小野村割岳から天狗岳南尾根逍遥


板取り跡の残るアシウスギ
平成21年 9月19日(土)
【天候】晴れたり曇ったり
【同行】別掲


 由良川の源流域はいまだに京都北山の静けさを味わうのにいい所。その中でも小野村割
岳は府道の通過する佐々里峠からアプローチでき、最近は歩かれる事が多くなっているよ
うだ。その小野村割岳を2年ぶりに歩こうと朝6時出発。前回は広河原から桃ノ木谷を経
るちょいバリルートだったけれど、今回は一応エアリアマップに記載があるルートで、『
京都丹波の山』の著者の内田嘉弘さんも辿ったコースだ。(笑)

 6時に出発して8時過ぎ、広河原下ノ町からワサ谷を遡行する林道に入る。林道は草む
して、荒れた部分もある一車線。とても四駆ならでは走るのが無理な完全なダート道。ガ
タガタ揺られてなんとか二番目のゲート前まで入る。周囲は北山杉の美林、ちょうど地形
図の594m地点だ。小さいが車の回転場もある。

出発点の早稲谷林道の第二ゲート

 準備を終えて、鎖の懸かるゲート脇を抜け、ワサ谷の流れを渡ると、林道は右に折れて
谷の右岸を遡って行くようになる。周囲は杉の植林帯、斜面にはアシウスギの枯れ株が散
見され、谷沿いにはサワグルミやトチノキが多く、時折、カツラの木のバニラに似た甘い
芳香が漂う。林道脇は名も知らない雑木とともにベニバナボロギクがはびこっている。こ
れ食べられるんだそうだ。

 林道は徐々に高度を上げていき、やがて布引の滝とでも云おうか、細いが高さが15m
くらいの滝を見る。林道の分岐があるが左を選択、ガラガラ道を進めば、ゲート地点から
40分ほどで林道終点に到達する。コナラらしい大木に「小野村割岳登山口」の小さなプ
レートが懸かる。
林道終端の登山口.白テープが見える

 踏み跡は林道終点の右手の露岩から始まる。左手は小さな沢である。岩を越えると沢の
小さな流れを横切って向こう岸の斜面の突端に取り付くことになる。大きなアシウスギが
門番のように立っている横、最初は2箇所ほど虎ロープのある急登だが直ぐに納まる。そ
の後、イワウチワの群落が目立つ尾根を行くしっかりした道は杉林の下だ。そうして10
分もせぬ内にもうあっけなく、見覚えのある赤い郵便受が置かれた小野村割岳の山頂であ
る。9時半過ぎ。勿論、誰もいない。

 赤い郵便受には「山ノ神さん、ありがとう」の文字がある。確かに今日も愉しんで歩か
せてもらいますって感じだ。(笑) これを書いたUさんの文字は、この後も度々目にする
ことになる。
小野村割岳の名物赤ポスト

 小休止後、東の尾根続きに向う。指導テープも小野村割岳の西側に比べれば格段に少な
く踏み跡も薄いが、ヤブがないので歩き易く、ナナカマド、コナラ、リョウブ等の雑木尾
根だ。やがて尾根はやや南に振り始め、小さなコルに出る。そのまま何の疑いもなく目の
前の斜面を登ると青いテープが現れた。ところがこれを信じて進んだら、何だかどんどん
下っていくような...。そして下りの傾斜が更に増していく。これはおかしいとコンパ
スを取り出す。「あれっ?」いつのまにか北方向を向いているではないか。引き返して左
(東)方向にトラバースして行くと薄い踏み跡らしきものが現れ、これに乗っかるとはっ
きりした水平な踏み跡に出遭った。道なりに進めば自然に南向きの尾根。転換点を示すら
しい赤い二重テープを見つける。951mピークへの尾根に復帰したようだ。

 考えてみれば今回ここが最も間違い易い所であった。先程の小さなコルは地形図には現
れない小さな窪みで、地形図のコルと思い込みやすい地形をしているのだ。コンパスを出
して冷静に考えれば、南側がまだ低くなっているのでおかしいと気付くはず。本来はここ
が南東から南への屈曲点なのだが、我々のようについ目の前の高み(東に当たる)に誘わ
れると次第に北へ振った尾根に乗せられて逆方向に下っていくことになるのだ。しかも由
良川源流を探訪する沢屋のものらしい青いテープがあるから余計始末が悪い。『京都丹波
の山』を読むと、内田さんでさえ、北のカヅラ谷へ引き込まれそうになったという。まし
てや我々をや、というところか。(笑)

 さて、この難所?を越えると後は明瞭な尾根である。尾根に立ちはだかる大きなアシウ
スギを迂回すると、なんと裏側(南側)に縦2m、幅50cmほどの大きな板取り跡があ
るではないか(冒頭の画像)。板取り跡はこの近くの芦生の廃村灰野と佐々里峠を結ぶ山
道で見たことがあるが、重さは何kgあるんだろう。昔の山仕事の苦労が偲ばれる。

 それから間もなくの951m標高点ピークは市境尾根(旧城丹尾根)からは少し引っ込
んだ、丸い感じで疎らな雑木と杉に囲まれたピークだ。「951P」と書かれた小さなプ
レートのみが梢に懸けられている静かな場所である。

天狗岳南尾根はこんな感じ

 951mピークから元来た方へ少し戻ると北に延びる尾根がある。しばらく北上したあ
たりには今回出遭った中で最大のアシウスギがどっかと腰を下ろしている。幹廻りは10
m近いのではないだろうか。赤崎中尾根の巨樹に匹敵する大きさである。樹勢も旺盛なよ
うでこのままの勢いを維持して貰いたいものだ。

今回最大のアシウスギ

 実は手元にある98年版のエアリアマップではこの付近の尾根に関しては、小野村割岳
から951m標高点まで2時間だとか、天狗岳まで12時間などと、とてつもない時間が
記入されている。当時はササの猛烈ブッシュであったのだろう。だが今はササがほとんど
枯れて全くブッシュがない。ササが往時の勢いであれば、古いエアリアマップの表示通り
非常に歩きにくいだろうと思わせる痕跡だけだ。とはいえ、927m標高点ピーク近くは
往時のブッシュを髣髴とさせるように、枯れた茎が邪魔をして少々歩きづらい。その中、
右手に見えてくる高みが927m標高点ピークで、GFCの赤白標識と簡単な地図がぶら
下がる地点から東に少し登った所にある、大きなアシウスギが中央に立つ小さな切開きで
ある。ここも天狗岳南尾根の主稜線から少し離れており、東に向う薄い踏み跡もあって、
よく見ると久多峠に至るとKGCの小さな私製プレートがあったりする。ヤマボウシの赤
く熟した実がそこここに落ちている下で大休止だ。

アシウスギが立つ923m標高点ピーク

 山仕事に便利な場所なのか丸太が転がっていたりするので、それに腰掛けてのランチタ
イム。太平洋上にある台風の所為か強い風に木々の葉は白い葉裏を見せている。じっとし
ていると寒いくらいなのだが、青空が広がってバアッと陽射しがあると暑くなる。まだま
だ残暑厳しく、直射日光には強いものがある。

 923mピークを辞して往路を戻る。右手(西)に天狗岳に繋がる尾根。前方右手は小
野村割岳に連なる尾根だ。それに囲まれたのがカヅラ谷。由良川の源流だ。とすれば今歩
いているのは市境尾根でもあるのみならず中央分水嶺でもあるのだ。それを思うとなんだ
か由緒ある尾根に思えてくるから面白い。

 戻ってきた小野村割岳だがやっぱり誰もいない。シルバーウィーク第一日。みんな遠出
をしているのだろうか?少し憩った後は往路を戻る。始めて来た時もいい道があるなと思
っていたけれども、ワセ谷の林道突端に繋がっているとは今日初めて知った。ほんの15
分足らずで林道突端。小野村割岳へ登るには最短コースに違いない。もっとも林道歩きが
長いけれど。(笑)

 林道始端の民家のおばさんに声をかける。あべこべに早稲川の向いの畑で獲れたきゅう
りまで頂く。イボイボが痛いくらいでサラダにして夕食にいただいた。この紙面を借りて
有難うございました。

 他の登山者には誰ひとり遭わなかった静かな天狗岳南尾根。雑木尾根逍遥の一日でした。



■同行: たらちゃん、みずたにさん(五十音順)

【タイムチャート】
6:00自宅発
8:30〜8:38594m標高点地点(早稲谷林道ゲート前(駐車地))
9:20小野村割岳登山口
9:33〜9:40小野村割岳(931.7m(三等三角点))
10:38小野村割岳と951m峰の間のコル
10:58〜11:04951m標高点ピーク
11:50〜12:20927m標高点ピーク(昼食)
13:10951m標高点ピーク
13:25小野村割岳と951m峰の間のコル
13:42〜13:48小野村割岳(931.7m(三等三角点))
14:02小野村割岳登山口
14:35頃594m標高点地点(早稲谷林道ゲート前(駐車地))



小野村割岳のデータ
【所在地】京都市左京区(旧京北町)、京都府南丹市(旧美山町)
【標高】931.7m(三等三角点)
【備考】 芦生と広河原を隔てる市界尾根上のピークです。北山の
奥部の秘境でしたが、最近は良く歩かれるようになりま
した。なだらかな尾根はブナやアシウスギの巨木が見ら
れ、四季折々の良さが満喫できます。早稲谷から林道を
詰めるのが楽ですが、京大演習林や佐々里峠から登ると
面白く、行程は佐々里峠から約2時間です。
【参考】
2.5万図『中』、『久多』



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