大普賢岳〜梅雨の合間の納涼登山


奥駈道の石楠の馬場付近から眺める大普賢岳
平成21年 7月 5日(日)
【天候】曇りのち小雨
【同行】単独


 前にもこのHPで書いたことがあるけれど、梅雨時から夏にかけての低山はつらい。長
いものに虫、クモの巣。しかし何といっても着実に体力を奪って行くその暑さ。そこを行
く登山者は炎熱地獄を克服しようという修行僧の趣がある。そんなわけで出掛ける所も絞
られてこざるを得ないが、そのうちの一つの選択肢が大峰界隈だ。予報は昼過ぎから雨と
いまいちだったけれど、それなら早めに出掛ければいいやと珍しく6時前に出発。お蔭で
雨になったのは下山中で、しかも木々が傘の役割を果たしてくれてほとんど濡れることも
なく、涼しく静かな山歩を楽しんだのだった。

 朝が早いので道路はスムーズ。コンビニ、GSに寄り道しても2時間と少しで取付きの
和佐又山ヒュッテに到着する。時刻は8:10。先着の車は6、7台。梅雨真っ只中の影
響かテン場にはテントの影もない。早速準備を終えて丈の低い笹原に付けられた小道へ向
かう。登山口には新しく設置された案内板と登山ポストがある。

和佐又山登山口

 先達の石碑や良く知らないが和佐又山保全に尽力したという某氏のレリーフを右手に見
ていよいよ山道。といってもしばらくは緩々とした傾斜で、和佐又山のコル、無双洞の分
岐と過ごして癒しの森が始まる。
和佐又尾根の木の根道

徐々に石屑だらけの山道になって尾根から外れて岩崖を左に巻き道となる。忠実に尾根を
辿る赤テープがあるのは日本岳への登路だろう。日本岳は南側の中腹に笙ノ窟などを形成
する険阻な山で、登るにはロープワークが必要らしい。そんな技術も素養もない小生、ま
してや単独となるととても登れた山ではない。(笑)

 やがて上北山村の文化財ともなっている窟群が現れる。最初が指弾ノ窟。キジムシロな
のだろうか岩の上で黄色い花を咲かせている。白い穂の様な花はルイヨウショウマではな
いだろうか。そしていよいよ鉄梯子の登場。湧き水が流れる石段に大きなブナの倒木。日
本岳の南面をへつりながら進むと朝日窟、笙ノ窟、鷲ノ窟と連なる窟群。朝日窟には『大
峰満山護法善神』と刻まれた石、笙ノ窟には不動明王、鷲ノ窟には役行者像が安置されて
いる。それにしても巨大なオーバーハングだ。見上げる首が痛いほどである。昔の人々が
自然の造詣の威に打たれたのも良く判る。おっとお腹が鳴った。やっぱりシャリバテには
勝てない。笙ノ窟の前でSoyJoyで腹拵えだ。(笑)

 無双洞に降りる岩本新道分岐を過ぎた辺りだった。なんだか目の端で物が動いたような。
立ち止まってそちらを見れば、こげ茶色の小さな鳥が二羽、尻尾をピンと上げてこちらを
窺っているではないか。帰宅して調べたらどうもミソサザイだったようだ。それにしても
野鳥の多い森で、オオルリやコマドリも鳴いていたみたいだ。

 日本岳の裾を回りこんで、最後は鎖や梯子のかけられた水っぽく足場の悪い急斜面を登
ると、日本岳と小普賢岳の間のコルに出る。ここから奥駈道との合流までが梯子や鎖、桟
道の連続する険しい山道である。艶々した黄緑のコイワカガミを鼻先に見ながら登る箇所
もある。整備されてはいるがバランスを崩せば落下して命が無い箇所も多々あるので油断
すると危険な箇所だ。
石の鼻から日本岳。右手奥にガスに煙る和佐又山が見える

 『石の鼻』と名づけられた展望岩の上に乗るが、生憎のガスだ。大台方面は勿論、すぐ
目と鼻の先の日本岳さえ姿が消える時がある。ツクシシャクナゲの繁る岩崖を辿っていく
と、しばらくは小普賢岳の北側の山腹を巻く平坦路で、その先を回りこむと小普賢岳の肩
にでる。目の前に盛り上がるのが大普賢岳。その前にまたコルがある。自然石の階段で下
って登り返し。サラサドウダンツツジのおびただしい花が地面に転がっている。全部が散
ってしまったかと見たら、まだ花房を揺らしている木もある。ナツツバキの白い花も二つ
三つ。見上げてもどこで咲いているやら。それにしても花を愛でながら登れるのも桟道や
はしごがあるから。これらがなかったらなかなか厳しい山に違いない。

 山頂の下を一旦北に出て、大峰奥駈道と合流して折り返すように山頂に向かう。5分ほ
どでこれで3度目の狭い大普賢岳の頂きに至る。大台方面は雲海だが、それもすぐにガス
にかき消された。西に出て稲村ヶ岳方向も眺めるがこちらも当然...。と、見る間に晴
れてくっきりと稲村ヶ岳と大日山。バリゴヤ谷ノ頭の険しい凹凸もはっきり分かる。その
奥の大きな山が弥山らしい。先に着いて菓子を食べていた親子連れが水太覗へ向かって行
ったので、山頂は独り占めとなった。少し早いがここで食事とするか。しかしどこから飛
んでくるのか虫がうるさい。
 
 ガスは段々濃くなるようだが、空は明るく今しばらくは雨はないと見て、時間も正午前
だしうろうろしてみるか。と山頂の北の奥駈道を辿ってみることにした。ヒメザサのなだ
らかな尾根から少し登ると小高いピーク。碑伝が沢山置かれた岩の横を降りていくと、太
古の森もかくやと思われるシャクナゲとモミの原生林。エアリアマップで見ると『石楠の
馬場』と呼ぶ所らしい。倒木も累々とし、苔も密生していて「もののけ姫」でもでてきそ
うな雰囲気がある。

 うろうろしている内になんだか少し雲行きが悪くなってきたようだ。雨粒を含んだよう
な灰白色のムクムクした感じの雲が周囲の山を覆っている。濡れた鉄梯子や岩を歩くのは
いやなので道草をせず少し急ごうか。コース途中の小普賢岳のテラスから小普賢岳へ少し
登ってみようかとも思っていたけれど断念。振り返ると大普賢岳の山体さえ見えないガス
の中である。ガスが岩に当たって岩の表面を濡らしている。登りにはあまり気付かなかっ
たけれど、足を滑らせたらと思う所が随所にある。登る時より降りる方が足元を見るので
剣呑である。そんな中、帰途も石の鼻に登ったが、なーんにも見えずである。ガスの粒が
当たる。水蒸気はかなり飽和状態のようである。そしてとうとう、笙ノ窟を降りる辺りで
木の葉に雨粒が当たるサワサワした音が響き始めた。空を透かすと雨粒がはっきり分かる。
でもまあ、ここまで降りておけば雨がいやな核心部は過ぎているわけで、朝早く出発した
のが功を奏したわけだ。早起きは三文の徳だなあ。(笑)

 笙ノ窟を後にした下りの山道で何かの拍子で躓いて拳くらいの石を蹴飛ばしてしまった。
石は崖下へ転がって姿を隠したが、かなり長い間、何度か岩に当たる金属音が聞こえてい
たから、樹木があるので肉眼では見えないものの、下はかなり深い垂直の崖なのだろう。

 さっきまで鳴いていたエゾゼミや鳥の声も途絶えたみたいで、雨の音とはるか下の水太
谷だろうか沢音が聞こえるだけ。最後の鎖場を抜けて穏やかなブナとヒメシャラ、モミの
尾根筋に出る。頭上を枝が覆っているので歩いていると雨が降っているのかわからないく
らいだが、その分夕方のように薄暗い。和佐又山経由で戻ろうかとも考えたが、山頂へ行
ってもこの雨じゃ大普賢岳の展望も期待できずなのでそのまま左の巻き道を選択。小雨で
誰もいない和佐又山ロッジの駐車場へと下ったのだった。それにしても大普賢岳にもオオ
ヤマレンゲがあると知らなかった。見かけたのは2本だったが、今年も沢山、天女花を見
せた貰って満足だあ(笑)。

大普賢岳にも咲いていたオオヤマレンゲ

 山では雨だったのに下界の国道の路面は乾いていてその形跡もない。時間が早いので、
今まで少し気になっていた川上村の国道沿いの山野草屋と福住の山野草屋に寄ってみる。
コアジサイ、シロヤシオの苗でもあれば欲しいところだったが生憎と見つからず。帰宅し
てむっとする湿気に、あらためて山の涼しさを思い出すのでした。



【タイムチャート】
5:40自宅発
8:10〜8:15和佐又山ヒュッテ(駐車地)
8:37和佐又山のコル
9:10〜9:12指弾ノ窟
9:22〜9:27笙ノ窟
9:40日本岳のコル
9:50〜9:55石の鼻
10:35奥駈道出合
10:40〜11:27大普賢岳(1,799.3m(三等三角点))

(12時まで奥駈道うろうろ)
12:00奥駈道出合
12:33〜12:35石の鼻
12:56〜13:00笙ノ窟
13:30〜13:35和佐又山のコル
13:47和佐又山ヒュッテ(駐車地)



大普賢岳のデータ
【所在地】奈良県吉野郡上北山村、天川村
【標高】1,799.3m(三等三角点)
【備考】 大峰山脈主稜上にあり、大峰中、最も峻険な山で、大台
ドライブウェイの伯母谷付近から眺める姿は秀麗です。
東尾根には窟が並び、中でも笙の窟は役行者、西行、円
空が修行した所と伝えられています。登路は東の和佐又
からがメインですが、途中に鉄梯子、桟道が多く、露岩
も多いので、雨や雪の時は要注意です。
■近畿百名山■関西百名山
【参考】2.5万図『弥山』



大普賢岳からの西方を見る。左からバリゴヤ谷ノ頭、稲村ヶ岳、大日山の尖峰。右に山上ヶ岳

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