錦秋の芦生〜五波峠から権蔵坂再び

若丹国境尾根から中山谷山
平成21年11月 7日(土)
【天候】晴れ
【同行】別掲


 先週の11月3日は時ならぬ寒波襲来で、あえなく転進を余儀なくされた芦生周辺の若
丹尾根歩きだが、週末にリベンジしましょうとの誘いに早速手を上げた。おかげで一転、
夏日にもなろうかという晴天に恵まれて、無事、リベンジを果たすことができたのでした。
でも帰途は2年前と同じように芦生の権蔵谷を下ったのだが、その当時よりも道が厳しく
なっているように感じたのはどうしたことだろうか。

 先週よりは若干遅め。6時15分、例によって千里中央のローソンの前に集合し、途中
で今日のメンバをピックアップして通いなれた道を行く。途中、亀岡では猛烈な霧で、フ
ロントガラスにはミストがびっしり付着する。とはいえ霧ということは天気になるという
こと。南丹市の美山町に入る頃には青空が覗く。京大研究林の事務所がある須後の駐車場
にはもう3、4台の車がある。ここに1台をデポして、今日の出発点の五波峠へ向かう。

 15分ほどで登り着いた峠には誰も居ない。風もなく大して寒くもない。朝露に濡れた
峠一帯はこの間の木枯らしで梢を離れたらしい黄や赤の落ち葉が散り敷き、いやが上でも
秋のしっとり感をかもし出している。今日は渡渉も多くなるので足元は長靴で固める。G
さんも長靴だが、長靴を履いて今日のような長丁場は初めてだとかで少々不安顔。我輩は
これで何度目だろうか。芦生でも、以前、地蔵峠−野田畑峠−杉尾峠と周回した際は長靴
で、大いに恩恵を授かったことがあるのだ。

 さて、準備を終えたら五波峠の林道記念碑横から東へ尾根を辿る。2年前に来た時は師
走だったのでナラやブナ、カエデなど木々はほとんど裸木になっていたが、今日はまだま
だ多くの葉が枝々にある。昇り始めた日の光に透けた葉が鮮やかだ。

 しばらくの登りを我慢して無名ピーク。これから先、中山谷山の分岐の高みまでは分岐
直下のちょっとした登り以外は大した登りはない。我々が落ち葉を踏むサックリ音や、小
枝を折る音以外の音は聞こえてこない。本当に静かだ。

権蔵坂への若丹国境尾根は秋色一色

 尾根を忠実に辿るもよし、少し尾根をはずして楽をしながらもよし、クマザサが枯れて、
ブッシュがないので自在に歩ける。が、踏み荒らしてもまずいので薄い踏み跡と疎らなテ
ーに沿う。中山谷山(田歌山)の分岐からは本日のルート一番の下り。とはいえ、鞍部は
下に見えているから安心。滑って転ばぬように潅木を掴みながら降りてゆく。まもなく坂
谷源頭の標識を過ぎる。芦生特有のやわらかくカールした谷は一面の落ち葉である。

 坂谷源頭からまもなく、茶色に錆びた古いワイヤロープが落ち葉に埋もれている辺りが
飯場跡と呼ばれる場所だろう。杉でも搬出したのだろうか?背後の木の間越しには中山谷
山があって、ここから見ればひとかどのピークである。そして飯場跡からすぐに『第二迷
点』の標識のある地点に出る。ここは歩く方向が変わるけれど、それほど迷いやすいとも
思わない場所だ。むしろこの先にある717m標高点ピークに続く尾根に誘われやすい箇
所の方がルートを外しやすい所だと思われる。前回もそうだったように、今回もやはり誘
い込まれてしまったのだが、『第二迷点』から進んで682m標高点ピークを通過すると
尾根が広がって、枯れた笹の痕跡を残す中、道はやや不明瞭になる。すると自然に台地に
出てしまい、前方に現れてくる高みの急斜面をおのずと登らされてしまうことになるのだ。
場所は682mピークのほぼ東の地点。しかもおそらく717mピークへの導くものなの
だろう、沢屋のものなのか残置テープもあるからややこしい。尾根の方向がおかしいこと
に気づいて、一旦、引き返し、高みを降りて周囲を探るとテープが見つかった。正規ルー
トは高みに登らず高みのふもとをトラバース気味に東北方向に向かっている。その717
mピークは三角形の顕著なピークで、『第二迷点』の先に現れた裸地の上に立つと南側に
よく目立つピークだ。

 この最大の難所?を過ぎれば後は権蔵坂までは、尾根も狭まり顕著で迷いようがない。
左手に八ヶ峰。その山並みの更に左手、低まったあたりが五波峠であろう。北西に今日は
青葉山の双耳峰もはっきりと輪郭を現している。エゾユズリハの群落を抜けるとコナラが
林立する692m標高点ピークに到着する。

 692m標高点ピークを越えると、笹枯れの軸が残った尾根はゆるやかに権蔵谷へ向っ
て下っていく。右下から権蔵谷が近づいてくる。と、目の前の斜面を下った先に見覚えあ
る道標と案内板がかけられているのを見つける。あっという間に権蔵谷だ。

 北側の若狭染ヶ谷方面には須後側よりも明確な踏み跡が上がってきている。これを下れ
ば五波峠を越える林道の支線に出くわすようだ。峠の立ち木の説明板に、米を運ぶのに若
狭側は荷車、京都側は人力とあるから、道の整備具合もおのずと違っていたのだろう。

 さて、この先だが、Gさんの長靴が足には少々大きすぎるそうで、当初よりはショート
カットして、このまま権蔵谷を下って櫃倉谷に合流することにする。少し京都側に下りた
所で昼食とした。
柔らかいU字の権蔵谷の源頭

 相変わらず、権蔵坂から権蔵谷の源頭はすばらしい。落ち葉のじゅうたんが敷き詰めら
れ、雑木の斜面にも下草はない。お椀形の最も低い部分に刻まれた一筋の窪みがどこから
か雫を集めて、やがて沢音を響かせ始める。これも由良川の源流の一つだ。峠から100
mも下って左からの沢筋と合わさる頃には、もうサラサラ流れるひとかどの小川である。

 しかしながらこの権蔵谷。こんな厳しかったろうか?前回歩いた時も当然、V字の沢の
斜面をへつりながらであったものの、確か今日よりも確かな踏み跡があって、もっと楽に
歩けたような気がするのだが、今日はほとんど踏み跡らしきものはない。歩き易い所を選
んで右岸、左岸と渡り歩かねばならない。ズルッと滑りそうな箇所が何箇所もある。ただ、
一度歩いていて、滝がないことが分かっているのでその点は安心である。おっと、思わず
抱いた幹にカメムシがいたらしい。モワッと手のひらから独特の臭い。こりゃかなわん。
沢水でゴシゴシ。と思えば前回にはなかった大きなブナの倒木が行く手を塞ぐ。湿気を含
んでヌラッとした大きな幹は登って越えるのは滑って危ない。ザックを下ろして空身にな
って、幹の下の狭い間隙を潜り抜けてようやく抜ける。フーッ。

権蔵谷途中にて

 悪戦苦闘しながら、前方、左横から谷が合流しているようだと思った所が櫃倉谷との出
合であった。権蔵谷に比べればほぼ倍位の大きな谷で水量も多い。単独小父さんと出遭っ
たが、これが今日初めて遭った人であった。

 権蔵谷と櫃倉谷の出合は危険箇所で、ロープが張られている岩場。長靴は滑りやすいの
で気をつけねばならない。踏みはずせば10m下の淵と岩場。打ち所が悪ければと思わせ
る悪場である。ちょっと冷や汗を掻きながらも無事通過。この後もこの辺りで一番大きい
幅広の滝を高巻いたりしつつ、一旦、眼下遙か下になった谷は再び道に沿うようになる。
その間、滑りそうなところも随所にあって、スリルは満点。と暢気に云ってられるのは、
こうして山行記を書いている今だからこそである。(^^;

櫃倉谷の秋

 相変わらず踏み跡は谷川の右岸、左岸の行ったり来たりを繰り返す。日はこの前の雨で
水量がやや多い様子。でも、ここは長靴が威力を発揮。淵以外なら所選ばずどこでも歩け
るのが有難い。見覚えある大トチの林。熊のねぐらみたいな洞がある物もある。かと思え
ば、ヤマモミジの彩り豊富な斜面もあって飽きさせない。右に左に頭を巡らせて秋を楽し
みながら歩く。

 櫃倉谷もネットで良さが知られ、歩く人も多くなってきた。そんな中に単独女性もいた。
鹿皮の尻当て、所謂、引敷(ひっしき)を当てていたからかなりの山好きだろうが、メジ
ャールートでもないのに、正直、ちょっとびっくりである。

 坂谷は少し暗い感じのする谷である。ネットを引くと、この谷を遡行して中山谷山へ戻
る人もいるらしい。いつか辿ってみても面白いかもしれない。

 さて、この出合までくれば中ノツボ谷の出合まではもう直ぐ。芦生で最も険しい谷とい
う中ノツボ谷もここでは穏やか。パッと広くなったその出合はキャンプなんかに最高な場
所だ。一本のモミジが日に映えて文字通り燃えるようである。

真紅のカエデ(櫃倉谷と中ノツボ谷の出合にて)

 少し中ノツボ谷側に歩いて横山峠への登りにかかる。ジグザグに付けられた坂道はオオ
イワカガミ、イワウチワの混生する切り通しになっている。峠を越えると眼下は30mく
らいの崖だが、引っかいたような踏み跡は左手の山腹を忠実に巻きながら下っていく。細
い滝を山肌に見つつ、再びジグザグに降りていくと、対岸が櫃倉林道の終点となっている
最終渡河点。いつもは浅いのだが今日はなかなかの水量。以前は丸木が渡してあったよう
に思うが今は跡形も無し。我輩は長靴で涼しい顔をしていられるからいいのだけれど、登
山靴の人はここは靴を脱がねばつらいだろう。(笑)

 あとはブナノキ峠方向へ向う内杉谷林道との出合まで2.1km、出合から須後まで2km。
都合4.1km、約1時間の林道歩きだ。西に傾いた日に照らされた雑木の山肌が黄金色。
真っ赤なモミジもあって、林道出合まではなかなか見飽きない。そうとは言え、単調な林
道歩きはだんだん飽きてくる。長靴なので足も少し痛くなってくる。建物の屋根が見えた
時は正直、ホッ!。駐車場でグビリ。お茶を飲んで一息ついたのでした。



■同行: 呉春さん、二階堂さん、水谷さん(五十音順)

【タイムチャート】
6:00千里中央ローソン前(集合地)
9:00〜9:06五波峠
9:49Ca720mピーク(中山谷山分岐)
9:58坂谷源頭
10:03〜10:05第二迷点
10:15〜10:20682m標高点ピーク
11:00〜11:10692m標高点ピーク
11:25〜11:50権蔵坂(昼食)
12:32〜12:55櫃倉谷出合
13:30坂谷出合
13:44中ノツボ谷出合
13:52横山峠
13:57櫃倉林道終点
14:30内杉林道出合
14:55須後駐車場



権蔵坂のデータ
【所在地】 福井県大飯郡おおい町(旧名田庄村)
京都府南丹市(旧美山町)
【標高】Ca640m
【備考】
若狭と丹波を結んだ所謂、若狭越えの街道の一つでした。
名田庄村の馬方権蔵が拓いた道ともいわれます。若丹尾
根は昔に比べて格段に歩き良くなったとのことですが、
地形図、コンパスは必携です。
【参考】
2.5万図『久坂』『中』




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