乗鞍岳〜湖北の大パノラマの山を歩く

大谷山付近から眺める乗鞍岳
鉄塔の林立する尾根の左の鞍部が黒河峠だ
平成20年10月12日(日)
【天候】晴れ
【同行】別掲


 秋分の日も過ぎて日の出の時間からほどもない為か、まだやや薄暗さの残る青空にすじ
雲が浮かぶ早朝6時すぎ。Mさんの車がやって来た。二台の車で滋賀・福井県境に向って
出発する。これで先々週の三国峠から根来坂、先週の岩谷峠から地蔵峠に続いて三週続け
ての高島トレイル歩きである。我ながら(好きやねえ)と自嘲気味に独り言。(笑) 例に
よって深草でHさんをピックアップし、R161で湖西を北上する。いつもはガスのかか
る比良山系も今日は天辺まですっかり姿を見せている。快調に高島市の中心部を過ぎて、
まずは文字通り江若国境にある国境スキー場へ。すると入口にバス回転場につき駐車禁止
の標識がある。ヤマビトたる者、ジモティには極力迷惑を懸けずがモットー。素直に従い、
少し戻った国境バス停横の空き地を拝借して車1台をデポする。数百m戻ると在原口のバ
ス停があるのでここでR161に別れを告げて隠れ里在原へと県道を行く。

 山沿いの一車線の狭い道だが数km走ると突然広やかな田畑が現れる。茅葺の民家が軒
を寄せる在原の集落だ。伊勢物語で有名な平安時代の”イケメン”在原業平の隠棲の地と
の言い伝えがあり、墓といわれる五輪塔も残るという。おそらく在原氏の荘園でもあった
のであろう。廉価な蕎麦やテンプラが有名だともいう。

 さて、その在原の集落を抜け杉林が現れると北側の山中に入っていく狭い林道があるが、
これが黒河林道だ。最初は舗装されているがすぐにダートになる。一般車にはややつらい
が轍も掘れておらず慎重に進めば大丈夫。ただ狭いので対向車には要注意だ。

 数km登ると黒河峠。一度冬の季節にやって来たことがある三国山の登山口だ。立派な
トイレもあるが、こんな感じだったかなあ。当時かなりの積雪であったのが今見るイメー
ジと合わない理由だろう。その三国山登山口を過ぎて30m位奥に進めば路肩が広がって
い、先行者らしい1台の車があって、その横に関電の巡視路標識が見つかる。ここが乗鞍
岳の登山口で、今では高島トレイルのオフィシャルテープがぶら下がるが、あまり目立た
ない感じなのがいい。(笑)
黒河峠にある乗鞍岳登山口は関電巡視路でもある

 準備を整えて早速山道に入る。最初は狭いがまもなく我々にとってはハイウェイと呼ん
でも差し支えない昔の街道風の道が現れる。山腹に沿って緩々と登るいい道だ。しかも、
早くも姿を見せるブナ林。大きな木はないがブナには珍しく素直に延びた幹が林立して素
晴らしい。林の間から敦賀の市街も垣間見える。へえ、敦賀ってこんな近かったのだ。

入り口から直ぐにこんないい雰囲気の道が

素直なブナ林。まもなく黄葉が始まる

 道はピークを巻いたようで『白谷』の四等三角点は踏まずじまいで尾根に上がる。その
ピークを踏むらしい踏み跡も認めたが、あえて戻って辿ることもなかろうと過ごすが、こ
の辺りが猿ヶ馬場と呼ばれる場所だろうか。尾根の上がりはなには道標があって、その向
こうに高圧鉄塔(越前嶺南線bP64)。視界は一気に広がる。

 それにしても鉄塔の多い山である。ほとんど関西電力の持ち山なのではないか?と思う
くらいで、鉄塔の中には高圧線が張られていないものや1本だけ張られているものもある。
650m標高点を抜けると新しい鉄塔があるので、新旧付け替えているのかもしれない。

 再び林の中。尾根は東に90度角度を変え、長いプラ階段が現れる。林に入る前に眺め
た鉄塔を縫って進むようだ。やがて鉄塔に付属するような建物の横に出る。「関電電力技
術研究所 敦賀試験線観測建屋」の表札がある。そしてここは最初に現れた好展望所で、
「おおっ!」。思わず息を呑む光景が目の前にある。琵琶湖と日本海が同時に眺められる
のだ。南には三国山から大谷山に続く山並みが続いている。我々が研究施設の職員だった
ら仕事ホッポリ出して景色ばかり眺めているであろうな。(笑)

 一呼吸おいて再び歩き始める。また展望のいい鉄塔下を通過する。この間、しばらくは
延々と続く黒プラ階段で、高圧線につかず離れずという具合に進む。ウーンウーンと風に
煽られるのか、うなり音が耳につく。間断なくこの音を聞いているとなんだか急かされて
いるような、あんまりいい感じはしない。左手の樹林の中にケモノ避けか遮蔽用か良く判
らぬが金属柵が現れると、まもなくつらいプラ階段は終わり、鉄塔の広場のような場所に
飛び出す。ここも大展望。要するに木々が伐採されていれば、ここはどこでも大展望の山
であるのだ。(笑) 

 ようやく平坦となって低い丈の樹林帯。コハウチワカエデ、リョウブ、ナラの類だろう、
さっきのスラッと伸びたブナ林から一転、くねくね曲がりながらの幹は風雪が厳しいのか
一本として真っ直ぐなものはない。そんな叢林の中に現れた道標は芦原岳の分岐である。
片道100m足らずのピストンでいけるらしいので、折角だからそちらへ行ったのは大正
解だった。芦原岳自体は三角点や標高点とてない、名前負けのする何の変哲もない尾根の
コブなのだが、関電の鉄塔がある為に立木がなく、360度の大パノラマなのである。三
国山、明王の禿、ピョコンと小ぶりの山頂をもたげる赤坂山。野坂岳や西方ヶ岳に囲まれ
た敦賀市内に敦賀湾。目の前に広がる電波塔が林立する乗鞍岳は確かに山頂が分かりにく
い牛の背中のような形状をしている。風が強いので長居はできず林の中に戻り、分岐で一
本とる。

芦原岳付近。まともに伸びた幹はない

 小腹を宥めた後は右に折れて、今度は伊吹山を見つめつつの関電巡視道名物プラ階段下
りである。まもなく現れたのが広い伐採地。50m四方は切り払われていて、ブナまで無
残な姿を曝している。その中央には越前嶺南線bP60の鉄塔が立つ。その伐採地の端に
高島トレイルのオフィシャルテープがヒラヒラとおいでおいでする。この付近、テープが
ないとやや分かり難い場所ではある。しかし林に入りやや下ると洗掘された古道らしい雰
囲気の道が残っている。ここもまた背の高い清々しくて良いブナ林だ。

 しばらく進む内に、778m標高点。地面はおびただしいイワウチワに覆われてくる。
広々とした尾根筋だが、次第にその尾根も顕著になってきて、右手方向にマキノのスキー
場やキャンプ場が意外に間近に見える地点がある。今日出会った三組のグループとすれ違
ったのはこの辺りだったろうか。いずれも乗鞍岳方面からやってきたハイカー達だった。

 大ブナが梢を伸ばす斜面をへつっていくと道は高みには登らず、825m標高点の北側
を巡っていく。そしてポッカリ出たのは駐車場兼ヘリポートみたいな広場。目の前には大
きな電波塔の施設があって、広場はその付属施設らしく、その縁に立つとここも大展望で
今度は琵琶湖の北岸から湖東方面が指呼なのだった。木之本や長浜、葛篭尾崎に海津大崎、
竹生島。遠くは伊吹山に鈴鹿山系、近江富士、比良山系と上げられる山々は枚挙にいとま
がないくらいなのである。まことに素晴らしい景色である。

 電波塔施設の管理車道を暫く歩き、鉄梯子で上部に見えるこれも電波塔施設の建つ台地
に出て、電波塔の横を抜ける。ここからは今まで歩いてきた稜線や反射板をいただく大御
影山の大きな楯を伏せたような姿が良く見える。その肩から顔を出しているのは三重嶽に
違いない。以前に登った山が見えるというのは何となく嬉しいものだ。それらを暫く楽し
んだら、ようやく前方に姿を見せた山頂に向かって急ごう。潅木帯に入って人一人が歩け
るくらいの空間をコルに降り、登り返せば乗鞍岳の山頂である。何だか良く判らない建物
横に角が欠けた二等三角点の標石が埋まっている。

乗鞍岳山頂

 建物横は風も防げるようでここで昼食とする。湯が湧くまでの間、双眼鏡で周囲を楽し
む。眼下にR161が見える。車をデポした所はと..。おお、愛車の姿があるではないか。
そして北方に目を移せばゴツゴツした山が目に入り、白っぽい岩も見える。数年前に登っ
た岩籠山だ。反射板のある夕暮山も望めて、当時のことが思い出されて懐かしい。

 薄日が差す山頂でゆっくり昼食を摂って後半戦。乗鞍岳の三角点を跨いで北尾根へ向か
う。最初は露岩が多い下りで歩き難いが、すぐに広い尾根の小道になって歩きよくなる。
太い幹をしたブナや梢の一部だけ赤く色づいたカエデも現れていい雰囲気。やがて高圧鉄
塔の立つ伐採斜面に出ると、これから歩くことになる尾根が麓まで眺められる。尾根は東
に方向を変えながら徐々に高度を落として、今はR161が結ぶ愛発越へと沈みんで行く。
突然、鹿の鳴き声がもの悲しく高く響いた。

自然林に囲まれた乗鞍岳北尾根

 尾根が東に振る部分は地形図の789m地点。尾根の分岐でもある。明快な踏み跡を直
進すれば岩籠山まで縦走できるようで、これもなかなか魅力的な歩きが出来そうである。

 東に折れてまもなく更に右に曲れば、またまた古い洗掘された道が現れた。西に先ほど
まで我々が立っていた鉄塔の斜面が見える。このあたりもブナやナラが多く、古道とあい
まって気持ちの良い雰囲気の場所である。センブリがあちこちに白い花を咲かせている中、
。やがて道はジグザグに下り始める。

いい雰囲気。昔から歩かれていた道の様だ

 789m標高点から30分余り。スキー場とR161の分岐標識の地点までやってきた。
直進すれば鉄塔横からR161へと出るらしい。車から少し遠くなるのでここはスキー場
を目指した。それにポイント0を見たいこともある。

 なんだか下界が騒々しい。木立の切れ目から覗くと、眼下のR161をオートバイの集
団が駆け抜けて行く所である。200台はくだらない。どこかで集会でもあったらしい。
それにしても排気音、警笛。騒音はたまったものではない。まだこんな馬鹿をする集団が
存在するなんて信じられない。その騒音は国境スキー場のリフト終点に飛び出した時でさ
えまだ断続的に続いていたのである。

 スキー場のゲレンデ(今はただの荒地だが)が見えてきた。その一番端に降り立つ。高
島トレイルのオフィシャルテープが結んであるのと、リフトのポールに方向を指示する簡
易標識が取り付けてあるだけのいたって簡素な作りだ。最初のポイントなのでもっと派手
な作りがされているかと思っていたから些か拍子抜けの態である。やや荒れ気味のゲレン
デを下っていくと、雑木の繁みにポツリポツリとフィシャルテープが申し訳程度にある。
そして始点は『リフトおりば右折、乗鞍岳登山口』の簡易標識が鉄柱に貼られてあるのみ
である。こちらから取付く場合はやや判り難いかも知れない。でもこのくらいは卑しくも
高島トレイルを歩くほどの人ならば捜して登ってもらいましょう。(笑) ちなみに高島市
に問い合わせた人によれば、ひとえに予算不足と国境スキー場の所有者の了解が得られな
かった為なのだそうである。今年度中には善処されるとの回答だった由であるから念の為。

リフト終点の鉄柱に「登山口入り口」とある

国境スキー場内の高島トレイルの始点はこんな標識

 あとはデポした車の所へ急ぐのみ。R161に出て車に気をつけながら南へ下り坂を歩
く。西に今しがたまで立っていた乗鞍岳の電波塔が意外な近さで見えている。

 国道沿いに十数軒の甍が集まる国境の集落も鄙びた感じである。寺院もあるからかなり
古い集落のはずで、昔は愛発関で潤った宿場だったのだろうが今はひっそりしてい、一人
の人影も見ない。ただ行き交う車だけが轍に音を残して行き過ぎるのみだ。

 バス停の空地にポツンとわが愛車。装備を解いて、グッとお茶を一飲みする。そうして
やおら車に乗り込み黒河峠に残した車の回収だ。その後、黒河林道入口で現地解散となる。
爽秋の展望の山。今日も無事に帰宅して一っ風呂浴びてビールだ。皆さん有難うございま
した。



■同行 あかげらさん、ハム太郎さん、水谷さん(五十音順)

【タイムチャート】
6:00自宅発
8:47〜8:57黒河峠登山口
9:26高圧鉄塔(越前嶺南線bP65)
9:35650m標高点
9:50〜9:52関電敦賀試験線観測建屋
9:58〜10:00高圧鉄塔
10:12〜10:13鉄塔の広場(○東線bQ5)
10:26芦原岳分岐
10:30〜10:33芦原岳(Ca850m)
10:35〜10:44芦原岳分岐(小休止)
10:49高圧鉄塔(越前嶺南線bP60)
10:58779m標高点
11:28電波塔横駐車場
12:00〜12:45乗鞍岳(865.2m(二等三角点))(昼食)
13:05高圧鉄塔
13:20789m標高点(岩籠山方面分岐)
13:50国境スキー場分岐
14:02国境スキー場リフト終点
14:12乗鞍岳登山口表示
14:25国境バス停(車デポ地)
15:20黒河峠登山口



乗鞍岳のデータ
【所在地】滋賀県高島市(旧マキノ町)・福井県敦賀市
【標高】865.2m(二等三角点)
【備考】 江若の境をなす野坂山地の一峰で、高島トレイルの東
の玄関の山でもあります。この山の特徴はなんといっ
てもその眺望の良さに尽きます。北に敦賀三山、敦賀
湾、越美の山々、東に金糞岳、横山岳、伊吹山をはじ
めとする湖北の山々、東南には鈴鹿や湖東の山、南に
は比良山系。さらに琵琶湖と日本海が同時に眺められ
るというシチュエーションです。惜しいのは全山、高
圧鉄塔を纏っている事ですが、そのお蔭で我々にはハ
イウェイのような道が用意されています。
【参考】2.5万図『駄口』



乗鞍岳の電波塔駐車場付近からの東方面のパノラマ画像

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