太郎坊〜雪を踏んで新春初詣オフ

近江鉄道の車窓から見る箕作山塊(近江八幡付近にて)
平成21年 1月 4日(日)
【天候】曇り
【同行】別掲


 申年くらいから新年恒例となった干支オフ。今年は丑(牛)年で思い浮かぶのは牛松山
あたりか。しかしあんまり面白い山ではない。他には牛の子山、艮山などがあるが少々マ
イナーだ。というわけで今年は泣く泣く?断念し、初詣オフに切り替える。だが条件はな
かなか厳しい。プチ新年会も開催したいので鉄道で行ける山であることが必須。更にでき
れば雑木主体で展望良ければ更に良し。そんなこんなで選んだのは三年前に歩いた滋賀県
八日市の太郎坊。奇しくも昨年の干支オフ観音寺山の隣の山だ。しかもJRと近江鉄道を
使えば大阪からも1時間半と案外近いのである。

 正月寒波も去った4日。集まったのは9人と諸事多忙な正月にあってはなかなかの盛況
である。新大阪8:38発の新快速が近江八幡に着くと、メンバ全員の元気な顔が揃う。跨線
橋を渡って近江鉄道のホームへ。余裕だと思っていた乗り換えだが、窓口が一つしかなく
少々あせる。なにせ次の列車は30分後なのだ。がそこはローカル列車。少し待ってくれ
たようだ。(笑) 1日乗車券が550円と割安なので全員これを購入して乗車。黄色い二
両編成のワンマン電車は新幹線の高架をくぐって東へ進む。観音寺山とともに見覚えある
太郎坊が左手に姿を現してくる。(冒頭の画像)

 下車駅の市辺駅は3つ目の無人駅である。準備を整えて出発。案内図もあり、少し戻っ
たところに十三仏の標識もあって初めてでも迷うこともない。踏切を渡り国道を横切ると
船岡山の取り付きの阿賀神社の境内だ。面白い勧請懸のかかる参道にもチリ一つなく、掃
除の行き届いた清澄な神社は岩がご神体のようであるが、祭神は猿田彦の由。ガスボンベ
を転用した鉄製の賽銭入れがなんともユニークである。

 参拝を済ませて神社の左手を緩やかに登ると、南北に長い船岡山の背中に出る。ほんの
高さ20mほどの丘であるが、数々の歌碑が並べられている。そう、ここは万葉の里なの
だ。昔、当地には薬草等を採る禁野があって、かの有名な額田王の「あかねさす 紫野ゆ
き 標野ゆき...」はここで詠われたというが、今は否定する学説の方が有力だとか。
ま、そんな小難しい事は抜きにして垣間見える蒲生野の風景を楽しんで歩きましょう。

十三仏登山口付近から岩戸山(左のコブ)と小脇山

 葉を落とした雑木林は明るい。展望台で峨々たる太郎坊を眺めたり、丘を降りた辺りの
原っぱに残ったバージンスノーで雪合戦をしたりなぞして、用水路沿いに十三仏(岩戸山)
の登山口へ歩く。もうホトケノザがピンクの花を咲かせたりしている。暦の上では新春だ
が、まだまだ寒さはこれからが本番。気の早い花はまた雪に震えるのだろうか。

 十三仏の登山口は小さな広場で茅葺の休憩所もある。そこに掲げられた額に古い岩戸山
周辺の手書き絵図があるが、小さな峰にみんな名前が付けられているようだ。まだ若木の
杉木立を縫う参道を登って行く。自然石の階段の両側は四国八十八箇所の石仏や色々な神
像、観音像が並ぶ。それらに懸けられた紅白のたすきがカラフル。前回飲んだ覚えのある
霊水には「飲めません」の但し書きだ。「??」

 石段の補強をされているジモティがお二方。広場の軽四輪の主であろう。雪が残ってい
ることを挨拶代わりにすると年末の26日の寒波で「一尺も積もった」とのこと。なまじ
「cm」というより「一尺」という表現の方が、思わぬ雪の量を感じさせていいではない
か。
石仏が並ぶ十三仏参道。思いの外に急傾斜

 今回のコースでは極楽山とも呼ばれるこの岩戸山の石段登りが一番しんどい。(^^; 全
部で160体あるという石仏に見守られながらの道が尾根道になると、前方に大岩が現れ
る。これが岩戸山の由来だろう。その前には本殿と休憩所がある。少し昼食時には早いけ
れど、この先は雪で地面が濡れているはずで、休憩所には板の間もあるのでここで食事と
した。
磐境と思われる大岩。これが岩戸山の由来?

 岩戸山は休憩所から本殿前を横切ったすぐ先の小さな岩の山。箕作山への山道から3m
くらい上である。下の休憩所も好展望だが、ここは更に良く、蒲生野が一望である。歩い
て来た船岡山や溜め池なども良く見える。雪野山、鏡山、三上山といったところがモコモ
コという感じで、まだらに雪が残る湖東平野の中に盛り上がっている。ゴーッと轟音は新
幹線。ガタゴト、レールのつなぎ目の音がするのは近江鉄道の電車だ。

岩戸山から出発地点方向を望む
右の丘が雪の残る船岡山。奥は雪野山

 ここからは参道ではなく山道となって、雑木の狭い尾根を雪で滑りながら登って行くと
小脇山に出る。雪の深さは多い所でさっきの小父さんではないが一尺はある。その中に先
人のトレースがあり、その後を追っていくと三等三角点の小さな山頂に出る。あまり展望
に恵まれた山ではなかったように思っていたけれど、南側に展望のよい場所があり湖南ア
ルプスや比叡山、遠く西山辺りが霞むのも望める。左手に横顔を見せる太郎坊は、真正面
から見るピラミダルな山ではなく、大台の大蛇グラみたいな張り出した台地である。

雪深は一尺ほど、箕作山への尾根道

 小脇山から箕作山までは小さなアップダウンがあるが、概ね標高300m前後の尾根が
続く。登りより下りの方が神経を使う。雪もあまり溶けておらず、時折、バサッバサッと
梢の湿った雪が落ちてくる。雪を青く染めて実が落ちているが何の実だろうか。

 箕作山までは30分弱の道のり。小さな鞍部から登り返すと岩混じりの小さな山頂が現
れる。前回は道標の横で先着のご夫婦と昼食を摂ったっけ。山頂のすぐ北側に出てみる。
観音寺山の向こうに琵琶湖の湖面がある。そして雪化粧の湖北の山々。日が射して一際白
いのは横山岳に違いない。右手遠くの伊吹山も真っ白な姿だ。と、新幹線が野を切り裂く
ように米原方面へ向っていく。

 箕作山からは徐々に高度を落としてゆく。箕作城址の分岐を経て、次の分岐が瓦屋寺・
延命公園の分岐だ。瓦屋寺の墓地への階段から眺める鈴鹿の展望がいいので寄って行くこ
とにする。先人も瓦屋寺へ向っているようで、そのトレースどおり、ぐるりと細い尾根道
を辿ると5mはある金色の観音像の立つ墓地が見えてくる。するとはたして目の前には予
想違わず真っ白な鈴鹿山脈が現れた。墓地への階段の踊り場がテラスの様なので、深い雪
で裾が濡れるのも厭わず行ってみる。流石の大展望。北は霊仙山から御池岳、綿向山、日
本コバまで鈴鹿が全貌を現しており、手前には永源寺方面から流れてくる愛知川が蛇行す
る。、まことに見飽きぬ風景が展開する。

瓦屋寺から雪を被る鈴鹿の御池岳方面

 こうして10分位眺めていただろうか。瓦屋寺の本堂まで行くのは雪の為に断念して、
もとの分岐まで戻る。今度はショートカット。折れた枝などで非常に歩きにくいが、杉林
の中を強引に突っ切って小尾根に乗って往路の小道に出る。分岐で左折して太郎坊への道
に入る。

 瓦屋寺の裏参道なので道は山道ながら格段に良い。茅葺の休憩小屋を過ぎると周囲には
「止め山」の札がぶら下がる。太郎坊宮の境内地なのだろう。この頃から時々日が射し始
める。タカノツメの黄色い枯葉の滴が光る。

 赤神山の分岐。右に別れて200mも行くと木立の向こうに岩山が聳える。ここが太郎
坊の本峰の赤神山である。この箕作山の南尾根に連なる赤神山が本日のハイライト。最高
の展望が得られる場所だ。北は箕作山や小脇山に遮られるが、それ以外は全てに遮るもの
はない。八日市市街から鈴鹿山脈、伊吹山、湖南アルプスまで湖南が一望なのである。し
かも風もないときているから最高。雪の残る岩の上なので足元に注意がいるが、時間が許
せば何時までも見ていたい風景が広がる。南に指呼の一段低い日本庭園みたいな高みが、
正面から見る太郎坊の山頂であろう。そこにも行ってみたいが、そちらは立ち入り禁制の
場所である。

 ああだこうだと15分は山頂にいただろうか。先着していた単独兄さんにはうるさい我
々はお邪魔だったかもしれない。この場を借りてお詫びしておきます。って、遅いか。(笑)

 太郎坊の峰を東から巻きながら緩々と下っていくとザワザワと人の声。太郎坊宮の参道
に近づいてきたらしい。「ハイキングの方は北側の赤神山へ登って下さい」の注意書きが
ある。この前来た時は確か「立ち入りご遠慮ください」とか書かれていたと思うが....。
しかも参道と合流する龍神舎の横にはハイキングコース入口と指示する私製プレートまで
ある。なにか規制のトーンが落ちたなあ?(笑)

 龍神舎から上へ上がれば本殿だが、初詣オフと銘打っているので夫婦岩の間を抜けて本
殿へお参りしよう。ところが次々登ってくる初詣客で思わぬ渋滞である。岩山に付けられ
た道は狭く、本殿も小さいのでせいぜい二人並んでしかお参りできないのだ。列に並んだ
夫婦岩の間ではここで地震が来たらえらいこっちゃなと思ってしまう。勝運の神様にお参
りするのに小一時間。まあおかげで奥州へ向かう義経の休憩石とかがあるのに気づいたり
したのだが....。(笑)
夫婦岩を行く初詣客
ところで注連縄はどのようにして懸けたのだろう

 本殿前は蒲生野一望のちょっとした展望台である。直ぐ傍にある夫婦岩には真新しい注
連縄が掛けてあるのだが、これ一体どのように掛けたんだろうか?岩の上から投げたのか、
それとも両端を引っ張りながら上げたんだろうか。ウメモドキの真っ赤な実や晴れ間が広
がった蒲生野を見ながら考えたことだった。

 七福神像と昔の「デコッ八」福助の像を眺めながら戻ってくると往路の参道に合流。鳥
居のトンネルになった直線状の急階段をふうふう言いつつ登ってくる人々が三々五々。1
0分ほど下った麓には、元は神宮寺だったと思われる薬師如来を祀る寺院がある。障子ご
し覗くとお前立ちと思しき金色の小さな仏像が見えた。

太郎坊。山頂はここからは見えない

 小さな門前町の形状を有する参道を進む。大鳥居から見る太郎坊はなかなかのシャッタ
ーポイント。人工的に造った岩の大円錐みたいだが、我々が登った赤神山はこの太郎坊の
少し奥になってここからは見えない。それにしても歩いてきた稜線が見えるというのは充
実感があっていいものである。
盗んでいるのではありません
立て直しているのです(撮影:Tちゃん)

 ほぼ一直線の参道が国道と交差する場所が近江鉄道の太郎坊宮前駅である。20分ほど
の待ち合わせで電車に乗る。間もなくやってきた新快速で京都に出て駅前でプチ新年会だ。
8人にしては些か狭いスペースではあったけれど、かえってみんなが隔てなく喋りあえて
よかったかな?呑み放題、2時間ほどわいわい愉しんでお開きだ。今年も健康で山歩きが
出来ることを祈って初詣オフは無事盛会のうちに終了したのでした。



■同行 幸さん、たらちゃん、ちかちゃん、なかいさん、二輪草さん夫妻、もぐさん、
    yukinkoさん(五十音順)
【タイムチャート】
9:50〜10:00近江鉄道市辺駅
10:05〜10:10阿賀神社
10:18〜10:20船岡山展望台
10:45〜10:52十三仏入口東屋
11:23〜12:15岩戸神社(昼食)
12:21〜12:23岩戸山
12:34〜12:40小脇山(373.4m 三等三角点)
13:06〜13:20箕作山(372m)
13:40〜13:50瓦屋寺
14:10赤神山分岐
14:15〜14:31赤神山(357m)
14:37赤神山分岐
14:48〜15:15太郎坊宮
15:35太郎坊宮大鳥居
15:55近江鉄道太郎坊宮前駅



小脇山のデータ
【所在地】滋賀県蒲生郡安土町・東近江市
【標高】373.4m(三等三角点)
【備考】
太郎坊宮のある箕作山塊の西の峰です。山頂は雑木が生
え少し展望が良くありませんが、西側の十三仏からは南
西方向の展望が抜群です。
箕作山のデータ
【所在地】滋賀県蒲生郡安土町・東近江市
【標高】372m
【備考】 湖東平野は八日市市の西に位置し、箕に似た形から命名
されたという低山です。観音寺城の出城だったと思われ
る小脇山城の址があり、東側には四天王寺の瓦を焼いた
という瓦屋寺があります。近江鉄道市辺駅や太郎坊宮駅
を利用すれば、太郎坊山を絡めた縦走が可能です。
太郎坊山(赤神山)のデータ
【所在地】滋賀県東近江市
【標高】357m
【備考】 太郎坊宮の御神体山で、特に南面は岩座信仰のシンボル
の大きな露岩が目立つ特異な山容を示します。山頂から
は360度の大パノラマが展開し、湖東平野から鈴鹿の
山並み、比良、比叡、琵琶湖までが一望です。アプロー
チは近江鉄道太郎坊宮駅です。
【参考】
2.5万図『日野西部』



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