聖岳〜アルプス最南の三千米の峰
           【第3日】 悪天避けて早朝下山        

西沢の激流(西沢渡にて)
平成21年 8月11日(月)
【天候】くもり時々雨
【同行】別掲


 聖岳を降りて、前日に引き続き昼間からの宴会は続き、気づけば早くも宵を迎えている。
そこにMartyさんの、にわかにやや真剣な顔がある。聞けばラジオで四国で台風が発生し
たという。ために四国から東海の太平洋岸はこれから150mm以上の雨が予想されると
か。
「??」
文字通り青天の霹靂とはこのことであろう。そういえば何時の間にやら、昨日とは少し感
じが違う雲が増えていて少し寒くなってきた。東の笊ヶ岳方面も同じく昨日とは少し様子
が違ってすっぽり雲の中だ。それでもまだまだ半信半疑で夕食もどき?を済ませて部屋に
引き上げる。

 山では部屋に引き上げたらもう寝るしかすることはない。一時間ほど横になって暗くな
った頃だ。通路を隔てて向かいにいたおじさんもラジオを持っていて仲間と不安な声で話
している。Martyさんのラジオこともあったので、聞き耳を立てるていると、太平洋岸に大
雨注意報が出ているという。おまけに地震もあったようだとの話。アプローチに使ったあ
の林道。聖光小屋からのアプローチの廃線跡。何時崩れてもおかしくない場所が幾つもあ
たような。落石でもあると陸の孤島だわなあ。こりゃ早めの下山にしくはない。何とか明
日の午前中まで天気がもってくれることを祈りながら再び寝につく。

 幸い今日は空いていて、昨日の2倍のスペースが確保できる。隣のイビキも気にならず、
ゆっくり出来たのはいいのだが....。12時頃だったろうか。それとは別の音で目が覚め
てしまった。屋根を叩く雨の音だ。そして風も出てきたらしく時折、ビューッともがり笛。
周囲で寝ている人たちも気になるのだろう、常よりも早い動きである。

 暗いのでもう少し様子を見てと考えていたら、いつの間にかうとうとしていたのだろう、
気がつけばもう4時半だ。レインウェアやザックカバー、行動食を用意していたら、Ma
さんが呼びにきた。午前5時過ぎ。外は雨。玄関横には皆さんが勢ぞろいしている。そし
て5時10分、小屋を後にする。

 薊畑まで行けば後は樹林帯なので少々の雨でも大丈夫のはず。そこまでは小降りでと念
じていたのが通じたのだろうか。雨が上がり、おぼろ月までも西にかかっているではない
か。明るくなるに従って、白っぽいけれど薄っすらとした青空も一部に見出せる。それっ、
今の内だ。先を急ぐ。

 光岳から縦走してきたという薊畑で一緒になった単独兄さん。「昨日上がってきたんじ
ゃなくて良かったですねえ」とかなんとか話していたのだが、なんと聖岳の方へ曲ってい
くではないか。ガスで何にも見えないと思うが、
「とりあえず行って見ます。」
猛者もいるもんだ。気をつけてと声をかける。

 雨は小康状態を保ってくれている。今度は逆に暑くなってきた。レインウェアの上を脱
ぐ。現金なものでこうなると少し余裕が出て、周囲に目も配れるようになってきた。雨に
濡れて木々は鮮やかな緑を濃くしている。カニコウモリやコウモリソウが地味な花を咲か
せ、トリアシショウマは花が華奢なので雨と風で少し乱れ髪だ。

雨に洗われた鮮やかな緑(便ヶ島への下山道にて)

 樹林帯で今まで周囲の山々が見渡せなかったが、山腹をヘつる箇所に出てくると、よう
やく周囲の状況がわかる。ガスで標高1500m付近より下はまるでミルク風呂のようだ。
あの下は雨が降っているのだろうか。

 白いもやが辺りを流れるようになり、さっきのガス帯の中に入ったらしい。雨は降って
いない。但し、標高が低くなってきたのでジメッとまとわりつくような空気で蒸し暑さが
増してきた感じがする。しかし長い下りだ。同じような風景が延々と続く感じがする。そ
れでも、その内に左右から沢音が聞こえてくるようになり、小尾根を伝った後にカラマツ
林を抜けると、造林小屋の赤い屋根が足下に小さく垣間見えてきた。すると待っていたか
のように再び雨が降り出した。

 造林小屋の廃屋の裏手から横手に廻り、玄関で雨を避けてレインウエアの上着をまた着
込む。やがて西沢渡。今度は野猿をやめて岩にかけられた木梯子をわたる。西沢は岩を噛
む激流であるが、木橋は思ったほど危険ではない。しかし、この辺りにはヒルがいるそう
だ。幸い私は見かけなかったけれども、飯田市内で入った風呂でTちゃんの足首に1匹、
ちゃんと張り付いていたそうだ。
まだ生活臭が残る林業小屋の屋内。食堂だったらしい室内


 後は森林鉄道の廃線跡をポクポク歩くのみ。雨は間もなく止む。幸い土砂崩れなどもな
く、およそ30分で聖光小屋の建物が見えた時は少しホッとした。やれやれ。無事生還。
(一寸大袈裟?)レインウェアを脱ぎながら、小屋近くの東屋でみんなで握手だ。

 懸念された林道も別条なく無事R152に合流。となればさてお次は垢落とし。遠山郷
の『かぐらの湯』が定番らしいが、気がついたら飯田方面に向っており、最終的にはSさ
んやMartyさんらが飯田市内で前泊したビジネスホテルの大浴場で入浴。本当は1時から
だったらしいが、Martyさんが早めに開けてくれるよう交渉してくれたらしい。Martyさ
ん、有難うございました。

 飯田からバスで帰るMartyさんとはここでお別れ。大阪へ帰るメンバは飯田の市内をく
るりと巡って、渋滞に巻き込まれぬよう祈りながら高速道を西へ向ったのだった。

 思わぬハプニングがいろいろ起きた今年のアルプス遠征。埼玉から来たというスポーツ
カーの兄ちゃんや、偶然お会いしたMartyさんの友人の女性など、面白いハプニングもあ
ったが、突然の台風には本当に驚いた。そして更にびっくりしたのは翌日の震度6弱の大
地震。最初は恨んでいた台風だったが、今となっては台風様々である。それにしてもラジ
オは必携と再認識した今回でありました。

(了)


【同行】修ちゃん、たらちゃん、なかいさん、まきたさん、Martyさん、
    水谷さん(五十音順)


【タイムチャート】
5:10聖平小屋(Ca2,260m)
5:30〜5:40薊畑(Ca2,400m)
7:25古い標識のある針葉樹の大木(標高1,720m付近)
7:40〜7:50小休止(Ca1,600m付近)
8:40〜8:45造林小屋跡
8:50〜8:55西沢渡
9:20聖光小屋(Ca970m)

■『【第1日】便ヶ島から聖平へ』は こちら
■『【第2日】いよいよ聖岳』 は   こちら




聖岳のデータ
【所在地】静岡県静岡市、長野県飯田市
【標高】 前聖岳 3,013m
奥聖岳 2,978.3m(三等三角点)
【備考】 南アルプス南部の主峰で、アルプス最南端の三千m峰で
す。前聖岳と奥聖岳の二峰からなり、その間の広い岩稜
は夏になればチングルマなどが咲き乱れるお花畑になり
ます。山頂へは東の椹島、西の便ヶ島からのコースがあ
り、薊畑を経て約2,000mの登りで約8時間の行程で
すが、南の中腹にある聖平小屋を経由すると楽になりま
す。
■日本百名山
【参考】
エアリアマップ『塩見・赤石・聖岳』



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