片波川源流域〜アシウスギの楽園探訪

この地域最大の平安杉の前にて記念撮影
平成21年11月15日(日)
【天候】晴れ
【同行】単独


 この週末。土曜は恒例、リハビリ中のお袋の見舞い。その上、親父も怪我をしたので、
消毒と介護認定の基礎データとなる問診書を貰いに医者へと大忙しだった。そんなわけで
気分転換に日曜は軽〜く大人の遠足。行き先はかねて気になっていたアシウスギの園を見
物に旧京北町の片波川源流域へ。そして帰りは紅葉見物に常照皇寺に寄ってきたのでした。

 芦生へ行くいつもの道を神楽坂トンネルへ向わず佐々里方面へ直進する。マンガン鉱山
記念館の看板の前でR162に入り、再び右折して井戸峠を越えて出合ったR477を桂
川沿いにしばらく走ると上黒田である。ここで国道とは別れて左折、最後の集落片波から
更に片波川を遡り、林道で15分ほど上がる。片波川は桂川の支流で、その源流域は廃村
八丁の南側、卒塔婆峠(ソトバ峠)の更に南にあって、『八丁片波源流域』として京北十
景に指定されている。アシウスギの楽園はこの付近一帯にある。あまり人を呼ぶ気もない
のか、国道沿いにも案内が全くないし、林道に入っても案内標識一つない。簡単な標識く
らいあるだろうと高をくくっていたがいささか的外れ。幸い、事前チェックで、林道の最
初の辻は左、次の辻は右と覚えていたので間違えることはなかったけれど、泥水の水溜り
が多くて車はサイドミラーまでハネでドロドロ。(^^; 舗装、ダートが交互に出てくるつ
づら折れを上がると、一気に視界が開け、すぐ先で「工事中、関係車両以外通行止」の看
板が現れたら、その横に空き地がある。地形図を見ると入口まではもう5、600m位な
ので、ここに車を止めることにした。

片波広域林道の駐車広場。入口まではここから600m位
チェーンと工事関係者以外の車両通行禁止の立て看板がある

 もっと寒いかとウインドブレーカーを持参するも風は若干強いがそれほど寒くもなし。
周りは杉の植林帯以外はいい色づき。北の方に見える高みは鍋倉山だろうか。ならば左手
奥はソトバ峠にあたるはずだとエアリアマップ片手に山並みを左手に見つつ進む。山仕事
のチェーンソーの響きが谷の方向から聞こえてくる。テツカエデの若木が赤く色づいてい
る林道はまた立派な舗装路になる。

 自然環境保護地域の案内板が現れたのでこれが入口かと思ったらさにあらず。そこを回
り込んだ所にまた案内板があって、今度こそ入口。中央に観察路の案内標が立つ。

アシウスギ観察路の入口

 観察路は尾根を林道沿いに戻るように南へ続いている。栗、ナラが目立つ黄葉の世界だ。
まもなく一の峰。案内板があるので確認すると、ここは二の峰方向と東尾根方向との第一
の分岐である。と、もうこの辺りでアシウスギが現れる。『宿杉』とあるので振り向けば
枯れたアシウスギがコシアブラなど他の雑木の巨大な自然の植木鉢となっているのだった。

 まずは東尾根方面へと進もうとすると、斜面の下から人声が上がってくる。インストラ
クターに率いられた十数名の観光客だった。少し立ち話。「熊鈴持ってますか?」なんて
冗談を云われてしまったが、確か、案内板にも「ツキノワグマの生息地に入らせてもらう
気持ちで、薄暗い時間には注意」なんて書いてあったっけ。芦生でも熊はいなくなってい
ると聞くのでまさかとは思うが、出ておかしくない雰囲気の森ではあるなあ。(^^; イン
ストラクターからはありがたく案内図を頂く。アシウスギの主な巨樹の名前、位置や地名
も記載されていて便利だ。

 一の峰から東方面は緩やかな下り。その間、あちこちにアシウスギが佇立している。芦
生に比べて株立ちしているものが多い。それもそのはず、この伏状台杉の形は実は人間が
大いに関係しているのだという。つまり多くの太い杉丸太を得るには、株立ちさせる方が
得策なのだ。ところが、挿し木の技術が確立するに及んで、次第に伏状台杉は省みられな
くなり、御杣御料でもあったが為に樹齢700年もの巨木が保存されてきたというわけだ。

 二の峰への分岐である『尾根別れ』から更に下って少し広くなった所が『東尾根広場』。
ここにはこの辺りで最大の『平安杉』が辺りを睥睨する。それは東谷への斜面の縁で他の
アシウスギを従えている幹周15mの巨大杉だ。なかなか樹勢も旺盛なのでこのままの勢
いを永く維持して欲しいところだ。でも来訪者が増えて株周りを踏み固めると、樹にとっ
てはあまり良くは無いだろう。株周りなどに若干の柵などは今後やむを得まい。

 更に奥へと東尾根を行く。右手は箕毛谷。イヌブナが多く、おりしも木々は秋真っ只中。
黄金色が最高潮の時期を迎えていて、頗るつきの秋色である。いい時期に来たもんだ。

箕毛谷源頭斜面のイヌブナの黄葉

 次第に東尾根は高度を落としてゆく。テープ類は全く無い。ただ、コナラなどの雑木の
幹がビニールでぐるぐる巻きに保護されているのが、少々無粋だがいい目印になる。その
尾根上にアシウスギが次々と現れる。そのうちの一本の根の窪みにカエデの幼木が赤く染
まっているのが好コントラストであった。

 東尾根を歩いていてどの辺りだったか忘れてしまったけれど、尾根の北側に黒く焼け焦
げたアシウスギがある。雷に打たれたのだろう。小野村割岳への尾根にもこれと同じよう
な雷杉があるけれど、それよりも新しいようで、まだ炭化した木質部が残っていて生々し
い。
落雷の跡が生々しい雷杉

 『御杣坂』と道標の立つ小広い場所を抜け更に東へ。由里坂の分岐には道標がある。沢
音がする東谷への急坂道だ。『由里』は『ユリ』に通じるのだろう。丹波の方言で起伏を
少なくした山腹道のことなのだそうだ。確かに、山腹にジグザグに付けられた細い踏み跡
がある。ここを降りるとあらぬ方へ降りてしまうし、登り返すのも億劫なので、そのまま
東尾根を歩いていくと『留杉』か『大留杉』と名づけられたアシウスギに出くわす。観察
路はここまでらしく、その先はヤブっぽい尾根になるので引き返すことにした。

 人の声がするのでは、とそれまでも何度か耳を澄ましたことだったが、またなんとなく
前の方から人の声が聞こえてくると思ったら、『平安杉』の前に二人組の男性が杉を写真
に収めているのだった。枚方から来られたとかでここでも立ち話。そんなことで杉の前で
お互い記念撮影のカメラマンを務めあうことになった。(笑)(冒頭の画像)

 二人組とは別れて先に戻る事にし、少し斜面を登った『尾根別れ』で、今度は二の峰方
面の周回路に向う。ちょうど箕毛谷の源頭部に下って向こうの斜面を登り返すように遊歩
道は付けられている。その谷の源頭部の目印のように立つのが『谷守杉』。30m位は樹
高があるだろうか。旺盛に葉を繁らせてこれも元気な姿だ。

箕毛谷源頭の樹勢旺盛な谷守杉

 箕毛谷の源頭はカエデの林立する鞍部である。そこから緩やかに斜面を登った峠を右の
高みに向って折れる。そして今回最大の見せ場はアシウスギが十数本群れ集まるこの二の
峰なのではなかろうか。巨大な樹ではないけれども、これだけ一ヶ所に集合しているのは
珍しいだろう。杉は思い思いに好き放題に幹を伸ばしていて、本来の自由を謳歌している
ように見える。そんなアシウスギの間にジグザグに板が敷いてあり、間近に杉を観察出来
るようになっている。二の峰から少し下った辺りには『盤取り杉』もあり、杣人の生活が
彷彿としてくる。
二の峰付近のアシウスギ群生(1)

二の峰付近のアシウスギ群生(2)

 一本として真っ直ぐなものは無い自由奔放な杉たちを眺めながら、二の峰から尾根道を
北方向へ戻る。歩いてきた林道が左手眼下に見え、杉の深の中に点々と染まった黄葉紅葉
の山並みを愉しむ。一の峰から入口は直ぐで、後は林道をテクテク。アシウスギの尾根を
今度は左手に見上げて歩くのだった。

 空き地でソトバ山方面を眺めて遅い食事の為に湯を沸かしていたら、マイクロバス2台
が通り過ぎて行く。ウッディ京北経由のインストラクタ付のツアーだろう。うまく団体客
をすり抜けて遠足できたもんだ。(^^)/

観察路の尾根から秋色のソトバ峠付近遠望

 未知の道を登るのは長く感じるが、一度知ってしまうと短く感じるものだ。往路の半分
くらいの時間でR477の出合まで出てきた気がする。さて、若干時間に余裕もあるので
帰路途中の常照皇寺に寄り道しよう。ここは10年以上も前に初めて一眼レフを持った時
に紅葉を撮りに来て以来だ。勅使門前の池のほとりのカエデも散り果てていたので中に入
る気はなかったのだけれど、拝観料が300円と安かったのでついふらふらと...。
「紅葉はもう終わってますねえ」と我輩。
「ほんの一握りまだ残ってるけど...」受付のおじさんは正直。
確かにほんの一握り。山水庭園のカエデは散り果てているも、枯山水庭園の方の落葉樹は
西日に映えて朱色や黄金色に輝き、これはこれでなかなか美しいものでありました。

常照皇寺よりも村の鎮守日吉神社のカエデが盛りでした

 しかしながらここまで来たなら真っ赤なカエデも見たいもの。するとありました。常照
皇寺の門前から少し離れたひかり保育園の前にある村の鎮守日吉神社。所謂、血汐カエデ
とでも呼ぶのだろうか。燃えるというよりは深い真紅で、それはそれは美しい色でした。

 今日は山歩きというよりは大人の遠足といった方が相応しい一日。ガシガシ歩くのもい
いけれど、とみにこういうスローウォークもこれはこれで好ましいものだと思い始めてい
る今日この頃なのである。


【タイムチャート】
9:00自宅発
11:30〜11:45林道脇広場(駐車地)
11:55観察路入口
12:00〜12:02一の峰(678m)
12:10〜12:15東尾根広場(平安杉)
12:20由里坂分岐
12:23留杉
12:47尾根別れ
12:57二の峰(685m)
13:02〜13:03一の峰(678m)
13:10観察路入口
13:20林道脇広場(駐車地)



片波保全地域のデータ
【所在地】京都市右京区(旧京北町)
【標高】Ca600m〜650m
【備考】
昔から御杣御料とされてきた片波川源流域は、アシウス
ギの宝庫で、「下黒田伏状台杉群」として京都府天然記
念物に指定されていると同時に、京都府自然環境保護地
域にも指定され保護されています。現在、その一部が公
開され、アシウスギを間近に観察する事が出来ます。ア
プローチは車以外は困難で、R477の上黒田から林道
をほぼ20分です。
【参考】
2.5万図『花脊』



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