ヶ岳(715.1m 二等三角点(昼食))
13:08竹谷コース出合
13:28ハハカベ山
13:36665m標高点
13:45農文塾コース出合
14:15籠坊コース登山口



 弥十郎ヶ岳のデータ
【所在地】兵庫県篠山市
【標高】715.1m (二等三角点)
【備考】
篠山盆地の南側に位置し、篠山市街を隔てて多紀アルプ
スと対峙しています。南麓に籠坊温泉があり、山と温泉
をセットで楽しむことが出来ます。JR三田駅から神姫
バスや篠山市営のバス便がありますが、土日は運休です。
【参考】
2.5万図 『福住』



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