金糞岳〜鳥越峠から楽ちん山行


白倉岳から金糞岳を見る
平成21年 9月 5日(土)
【天候】晴れ時々曇り
【同行】別掲


 金糞岳は横山岳と並んで一度は踏まねばならないと思っていた湖北の山の一つである。
その内、横山岳は07年の山開きに登ったけれど、金糞岳の方はいつかはと思いつつも、
何やかやでのびのびになっていたことだったが、あちこちと踏破しているMさんも意外や
登ったことがなかったそうで、9月の青空の下、この土曜日に皆さんと山頂を踏んできた。
といっても鳥越峠からなので楽々山行。江濃国境の奥深い山も林道のおかげですっかり手
抜きが可能な山になりました。(^^;

 二週間ほど前、小谷山へ登った時と同じ景色をこんなに早く、また見ることになるとは
思わなかった。(^^; 長浜ICで高速道を降りて姉川の支流である草野川沿いに北上して
いく。人家はもっとまばらだと思いきや、川沿いにはほとんど切れ目なく集落がある。真
新しい道の駅風の建物を左に過ごし、近江高山の集落で橋を渡って、急に狭まった一車線
道を川沿いに更に走れば高山のキャンプ場に出る。

 本来はここが金糞岳登山の基地なのだ。しかし中津尾根に絡む鳥越林道が整備されてか
らは、標高660m、990m辺りの林道から尾根に乗れるようになり、それが更に奥の
鳥越峠を過ぎた岐阜県側に新しい登山口が開かれるに至って、ほんの1時間で金糞岳山頂
に立てるようになった。昔を知る人にとっては隔世の感であろう。僕も金糞岳には秘境の
山のイメージがまだまだあったのだけれど、来て見てこれほど手軽な山になっていたとは
思わなかった。もっとも、京阪神からは依然として車がないとおいそれとは来られない山
ではあるけれど。

 鳥越林道は完全舗装。なまじ和歌山や奈良の山中の国道よりは余程いい道でびっくりす
る。東俣の深い谷を左に見ながらぐんぐん高度を上げ、かなりの距離を走ってようやく林
道開設記念の石碑前に出る。前方眼下に駐車中の車が見える。それが岐阜県側の坂内登山
口の前の広場だ。
鳥越峠から少々岐阜県側に林道を下った所にある坂下登山口

 『金糞登山口』と書かれた案内板の横にジグザグの丸太階段がある。ここのおかげで、
鳥越峠から直登する人はほとんどいなくなったらしく、朝、峠を通過した時は道に気づか
なかったくらいだ。それほどこちらを利用する人が多いということだ。きつい陽射しの中、
用意を整えて出発。少し登ると枝振りの良いブナが出迎えてくれる。それにしても風が通
らず暑くてどっと汗が噴き出す。いい塩梅に日が翳ってくれて助かる。

 およそ50mの標高差の急登をこなすと、もうそこは中津尾根コースとの合流点。『大
朝の頭』とはこの辺りをいうのだろうか。アキノキリンソウやホツツジの目立つ広い尾根
道はすぐに1075m標高点へのなだらかな登り。滋賀県立大学のブナの水源涵養林調査
の看板が出て、左にカーブすると樹冠観察用の構造物の足組が現れる。

 狭い溝のような急坂が続くと思えば自然石の階段のようになった部分もある。ここまで
ほとんど展望はなく、ひたすら林の中を歩き続けることになる。一箇所、小朝の頭らしい
三角形の山が望めたくらい。時折、そよと吹く風のみが頼りである。

 山頂まで20分と記された指導標にはプラス10分との書き足しがある。この辺り、大
きなブナはないがその灰白色の幹が林立する清々しい場所だ。

登山道のブナ林を行く(画像提供:Tちゃん)

 先を行くMさんの声。登山道にマムシがトグロを巻いていたらしい。指差す方を見ると
左の繁みの中に6、70cmはあろうか、独特の銭形紋がじっとこちらを窺っている風情。
驚かさないようにそっと側を離れる我々である。

 ようやくポッカリと東側が開ける所まで来た。向かいの山並みにスキー場のゲレンデが
眺められる。貝月山やブンゲンもあの山並みの中にあるのであろう。南には遠く、どっし
りと山頂に雲を被っている伊吹山が良く目立つ。眼の下には鳥越林道の岐阜県側の路面が
切れ切れに見える。それを包む奥美濃の山並みは途切れることを知らないようである。

 傾斜も緩み、背の高い木々もなくなって、ツツジやリョウブ、ナナカマド類が目立ち始
めると山頂はまもなくであった。丸い切り開きの広場になった山頂の端に、明治百年記念
に建てられた山名を刻んだ石柱は、地元近江高山の旅館が建てたものとか。笹薮の手前の
ユニークな形で曲った木にぶら下がる山名プレートは雪の時期のいい目印なのだそうだ。
ここで一息入れる。足元にオトギリソウが黄色い花を咲かせている。

金糞岳山頂。近江高山の旅館が立てたという石標がある

 まだ昼時には余裕があるので、白倉岳まで足を伸ばすことにする。白倉岳は金糞岳の隣
の山で、東股谷の源頭を隔てて西にある山である。ガイド本によれば片道およそ40分、
展望はこちらが勝るとのことで行ってみないわけにはいかないだろう。(笑)

 今までは雑木の林だったのが、山頂の西のこちら側は背丈ほどもあるクマザサ原である。
その間に40cm幅くらいの道が付けられている。道自体は明瞭なのだが、笹が被さって
きて歩きにくい。しかも地面には杭や倒木が隠れているから気をつけなければ転ぶのは必
定だ。10年ほど前の多紀アルプス。三岳と西ヶ岳の稜線もこんなだったのを思い出す。
最近はどこも笹枯れが顕著なのだが、ここのササはなかなかの元気である。

 コルまでは約100m下らねばならない。ダニが居ると厄介だなどと思いつつ、クマザ
サを掻き分け掻き分け下って行く。左側は深い東股谷でびっしりとした樹林。底の方から
微かに水音が上がってくる。前方を眺めれば白倉岳の台形の山容が次第に大きく明らかに
なってくる。コルの先にガイド本に岩場と記されている白い露岩が見える。これが白倉岳
の山名の由来でもあろうか。
金糞岳から白倉岳(左奥)へ.名前の由来になったと
思われる白い岩が手前の中腹に見える

 コルには道が不明瞭なので通行禁止の旨の注意書きがある。深谷コースと書かれた古い
指導標が雑木に引っ掛かってはいるが、見ればほとんど廃道のようだ。ましてこの暑い時
期、とても行く気にはなれないコースだが、中には猛者が居て、ここを伝って下山を試み
てビバークした人もいたそうだ。(笑)

 さて、ようやく白倉岳の登り。露岩の間には虎ロープも用意されている。なかなかきつ
い登りではあるが距離は短い。すぐに傾斜は緩んでなだらかな登りに変わる。今回の登山
路ではこの辺りが一番感じが良いように思う。やや霞がかかるが南は琵琶湖で、長浜近辺
の弧を描く汀や竹生島から葛篭尾崎にかけての入り江、山本山、小谷山、賎ヶ岳などが見
て取れる。振り返れば先ほどまで立っていた金糞岳のなだらかな山容がある。シャクナゲ
も見られるようになるが、大峰辺りのものとは大分様子が違って、ハクサンシャクナゲの
ような雰囲気がある。ガマズミやムシカリ、ナナカマドの赤や黒の実やリンドウの花は、
日中は暑くても、もう秋にうつろう季節を具現化しているようだ。

白倉岳の稜線付近から琵琶湖方面。手前が花房尾根で、その
向こうに小谷山。うっすらと竹生島も浮かぶ(中央左奥)

 小さなピークを過ぎ、潅木帯を急ぐと、前方の繁みの向こうから人声が流れてきた。ま
もなく丸い切開きとなった白倉岳の山頂が現れ、10名くらいの団体さんが食事の最中で
ある。三角点は登山路の中央。二等三角点の標石が埋まっている。展望がいいとガイド本
にはあったが潅木が繁りそれほどでもない。しっかりした道が更に続いているのは、八草
峠や花房尾根に向う道で、キャンプ場へ降りる道が地元の山の会のご努力で整備されてい
るからだろう。

 団体さんがいるのでここで食事するわけにも行かず、標石を撫ぜ、今来た道を戻ること
にする。いつの間にか金糞岳までの稜線にはガスが湧いている。真っ白い入道雲が湧き、
キャンプ場方向には灰色の雲。あちらは少しにわか雨が降っているようだ。

 えてして往路より帰路の方が短く感じるものだ。シャリバテの身ながら、帰路の方が登
り返しがきついが、なだらかなのでそれほど苦労もせず金糞岳に戻ってくる。誰もいない
山頂の記念石標横で昼食。するとどうしたものか中津尾根や白倉岳方面から、それぞれ湧
いたように2、3のパーティがやって来た。

 金糞岳からは唯一北東方向が開けている。石標の立つ付近から、視界が良ければ北アル
プスや白山が眺められるそうだが、今日は悪くはないにしても遠くは能郷白山らしき独立
峰がわかるくらいだ。もっとも他の山の名前は皆目見当がつかないということもあるのだ
が....。(^^; その中にあって一際目立つピラミダルな山が並立しているのが見て取れた。
他のパーティに聞いて見たら湧谷山と丁子山とのことである。(蕎麦粒山かもという説も
ありました)それにしても奥美濃の山々の深いことよ。

 ところで金糞岳の山頂には三角点がないが、北東に突き出た尾根上を400mほど離れ
た辺りに四等三角点が置かれている。山頂から踏み跡らしきものがあるので辿ってみたが
ほんの数mでヤブに消えていた。(後日、ネットで確めると数年前は切り開きがあったとい
う。三角点設置の為だったのかもしれない。)

 やはり先程時雨れたらしい。下りで木の幹を手に取ると滴が一気に落ちてきた。路面も
湿り勝ちで滑る。しかしお蔭でくすんだ緑がまた鮮やかさを取り戻したようだ。往路とは
また違った印象で坂内駐車場まで降りてくる。朝は蕾だったサラシナショウマが花を開い
ていた。

 時間があるので、一っ風呂浴びようと往路で見つけたバーデ浅井に寄り道。ついでにお
土産をとも思ったが道の駅ではなかったので、地元産品は売っておらず残念でした。

 念願の金糞岳。今回は超手抜きだったが、気候が良い時にもう少し長めで歩きたいと思
わせるいい山であった。春には近畿では珍しいムラサキヤシオが咲くそうだ。またその季
節にでも歩かせてもらうことにしよう。




■同行: たらちゃん、みずたにさん(五十音順)

【タイムチャート】
7:00自宅発
9:45〜9:55坂内登山口(駐車地)
10:04〜10:05中津尾根登山道出合
10:081,075m標高点ピーク
11:03〜11:04金糞岳(1,317m)
11:19金糞岳・白倉岳のコル
11:38〜11:40白倉岳(1,270.7m(二等三角点))
11:58〜11:59金糞岳・白倉岳のコル
12:15〜12:45金糞岳(1,317m(昼食))
13:151,075m標高点ピーク
13:27坂内登山口(駐車地)



金糞岳のデータ
【所在地】滋賀県長浜市(旧浅井町)、岐阜県揖斐郡揖斐川町
【標高】1,317m
【備考】 滋賀県では最奥に位置する山で、伊吹山に次ぎ第二の高
さを誇ります。昔はアプローチが長く、藪も深い山でし
たが、鳥越林道が貫通し、鳥越峠からの登山道が開設さ
れ、手軽な山になりました。山頂からは北東側が開け、
能郷白山や加賀白山はじめ、奥美濃や奥越前の山々が望
めます。コースは滋賀県側の近江高山側からが一般的で、
他に岐阜県側の八草峠からもルートがあります。
■近畿百名山、関西百名山
白倉岳のデータ
【所在地】滋賀県長浜市(旧浅井町)、岐阜県揖斐郡揖斐川町
【標高】1,270.7m(二等三角点)
【備考】 金糞岳の西尾根上の台形状のピークで、三角点はこちら
に設置されています。最近、地元の山の会の努力で、中
津尾根と東俣谷を挟んだ西の尾根にルートが開設され、
近江高山のキャンプ場から金糞岳、白倉岳、奥山と周回
できるようになりました。山頂からは展望がありません
が、金糞岳寄りからは琵琶湖や竹生島、長浜市外などが
一望できます。
【参考】2.5万図『虎御前山』、『近江川合』



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