大御影山〜春告げ花咲く念願の山へ

江若国境の大御影山山頂
平成20年 4月26日(土)
【天候】晴れのち曇り
【同行】別掲


 近江坂。なかなか響きの良い言葉である。若丹国境や江若国境には数々の峠があって、
日本海から塩や鯖などが運ばれた古道が通じている。近江坂もその一つであるが、一際な
だらかで馬に乗ってでも越せたという話を聞いたことがある。今回はその近江坂を歩いて
大御影山へ歴史と花に彩られた山行をという趣向。期待通り、カタクリにシャクナゲと春
告げ花は艶やかに咲き、華やかな山歩きとなり、三重嶽、湖北武奈ヶ嶽に続き、今回の大
御影山と、ようやく念願の湖西三座を踏めて大満足の一日となったのでした。

 先週と異なって青空が広がる。日も燦燦と降り注ぐ朝。やっぱり好天は気分が違うわア。
7時、千里中央の例の場所に集合して出発。2台の車は途中でMさん、Tちゃんをピック
アップしながら、琵琶湖沿いに北上して高島市今津町へ。標識に従って取付きのビラデス
ト今津を目指す。大御影山は先週歩いた湖北武奈ヶ嶽や三重嶽の直ぐ東の山域なのだが、
今回のアプローチはメジャールートの琵琶湖側からなのだ。酒波寺(さなみでら)の門前
を抜け、うねうねとビラデスト今津の取付け道路を登る。ここは何度も来たことがあるけ
れど景色のいい所だ。季節の頃合いも良く、水を張った田や琵琶湖が遠望されて、道沿い
には桜が散り初め、まことに春爛漫の風情である。

 入園料300円を支払ってビラデスト今津の域内に入り、奥のT字路付近に車は停まる。
丁度、489m標高点の場所だ。車を降りるとカエルの声。地図を見ると平池が直ぐ近く
で初夏にはカキツバタが美しいそうだ。早速準備を整えて東に延びる林道を進む。200
mも行けば大御影山登山口と書かれた今津山上会その他の標識が目に入る。

平池のT字路を右に進むと登山口

 最初は良く手入れされた杉林だが、間もなく抜けるとそこは雑木林。右から近づいてく
る谷を二、三度渡ってあとは急な登りになるが、そこは古道、うまく付けられていて疲れ
ない。春のお山は早くもコブシやショウジョウバカマ、イワウチワの類が花を見せてくれ
る。大御影山まで7km、ひっそりと立つ道標は示す。今日も長丁場だ。最初の急坂を過ぎ
ると、近江坂は枯葉を敷き詰めて斜面では深くカールし、台地では狭い林道ほども幅のあ
る道となってゆるゆると高度を稼いでいく。馬に乗っても越せたというが、まことに優し
い道である。振り返ればビラデスト今津のキャンプ施設がもうマッチ箱の様である。

ゆるゆると近江坂。近江今津と若狭美浜を結ぶ古道

 菅谷に沿って行くバイパス道を左にして明るい雑木の広場のような尾根筋を行く。一週
間前は蕾が多かったイワウチワ。それが今は花開いた群落が周りを囲む。ピンクや白っぽ
いもの、中心のみがピンクのものなどあるが、どれも花が大きい。イワカガミも艶々しい
葉が大きく、日本海側のものは概して大柄なものが多いのはどういうわけなのだろう。

見晴台から琵琶湖。湖上にうっすらと竹生島が霞む

 バイパス道との合流地点は見晴台になっている。小さな岩の上に立つと、春霞む琵琶湖
と竹生島が。眼下の谷や山肌は山桜の薄いピンク、萌黄色の若葉で今まさに山笑う風情。
いいねえ。

 道はこの付近からはもうほとんど高低差が感じられず、一方向に傾いだ雑木の中をルン
ルン気分で歩ける。ばら撒いたようなイワウチワの中、再び杉の植林に入ってしばらくす
ると小さな雪溜まりと小さな池が現れる。池というより湿地のようでゲコゲコここでも蛙
の声が響く。左に折れて杉林はまた雑木林に変わる。

 深く洗掘された道の両壁はイワウチワが一斉に花開いている。バイカオウレンも花が大
きく直径1cmほどもある。そうしてふと目を上げると、今までにない色彩が目に飛び込ん
でくる。鈴なりのシャクナゲの蕾である。葉裏に毛が目立たないのでホンシャクナゲらし
い。葉が大きく、艶々とした深緑とは対照的に濃いピンクの花。あっちにもこっちにも気
がつけばここはシャクナゲ尾根だ。左手にどっしり盛り上がるのは谷筋に雪を残す三重嶽
で、以後、大御影山の山頂まで、ずっと左手で我々は見守られることとなる。

 尾根が広がった所が滝谷山分岐。ビラデスト今津方向と滝谷山の青い矢印標識が架けら
れている。注意しないと見落としがちとする記述もあったが、現状なら余程でない限り見
落とすまい。そして続く痩せ尾根辺りから、さあ、お目当ての春告げ花が姿を見せ始める。
カタクリである。まだ若干時期尚早なのか薄紫の花を開いているのはポツポツと少なめで
ある。しかし不思議な花ではある。後ろ側に花弁をそっくり返し、夕方、花を閉じる時、
また元に戻すのだから。ほんの春の一時、はかない花の命は一瞬、華やかさを見せてあと
は跡形も無く地上から姿を消す春告げ花である。やがて少しの登りで780m標高点の台
地に出る。この辺りはブナ林。冬の厳しさの象徴なのか一本として直立するものはない。

山笑う(林道南の847m標高点付近の尾根から)

 再びシャクナゲの花が現れ、オオバキスミレの小さな黄色い花も見つける内に、847
mの標高点ピーク手前。右手の台地で早めの食事。なんと琵琶湖に浮かぶ竹生島を眺め、
カタクリが咲く横での食事となり、なんとも贅沢なカップラーメンである事よ。(笑) 湯
を沸かす間にも団体さんが通っていく。聞けば山の会らしく40名のグループとか。その
他にも数グループ。ガイドにも紹介され、かつての山好きしか知らなかった秘境も今は花
で人気の山に変貌したようである。遠くで響く遠雷のような音は自衛隊の饗庭野の演習場
で撃つ大砲の音らしい。麗らかな春に少し無粋である。 
 
 昼食場所の台地から林道出合は10分位か。尾根を10mばかり下った所を通る河内谷
林道はこの付近はダートだ。この時期なのにこの付近は終日日陰らしく、まだ多くの雪が
残っている。確かめに行ったMちゃんによれば、少し東は路面全面の雪だったらしい。登
山道はこの林道によって寸断されていて、林道を歩いて20m位先に登山道の続きがある。
因みにビラテスト今津まで5km、大御影山までは2.6kmと道標は語る。

河内谷林道出合。4月も終わりだ
というのにまだこんなに雪がある

 斜面を10m登り返して再び尾根へ出る。右からの尾根が近づいてきて合体した地点が
大谷山分岐である。そういえば去年のこの時期、マキノ町の石庭から大谷山の稜線へ上が
ってきた時、大御影山と道標にあったが、そこへ続いているらしい。そちらに視線を移す
と大谷山らしい山頂部が笹原の山が遠望された。そしてここからが江若国境になる。

 しかしながら、何度も連発して恐縮なのだがこの尾根も超一級のブナ林である。けっし
て大木はないけれど、株立ちの根性ブナが至る所にある。実生も育っており素人考えだが
当面、衰える心配はなさそうに見えた。野鳥も多く、オオルリの声も聞けたのだそうだが、
如何せん私の耳にはどれも同じに聞こえてしまう。

大御影山への稜線は超一級のブナ街道

 このブナ林にはマンサクも多い。黄色いねじれたか細い花弁は季節が華やぎ始めると目
立たなくなる。そういえば花のない時期のマンサクってどんな木だっけ?

 なだらかなアップダウンを繰り返すうちに、前方にこんもりとした高みが目に入ってく
る。山頂左手にはこの山の目印の反射板も見える。手前の偽ピークに登って、更に登り返
すと先行するMさんらの姿がチラチとしはじめる。最後の一踏ん張り、といってもなだら
かな坂だけれど...。(^^;

ようやく顔を見せた大御影山
山頂やや左に関電の反射板がある

 山頂は一寸した広場。よく写真で見かける美浜町が立てた大御影山の大きな山名標識の
向こうには三角点の名前の由来となった「野呂尾」の鹿遊びの斜面が広がっている。反射
板の方へ行ってみよう。残雪でやや足元が悪いが、30mも進むと関電の反射板の横に出
る。三重嶽が西に大きく広がり、北は雲谷山らしい山影の右手の狭間に日本海がうっすら
見える。ならば海の右に延びるのは敦賀半島だろうか。野坂岳なんかも見えていたのだろ
うが、もう一つ同定が出来なかった。テープがあるのは近江坂の峠や白谷に降りる道。昨
秋に歩いたというSさんによれば、こちらも素晴らしいとのこと。機会があれば歩いてみ
たいものだ。
反射板付近から日本海を遠望する。左の山は雲谷山

 なんだかんだで30分近く。山頂に戻り、パンや皆さんの差し入れで小腹を膨らませて、
それでは来た道を戻ろう。予報どおり雲行きが怪しくなってきた。

 轟々と梢を鳴らせて風が吹く。林道に降りた地点で小休止を取ったりしながら780m標
高点まで戻ってくると、ついにポツポツときた。でも西の空が明るい。大したことはなかろ
うとの予想通り、それ以上は降らずに終わったのは、いつもながら我々の日頃の行いが良い
からだとしておこう。(笑)

 780m標高点から凡そ15分くらいで滝谷山分岐に到着だ。ここからは往路と別れて
右に折れて滝谷山経由で下山することにする。

滝谷山分岐

 今までとは一転、人があまり入らないのかややワイルドな道で踏み跡も薄い。尾根も広
く特徴がなく、滝谷山の北側の尾根が狭まる辺りまでは残置テープを丹念に拾う必要があ
る。しかも後から設置したのか、ピンクのヒモは従来の赤テープとは微妙に離れて付けら
れてあるからちとややこしい。この人の少なさのおかげか、荒らされた感じがなく、ブナ
主体の雑木林は落ち葉の絨毯が敷き詰められ、枝先には芽吹きが始まり、浅黄に萌えて美
しい。シャクナゲ、コブシが茶色の絨毯のアクセントだ。

滝谷山北斜面。さっきとうって変わってワイルドだ

 そんな雑木林を楽しみつつ、ヌタ場からやや左に進路を変え、斜面を上がるとようやく
顕著な痩せ尾根になり、見事なシャクナゲの中を行くことになる。ここはとりわけ濃いピ
ンクで華やか。周囲の萌黄色に比べてなんと鮮やかなことか。再び現れた薄暗い杉林の中、
テープを追えば滝谷山山頂はすぐそこである。

 杉林の中を少しばかり切り開かれただけの山頂は展望皆無。でも静か。国土地理院の基
準点検索では「亡失」とあったが、三角点は角が一部欠けていたものの無事に鎮座してい
る。標石の頭をタッチしておこう。

滝谷山の三等三角点。亡失とあったが標石は残っている

 山頂は登山道から少し離れており、北から山頂に来ると少し面食らう。20mほど元来
た道を戻って、南へ下る残置テープを拾う。ここからは北斜面とは又うって変わって明瞭
な踏み跡がある。本来、滝谷山は南から登る山なのらしい。でもずっと杉林で面白みにも
欠ける。一箇所、武奈ヶ嶽や赤岩山の長大な山並みが望める窓のような場所があったのが
唯一のアクセントだろうか。我々から言わせて貰えば、滝谷山は北斜面こそ素晴らしい。

一週前にトレースした湖北武奈ヶ嶽のシルエット

 665m標高点を過ぎ、のっぺりとした杉林を南に200m。注意すると尾根が二分す
るのが分かる。当初、下山道は天狗岩方面の尾根へ続くと思っていたが、実際は東の尾根
についている。西の天狗岩尾根は落合へ降りるコースであるのが私製道標で知れる。その
天狗岩方面の尾根へ進む落合への道との分岐を過ぎると、あれ?なんと丸太の階段道があ
るではないか。それも半端の斜面じゃない。処女湖の湖面眺められるが、あんまり見惚れ
ている場合じゃないなあ。そして谷底を流れる沢が見えてきた頃である。何の拍子か手に
持ったメモ帳がフワリと宙を舞ってそれから斜面をコロコロと....。回収するには数mの
急斜面を降りねばならず諦めかけたが、少し道を下った所から斜めに行けば何とかなりそ
う。ザラザラ滑る斜面を木の根元に足をかけて何とか回収。それでこの山行記も書けたと
いう次第。そこで教訓。人間、ちょっとやそっとで諦めてはいけないのです。(^^;

 まあ、すごい階段道だ。足をかける幅が靴の半分くらいしかない部分もある。ほうほう
の態で降りた所は沢。植えられた木もあるので一種の園地になっているのであろう。何度
か岩を伝って谷沿いに下流へ辿ると、処女湖のへりを伝う舗装林道に出て、横には立派な
休憩舎がある。
谷川の横に下りて処女湖方面へ
前方に見えているのが林道

 車を置いた平池まで小一時間の林道歩きだ。途中、沢で緑色のザゼンソウを見つける。
なんだこりゃ?普通はコゲ茶色っぽいんだがなあ。なんて話しながらひたすら歩くのだが、
結構、見所はあるもの。大きなヤマザクラ、野鳥の声、サンインシロカネソウなんかが見
つかる。そして忽然と赤い鳥居が立っているのを見つけた。巨大な「小便お断り」でもな
かろうが、その真正面に立ってみると、処女湖の中央の島が見えそこに小さな祠があるこ
とに気付く。祠はどうも弁才天を祀っているみたい。後で調べると島はやっぱり弁天島と
呼ぶのだった。

 朝の駐車地着は16時40分。出発時刻が9時半だから約7時間の歩きだった事になる。
今日も良く歩いた。距離も16km以上はあるだろう。その割りに疲れないのは累積標高差
が思いの外、少なかった為だろう。だが、充実感は前回の三重嶽に匹敵するものがある。
皆さん、お疲れ様でした。

 ところで帰りは売店に寄って少々高いが湖西の地図(500円)を買う。今回歩いてみ
て、なかなか役に立つのが分かったのと、そもそもこの山域のエアリアマップはないのだ。
(笑) 大御影山。ブナの黄葉の頃、再会を約して山を後にする。


行程図はこちら

大御影山の春告げ花                         


▲ショウジョウバカマ 朱色は初めて見ました


▲バイカオウレン三重奏


▲イワウチワのタペストリ


▲今度はイワウチワの三重奏


▲ホンシャクナゲ まるで花束です


▲岩の間からカタクリ、可憐


▲もっこリ緑色したザゼンソウ


■同行 あかげらさん、幸さん、たらちゃん、だめちゃん、まきたさん、
    水谷さん(五十音順)


【タイムチャート】
7:00千里中央駅ローソン前
9:10〜9:30ビラデスト今津489m標高点付近(駐車地)
9:33大御影山登山口
10:35
11:02滝谷山分岐
11:20780m標高点
11:30〜12:00847m標高点の200m南地点(昼食)
12:07林道出合
12:19大谷山分岐
12:59〜13:20大御影山(950.1m 三等三角点)
13:53大谷山分岐
14:02〜14:05林道出合
14:20〜14:24780m標高点
14:37滝谷山分岐
15:18〜15:20滝谷山(735.6m 三等三角点)
15:37665m標高点
15:40落合分岐
16:02滝谷山登山口
16:40ビラデスト今津489m標高点付近(駐車地)



大御影山のデータ
【所在地】滋賀県高島市、福井県三方郡美浜町
【標高】950.1m(三等三角点)
【備考】 湖西最奥の江若国境上に位置する山です。展望も良く、
山頂や関電反射板付近からは雲谷山、野坂岳などの若狭
の山々や日本海、南は三重嶽、比良と山深さが実感でき
ます。また近江側の麓の酒波寺から若狭に抜ける近江坂
の古道が通じており、山頂付近一帯は第一級のブナ林が
あり、春にはカタクリ、イワウチワ、イワカガミが咲き
乱れる花の山でもあります。
滝谷山のデータ
【所在地】滋賀県高島市、福井県三方郡美浜町
【標高】735.6m(三等三角点)
【備考】 家族旅行村ビラデスト今津の西、処女湖の北に盛り上が
る山です。山頂の展望は皆無で南斜面を登るコースがメ
インのようですが、植林が多く勧められません。むしろ
この山の良さはブナ、リョウブの自然林が残る北尾根に
あり、大御影山コースの滝谷山分岐から登るのがお勧め
です。ただし、こちらは踏み跡が薄いので地形図、コン
パス必携です。
【参考】
2.5万図『熊川』、『西近江と若狭の山歩きマップ』


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