暑っ!梅雨明け前の白倉岳横断行

小川松原橋付近から、
先程まで居た白倉岳西尾根を見る
平成20年 7月 5日(土)
【天候】曇り
【同行】たらちゃん、水谷さん


 湖西、北山方面にはアシウスギやカツラ、トチノキなどの大木がある。私も十年以上、
山歩きを続けてきて、沢山の巨樹と云われる木々を見てきた。芦生のアシウスギ、糸井の
大カツラ、御祓山の桜などなど。そんな大木を眺めがてら湖西の白倉山塊を東西に横断し
てみようという企画をMさんが立てた。問題は天気だったはずなのだが...。一体、梅
雨は何処へ行ったのだろう。一週前の二の谷山とはうって変わって、纏わりつくような湿
気と暑さに閉口。必要以上に体力を消耗させられ、へろへろ状態では大木見物も二の次だ。
それでも何とか横断行という最低限の目的だけは果たせたのでした。

 一応、下山口に考えているのは平良のオートキャンプ場付近。針畑川に架かる橋を渡っ
た所の林道入口に「白倉山登山口」と書かれた朽ちかけの案内標が草に埋もれているが、
これが手がかりだ。近くの平良の集会所にMさんの自転車を置く。下山後はこれで車を回
収に行ってもらうのだが、ズッと下りとは云うものの15km近くはあろう。これは大変
だ。

 国道へ戻って北上、土砂崩れ工事の仮橋付近から西村井の集落に入る。車を降りた途端、
夏特有のモワーッとした暖気と湿気が身を包む。二の谷山の時に比べれば、気温にして6
℃以上は高かろう。湿度も相当高そうで、これで標高差700mの登りはかなりつらいん
じゃないか。(笑) なにせ夏の気候にまだまだ体がついていっていない感じなのだ。登山
口にはこんな暑さの中で登ろうという奇特な先行者の車もないようだ。

夏草茂る西村井の登山口。暑そう!

 西村井のコースは今回で4年ぶり2度目。民家横の林道を進み、指導標に従って折れて
杉林に入る。と、Tちゃんがくねくねうごめくものを見つける。オッ?前を行くMさんの
ズボンの裾にもへばりつく物が...。「エエッ?こんな所にヒル?」確かに植林下で地
面が湿ってはいるけれど、沢沿いでもなくよもや出現するとは思わなかったのでビックリ。
慌ててスパッツを装着、効くか効かぬかは二の次。虫除けを噴霧する。

 右の高みを一気に上がる道を登り始める。杉林の中は風が通らず蒸し風呂だ。ヒルにも
蒸し風呂にも別れを告げて早く尾根に出たいのだけれど体がついて来ん。十歩歩いては立
ち止まり涼を入れるの連続である。(^^;

 杉林が途切れて明るくなった切開きが松本地蔵のお堂の立つ小さな台地。東から来る林
道風の参道と合流する。板戸には鍵がかかっておらず、覗くと以前のままの石地蔵が鎮座
するが、吊り提灯は破れて数年前に訪れた時よりうらぶれた感は否めない。汗が引くまで
小休止。団扇をフル回転させる。
松本地蔵のお堂

 松本地蔵の先は左が深い棚林谷でほぼ等高線に沿ったへつり道だ。土砂崩れの工事現場
の音なのか遠雷の音なのか、腹に響く音が聞こえてくる。曇って薄暗い雑木林を進み、4
90m標高点近くのアカマツ林に出る。すると今年良く聞く特徴ある鳴き声が北の八幡谷
の方角から降ってくるではないか。またまた耳にするアカショウビンの鳴き声である。広
島の吉和冠山、大万木山に続いて今年は3度目だ。姿を目にすることは稀であるが、声だ
けはちょくちょく耳にするということは、結構、個体数は多いようである。

 これからは少し傾斜も厳しくなるだろうと、平坦な545m標高点付近で小休止。アン
パンを腹に入れる。

 コアジサイの茂る山道はジグザグを切って登っていく。蛇谷ヶ峰が良く見える場所があ
ったはずだが、木が成長しているのか見逃したのか。757m標高点付近には大杉が一本
佇立しており、その杉が背後になると、大彦峠からやってくる稜線が間近に迫り、左手に
は烏帽子岳らしい高みも視野に入る。ここら辺りが最後の胸突き八丁で、少し喘ぎながら
登っていくと、左に傾ぎながら村井コース出合に出る。桑野橋、大彦峠コースとの合流点
である。ところで大彦峠は”おしこ”峠と読むが、この付近、針畑川沿い一帯は思子淵神
社や忍子淵神社など”しこ”がつく名前が多い。”しこ”は元は”醜”と書き、強いとい
う意味がある。相撲の四股、四股名もこれが起源だ。”思子淵神社”などはさだめし霊験
あらたかな強い竜神を祀るのだろうが、”彦”はまた山幸彦、海幸彦で分かるように男を
表す。即ち、強い男という意味だが、ダイダラボッチみたいな言い伝えでもあれば面白い
のだが...。閑話休題。

757m標高点付近の大杉

 流石に六甲より高いだけあって、オオルリだろうかさえずりを聞きながら、食事でじっ
としていると涼しい。汗が引いたところで烏帽子岳へ向う。

 烏帽子岳へは結構な登りがあったような記憶があったのだけれど、村井コース出合から
はほんの一登りだった。幾つかのプレートがかかる山頂は小さな切り開きだが、葉が繁っ
て眺望は思うに任せない。以前歩いた縦走路は南に下って烏帽子峠へ出る。今日は南には
向かわず、ここ烏帽子岳から西の稜線を伝う予定。そちらを窺うと古い黄色テープがある。
キャンプ場へ向うテープだろうか。

烏帽子岳山頂。ここから西尾根へ

 下草もブッシュもない歩き易い尾根だけれども、ほとんどうっすらとした踏み跡しかな
い尾根は、幹に食害を防ぐPPテープが巻かれた杉林が現れる他、ホオノキが多い。野鳥
の声を間近に聞く。

 歩き易い部分を選びながら、時折、現れる古い白テープなどを追って進む。ほとんど標
高差のない尾根は明瞭で、ここまでは迷うようなところもない。やがて現れるのが892
mピークだ。変哲もない高みだけれど、雑木に一つだけ、”P892”と書かれた割合に
新しいささやかな木製プレートが引っ掛けてある。この尾根では唯一見かけたプレートで
ある。

下草もなく歩き易い西尾根

 尾根は892mピークから方向を変えて北西に延びる。Ca880mの台地上のピーク
まで1kmくらいはあろうが、そこまでもほとんど標高を落とさない。ちょくちょく現れ
る白いテープで作った方形の囲みがあるのが不思議である。

若狭幹線のネコ鉄塔が現れた。奥は858mピーク

 突然、前方が開けると、忽然とネコ鉄塔が現れ、我々にとってみればハイウェイの様な
道が現れた。関電の鉄塔巡視道だ。巡視道は尾根の北端に沿ってやって来ているようであ
ったのだが、このネコ鉄塔、どこかで見た覚えがあると思ったら、最初に直下に出た鉄塔
プレートを読むとなんと若狭幹線乙bW0とあった。そうだ、大御影山の北の大日尾根で
通過したのと同じ系統なのだ。そしてこの後、我々は幾つかの鉄塔の下を通過し、巡視路
を利用しながら平良・小川方面に下る事になる。

 巡視路が尾根の南縁を通ると周囲が見渡せる。南東方向が開け、白倉連峰の山並みと8
92mピークから派生する山脚が大きく前に立ちはだかる。下からは沢音が微かに上がっ
てくるのは小川谷の音らしい。

 767m標高点の手前。地形図を見ると小さな支尾根が北西に派生していて、平良のキ
ャンプ場へ降りる道はこの辺りからだろうか。そこで杉林の中にある巡視路を示す火の用
心マークから甲幹線の鉄塔が見えるので試しに降りてみた。何となく踏み跡の痕跡らしき
ものがあってPPテープもあるのだが、それが果たして指導テープなのかどうかは怪しく、
巡視路は降りていない。廃道臭く、ここは大人しく元へ戻るのが無難なようである。

若狭幹線甲bW4鉄塔からザレた急斜面道を下る
画像では分かり難いがかなりの急斜面だ

 甲bW4鉄塔の台地からは針畑川沿いの県道や民家がミニチュアのように眺められる。
前方の山はほぼ白倉岳と同じくらいの高さで、三国岳から続く経ヶ岳やイチゴ谷山の山塊
らしく、その向こうはもう芦生方面である。ゴロゴロ聞こえる北の方の空は暗い灰色。そ
ちらの雲は近づく気配はなさそうなのだけれども、そのイチゴ谷山方面に別の入道雲があ
りそうで、むしろそちらの方が心配である。下の樹林に続く小道が見える。こんな裸地で
雷に遭ったらいやなので、一刻も早く樹林へ向いたいのだが、何せ地形図の通りの急斜面
に、無理からつけた巡視路なので、急でしかもザレていて滑る事滑る事。蒸し暑いわ、足
元に気を使うわで、下りで思わぬ大汗をかいた。ようやく樹林の中で一安心。甲bW5、
乙bW4の下を通って雑木の中の一間幅の一本道になる。ここも良く滑るが徐々に傾斜も
緩んで、最後は左下に現れた沢へ降りていく。幅1m程度の流れがある。取水用らしいミ
ニ堰堤で顔を洗う。嗚呼、冷たい!
我々にとってはハイウェイの様な沢に出る手前の巡視路
でも傾斜は厳しく滑りやすい

 谷は直ぐに開け、取水施設の白い建物が現れると、その先は荒れていないダート林道で
ある。ヤマツツジやギボウシの花などを見つつ、緊張感も解けてブラブラと歩いていくと
県道沿いの民家が見えてくる。但し、林道は針畑川沿いに反対側の南へ下っていき、30
0mほどでようやく橋が見えた。地図で確かめれば想定していた場所よりおよそ1.5k
m南の地点で、ほぼ平良と小川の中間地点だ。高島ふれあいバスのバス停には小川松原橋
とある。振り仰ぐとさっきまでいた斜面にネコ鉄塔が立っている。すると顔にポツッと来
た。ついに雨か。にわか雨には珍しく雨はゴロゴロ云う割りにそれほど強まる事もなくシ
トシトと降る。携帯をかけると、先行したMさんは平良分校前のバス停で雨宿りの最中だ
とか。雨脚が弱いうちに出来るだけ進んでおこう。

松原橋のたもとにある林道入口に出てきた

 以前、イチゴ谷山(ヘラ谷奥)から降りてきたことのある巡視道を左に見て急いでいた
頃だろうか。前方の枝がバサバサと揺れ動く。何事かと立ち止まればサルが慌てて斜面を
駆け上がっていく後姿だ。とにかく速い。ほんの数秒なのにもう20mも上の斜面を数頭
が上がっていく。すばしこい事を「ましらの如く」というが正に...。

 30分歩いてようやく廃校になった平良分校前。木造りの待合室にはMさんと共に、小
浜から来たという自転車野郎の兄さんもいる。小止みの隙にMさんは村井の登山口へ車を
取りに向ったが、その後だ。周囲は凄い土砂降りになった。見る間に針畑川は増水し、濁
り始める。これでは車を取りに行ったMさんは大変だろうと案じていたら、帰ってきたM
さん、ほとんど降られなかったとか。どうも近頃話題のゲリラ雷雨のようで、数km下る
と、路面は大して濡れておらず、川も澄んだままなのである。キツネに摘ままれた感じだ
が、特定域に時間雨量数十mmの豪雨を降らす雨を体験したひとこまである。

 今日も誰にも遭わない白倉岳横断行、結局、大トチが生えるトチサコは分からなかった
けれど、帰着した千里中央で「お疲れさん」。生ビールでプハーとやってお開き。運転、
車の回収にと活躍のMさんに感謝、同行のTちゃん、ご苦労様でした。


【タイムチャート】
6:45自宅発
9:20〜9:25西村井(駐車地)
10:00〜10:05松本地蔵
10:42〜10:50545m標高点
11:10〜11:18700m等高線付近
11:28757m標高点
11:48〜12:18村井コース出合(昼食)
12:25〜12:27烏帽子岳(916m)
12:48892mピーク
13:15関電巡視路出合
13:36〜13:42858mピーク南西尾根中央付近
13:46767m標高点
14:10若狭幹線(甲bW4)
14:37林道出合
14:50小川松原橋バス停



白倉岳のデータ
【所在地】滋賀県高島市(朽木村)
【標高】949.9m(二等三角点)
【備考】 安曇川を挟んで、比良山系の西の山塊に位置し、朽木村
の最高峰です。烏帽子岳、白倉岳、中岳、南岳と連山を
形成し、朽木登山会が整備した明快な縦走路があります。
ブナ林、芦生杉、オオイワカガミ、石楠花が見られ、四
季折々の良さが楽しめるコースです。西尾根は関電巡視
路に出るまでは、ほとんど踏み跡はありません。尚、熊
が生息しているといわれていますので熊鈴は必携です。
【参考】
2.5万図『久多』、『北小松』



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