東大台でグリーンシャワー

日出ヶ岳
平成21年 5月31日(日)
【天候】雨のち曇りのち晴れ
【同行】単独


 予報どおり日曜は早朝から雨だ。昨日の夜から何処に行こうかつらつら考えていたけれ
ど、久しぶりの東大台が頭に浮かんでいた。今まで大台ヶ原というと格段に人の少ない西
大台ばかりだったが、その西大台の入山が制限された昨今は、観光化した東大台には足が
遠のいていたのだった。それが朝の雨に機先を制せられて、出足が鈍るのではないかと期
待したわけである。しかも雨は9時頃には上がって回復という。もってこいのシチュエー
ション。(^_^/ 雨模様でこちらのテンションさえも下がり気味だったが、ガスの幻想的な
大台、快晴の大台、そして人もそれほど多くもなく、ほぼ当初の目論見通りとなって思い
切って訪れた甲斐はあるというものでありました。

 豊中では雨も上がって六甲も良く見えていたが、奈良に入るやワイパーフル稼働のえら
い降りだ。大台は名うての多雨地帯。もう諦めて帰ってしまおうかななんて幾度か頭をよ
ぎる。その都度まあとりあえずと車を進める。大台のドライブウェイに入ると猛烈な白い
霧。視界は20mくらいだろうか。ところが伯母谷の休憩所でトイレ休憩していると、2、
3台の車が上がって行くではないか。好き者はやっぱいるんだなあ。自分の事は棚に上げ
て感心するやら呆れるやら。(^^; 駐車場には9時20分頃着いたが。本来はもう満杯に
近いはずが、大体五分位の入りか。ウムウム目論見通り。しかもピタッと計ったように雨
も上がる。しかし好事魔多し。準備をして、さあ車をロックしてと思った瞬間。あれっ?
キーがない。ベストやズボンのポケットやザックの中、リアゲートの内、シートや車体の
下。あちこち捜すが見つからぬ。落ち着いて落ち着いて。車はここにあるのだからさっき
まではキーがあったはず。そこで自分の動きを逐一再現してみる。キーを抜いてそれを持
って...。助手席側へ廻って...。置いたザックに弁当と茶を詰めて...。その時
キーはと...。ふと見るとボンネットとフロントガラスの間に...。

 ホッ、溜め息を吐く。出発前で良かった。気づかずに戻ってきた後なら、途中で落とし
たのではないかと思っただけでもしんどいことになっていたかも。それにしても、あきま
へんなぁ。コロッと忘れているんだから。抜いたらすぐにポケットに入れるなり常に肌身
離さずを守らねばと肝に銘じた次第である。下らぬことで30分近くも貴重な時間を浪費
してしまった。気を取り直してあらためて出発。今日は長靴で行ってみよう。

東大台の遊歩道入口。熊注意の看板が見える

 大台に来たからにはやっぱり最高峰へ登らにゃ。というわけで大台荘の横から日出ヶ岳
コースを行く。「大台ヶ原はクマの生息地域です」の注意書き。人の多い所でなら一度お
遭いしてみたいものだとノー天気な事を考える。苔探勝コースを左に過ごしてよく整備さ
れた遊歩道を行く。霧が流れる幻想的な風景。雨上がりでしきりに野鳥がさえずっている。
今のはミソサザイだろう。ほとんど勾配のない道。雨でよりみずみずしさを増した木々の
間に細かい水滴を一杯につけた奇麗なクモの巣がある。良く見ると家主は体長5mm程度
の小さなクモだった。思わずパチリ。
一幅の山水画の世界(日出ヶ岳への遊歩道から)

獲物より霧滴を捕らえた見事なクモの巣

 深い底から水音が聞こえていた右手の谷が徐々に近づいてきて、すぐ横を水が流れるよ
うになる。コバイケイソウが青々とした幅広の葉を展開している。左手の斜面を自然保護
に配慮した遊歩道と説明のある階段道を登り始める。ジグザグに高度を上げて、前方が明
るくなるとT字路。俄かに人通りが増える。

 海の見える展望台。以前来た時はこんな展望台はなかったよな。日出ヶ岳の手前300
mくらいな所に、木製のデッキテラスの様な立派な展望台が出来ている。雲で生憎、海山
町の海岸線は見られないが、日出ヶ岳の斜面にピンクの彩りはアケボノツツジらしい。望
遠をつけたデジイチを抱えた小父さん、大蛇ーでは盛りだという。そりゃ楽しみ、後で行
って見ます。ところでこの辺りのシロヤシオはまだ蕾。ちょっと早まったかな。いやいや、
後刻、運良く旬に出くわしたことに気付くことになる。

 木製の階段をエッチラオッチラ。日出ヶ岳も展望台が出来ていてびっくり。人出は20
人くらいか。黒山というほどでもないし、この時期にしては少ない方だろう。但し展望は
今いち。三津河落山もガスが東南から次々湧いて半分しか見えないが、この光景を見て、
図らずも大台ヶ原が多雨地帯であることを垣間見た思いがする。即ち東南の海側から水分
の多い大気が山にブチ当たって雨を降らせるメカニズムだ。これこそ生きた教材といって
もいいだろう。さて、一等三角点にタッチして正面に見える正木ヶ原方面へ行こう。

満開のシロヤシオ

 展望台を過ぎて正木嶺へ。この辺りはシロヤシオのトンネル。蕾のものも多いが、満開
のものも混じってまちまちだ。その間を行く完全整備の木道の階段には所々休憩スペース
があって、幾組かのパーティ立ち止まって楽しんでいる。

 いったん登りきって潅木帯を抜けると、トウヒやモミの白骨木が累々の正木ヶ原。ヒメ
ザサの原を木道の階段は上がり下がりする。数年前より更に明るく広くなってしまった感
じがする。自然災害に酸性雨、増えすぎた鹿の害の影響だろうが、こうまでなるともう昔
のような針葉樹の森の戻るのは無理ではないだろうか。

正木ヶ原

 再び、潅木帯に入り脱け出した所が牛石ヶ原で、神武天皇の大きな像が牛石と思しき岩
の上で南を望んでいる。ここもヒメザサがはびこり、予想異常に乾燥が進んでいる印象を
受ける。その左手のヒメザサの平原に一つ、こんもりとした木があって、まるで緑の海に
浮かぶ島のような風景なのが面白い。
ヒメザサの海に島の様に木が浮かぶ(牛石ヶ原)

 野鳥観察の一行の脇を抜けて、大きな石がゴロゴロする道を進む。駐車場へのショート
カットがあるのが尾鷲辻。雹が降ってきたので慌てて避難した覚えのある東屋が立つ。確
か尾鷲辻を示す道標があったはずだがなくなったのかみつからない。ほとんど廃道化して
いるので、迷い込まれるのを嫌がってのことかもしれない。

 東大台に来たならやっぱり大蛇ーには行かねば来た甲斐がない。大蛇ーの辻には300
mと標識にはあるが300mも距離はなかろう。その半分くらいではないか。ゴツゴツし
た岩の道。ミズナラの巨木の先辺りからはアケボノツツジ、シロヤシオ、ヤマツツジ、シ
ャクナゲなどツツジの仲間のコラボレーションだ。もっともツクシシャクナゲはほとんど
終わり加減だが。ところで大台のアケボノツツジだが、良く見ると花色は同じようなもの
の、四国や先々週に見た千石山のそれより小ぶりで、花筒の奥行きも深い。どちらかとい
えばシロヤシオの花の形に似ているように思える。素人考えだけれど、シロヤシオに対し
てアカヤシオといった方がいいような気がするが如何なものだろうか。ネイチャーセンタ
ーではアケボノツツジとあったので、ここではそれに従うことにしよう。

アケボノツツジの向こうに中ノ滝

 さて、大蛇ーの先端まで行ってみよう。おや、意外。誰もいないじゃないか。しめしめ。
長靴なので滑って転んで柵をすり抜けてでは洒落にもならないので、三点確保で最先端へ。
ウーッ。いつ来ても思わず○○が上へつりあがるような高度感だ。緑に覆われた深い東ノ
川の渓谷の対岸は竜口尾根。西大台を歩けば尾根の付け根手前付近にある展望地からこち
らを眺められる。双眼鏡があれば大蛇ーの上の人影まで分かるくらい真正面だ。その向こ
うには晴れていれば大峰山脈がずらりと居並ぶのだが残念ながら雲の中。しかし雨で水量
の増えた中ノ滝が豪快。エアリアマップでは落差245mとなっている滝であるが、こち
らから見えている部分だけでも水が落下するのにおよそ5秒を要している。単純に考えて
も見えている部分だけで落差100mはある計算だ。その左に見えている西の滝も100
m以上の大瀑である。そして南の方に目を転ずれば、東ノ川の下流遠く、坂本ダム湖の最
北端にあたるコバルト色の細長い水面が望めた。

大蛇ーより不動返しの尖峰

 ひとしきり眺めを楽しんだ後、名古屋弁のグループがやってきたので場所交代。少し戻
って山道から逸れ、蒸篭ーを正面に見る岩の上で食事とした。目の前にアケボノツツジ。
その向こうが蒸篭ー。大峰方向も見えて、いや絶景かな、絶景かな。

アケボノツツジと蒸篭ー

 食後のコーヒーも飲んで午後の部へ。大蛇ーの辻からシオカラ谷方面へ進む。シオカラ
谷ってこんな急だったかなあ。そうそうこの前来た時は流れの横で食事したんだっけ。お
ぼろげながら記憶が戻ってきた。ツクシシャクナゲの林の中の急降下は大きな石の転がる
道。おまけに濡れているときているからまことに歩き難い。肝腎の花はもうほとんど終わ
り加減で、咲き残っているものも少々痛んで花びらの縁が茶色に変色した花が多い。一旦、
平坦になった道は方向を変え、再びゴロゴロ石の急降下となって谷底へ下っていく。流れ
の音が次第に近づいてくる。白っぽい岩の間に清冽な水が見えてきたと思ったら吊橋が現
れた。河原で休んでいるハイカー2、3人。

 谷底からは今度は150mくらいのきつい登り。この辺りではヤマツツジの真紅が目立
つ。巻き上がるように一気に上がるとこれまた階段道が現れた。これがかえってきつい。
立ち止まっては「フーッ」。それも笹原の斜面に出ると針葉樹林の向こうに建物が見えて
きた。

 若い女性がパンプス姿のカップル。おい、おい、日出ヶ岳や尾鷲辻方面ならまあ問題な
かろうが、シオカラ谷は人頭大の石の転がるガラガラ道でっせ。少しその靴ではしんどい
のでは...。と思うがねえ。まあ注意したところで「ほっといて!大きなお世話や、こ
のお節介!」といわれるのがオチだから心の中で思うだけにしておこう。(^^;

 大台山の家との分岐を左へ。西大台の規制地との境を進むと駐車場が見えてきた。探勝
を終えて憩っている人多し。こちらも自車横にザックを下ろして茶を一服。途中で遭った
野鳥の会の人達も戻ってきているようだ。何年ぶりかで歩いた東大台は文字通りのグリー
ンシャワー。ネイチャーセンターに少し寄って帰途につく。ツツジ科の競演も堪能させて
もらい、後半は青空も顔を出し、結局、来る途中で戻らなくて良かったことだった。ほん
とに山は現地まで行かないと分からないものです。(笑) 



【タイムチャート】
6:20自宅発
9:20〜9:50大台ヶ原駐車場(駐車地)
10:25〜10:33海の見える展望台
10:40〜10:50日出ヶ岳(1,694.9m 一等三角点)
10:55海の見える展望台
11:02正木嶺
11:30尾鷲辻
11:42牛石ヶ原
11:48大蛇ー分岐
12:00〜12:05大蛇ー
12:15〜12:50大蛇ー手前の岩(昼食)
12:56大蛇ー分岐
13:25シオカラ谷吊橋
13:57大台ヶ原駐車場(駐車地)



 日出ヶ岳のデータ
【所在地】奈良県上北山村
【標高】1,694.9m(一等三角点)
【備考】
近畿の屋根、大峰山脈の東に並行して走る台高山脈の南
部を形成する大台ヶ原の主峰です。大台ヶ原は高原状の
地形をなし、屋久島と並んで日本一の降雨地帯で、その
降雨量は年間5000ミリといわれ、一日で1000ミ
リ以上降った記録もあるようです。動植物も豊富で、現
在もシカ、ツキノワグマ、タヌキ、ニホンザル等が生息
しています。尚、傘の用意も忘れずに。小生は5月に雹
に降られた事があります。
追伸:西大台は保護の為、入林が予約制になりました。
【参考】
2.5万図『大台ヶ原』



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