武奈ヶ嶽、三重嶽〜湖北分水嶺環縦走

三重嶽(後日登った大御影山の関電反射板付近から)
平成20年 4月20日(日)
【天候】曇り
【同行】あかげらさん、みずたにさん


 春の季節の湖北はいい。桜が咲き、田に水が張られる時、カタクリが咲き乱れ、イワカ
ガミ、イワウチワが同時に咲き競う。そんな4月。湖北の未踏の山しかも念願の山二峰を
縦走する機会を得た。武奈ヶ嶽と三重嶽だ。いずれも数年前までは、とりわけ三重嶽は数
年前まで、三角点もはっきりしなかったというヤブ山。それが地元高島市の皆さんのお蔭
で、楽しく登れる山に生まれ変わったのだ。とはいっても秘境の山。踏み跡が薄い所があ
るので、地図とコンパスなしという安易さで登っては駄目。それさえ守ればそれこそ満腹
というほど、山好きを愉しませてくれる山であります。

 名神京都東ICから湖西に廻って朽木を抜けて、R303から水坂トンネル手前で側道
に入り、北に折れるとまもなく角川の集落。一軒の民家の庭先に植えられたシャクナゲの
濃いピンクが艶やかだ。地方の集落に行くと余り人を見かけないものだが、今日は田植え
の準備なのだろうか、作業着の人が十数人集まっている。

 集落の奥のつづら折れの道はロックフィルダムの石田川ダムの堰堤への道で、おりしも
桜が満開。枝垂桜の横を抜けて管理棟前の駐車場に滑り込む。8時半前、先行車は一台も
無い。
ダムの駐車場から角川林道を北に向かう

 予定では角川集落に戻って尾根を伝い赤岩山、湖北武奈ヶ嶽と辿ってワサ谷へ降りるコ
ース。ただ、駐車場へ着いたのが予定より早かったので、最寄の赤岩山直登コースを採っ
てショートカットし、この付近の最高峰の三重嶽へも廻って東南尾根で戻るコースに変更
しようかということになる。距離は当初よりかなり長くなるものの、最後は林道歩きなの
で遅くとも暗くなるまでに林道へ降りれば問題はなかろう。林道へ早く降りるエスケープ
コースもあるようだ。最終決定は武奈ヶ嶽で行なうことにしてともかく出発しよう。

 というわけで準備を終えて林道を北へ。周囲の山々は黄緑色に芽吹き始め、山桜がポッ
ポッと彩を添えて、1年中で一番美しい季節を迎えている。先達のブログ(『山好き的日
々@京都北山』)に掲載されていた概念図を参考に、取付きを探しながら5分ほど歩くと、
高島トレイルの立派な道標がある。私製道標しかなかろうと注意していたのだけれど、そ
んな注意は不要である。丁度、ダム湖に張り出した小さな半島の南の付け根の辺りである。
ここにも大きな山桜があってピンクの満艦飾である。

石田ダム登山口(矢印)には満開の桜が

 林道の土手を斜めに上がった杉林の中、のっけからジグザグの急登である。頭の上のあ
の尾根に乗るだろうなと思った通り、小さな尾根に乗っかると今度は山腹をへつるような
る。激しい沢音が聞こえ始めると右側から深い谷が近づいてきて所々に滝を架ける。二、
三日前の雨の所為か豊富な水量だ。山道の斜面にはイワウチワ。まだ蕾が多いが先駆けて
大きく開いているものもある。トキワイカリソウも特徴ある花姿を見せるのに比して、イ
ワカガミはまだまだ濃いピンクの蕾のままである。無理やり斜面につけたような、踏み外
せば危ない山腹道を経て、再び支尾根を直登するようになり、薄紅の蕾をつけたシャクナ
ゲを見かけると眼下はダム湖である。

 標高600mを越えたくらいだろうか、ガスが漂いだす。山の斜面の襞には汚れてまだ
らの雪がまだ残っている。そして小さな平坦地から再び斜面になった辺りが588m標高
点。杉の幹にかすれた赤い矢印が残る。もう厳しい登りはなくて、緩斜面をゆるゆると登
っていくのみ。のっぺりと丸みを帯びた頂上部が見えてきて、植林のやや暗い中に指導標
と赤岩山の三角点が現れた。見通しもなく何処が山頂だかはっきりしない目立たない山。
山の名前の由来となった赤岩は何処にあるのだろう?南からの道が当初予定の角川からの
尾根道らしい。どうだろう30分くらいショートカットできたのかな?(笑) 因みに角川
までは2.8kmなのだそうだ。小休止。

ガスが漂う赤岩山

 湖北武奈ヶ嶽はここからほぼ真北。良く手入れされた道が続く。それほど急でない斜面
を一旦下ると、山襞のくぼみの残雪の量も増えてくる。しばらくして水坂峠まで3.5km
の分岐点。303号線のトンネルがある地点である。この辺りの尾根は広いが、徐々に狭
まって明瞭になってくる。杉林が無くなり、武奈ヶ嶽への登りをこなしていくと、ツゲな
どの低木のみの荒れ地が現れる。眺望が良いそうなのだが今日は皆無。でも快適な尾根道
はそれを補って余りある。水坂峠を西に抜けた杉山集落へ降りるコースを左に見て、湖北
武奈ヶ嶽の山頂に着く。細長いちょっとした広場だ。不思議な事に三角点がない標高点ピ
ークだ。古い木柱の横に高島トレイルの標識。ここにも明朝体の山名板。

湖北武奈ヶ嶽山頂

 時刻は10時半で、登山口からここまで約2時間弱。これなら三重嶽まで十分行けそう
だというわけで予定変更し、少々欲張りな環縦走コースに向かって出発だ。

 武奈ヶ嶽から三重嶽まではCa640mの最低コルまで200mの下りと300m強の登
り返しがあるほぼ3時間の尾根歩きである。右の尾根に入らぬようロープで通せんぼされ
た所付近から、あたりはブナ林に変わり、フカフカの落ち葉がクッションの様な道は良く
整備され、我々にとっては”新御堂筋”にも匹敵する快適道である。その登山道整備に使
われたのか荒地の小ピークには草刈機が放置されている。

 尾根上の木々は季節風の風下方向に例外なく傾いでいる。よほど風が強いのだろう。し
かも冬の雪の量も半端じゃないらしくブナは全て根性ブナ。幹元が真っ直ぐなのはほとん
どない。その一つに戯れて抱きついてみる。

湖北武奈ヶ嶽と三重嶽を結ぶ尾根にあった根性ブナ

 あれ?前方から複数の人声が漏れてくる。まもなくガスの中から現れたのは、地元の山
の会の人達だった。山道の整備に上がってきたのだそうで、一人の方は高島市のオフィシ
ャルPPテープを持っている。三重嶽まで行くというと気をつけてと声をかけていただく。
早速、そのテープがワサ谷の分岐に巻かれてあったのを見るとワサ谷から登ってこられた
様子。ご苦労様です。三重嶽までは4km。まだまだ遠い。

落ち葉フカフカのワサ谷分岐を直進し三重嶽へ

 当初、下山コースに考えていたこのワサ谷分岐から先の尾根道も、予想よりはっきりし
ていて迷う心配はないが、益々ガスが濃くなってきたから先行テープに注意する。

 分岐から5分で812m標高点ピーク。こんな所にも例の明朝体山名標識がかかってい
る。現在地把握に大いに助かるけれど、芦生から北山の湖西一帯に広くあるからよほどの
山好きなのだろう。これもご苦労様です。(笑) 

 ようやく下り基調が顕著になりはじめガスは更に濃くなって20m先もはっきりしない。
しかもだだっ広くて少し迷い易い地形である。自ずと目の先や下を見ることも多くなるが、
なんだかまだらの広い葉っぱが地面にへばりついている。おお、カタクリじゃないか。す
るとあちらにもこちらにも。これはカタクリ街道だ。でも花はまだまだで蕾を付けたもの
がチラホラある程度。葉が1枚のものも多く、カタクリは葉が2、3枚ないと咲かないの
で今年は無理なのかもしれない。

 馬の背中の様な文字通り鞍の如き最低コル(Ca640m)を過ぎて、さあ登り返しに入
る。小さなアップダウンの後にやや険しい小ピークを越え、痩せ尾根を過ぎると、高低差
約100mの広い斜面の登り。といっても思ったよりしんどくない。平坦になり一息つく
頃、水谷分岐の道標が現れた。西の天増川林道に降りる1.6kmの道だ。ちょうど、去年
登った轆轤山の東側に当たる。その山が見えれば懐かしいのだがこのガスではねえ。

 グッと登る部分があると思えば平坦道が続くという、まるで大きな階段のような尾根だ。
水谷分岐を過ぎて更に一段、階段を上がるみたいに斜面をこなすとまた平坦な台地だ。こ
の付近は先達の概念図では『太尾』というらしい。その通り広い尾根で迷い易い地形であ
る。すると左手方向にガスの中から忽然と池が現れた。広さは20m四方くらいだろうか。
鏡のような水面は灰色の大気を映し陰鬱な色。が、季節になればモリアオガエルの卵塊が
あちらこちらにぶら下がるのだという。北側にある雪田から融けた雪が溜まっているのか
湧き水があるのか。なんとも不思議な光景。そういえば若狭駒ヶ岳近くにも池があったの
を思い出す。
山上にある神秘的な池

 池の横に三重嶽まで1.3kmの道標を見かけて、その後である。大きな雪田が現れた。
これが出てくると、踏み跡が隠されて、ルートが少し分かりにくくなるものだ。尾根沿い
にも踏み跡があるのだが、ここは左に出て雪田を横切るようだ。雪田を抜け、少し進むと
再びテープが現れた。この付近ややテープが疎ら。設置してくれるのなら尾根筋は不要だ
から、こういう場所にこそ設置してもらいたいものだ。(笑)

 855mのピーク地点。もう三重嶽までは1kmも無くなった。そろそろシャリバテとい
う事で、風の来ないこの付近の雑木林で昼食。855mピークの東100m地点だ。

大きな雪田が現れた。この後に道をロスト

 30分ほどのランチタイムを終えて歩行再開。ダラダラとした登り。前述したが何処で
も歩けるような平坦な地形の場所で残雪が出てくると、やはり踏み跡をトレースするのが
難しくなる。しかもガスで視界は悪い。案の定、また踏み跡が消えた。本来、こういう時
は一旦戻るのが原則。しかしながら山頂まではもう300mもなく、三角点のほぼ西にい
ることがわかっているので、木立の隙間の広い部分を辿って東の方向へ進む事にする。ほ
どなく明確な踏み跡に復帰する。やれやれ。株立ちの大きなブナが立つ大日・近江坂への
分岐(大御影山まで6km、近江坂3.4km)を過ぎると、三重嶽の三角点までは200m
だ。ブナ林の平坦道を進むとガスの中から人声が流れてくる。我々と同じく大阪から来た
山慣れた3人の中年男女グループが山頂で談笑の最中なのだった。

三重嶽三角点西、近江坂分岐の大ブナ

三重嶽で二等三角点を抱く

 地元の中学生が立てたという自然木で作った素朴な展望台がある。横に綺麗な二等三角
点。それにしてもここまでほぼ平らのだだっ広い山頂である。地形図で見るとヒトデの如
く5つの顕著な尾根を持つ山は何処から見てもほぼ同じ形に見えて目立ちそうだが、前衛
の山が邪魔して、麓からは山頂が見えにくい山のようだ。折角の念願の山なのでもう少し
ゆっくりしたいところではあるが、ガスで展望もなく風が出て寒いので、おじさんたちと
少し話を交わしながら暫し憩った後、「お先に」と落合への道へ向かうことにする。代わ
りに愛しの三角点をしっかと抱いておきましょう。(^^;

 本谷橋への道(三重嶽への最短コースらしい)と分かれて右に降りていくのが落合への
道。行程4.3kmの尾根道である。周囲は超一級のブナ林だ。雪の重みの為か、ここでも
一本としてまともに延びているものはない。ブナ自体、芽吹きは遅いのだけれど、やはり
まだ芽吹いている梢は一つとしてない。中にはま去年の枯葉を纏ったままのものもある。
林床には、落ち葉の布団の中からバイカオウレン、イワカガミ、イワウチワの春告げ花。
タチツボスミレやスミレサイシンなどスミレ類やショウジョウバカマが見られる。両側は
結構深い谷らしい。強い風がビューと木々を鳴らす。梢についた水滴がバラバラ落ちてき
ているのかと思ったら、霧粒が雨粒に成長したのか、細かい雨が頬に当たるようになる。

 844mのピークなどアップダウンが続くが、まことに快適、明瞭な尾根道だ。すると
突然、薄日が射してきた。仰ぐと白い太陽の輪郭。文字通りの雲散霧消。急にガスが切れ
て周囲がクリアになって、隣の山までが見わたせるようになってきた。あれだけ風が吹き、
その風に乗って小雨まで吹き付けてきて肌寒かったのに、ぽかぽかした春の陽気に包まれ
る。なんだか狐につままれたみたい。小さな低気圧が通過して気温の逆転層みたいなもの
が出来たのだろうか。振り返るとやっぱり上部はガスに包まれたままである。

薄日が差しガスが晴れた東南尾根

 698m標高点付近まで下ってくると深く洗掘された道が現れた。よほど古くから良く
歩かれた道なのかもしれない。高島トレイル自体、昔のそま道を整備して繋いだ道とのこ
とだから、この道も近江坂へ向かう間道だったのかもと空想をたくましくする。

 杉の植林下に出てきた。しばらくすると踏み跡が不明瞭となっていつの間にか識別テー
プまでも見当たらなくなった。592m標高点ピークに向かって、尾根連なりに素直に従
って進んだつもりなのだが、狐に摘ままれていると右手にもちょっとした高みが連なって
いて、そちらに寄ってみるとピンクの紐が見つかる。不明瞭な二重山稜のようで、登りは
ともかく、下ってくる時は注意が必要。そして踏み跡はここで早くも尾根をそれて右の斜
面を斜めに下っていく。592m標高点を通った後に斜面を下って行くと先入観があった
のが間違いらしい。道はその592m標高点の中腹を巻いていく。先ほどの洗掘道とは月
とすっぽん、中腹を引っかいたような道は後から無理につけたのだろう。今は盛りと咲く
タムシバが数本。ヒラヒラとハンカチのように花弁が揺れる。石田川のものらしい谷を騒
がす水音が下から上がってくるのが聞こえ、今日の山歩きも最終場面を迎えたのが分かる。

 苗木を鹿の食害から守る白いプラスチックの筒がポツポツうち捨てられている間をどん
どん下る。地形図では落合付近は”崖”マーク。さてどういう具合で降りるのか階段でも
あるのか予想しながら下っていくと、50mほど下に三重嶽の山頂であった3人組の方々
のものらしい車の屋根と林道が垣間見えた。そこから踏み跡は植林の激斜面をジグザグに
下り始める。植林下の道は土で滑りやすい。ズルズル足を滑らせ気味に転げ落ちるように
あっという間に林道に降り立つ。良く残してくれたものだが、ここだけコンクリートの防
護壁がない。少し偵察したけれど、他の場所は地形図通り、防護壁の”崖”でとても降り
られたものではない。「ご苦労さん」登山口に立つ高島市とビラデスト今津の案内標識が
長丁場を労ってくれているようだった。

林道沿いにある落合登山口
ここだけ崖強化のコンクリートがない

 水音が騒がしかったのは、堰堤があって水が勢い良く滝になって落ち込んでいたから
だった。その水音を聞きつつ、Aさんからの差入れで一息ついて、角川林道を石田川ダ
ムまで戻る。約1時間の行程だ。

 角川林道はダートと思っていたが1.5車線ほどもある舗装林道である。重機の轍が
残っていて、一冬の間に落ちたおびただしい落石や土を排除した跡が至る所にある。そ
れにしても雪解けの為か2、3日前の雨のおかげか、川の水量は豊富である。林道の崖
からも滝状になって水がほとばしり落ちる。その水を浴びる岩棚にはサンインシロカネ
ソウの群落も見つかる。イカリソウやスミレサイシンも花盛り、ここはもう春本番であ
る。

 林道は南東尾根と南尾根との間の谷にかかる橋を渡って大きく湾曲する。道が南に方
向を変えて、左の石田川が緑の淵となって水音がしなくなったらダムは近い。当初降り
る予定であったワサ谷コースの道標がある。ここも豊富な水量だが、谷沿いに割に広い
道が入っていて、山から下りてこの道を歩いてくるようだ。やがて左に半島状に飛び出
した林との間を横断すると、朝取り付いた登山口に戻ってきた。5分も歩くとダムの駐
車場だ。やはり、駐車は我々の1台のみであった。

 距離にして約15km。心配された雨もほとんど降らず満腹感一杯の湖北武奈ヶ嶽、三
重嶽、懸案の二座を踏んだ還縦走はこれにて無事一件落着と相成ったのでした。


行程図はこちら

【タイムチャート】
6:25自宅発
8:20〜8:30石田川ダム駐車場(駐車地)
8:38石田川ダム登山口
9:24〜9:25588m標高点
9:47〜9:52赤岩山(740。3m 三等三角点)
10:00水坂峠分岐
10:30〜10:35湖北武奈ヶ嶽(865m)
10:55ワサ谷分岐
11:00812m標高点ピーク
11:18カタクリのコル(Ca640m))
11:30Ca690mピーク
11:44〜11:46水谷分岐
12:03〜12:05
12:10855m標高点ピーク
12:12〜12:40855mピーク北方100m(昼食)
13:05大御影山、近江坂分岐
13:10〜13:15三重嶽(974.1m 二等三角点)
13:47844m標高点ピーク
14:07762m標高点ピーク
14:20698m標高点
15:00落合登山口



湖北武奈ヶ嶽のデータ
【所在地】滋賀県高島市
【標高】865m
【備考】 滋賀県には二つの武奈ヶ岳があり、こちらは湖北にあっ
て、三重嶽の南西尾根を形作る山で、展望も良く、高島
トレイルとして整備されています。幾つか登山道があり
ますが、今回利用した石田川ダムから赤岩山経由が最短
路です。
三重嶽のデータ
【所在地】滋賀県高島市
【標高】974.1m(二等三角点)
【備考】 湖北の最高峰で、三十三間山の東方にあり、四方に顕著
な尾根を持つ中央分水嶺を形成する山です。最近まで藪
山でしたが、地元の方々の努力で登山道が開かれ、現在
は高島トレイルとして整備されています。但し、山頂は
台地状を呈しており、霧など天候が悪い時は方向が不明
瞭となり注意が必要です。
■近畿百名山
【参考】
2.5万図『熊川』


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