鍋倉山、藤倉山〜春告げ花街道

湯尾峠付近のカタクリ群落
平成21年 4月 5日(日)
【天候】曇りのち晴れ
【同行】別掲


 春になると山の会の皆さんが花を愛でに出かける山は幾つかあるが、その内の一つが福
井県今庄の裏山である鍋倉山に藤倉山。車で行くにしても高速代などが高かったこともあ
って、これまで行く機会を逸していたのであるが、青春18切符を1枚融通していただい
たことでようやく実現の運びに。すると大阪近辺では貴重な花々が、当地では雑草の如く
何気なく咲いているのに驚く。これは皆さんが毎年行くはずだと納得。数日前までとはう
って変わった春日和の中、駅を基点の環縦走はさながら花街道でありました。

 北陸線の今庄までは特急を除けば直通列車はない。幾度か乗り換えも必要で早くても3
時間近くかかる。早めに到着、かつ座って行きたいこともあって6:25新大阪発の新快
速に乗車する。メンバの中には4時前に起床したという猛者もいるなか、新大阪駅まで3
0分足らずで行けるのは有難い。7時台や8時台の湖西線には山姿の乗客が多いのだが、
今日も先頭の2両はほとんど”それもん”の人たち。(笑) あちこちで地図を見ながら
笑いさざめく声がする。何度かの乗り換えの後、9:10に今庄駅着。駅員は業務委託の
小母さんである。
宿場町の風情が残る今庄の街並み

 早い電車なので今庄で降りたのは我々含めそれほど多くない。駅前から線路に沿って北
に向かうとすぐに今庄の街の目抜き通りに合流する。北国街道の重要な宿場の面影を色濃
く残した通りには、格子戸やウダツを上げた民家も点在する。家並みが尽きた辺りが弘法
寺の八十八箇所の参道。鍋倉山へはここから登れば近いが、ここが常連のUさんは更に先
の湯尾峠から登りましょうとおっしゃる。眺めれば右に緩く湾曲した先に尾根の突端が見
える。

 舗装が途切れ地道は真っ直ぐに杉林に吸い込まれている。その辺り、いきなり早くも左
の斜面にカタクリがピンクの花弁を風に揺らせているのを見つける。こんな人家に近い所
に何気なく咲いているとは。そして色の濃いイカリソウ、ヤマエンゴサク、イチリンソウ
もある。日当たりがいい所為か開花が他所に比べて早いようだ。少し湿った草むらには大
きな花を付けたハシリドコロ。これは猛毒だ。遠目にイチリンソウに見えたのはキクザキ
イチゲである。春の花々がこんなだから、一里塚跡の付近で早々とグループはばらけて、
あっちでパチリ、こっちでカシャ。そしてその先、至る所にカタクリの花。益々足は動か
ない。この先、鍋倉山、藤倉山と環縦走の先は長いのにゴール出来るんかな。Sさんと顔
を見合わせては些か不安を覚えるほどだ。それが証拠にUさんらは過去何度か来てもまと
もに環縦走したことがないのだとか。(笑)

 徐々に登り基調になった道は古い峠道特有のジグザグを繰り返して高度を稼いでいく。
日野川が大きく蛇行しているのが見えてくる頃、苔むした石垣が現れた。湯尾峠に到着し
たようである。昔、湯尾城も置かれていたという切り開かれた台地には、孫嫡子神社が鎮
座する。疱瘡除けに霊験あらたかとかで、往時は茶店も幾つか軒を並べていたのだとか。
今は他に東屋や明治天皇の巡幸記念碑などが立つ。

湯尾峠。左から上がってきた。奥が孫嫡子神社

 木曽義仲の頃の古道はもう少し東を越えていたというので、そちらに眼を向けると少し
高台になっている。すると様子見にそちらに向かったTちゃん達が大きな声を上げた。何
事ならんと後を追うと....。そこは八十八ヶ所の石仏の祠が点在している山上の寺の
参道である。そこになんと息を飲むほどのカタクリの花。ほんとに足の踏み場もないくら
いだ。しかも花や葉っぱが大柄なものが多い。夜に時雨れたのかその葉や花弁の水滴が、
今しも雲間から顔を出した日にきらきらと輝いている様は美しい。皆さん、文字通り行き
倒れてしまった。(笑) あとで調べてみると、実に峠付近に40分もたむろしていたので
ある。松尾芭蕉が湯尾峠を越えたときの句碑から『月は名を包みかねてやいもの神』

 湯尾峠から南西に綺麗な尾根が延びている。孫嫡子神社の由緒書の横を通って石仏の祠
の点在する参道を緩々と登って行く。この辺りにもカタクリがちらほら咲き、北摂近辺で
は自然の中ではほとんど見かけなくなったシュンランもそこかしこに株がある。普通は頭
上高いところにあるタムシバの花もすぐ手に取れる位置にあるのは雪の影響であろうか。
鼻を近づけると甘い香りがくすぐる。
八十八ヶ所の石仏が並ぶ湯尾峠から弘法寺への道

 四等三角点『八ヶ所』は福井放送やNHKの今庄放送施設の横にある。小さくジグザグ
を切って登った先だ。横には岩屋不動尊を祀った祠。往路に過ごした表参道はここに上が
ってくるようで、いい道が今庄から付けられている。それを伝ってきたハイカーで人も増
えてきたが、その中に捕虫網を持った人を見かける。聞けばギフチョウを狙っているのだ
とか。と見る間に1頭が網に入った。タイガースカラーに赤い模様が入った華麗な蝶はこ
の時期だけのスプリングエフェメラル。それだから捕まえて標本にするのは何か忍びない
気がするのだが...。

八ヶ所山の展望台から今庄市街.右奥が燧ヶ城の尾根

 さて、今庄の街並みを俯瞰する展望台を過ぎて、極楽橋と名づけられた朱塗りの太鼓橋
を渡ると弘法寺の小ぶりな大師堂に出る。ノンビリ休憩を摂る人々と別れて、その先に高
圧鉄塔(北陸幹線甲bP43)。展望が良くなり遮るものがないので、北陸自動車道の騒
音も這い登ってくる。車道が延びる先には日野山が目立つ。越前富士といわれるがここか
ら見れば意外にダルい。かえって西に見えるホノケ山と呼ばれる山の方が富士っぽい。

高圧鉄塔(北陸幹線)から鍋倉山
左手奥に藤倉山東尾根の602m標高点ピークが覗く

 ここで尾根は急激に方向を変え、いよいよ鍋倉山を指して進み始める。ぐっと下ってか
らの登り。鍋倉山がえらく高く見える。その左手に鉄塔を戴いてちょこっと顔を出してい
るのが藤倉山の東にある602m標高点ピークのようである。おお、結構遠いやんか。
(^^;

 北陸幹線の鉄塔はペアになっていて、このペアの鉄塔が面白い。一種のネコ型鉄塔なの
だが、何ゆえかそれぞれ耳の片方がないのである。ドラえもんみたいにネズミに喰われて
しまったのだろうか?(笑)

 木陰ではもうイワウチワが咲き出している狭い鞍部からの登り返し。今まではほとんど
きつい登りはなかったけれど、ここからは一気に高度を稼いでいく。早朝トースト一枚で
出てきた身にはシャリバテでつらい。しかも昨日の雨と落ち葉で滑ってよけいに消耗する。
でもジグザグにステップが切られているのは助かる。額に汗しながらも少し余裕が出たと
ころで周囲を見回すと、辺りはマンサクの群落である。縮れた卍形の黄色い花。デジカメ
に収めるのが難しいんだよなあ。

 ようやく傾斜が緩んだ先には鍋倉西谷分岐の道標が立つ。西谷じゃなくて東谷じゃない
の?と思わず突っ込みたくなる。(笑)ここまで来るともう山頂の一角。あとは楽だ。

 ところでこの鍋倉山、三角点はないが地形図に名前があるほどだから山頂を示すプレー
トくらいはあるだろうと思いきや、不思議なことに何もない。ガイドには山名プレートが
写りこんだ写真があるらしいのだが...。おかげで二組のハイカーに山頂を聞かれる始
末。確かに山名に「鍋」がついているというだけあって明確なピークはなく台地状を呈し
ている。そんなことがあってあらためて気づいたが、指導テープもほとんどない山でもあ
る。まあこれだけ明確な道と道標があれば、バリルートはともかくとしてテープ類は不要
であろう。

 山頂はどこも雑木が邪魔してあまり展望は良くないが、とりあえず最高点と思われる5
16m標高点辺りで昼食。この頃になると雲が多かった空もほとんど青空となり、陽だま
りで気温は20℃と暖かい。こうなると缶ビールが欲しいねえ。

 オスとメスのギフチョウがたゆたう中、50m高度を下げたのち、藤倉の尾根までは1
50mの登り。右手にだだっ広い谷、その向こうにホノケ山が構えている。御神灯(藤倉
権現)分岐のある鞍部(鳥山跡)の先からは、清澄な芽出し寸前のブナ林だ。藤倉山まで
1.2km。やがて藤倉尾根への最後の急登を迎え、窪みにまだ雪が残る尾根を滑りつつ
つづら折れする。

鍋倉山と藤倉山間の鞍部のブナ林

 尾根に上がった所には道標と藤倉山から来た時に直進しないよう朽木で簡単なバリケー
ドが組まれている。藤倉山の北西尾根は地形図で見ても屏風のように一直線で魅力的。見
たところヤブもないのでバリケードを跨いで歩いている人もいるらしく薄い踏み跡も認め
られた。
上がった先は気持ちのいい藤倉尾根

 クマザサとブナ、リョウブ、コブシ等が混ざる快適尾根にほとんど高低差はない。地形
図にある点線路を探しながら歩いたけれど、見落としたのか確認できないまま藤倉山頂ま
でやって来てしまう。

雄大な眺めの藤倉山山頂。遠くに雪の越美国境の山々が

 少し緩々と登った先が反射板の立つ藤倉山の山頂。西方向を除く大展望が広がって登っ
てきた甲斐があるというもの。とりわけ雪をいただく越美国境の山々が雄大で美しい。空
に浮かぶ雲がその雪の斜面を翳らせているのが分かる。その中で一際高いのが確信はない
けれど能郷白山だろう。そして北東側に空中に浮かんだように見えるのは、ひょっとして
白山だろうか。更に眼下は南条市街とこちらは雪がない日野山。北西方面は霞んでいるが
多分海が望めているはずだ。そうして目の前には歩いて来た湯尾峠から八ヶ所山、鍋倉山
と続く稜線が並び、黒々とした杉林は弘法寺大師堂付近だろう。このようにいつまでも見
飽きない景観に時間はあっという間で、気づけばもう30分も経過しているではないか。
そろそろと腰を上げる事にしないときりが無さそうだ。(^^;

 芽吹き始めた明るいブナ林の中。こちらもいい感じの林が続く。ポッポッとコブシやニ
オイコブシの白い花。雑木に紛れてキンキマメザクラ。北電の巡視路を兼ねたエスケープ
ルートが幾つか分かれる。その内の一つは道標があって光明聖寺跡へとある。地形図を眺
めると、今庄の街には山際に沿って幾つも寺のマークがあるが。その内の一つにでも降り
ていくのだろうか。振り返ると、葉を落とした潅木の隙間から、今まで立っていた藤倉山
がもうあんなに遠くになっている。
藤倉山と602mピークの間のブナ林

602m標高点はさしわたし2mほどの白い露岩の付近。すぐ向こうに高圧鉄塔(敦賀線
bP4)が立つ。ここから燧ヶ城までは1.35kmだそうだ。鉄塔を潜って左に折れ、再
び林の中で滑りやすいきつい下り。立ち木でスピードを殺しながら降りる。

 ペア鉄塔に出る。周囲は伐採されて先ほどの鉄塔より展望が格段に良く、今庄の町並み
が一望の下である。今しも北陸線をサンダーバードが走り抜けて行く。視線を上げると遠
く雪の山々。後ろは湯尾峠から鍋倉山まで徐々に高度を上げていく歩いて来た稜線である
が、藤倉山は602m山の陰に入ってしまったようだ。

 再びカタクリが姿を現した。どうもこの辺では標高350m以下に生育しているように
みえる。でも贅沢ながらもうカタクリは見飽きてしまったなあ。(笑)

 傾斜が緩むと燧ヶ城は近い。堀切跡が現れたら、野面積みの石垣も残っている。国旗掲
揚のポールみたいなのが現れたと思ったら、あちこちに石碑が立つ小広場。これは曲輪の
跡に違いない。三角点は探すのに少し手間取ったが、低木の繁った石垣に囲われた2m四
方の壇の上である。これで今日三つ目の三角点だ。(^^/

 木の芽峠越の北陸道と栃ノ木峠越の北国街道などが交わる戦略上の要地、愛宕山に築か
れた燧ヶ城の歴史は古く、源平の戦いで木曽義仲勢が立て籠もり、南北朝の戦いでは足利
勢と新田勢、そして戦国時代には一向一揆勢と織田勢が対峙したと伝えられ、今の石垣は
その戦国時代のものだという。つわものどもが夢の跡。今は草むすのみだ。

 道は城跡の北の山肌に廻っていく。民家の屋根もよほど近づいて来る頃、再びカタクリ
の群落が現れ、その中をつづら折れに下る。この辺りがカタクリ祭の会場らしいのだが、
4時20分の列車を逃すと次は1時間後らしい。さんざん見てきたからカタクリの遊歩道
ももう余り未練はない。(^^; ほんのちょっぴり急ぎながら、ほぼ16時ジャスト、円通
寺観音堂の前に出て、石段を下るとすぐに目抜き通り。大きな燧ヶ城案内図のある藤倉山
登山口であった。

 地酒好きなSさんとTちゃんは酒林の下がった地元の造り酒屋を目ざとく見つけて店に
入っていく。その酒屋の少し先を右に折れると今庄駅の広場なのだが、ビールを楽しみに
ここまで来たのに、なんと駅の売店はクローズド。「あれえ....。」消え入りそうな悲痛?
な声なき声が出てしまうが、自販機を探し回るのも面倒臭い。乗換駅の敦賀まで我慢して
ここはコーラにしておこう。(山を下りたときのコーラが格別美味いのです。)

 二両編成の電車は空いていて全員着席。そこへプラットフォームで話しかけてきた山好
きの変な小父さんが紛れこむ。(笑) やたら横山岳にご執心の須磨から来たという小父さ
ん、何度か乗換えがあったというのにどこからか現れて、とうとう大阪駅までご同伴とな
るハプニングで今回の花行脚は大団円。往復5千数百円のところが2千3百円と半額以下
の汽車の旅。18切符を用意してくれたTちゃんに感謝。そしてまたまたいい山を紹介い
ただいたUさん、Sさん他、同行いただいた皆さんに感謝です。

【タイムチャート】
6:25JR新大阪駅
9:10〜9:16JR今庄駅
9:30弘法寺正面参道口
10:00〜10:40湯尾峠
11:11〜11:16八ヶ所山(338.3m(四等三角点))
11:25弘法寺大師堂
11:26高圧鉄塔(北陸幹線甲bP43)
11:57高圧鉄塔
12:11鍋倉西谷分岐
12:16〜13:16鍋倉山(516m)
13:29鳥山跡(御神灯分岐)
13:59〜14:00藤倉尾根
14:18〜14:48藤倉山(643.5m(三等三角点))
15:03602m標高点ピーク
15:05高圧鉄塔(敦賀線bP4)
15:15高圧鉄塔
15:44〜15:50燧ヶ城(270.0m(四等三角点))
16:00円通寺観音堂
16:06JR今庄駅


■同行: 裏人さん、幸さん、スナフキンさん、たらちゃん、みかみさん


鍋倉山、藤倉山のデータ
【所在地】福井県南条郡南越前町(今庄)
【標高】 鍋倉山 516m
藤倉山 643.5m(三等三角点)
【備考】
越美山地の西端、蕎麦どころで有名な今庄の西に並ぶ里
山です。カタクリをはじめ、春を告げる花々が多く、駅
からも近く手軽に登れるので、春先には関西からも多く
のハイカーが訪れます。なお、藤倉山は北から東の展望
がよく、白山や越美の山々が見渡せます。
【参考】
2.5万図『今庄』



藤倉山山頂から北から東方面。左に薄っすらと白山、右手は雪を被る越美山地。一際高いのは能郷白山らしい

春告げ花街道


イワウチワ
カタクリ
シュンラン
キンキマメザクラ
トキワイカリソウ

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