聖岳〜アルプス最南の三千米の峰
           【第2日】 いよいよ聖岳        

小聖岳から眺める聖岳
平成21年 8月 9日(日)
【天候】晴れのち曇り
【同行】別掲


 8日の聖平小屋は梅雨明け初めての週末、且つお盆とあって、尋常ではない混みようで
ある。夕食はなんと6回転だったそうだ。当然、素泊まり小屋も大混雑。寝袋ぎりぎり敷
けるか否かの幅を確保するのも並大抵ではなく、1畳に2人以上の密度だったのではない
だろうか。とても同じ方向は無理で、頭、足と交互にせざるを得ない。幸い寝袋なので足
臭さは免れることが可能だ。(笑)

 3時前に出発したパーティもあったようで山小屋の朝は早い。寝遅れると大変なのだ。
(笑) 午前4時頃、周囲のゴソゴソうごめく気配に目を開ける。一日目の聖光小屋では睡
眠が取れなかったことから、試してみればとNさんから頂いた精神安定剤の所為か、何度
か眼を覚ましながらも眠った時間はあったようである。夜明け前でまだ周囲は暗い。ヘッ
ドランプがあちこちで暗闇を掃く。こちらも今日の登山準備。といっても昨日、ナップザ
ックに小分けしていたのでいたって簡単である。メインザックをTちゃんのテントに置か
せてもらってまずは腹ごしらえだ。とはいってもレーズンパンの残りにカロリーメイトと
コーヒーくらいなもの。用を済ませて5時10分、ほぼ日の出の時間、今回のメインディ
ッシュの聖岳に向って出発だ。

 聖平の木道を進んで縦走路との合流点へ。振り返れば聖岳がおいでおいでをしている。
「今行くよ、待っててね。」今日の標高差は約800m。関西で云えば丁度、杉谷から高
見山へ登るのとほぼ同じだとはいうものの、聖岳が全容を現すとデーンとえらいボリュー
ムがあるなあ。

 小一時間で薊畑に出る。青いテントが一張り。光岳方面を見れば上河内岳の頭に少しガ
スがたなびく程度だ。これは展望が期待できそうだ。

9日早朝、薊畑から南アルプス南部の展望。左は上河内岳、右奥が光岳

 西沢渡方面の道と別れてダケカンバの林を進む。タカネナデシコ、トリカブト、マルバ
ダケブキが相変わらず多い。そして林の中の短い急登をこなすと尾根筋に出る。西の伊那
谷は雲海の底。そして東の山並みの奥、まだ赤さを残す空に、くっきりと稜線を引いた富
士山の黒いシルエットが眼に飛び込んでくる。今回の山行で初めてみる富士に思わず歓声
が沸く。去年の北岳から見たのより遙かに大きい姿だ。

 気がつけば聖平小屋の赤い屋根が眼下遙かになっている。小聖岳の南西の尾根のあたり
である。岩屑の多い斜面の先には小聖岳の姿があり、足元を見ると明らかに植生の変化が
見て取れる。マルバダケブキが姿を消し、同じ黄色でもシナノキンバイやその外、ハクサ
ンシャクナゲやチシマギキョウの姿が増えてくる。

 小聖岳はドーム状で地形図上は2,662mの目立たない尾根の突端という感じである。
が、ここまで来れば邪魔者は何もなくなり、目の前は全て聖岳の山体である。それ故、聖
岳を遥拝する格好の場所なのであろう、岩屑を集めた小山の中に碑伝が一枚供えられてい
る。(冒頭の画像)
小聖岳を越えると馬の背の先に圧倒的な聖岳の姿が迫ってくる

 小聖岳を越えると細かいアップダウンのある狭い馬の背だ。足元に注意は要るが、荒々
しい景観の中に高山植物の花々が咲き、歩いていて愉しい場所である。前方左手は荒涼と
した岩崖で深い底に細い流れがある。昨日越えた西沢の源流にあたるのであろう。右手は
荒い石が堆積する海のようなガレ場である。そして、この付近が森林限界なのかハイマツ
が主体と植生がまた変化する。イワツメクサやイブキジャコウソウのマットの様に広がっ
た株が岩やザレた斜面を蔽っている。そんな馬の背が終わると、いよいよ前聖岳へ向って
の急登である。少々落石が怖いが、岩屑と大きな石ころだらけの中をジグザグに高度を稼
いでいく。

初見参のライチョウ

 空耳だろうか。クウクウ、ハトが鳴いているような声がする。キョロキョロ周囲をうか
がうと、前方の岩屑の斜面に何か動くものがいる。「おお?」保護色で一寸見では気付か
ないが、夏羽姿のライチョウではないか。我輩は初見参だ。しかもヒヨコを連れた親子連
れだ。ポケットのデジカメを取り出すのももどかしい。コンデジなので光学ズームは3倍。
デジタルズームは嫌いなので使わなかったのだが、この際、写しておくべきだったなあ。
後の祭りである。(^^; 再び姿を現すのを期待してしばらく立ち止まっていたけれども、
あまり長く立ち止まると後続に迷惑がかかる。岩陰に隠れたライチョウ親子に後ろ髪を引
かれながら再び歩みだす。
馬の背とそれに続く小聖岳はもう遙か下だ

雲海に浮かぶ富士が

 同じようなガレ場の急場が続く。まだかまだか。こういう時は我輩、上を見るとがっく
りくるから見ないようにしている。雲海の富士や高山植物、眼下だけを眺めるようにして
一歩一歩踏みしめる。その一歩が確実に距離を縮めているのだなんて、えらそうな事を思
うが、そうする内に小聖岳から続く稜線も遙か下になり、今はもう聖岳のガレた斜面の真
ん中辺にいることが分かる。下山してきた方が「もう少しです」と声をかけてくれる。で
も今回は我輩まだまだ元気。高山で息切れすることもなく足も前に出ます。やがてさしも
のジグザグ道も終わり、勾配も緩んできて眼の前にいつもあった斜面はなく、そこは前聖
岳の山頂の右手30m付近である。

 まずは大きな山名標が立つ最高点へ。標高3,013m。日本で21番目の高さを誇る。
三千m以上の山ではアルプス最南に位置すると同時に、21しかない三千m以上の山の一
つでもあるのだ。因みに22位はあの剣岳で2,999mである。しかしながら、最高点
であるこの前聖岳に三角点はなく、置かれているのはここから直線で600m弱離れた奥
聖岳である。まあ能書きはこれくらいにしよう。肩からGPSを取り出すと3.02km
の表示。折角なので記念に画像を残しておこう。(笑)

聖岳にて

前聖岳でのGPS表示

 さて肝腎の展望であるが、聖岳の標識の向こう、即ち北側は近頃、熊の目撃情報がある
という兎岳。しかし、その右に構える赤石岳が圧倒的に大きく視界を占めてその背後を隠
し、しかも雲が湧き始めていて、南アルプスの北部は辛うじて仙丈ヶ岳が分かるくらいだ。
それも直ぐ隠れてしまう。西を見れば遠く地平線上に台形状の恵那山。眼を右にずらせば
中央アルプスのはずだが、生憎にもガスっていてはっきりしない。(もう少し早ければ宝
剣岳が見えていたそうだ) その西の方向にある手前の山並みには林道があり、赤い屋根
の建物が見えた。聞けば「ハイランドしらびそ」だそうだ。そして、おおっ、往路で通過
した天空の郷「下栗」も見えるではないか。思えばあんな方向から来たんだなあ。少し感
慨深い。と見る間にガスが巻いてきた。さて、一息入れて次は奥聖岳へ向かおう。前聖岳
と奥聖岳の間はお花畑だそうだ。

奥聖岳手前付近から前聖岳の稜線を振り返る

 ガスが巻き上がる中、右前方に常に富士山の姿を見ながらの岩の稜線歩き。見惚れてば
かりはいられない。幅2、3mの部分の細尾根もあるので少し注意が要る。北側を覗くと
山襞にはまだ雪が残っていた。そのうちに尾根が広がってくる。そこは自然が造形した日
本庭園。一面のチングルマのお花畑である。静岡県が植生保護の為に設置したロープに沿
って進むと、ふと見逃してしまう草むらにクロユリの花もある。ほかにはタカネヤハズハ
ハコ、タカネツメクサ、ツガザクラなどなど。タカネビランジもあったというが、ひょっ
として10mほど下の岩にへばりついていた赤い花だったのだろうか。残念ながらしかと
は確認できなかった。(^^;

奥聖岳の三角点に向って五体投地の礼 (笑)

 あっという間にやや小高い奥聖岳に到着する。三角点は奥聖岳の20m位先にあるはず
だが木が生えていないので難なく見つかる。ケルンが幾つかあって、その傍にある三角点
標石に向っていつものように”三角点教”の儀式の五体投地。(笑) それを済まして山頂
の突端を覗くと、聖岳東尾根が伸びてそれが沈み込む先に聖沢登山口のある赤石ダム湖が
見える。眼をそのまま上げれば富士山の三角錐があるはずだが、もうもうとものすごい速
さで立ち上がってくるガスが立ち込めて全く見えない。しばらくガスが晴れるのを待って
いると、五合目以下を雲海に隠し、山頂に雲をたなびかせた姿を現した。「おおっ」浅間
神社の御神体だけあって、やはり神々しい。

 折角登ったのだもの直ぐに降りるのは勿体無い。お花畑を堪能しながらゆっくり戻るこ
とにする。往路で見つけたクロユリ近くの石の上で小休止。Tちゃんはコーヒーブレーク、
Nさんはカップめん。我輩は小屋で調達した爆弾おにぎりを半分。富士を見ながらの憩い
はほんに贅沢だ。気がつけば30分ばかりも座っていたみたいだ。(笑)

聖岳から南方向のパノラマ画像。左端が奥聖岳、笊ヶ岳連峰の奥は雲海に浮かぶ富士山。中央は上河内岳、右端が前聖岳

 もうMさんたちは下山したらしい。前聖岳へ戻っても知った人の顔はない。再び展望は
どうかと眺めたがガスは容易には晴れず、寒くなってきた事もありそろそろ下山にかかる。

 復路は往路とはまた違った風景が展開する。あの花、この花確かめながら降りてゆく。
すると例の場所でまたまたライチョウが現れた。ラッキー!

岩場に咲いたチシマギキョウ

イワツメクサ

クロユリ

 団体さんももう下山して、めっきり人が少なくなった登山路だが、ゆっくりと今から登
ってくる人もいる。日本人特有のワーッと神風みたいに登るよりこんな風に楽しむ方が本
来だろう。人も少ないし静かで良い。2時間ほどで薊畑。12時半過ぎ、閑散とした小屋
に戻る。

 なんだか鼻がむず痒い。気がつけば腕も赤くなっている。見てもらうと顔も真っ赤なの
だそうだ。聖平小屋に戻ってビールのお代わりをもらいに小屋の受付に行くと「もう出来
上がってますね」と勘違いされる始末。「違うんです。これは日焼けです」てな言い訳も
邪魔くさいなあ。やっぱりUVカットを塗っておくべきだったかな?まあええかあ、とい
うわけで、それから6時間近くはなんだかんだと飲んでいたんじゃないだろうか。気がつ
けば日も西に。夕まずめでありました。



【同行】修ちゃん、たらちゃん、なかいさん、まきたさん、Martyさん、
    水谷さん(五十音順)

【タイムチャート】
5:10聖平小屋(Ca2,260m)
5:38〜5:40薊畑(Ca2,400m)
6:38〜6:41小聖岳(2,662m)
8:10〜8:20前聖岳(3,013m)
8:45〜9:06奥聖岳(2,978.3m(三等三角点))
9:20〜9:50お花畑(小休止、軽食含む)
10:10〜10:15前聖岳(3,013m)
11:27〜11:30小聖岳(2,662m)
12:12〜12:20薊畑(Ca2,400m)
12:35聖平小屋(Ca2,260m)


■『【第1日】便ヶ島から聖平へ』は  こちら
■『【第3日】悪天避けて早朝下山』 こちら


聖岳のデータ
【所在地】静岡県静岡市、長野県飯田市
【標高】 前聖岳 3,013m
奥聖岳 2,978.3m(三等三角点)
【備考】 南アルプス南部の主峰で、アルプス最南端の三千m峰で
す。前聖岳と奥聖岳の二峰からなり、その間の広い岩稜
は夏になればチングルマなどが咲き乱れるお花畑になり
ます。山頂へは東の椹島、西の便ヶ島からのコースがあ
り、薊畑を経て約2,000mの登りで約8時間の行程で
すが、南の中腹にある聖平小屋を経由すると楽になりま
す。
■日本百名山
【参考】
エアリアマップ『塩見・赤石・聖岳』



   トップページに戻る

inserted by FC2 system