大御影山から三重嶽北尾根環縦走

三重嶽北峰から三重嶽三角点峰(左)北から来ると山名の由来がわかる

平成21年 6月14日(日)
【天候】曇りのち晴れ
【同行】みずたにさん


 百名山とかあんまり興味はないとはいいつつも、やはり根が小市民。○○と大義名分を
つけられると、いきおいそこへ出掛ける回数は増えるようだ。江若国境の中央分水嶺を7
0kmもつなぐ高島トレイルもその一つ。江若国境は擦れていない山が多く、いい山を教え
られれば、以前もちょくちょく登ってはいたが、高島トレイルが指定されてからは出向く
回数が増えた。そんな中で三重嶽北尾根はまだ未踏の尾根。今回は懸案のこの北尾根を歩
く。

 高島トレイルは概して交通の便が悪く、必然的に車を利用することになるのだが、1台
だとどうしてもピストンにならざるを得ない。今回はそれを林道で補って周回できるよう
にMさんが考えた。即ち、抜土から大御影山を経て近江坂を進み、ジャンクションピーク
から三重嶽北尾根を南下して三重嶽に達した後、東の本谷へ下るというものだ。本谷〜抜
土の林道歩きが8kmと少々長いが、如何せん林道は一般車車両通行止なのだ。

 早朝5時過ぎ。新聞を取りに外へ出るとどんよりとした空。朝食中、なんだか音がする
ので窓を覗くとアレレ、屋根が濡れているではないか。機先を制せられるとはこのこと。
単独なら一気にテンション低下で出掛けるのに二の足を踏んでいたろう。幸いにわか雨。
集合の6時には上がってくれた。

 休日は高速が安いということで敦賀ICから西に向かう。嶺南変電所方面に折れて最奥
の集落松屋からうねうねと長い林道を登った所にある、この日の出発点、抜土にはこれで
3度目の訪問だ。峠には車もなく、ヤマボウシ、エゴノキの白さだけが目立つ。8時50
分。予定より少し早い出発だ。通行止ゲート横を通ってしばらく、大御影山登山口の木札
が置かれた繁みから取り付く。ここを歩くのは1年ぶりであるが、所々不明瞭だった踏み
跡が際立つようになっている。歩く人が増えた結果だろう。

登山道の泥濘に残っていた足跡。熊の前脚?

 雨でジクジクしたそんな明瞭な山道をつづら折れに登っている時だった。長さ10cm位
の手の平状の足跡が泥の地面にくっきりと残っているのをMさんが見つける。犬でもなさ
そうだし、スワッ!熊?新しそうだしまだその辺にいるのじゃないか?が、結局、正体は
不明のまま。なんの異変も起こらなかったのにはホッとすべきか、残念というべきか。

 一気に斜面を登り、尾根に出てしまうとあとは楽。緩々と気がつけばいつの間にか高度
が上がっているという具合。深く洗掘された古道が現れて尾根を伝う。コアジサイの香り
が漂うブナやミズナラの林のグランドカバーは、艶々の若緑が光るオオイワカガミ、イワ
ウチワ。いつ訪れても雰囲気のいい林だ。あれだけあったカタクリはもう葉の形も残って
いない。来年に向けて土の下で英気を養っているのだろう。

 810m標高点辺りまで来ると右手に大御影山へ続く尾根がはっきりしてくるのだが、
今日はガスっぽくはっきりしない。しかし小鳥は天気の回復を知っているのか、しきりに
鳴き交わし、コマドリやオオルリなんかも混じっているようだ。40分も歩くと大御影山
への登山道と合流する。小休止。ミニ大福を一口。エネルギー補給。

 大御影山への登山道はもう大通り。5月上旬ならカタクリの咲き乱れる場所でもある。
今はサラサドウダン、ヤマボウシが主で、ブナ、ミズナラ、ハウチワカエデの緑が美しい。
その梢で怪しい2人を監視しているのかしきりにコゲラの警戒音だ。時折、腹に響く重低
音の連続音は自衛隊演習地からのものであろう。これだけはちょっと無粋だ。

 歩いている内にガスも消え薄い青空も見え始めて視界も回復してくる。見慣れた大御影
山の山頂に着く頃にはほぼすっきりと明るくなってきた。赤い苞のヤマボウシが満開であ
る。
大御影山山頂に咲いていた赤いヤマボウシ

 先は長い。10分ほど憩って近江坂方面へ向かう。バイケイソウが咲く中を左に反射板
を見ながら進むとなんだか若い男の人の話声がする。「誰か歩いてる」と向こうも驚いて
いたようだったが、こちらも誰もいないと思っていたので少しビックリしたことだった。

近江坂古道

 ハゲノ谷、白谷の私製道標を見送って、西の斜面を降りて行く。昔ながらの道は優しい。
距離は長くなるが急坂はつづら折れ、傾斜に逆らわず疲れない。人間よりも荷物を運ぶ馬
などが疲れないように配慮したのだろう。ブナなどの自然林の中を深く掘れた小道が降り
てゆく。三重嶽北尾根との間の最低鞍部はほぼ標高740mだから200m程度下らねば
ならない。新庄分岐を過ごして本谷の源流部を西に見ながらの明瞭な尾根上はブナ並木。
鹿の鳴き声がする。静かだ。尾根が西に向い始めるとジャンクションピークへの登りが始
まる。いかにも山奥に来たという感じがして、この辺りの広葉樹林もいい。

 もっと急登だったはずと思っていたら、スーッという感じでジャンクションピークに到
着だ。大御影山から50分の行程。只今、11時10分。北に行けば大日尾根、南に行け
ば今日の目的地の三重嶽北尾根だ。そうそう前回はここで昼食だったのを思い出す。若干
シャリバテ気味だが今津山上会の道標は三重嶽まで3.6kmと示している。正午までま
だ時間もあるし、路程をもう少し稼いでおこうということになる。さてもこの先どんな尾
根だろうか。『三重嶽入口』と書かれた案内標識が興味を掻き立てる。ここからは江若国
境から離れて滋賀県である。

ジャンクションピークから三重嶽北尾根へ
三重嶽入口の指導標が期待を高める

 大日尾根のブナ林を予想していたが、実際は少し違った。どちらかといえば湖北武奈ヶ
岳からの尾根やここから西の三十三間山の北尾根に近い感じがする。太い木はなく冬の季
節風で南東に傾いだユズリハやナラ、ムシカリなどが繁る適度にワイルドな尾根である。
明快な道はないものの、ほど良く人の手が入っている。背の高いブナも少なく、根元から
株立ちしているものが多い。雑木も前述のように傾ぎつつ、すべて根元で曲っているのは
雪の深さを物語っているのであろう。ジャンクションピークからすぐに858m標高点。
ほぼ南に続く非常になだらかな尾根が889mピークに来ると二つに別れる。中央にラン
ドマークの様な大きな株立ちのブナ。東側が少し開けて大御影山の姿がある。地形図を確
かめると南西の尾根に点線路が書かれている。少し探索を試みたが廃道なのか踏み跡は消
えているようである。
889mピークのランドマークの株立ちブナ

 南東側の尾根を少し下った鞍部から再び登り基調。が、ほとんど高低差がないので予想
より距離がはかどる。思ったより早く次の標高点887mピーク。三角点に似た石標があ
る。良く見ると造林公社か何かのものらしかった。

943m標高点ピークの北の裸地から大御影山
山頂の反射板がないとどこが山頂だか

943m標高点ピークの北の裸地に出た。東にほんの数時間前まで歩いていた大きな台地
のような大御影山の尾根が一望できる。反射板がなかったら何処が大御影山か分からない。
山腹が所々白いのはヤマボウシのような白系統の花が咲いているのだろう。裸地からやや
登ると943m標高点ピークで、ここまで来てやっと三重嶽がと思ったら、それは手前の
偽ピークなのだ。周囲はシダの荒地なので登る毎に視界が開けてくる。西に天増川渓谷を
隔てて三十三間山から轆轤山に続く山並み。東に大御影山。北には雲谷山というシチュエ
ーション。
三重嶽北峰から三十三間山(右)

 展望を楽しみながら偽ピークを越えると、東側にようやく三角点峰が姿を現す。こちら
側との間には擂り鉢状の窪地があり、幾つかの小さな高みが重なっていて、山名の由来も
かくやと思わせるものがある。窪地に向ってシダの低い繁みの中に小道が続き、三角点峰
を巻くように進むが、この辺りは霧が出ると分かりづらかろう。10分足らずで大きなブ
ナのある湖北武奈ヶ岳からの見覚えある縦走路と合わさって、そこから100mほどで三
角点に到着だ。以前あった木の櫓はなくなっていた。

 三角点付近の裸地には誰もいなかったが、日差しを避けるものがないので登山道を20
m程戻った木立の中で昼食とする。やたらハエが多いのには閉口する。

 30分程度の我々の食事の間にやって来たのは、ツアーらしい10名位の団体と男性2
名のパーティ。昔は交通の便も悪く、ササのブッシュに覆われたマニア好みの山と聞いて
いたけれど、今は登りやすくなったものだ。

 下山は本谷橋へ。山頂を横切って、以前歩いた南東尾根を辿る落合分岐を右に過ごして
直進する(標識あり)。すぐに低木の繁る下り坂で木々の間に人が歩ける空間がある。地
面には頭が赤い黒プラ杭が埋まっている。やがて尾根がはっきりしてきてブナの林が現れ
る。冬の季節風が直接当たらないのだろう。北尾根に比べて背が高い素直なブナである。

本谷コースの素直なブナ林

 能登又谷分岐は潅木帯の中の裸地で、標識はないが目立つテープもあって非常に分かり
やすい。その分岐を過ぎて暫く進んだ頃だったか、何度目なのかまたゲラ類の警戒音が聞
こえてくる。立ち止まって多くの穴が開けられたブナの木を静かに見上げていると、黒白
まだらで頭が赤い大きな鳥が5m位上の幹に掴まるや否や、我々に気づいたのか慌てて飛
びすさる。アカゲラだ。あんなにはっきり見たのはこれが初めてだったからなかなか感動
ものであった。

 狭まった尾根にはホンシャクナゲの群生している。もう花はないが、展開した新葉の黄
緑が奇麗である。この頃になると下から沢音が響いてくる。真正面は大御影山の山塊で稜
線はもう遙か上。裾を林道が巻いている。あそこを歩くのか、ゴールまで長そうなどと思
いつつ、傾斜を増した小道を立ち木に掴まりながら下って行く。道は尾根の突端までは行
かず、左に折れてジグザグ道に誘っていく。沢音は益々高まり、最後は若い植林の中に出
て、小さな小川に懸かる丸木橋を渡ると三重嶽登山口の道標が立つ。予想よりも随分早く
14時前に無事下りてくることが出来た。フーッ。あとは林道をテクテクひたすら歩くの
み。だがこれが長かったあ。(^^;

降りてきた本谷登山口

 北へ向って歩く。何だか足が重い。疲れているのか。それもあるかもしれないが、ふと
本谷の流れを見ると逆方向に流れているではないか。上流に向って歩いているのだから足
が重いはずだ。(^^; しかも大御影山の登山道が林道を横切る所は標高800m。高低差
は300mくらいもある。嗚呼、下山後に又登らねばならないとは非常にきつい。しかも
日陰に廻り込むと涼しいのだが日の当たる場所は暑い。山を歩くより余程疲れるわ。

林道から降りてきた尾根を見る。右の尾根から
下の重機の見える広場に下りてきた(上の画像)

 もっと荒れた林道だと思ったら全く荒れておらず、所々砂利まで入れて整備してある。
通行許してくれたらいいのにねえ。直ぐに本谷橋。ガードレールが橋の欄干だ。(笑) ぐ
るりと廻ると眼下に三重嶽の歩いてきた尾根。なかなかに険しい。林道左手の山裾にテー
プがあるのは、857m標高点のある大御影山南尾根を登るコースらしい。と、周囲を良
く観察しているように書いているけれど。この辺りが一番しんどかったみたい。足の付け
根が少し痛む。しかも暑い。日陰は気持ちいのだが、日なたはもう暑くて、暑くて。

 コアジサイが非常に多い林道だ。山側の崖が一面、コアジサイという部分もある。お蔭
で芳香が風に乗ってくる。そんな慰めもあるが、もうひたすらテクテク歩くのみ。1時間
近く歩いてようやく大御影山の登山口に到達する。ここを越えると後は下りなので一気に
楽になった。右手に大谷山や野坂山地の山並みを眺める余裕も出て、40分ほどで抜土へ
戻る。やっぱり車は我々のもののみ。ガスの取れた峠はエゴノキ、ヤマボウシの白い花が
鮮やかでした。



【タイムチャート】
6:00自宅発
8:45〜8:50抜戸(駐車地)
9:22810m標高点
9:30〜9:36大御影山登山道出合
10:11〜10:20大御影山(950.1m(三等三角点))
10:35近江坂(新庄分岐)
11:10〜11:20ジャンクションピーク(Ca850m)
11:23858m標高点
11:36〜11:40889m標高点
11:57887m標高点ピーク
12:13943m標高点ピーク
12:33湖北武奈ヶ岳コース出合
12:35〜13:00三重嶽(974.1m(三等三角点))
13:20能登又谷コース分岐
13:45本谷登山口
13:49本谷橋
14:39〜14:43大御影山登山口
15:25抜戸(駐車地)



大御影山のデータ
【所在地】滋賀県高島市、福井県三方郡美浜町
【標高】950.1m(三等三角点)
【備考】 湖西最奥の江若国境上に位置する山です。展望も良く、
山頂や関電反射板付近からは雲谷山、野坂岳などの若狭
の山々や日本海、南は三重嶽、比良と山深さが実感でき
ます。また近江側の麓の酒波寺から若狭に抜ける近江坂
の古道が通じており、山頂付近一帯は第一級のブナ林が
あり、春にはカタクリ、イワウチワ、イワカガミが咲き
乱れる花の山でもあります。
三重嶽のデータ
【所在地】滋賀県高島市
【標高】974.1m(二等三角点)
【備考】 湖北の最高峰で、三十三間山の東方にあり、四方に顕著
な尾根を持つ中央分水嶺を形成する山です。最近まで藪
山でしたが、地元の方々の努力で登山道が開かれ、現在
は高島トレイルとして整備されています。但し、山頂は
台地状を呈しており、霧など天候が悪い時は方向が不明
瞭となり注意が必要です。
■近畿百名山
【参考】
2.5万図『熊川』、『三方』



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