聖岳〜アルプス最南の三千米の峰 【第1日】 便ヶ島から聖平へ |
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本当にようやく明けた梅雨である。Day Trekkerを自称する我輩にとっては 年に一度の掟破りであるアルプス詣。今年もお誘いに乗って8/7からアルプス最南端の 三千m峰、聖岳を目指すことになっていたのだが、直前までやきもきさせられたことだっ た。ところが今年はそれに留まらず、突然の台風9号発生による悪天と東海道南方沖の地 震(8/9 19:56 M6.9)に振り回され、下山した10日は台風を誠に恨めし く思っていたことだったが、そこへ翌日の8/11の震度6の地震騒ぎである。帰るのが 1日遅れたら大変なことになっていたかも知れず、それを思えば結局、台風様々で何が幸 いするか分からない。人生万事塞翁が馬か。なにかこれからの波乱を予感させるの今年の アルプス詣ではありました。(笑)
お盆の特別料金。当然、車の量は少々多め。とはいっても小一時間もかからずに抜けら れる程度の渋滞で助かる。中央道は虎渓山PAで神戸出発のNさんの車と合流。激しい雷 雨の中を抜けて飯田ICで下車。サティで食料など買い物をして、今日の宿泊地便ヶ島へ 向う。「べんがしま」とばかり思っていたけれど実は「たよりがしま」と読む。尾篭な名 前と思っっていたけれど、風流な名前なのだこれが。(笑) まあ、冗談はさておき、この 便ヶ島までの林道が長いのだった。その行程は約24km。深い遠山川の渓谷沿い。発電 施設のある北又渡あたりまでは舗装路なのだが、その先はほとんどダートで、落石しそう な箇所も多く、初めて走る場合は少々不安になることだろう。だが、その分、景色は抜群 で、天空の郷を髣髴とさせる下栗の集落(東洋のチロルともいうそうだ)や弁天岩などを 楽しむことが出来る。易老渡(いろうど)まで来ると光岳や易老岳へ登っているのだろう 10台ほどの車がある。便ヶ島はその先3kmほどの所。突然、綺麗な舗装路となって登 山口前のT字路を左折すれば聖光小屋の玄関前で、さしもの長い山岳ドライブは終了とな る。
を流すといったところだ。着いた当座はえらく蒸し暑く感じ(実際、室温は27℃もあっ た)、こんなに暑いのに詰め込まれて寝るのは些かつらいと思ったが、汗を落とした所為 か、空気が入れ替わったのか、日が落ちるに従って涼しくなってくる。流石は標高千mだ。 そんな中、車泊用駐車場(1台¥500円)前の東屋で宴会。蚊が多いのには閉口だが、 酔いに痒さも忘れて明日の山行に話も尽きない面々である。(笑) 午後8時頃にお開き。部屋は6畳の6人部屋。今日の宿泊者は12人らしく2部屋が塞 がった勘定だ。1人1畳、布団で寝られるだけマシ。因みに素泊まりは¥4500である。
さて、翌日。やや雲が多いものの西の空は明るい。例の東屋でレーズンパンとコーヒー でブレーク。準備していると、マイクロバス2台に満載の団体さんがやってきた。一気に 賑やかになる駐車場。団体さんより先に進まないと渋滞しそうだ。でもトイレに手間取っ てそうだからいま少しは大丈夫だろう。(笑) 今日は上の小屋泊りなので若干遅めの5:45の出発。『熊注意』、『ライチョウ保護 の為、ペットお断り』等の注意書きのある登山道。そういえば、小屋の玄関に置かれてい た剥製の生後1年足らずの小熊はこの近くで死んでいたのだという。道は前日の雨の為か 湿り気を帯びている。ブナやミヤマハンノキの繁る雑木林を少し上がると、森林鉄道の軌 道跡に出る。ここからしばらくは1973年まで活躍した遠山森林鉄道の跡を利用した遊 歩道を歩くことになる。直ぐ先、まだ碍子が残るコンクリート製のトンネルを抜けると、 デーンと南アルプスの山稜が視界に飛び込んできた。実は天候不順で、我輩、ここ一ヶ月 ほどまともな山歩きなどしていないのだった。前方の遙かの高みとは標高差1400m。 それを目の当たりにして「??」と絶句の小生である。(^^;
の林道より勾配は小さい。重いザックを背負って歩くには格好のウォーミングアップだ。 遙か下を遠山川の急流が岩を噛む大きな音を立てている。周囲は深い森。大きなカツラが あって、プーンとバニラの甘酸っぱい香りをあたりに漂わせている。Nさんによればマツ モトセンノウと呼ぶらしい赤い花が一輪、緑の中に目立つ。 標高千mの等高線に沿った形で山腹を進み、滝ノ沢橋、かつら沢橋と新しく架け替えら れた木橋を渡る。こんな立派な橋を誰が架けたんだろうか?静岡県だろうか?が、所々、 落石がフェンスを押し潰している箇所や路肩が崩壊している剣呑な箇所がある。小屋のお じさんが言っていたけれど、一端降ればバケツをひっくり返したようになるという痕跡だ ろう。森林鉄道も保線との戦いだったろうことは想像に難くない。 ワイワイと雑談しながら、気がつくと平坦な場所に出る。鉄道の建物があった感じがす るが、そこが西沢渡だった。明るい河原には渡渉する為の桟道も懸けられていて渡るに苦 労はしないが、ここは話の種に野猿を利用してみよう。しかしこれが頑丈すぎて重いのだ。 非力な人は少し苦労するであろう。
対岸に渡り、西沢沿いに樹林下を50m。自然石の階段が現れたら前方に廃屋の玄関が 見える。旧飯田営林署の造林小屋だ。結構大きな建物は頑丈に造られているようで、玄関 先ならまだまだ緊急避難に使えそうである。その建物を巻いて登山道が続く。気温は18 ℃前後と快適だが、何せ樹林の密度が濃く、風が通らない急登のジグザグ道なので一気に 汗が噴き出す。それでもカラマツ林から支尾根に上がると、やや風が出てきて助かる。格 好な石に腰掛けて涼をとる。ミソハギが目立つ斜面にようやく朝日が射し、西から抜ける ような青空が広がってくる。
この後はこれを小休止をとる目安にすることになる。且つまたここは明神平の高さ、ここ は大峰の稲村ヶ岳の高さ、ここは弥山の高さなどと、知った山の高さにひき比べていく事 になる。 細い尾根をへつり、さっきまで左に見えていた崖の上に出る。風が吹き上がってきて心 地よい。眼下には遠山川の泡立つ流れが蛇行している。まるで白い襷だ。 西沢と東沢に囲まれた大きな尾根なので、とても尾根を歩いているとは思えず、ひたす らない斜面を登っている感じがする。その上、樹林帯なので展望も得られず、永遠の難行 苦行のような...。それでも高度を稼ぐに従って植生が変化するのがわかる。広葉樹に代わ って、ウラジロモミやシラビソの針葉樹やダケカンバのボロボロの樹皮が目立ってくる。 1600mの標識付近は、再び山名の由来となったといわれる”へつり”の斜面だ。
みづらい。エアリアには中間地点の標識があると書かれているが、それらしいものは見つ からず、一寸目立つ場所でもあり、この針葉樹に懸かる標識がそれだろうと一人合点する。 そして『苔平』という場所もそれらしいところが幾箇所もあって、結局どこだか分からな かった。数年前には標識があったらしいが、見落としたかもしれない。倒木が目立つ19 00m付近ではないかと思うが如何だろうか?
標高1800mの標識くらいからだったろうか。赤いチャートの岩が目立ち始めてくる。 赤石山脈の由来となったラジオラリアと呼ぶ放散虫を含む岩だろう。そんな岩がゴロゴロ 重なる上を越えて、木の根が露出した針葉樹林帯を進む。やや傾斜が緩み一息つける。谷 を隔てて上河内岳方面の滝音が響いてくる。風が吹き上げてきた。甘露。甘露。 登山路脇の赤テープだらけの場所が三等三角点『西沢』2314.1m。登山道から10 mばかり逸れると、苔むした小さなテラスに綺麗な三角点標識がある。周囲は木が繁って あんまり展望は良くない。証拠写真を撮っているとブンブンという羽音が耳を掠める。見 れば大型の蜂のようで、慌てて登山道へと引き返した。 ここまで来れば薊畑まではOBPのビルを一つ登る程度だ。だがこの最後がきつかった。 セリバシオガマの目立つ斜面は胸突き八丁。疲れた足は遅々として進まない。それでも引 きずるようにしてジグザグ道を上がれば、スーッと斜度が緩む。
体を包む。待望の薊畑だ。目の前は上河内岳から光岳へ続く南アルプス最深部。沢だか滝 だか分からない白い流れが山肌を布のように垂れていて、眼下の東沢の深い谷に落ち込ん でいる。ここにいてもその水音が聞こえてくる。こちら側は大崩壊のガレた崖だ。それに しても流石はアルプス。山が格段に大きく、それを刻む谷は吸い込まれそうなくらい深い。 角材のベンチに座って一休み。ここが今日の最高点。ここまで来れば聖平小屋へ下るだ けなので、思わずホッと一息である。水をガブリ。だが待てよ。小屋ではビールが待って るぞーっ。おっと水は我慢、我慢。もう一息頑張ろう。そうする内に、聖光小屋にやって きた団体さん。なかなか足並み揃って早い到着ではないか。(@0@) 『薊畑』というものの肝腎の薊の姿はなく、一面、マルバダケブキの黄色いお花畑だ。 他にはハクサンフウロ、タカネナデシコ、トリカブト、トモエシオガマなどなど。東海フ ォレストの標識の横を聖平小屋へ。気が緩んだのだろう、深く洗掘された道で急ぎすぎて ズッテントウと転がってしまった。(笑)
タカネマツムシソウの青紫が目立つ。きつい下りを左に巻けば聖平小屋の赤い屋根が見 えてくる。降りきった木道のT字路。真っ直ぐ進めば光岳に繋がる縦走路だ。前方の上河 内岳がやたらに高く見える。そこを左折、再び樹林に入って抜け出たところが聖平小屋で ある。真新しい小屋だ。早速、素泊まりの手続きをとって、レギュラー缶500円のビー ル片手に最寄のベンチへ。本日の休憩込み6時間半の歩行はこれで終了である。クビーッ と引っ掛けながら後続を待つ。1時間後。顔を出したのはMaさんだった。全員が元気良 く集合して、後はお決まりの宴会。暮れなずむ聖岳を眺めながら話は尽きないのだった。 追伸:素泊まりは寝袋付 ¥5000、一泊二食¥8000(H21/8現在) 従って、小屋泊まりの限り寝袋不用です。 【同行】修ちゃん、たらちゃん、なかいさん、まきたさん、Martyさん、 水谷さん(五十音順)
■『【第2日】 いよいよ聖岳』 はこちら ■『【第3日】 悪天避けて早朝下山』 はこちら
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