奥の迷峰〜アケボノツツジ再び

笹ヶ峰から奥ノ迷峰(千石山)
平成21年 5月10日(日)
【天候】晴れ
【同行】単独


 GWは高速料金の値下げにほだされて四国の山に初遠征。別子銅山近くの花の百名山に
も数えられる山だったが、折悪しく天候に恵まれず。旬のアケボノツツジも残念ながらす
ぐ目の前で見られたのは数輪で、遠くの山肌がピンクに染まるのを指をくわえて眺めて満
足せざるをえない状態で下山ということになった。そんなことで、もう一度アケボノツツ
ジを面前で見たくなって今年初めて出かけた台高。最後はいささかくたびれたが、期待通
り咲いていてくれて満足、満足。好天にも恵まれて車飛ばして来た甲斐があるというもの
でありました。

 ちょっとお疲れモード。目が覚めるんだがスッパリと起き上がることが億劫。ぐだぐだ
している間に時間が経ってしまう。気がつきゃもう6時過ぎ。慌てて階下へ降りる。とは
いうものの、今回は準備を夕べに済ませていたので、あれこれ行き先や準備に手間取るこ
とはない。家を出たのは7時。コンビニで飲食物を調達して出発。順調に進んで大又林道
終点近くの駐車地には9時前に着く。休日で絶好の天気にもかかわらず、先行の車の数は
存外少ない。6、7台ではなかったろうか。この時期、誘惑にかられる場所は多い。(笑)

 あら?いつもメモをとる手帳は持ってきたのに肝腎の筆記具を忘れた。仕様がない。デ
ジカメをメモ代わりにしよう。でも最近何だかだと忘れる物をすることがとみに増えた気
がする。(^^; 歳だなあ。さて、いつものように林道終点から作業道をテクテクと上がっ
ていく。馬酔木山荘跡近くまでのこの道がいつまで経っても好きになれない。潤いがない
にも拘らず傾斜が急なのだ。そういう訳で山道が始まるたもとに立つ大木が見えてくると
ほっとする。目の前の大又川はここ数日の雨で水量が多いようだ。いつもより水音が大き
く聞こえ、滝もほとばしるような感じで落下している。

 最初の渡渉地点で前を行く小父さんが躊躇している。
「渡れるやろか?」
「やあ、このくらい大丈夫でっせ」
寒い時期でもなし。最悪、靴を脱げばよい。幸い飛び石も頭を出している。木梯子の前の
第二渡渉点は、置かれた材木が動くので少し気持ち悪いが大事はない。その先のキワダサ
コで水分補給のついでにカロリーメイトを齧っていたら、大分経ってから件の小父さんが
やってきた。少しく悪戦苦闘したらしい。(笑) 明神滝も迫力があり、本滝の向かって左
にも細い滝が落ちているのが分かる。左の山道を巻き上がって滝の上に出る。ベンチでは
別の単独おじさんが休憩中。

 この時期、目立つ花。ヤマルリソウ、ヒトリシズカ、ハシリドコロ、種々のスミレ、チ
ャルメルソウ、テンナンショウ、ムシカリくらいだろうか。ただ、明神滝の手前でカスミ
サクラだろうか、背の高い桜が満開だった。

 谷の源頭部に近く、崩壊した部分をへつってしまうと、後は明神平の斜面をつづら折れ
に上がっていくプロムナード。芽出しを終えたばかりの雑木の林だ。薊岳が顔を出し、深
い明神谷が見下ろせるようになる。ヒメシャラの下はバイケイソウの一見美味そうなみず
みずしい緑。ミソサザイのせわしい声が近い。

 例によって水場で一息つき、最後の登りを我慢してあえぎながら登りきると東屋。陽光
溢れる明神平だが誰もいない。しばしザックを下ろし再びカロリーメイトで小腹をなだめ
る。10時半。駐車地からゆっくりほぼ1時間半の行程だ。

 単独小父さんが登ってきたので交代するようにこちらは明神岳めがけて出発する。旧ゲ
レンデはバイケイソウだらけだ。右手、前山の草原の斜面に人がいる。シートを広げて座
り込んだようだ。昼寝でもするのかな (笑)

 桧塚への道標も新たに立てられて、秘峰の雰囲気のあった桧塚もポピュラーになった。
明神岳から桧塚の分岐を左に過ごして、台高主稜の狭い尾根を降りる。ミツバツツジがあ
ちこちで花を咲かせている。どういう種類なのか、北摂に多いコバノミツバツツジよりよ
ほど濃い赤紫色である。これが咲いていると経験上、アケボノツツジも花を付けている公
算が高い。これは期待できそうだ。その瞬間、ドキッ!地面が急に動き出した気がしたけ
れど、なんだ茶色い蛇が逃げ出したのだった。(^^;

 二つほど無名峰を乗越すと、前方にドーム状の笹ヶ峰が現れる。ツツドリがすぐ近くで
ポーポーポー、鼓を打つ。小生の好きな場所は笹ヶ峰手前付近のブナ林。柔らかい曲線を
描く落ち葉フカフカの林床にブナの少し赤っぽい新芽やハウチワカエデかなんぞの鮮やか
過ぎるほどの新緑が眼に痛いほどだ。すると単独兄さんが樹を見上げているのに出くわす。
今日、明神平を越えてでは唯一出遭った登山者である。
「こんちは。鳥ですかあ?」
「いや、樹を下から眺めてます」
ふうむ。確かにブナなんぞを下から見上げた時の造形は面白い。苔や地衣類のつける模様
も面白い。どこまで行くのか問いかけると、もう戻るのだという。気をつけてと別れる。

笹ヶ峰付近のハウチワカエデの清々しい新緑

新緑(笹ヶ峰付近)

 笹が繁茂していたので笹ヶ峰だったろうが、今はほとんどなく非常に歩きやすい。右に
折れると左前方に千石山(奥ノ迷峰)の横長の山容がある。おお。山頂付近がピンクがか
っているではないか。開花時期とタイミングがほぼ合っているみたい。これは無駄足を踏
まずに済みそうだ

 非常に狭い馬の背を進む。中奥渓谷側は地形図で見ても非常な険しさで、50m位の高
低差はあるだろう。落ちたら一寸やそっとでは上がってこれない。その代わり大峰や大台
が見渡せる景観は抜群だ。その痩せ尾根の先、Ca1320mの無名峰を通る点線路で表さ
れた瀬戸越の道はほぼ廃道。しかしなぜか中奥側の尾根にテープが一個。誰か猛者が歩い
たのだろうか。

 瀬戸越の小ピークでやや方向を変えた台高縦走路は千石山北峰で更に東に振って南南東
に延びる。気持ちの良い尾根を進みすぐそこに立つ千石山の最後の登りは40m位か。シ
ャリバテで少し苦しいが8階建て位のビルを階段で登ると思えばよい。小さな白い花を咲
かせるスミレが多い土の斜面。高い木はないので山頂より展望はいい。振り向けば違った
角度の薊岳や木ノ実ヤ塚が眺められる。爽やかな風が吹き上げる中、何度も立ち止まりな
がらようやく千石山の山頂到着。駐車地からほぼ3時間の行程で、時刻も正午過ぎ。すぐ
に食事でも良かったが、目当ての花を見てからと東峰へ出かけてみる。

フモトスミレ(千石山)

 千石山(奥ノ迷峰)は東西に長い山頂を持つ。欠けのない綺麗な三角点は西の端にある。
そこから東峰方面へぶらりと辿るのだが、花束みたいに咲き乱れたツクシシャクナゲがあ
ると思えば濃いピンクの蕾がたわわのものもあって、千差万別。そして遠目にも分かるサ
ーモンピンクのアケボノツツジが目に留まる。一昨年ほどではないがそれでも素晴らしい
華やかさ。強い南風に花弁を震わせている。その横にはムシカリの白い装飾花がコラボレ
ーション。
花束状態のツクシシャクナゲ

 赤ー山へ続く台高主稜を右に過ごす。全く誰もいない。景色は独り占め。静かなものだ。
音といえば木々の梢を騒がす強い風の音と、小鳥の鳴き声のみなのである。ヤマガラ、セ
ンダイムシクイ、ツツドリ、シジュウカラなどなど。訪れる人も少ない野鳥の楽園である。

アケボノツツジ。結構、大木だ

 もう少し先まで行って見る。ツツジというと私達は平戸ツツジを思い浮かべてたかだか
1.5m程度の樹高を想像するけれど、なんの、なんの。5m以上はある木もある。シロヤ
シオも直径20cmのものもあって、本当にこれがツツジと思ってしまいくらい。そのアケ
ボノツツジの特長は花の奥行きが他のツツジに比べて浅いことだろう。ちょっとホルンの
ような形状をしている。そこで失礼して裏から写させて貰ったのが下の画像だ。

アケボノツツジ

アケボノツツジ。失礼して背後から見るとこんな感じ

 再び戻った千石山山頂。ここはいつも風が強い。前回来た時も北斜面に風を避けて食事
した覚えがあるが今日も同様。2mほど下った棚のようになった部分にザックを下ろす。

 ゆっくり稜線を引き返す。深い谷に張り出した崖に飛び出すアケボノツツジ。登山道の
外れ。気がつけばあちこちに咲いている。それに混じって妍を競う濃い赤紫のミツバツツ
ジ。こちらもなかなか華麗なものである。ふと気付けば白いワチガイソウ。そういえば一
昨年も見つけたのだった。
深い谷への斜面に張り出して咲くアケボノツツジ

崖に咲くミツバツツジと薊岳(中)、木ノ実ヤ塚(左)

 登ったり下ったりと、数えれば6、7つのピークを超える。累積すると結構なアップダ
ウンになる。心地よい疲れに、たびたび振り返りながらブナ林を抜けて最後の明神岳の登
り。相変わらず誰にも遭わない台高縦走路である。

芽吹き始めたブナ林の向こうに明神岳が見える

 バイケイソウの斜面を明神へ降りて行く。30名くらいの団体さんがいるようだ。幸い
下山を始めて、降りた時には東屋には誰もいない。コーヒーでも飲もうと水を沸かしてい
る間、独り占めの縁台に仰向けになる。

 もう誰もいないだろうと周囲を見渡すと水無山から降りてくる1名、三ツ塚方面の斜面
に1名の人影がある。それにしても静かだ。20分ほど寛いでそろそろ腰を上げる。

 団体さんが出発して大分経ったと思ったが、馬酔木山荘跡の渡渉地点で手間取っている。
最後の渡渉地点でも手間取っていたけれど、けだしロープに体を預けすぎ。案の定、バラ
ンスを崩してひっくり返った人がいた。30名もいると技量の差は大きく、大又林道を車
で追い抜いた先頭と思われる人たちとは優に2kmくらいの差があったのではないだろう
か。こうなるとリーダも大変だろう。

 3時半。まだ5、6台の車がある駐車地に戻ってくる。どこやらでは真夏日だったそう
で、明神平も23℃と暑いくらいだったが稜線は涼風が吹き抜けて最高の季節。目当ても
見物できて目出度し目出度し。渋滞もなく5時半帰宅する。久しぶりの台高。シャワー後
のビールが美味いなあ。



【タイムチャート】
7:00自宅発
8:55〜9:05大又林道終点(駐車地)
9:40〜9:45キワダサコ
9:55明神滝
10:40〜10:46明神平の東屋
11:00〜11:05明神岳(1,432m)
11:26〜11:27笹ヶ峰(1,367m)
11:40〜11:42千石山北峰(1,325m)
11:58〜12:45千石山(奥ノ迷峰)(1,380.3m 三等三角点)
13:06千石山北峰(1,325m)
13:24〜13:26笹ヶ峰(1,367m)
13:54明神岳(1,432m)
14:11〜14:30明神平の東屋
14:57明神滝
15:35大又林道終点(駐車地)



 千石山(奥ノ迷峰)のデータ
【所在地】奈良県吉野郡東吉野村、三重県松阪市飯高町
【標高】1,380.3m(三等三角点)
【備考】 台高山脈の中央部、明神平と赤倉山の中間に位置する山
です。山頂から東峰にかけてはシャクナゲ、アケボノツ
ツジの古木が多く、5月のシーズンにはピンクの花が咲
き乱れます。明神平からは約1時間強の行程です。
【参考】
2.5万図『大豆生』



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