三国峠から根来坂〜爽秋の江若尾根

三国峠直下の柔らかい谷を行く
平成20年 9月27日(土)
【天候】晴れ
【同行】別掲


 若丹や江若の国境辺りには京と日本海を結ぶ数々の古道が走っている。モータリゼーシ
ョンの発達でいつしか忘れられた存在となったが、それだけに静かな佇まいと自然が残っ
ている。それらを訪れるには最近整備された高島トレイルを利用するのが便利であろう。
今回はその内でも芦生外縁部の三国峠から百里ヶ岳の登山口でもある根来坂を経由して小
入谷へ降りる周回コースを歩いてみた。高島トレイルでもマイナーなコースなのだろうか、
我々以外には歩く人は誰もいず、日本海と琵琶湖を眺めながら、食事タイムを入れて、所
要6時間のコースを堪能したのである。

 針畑のルネッサンスセンターの辻を直進、小入谷のバス停付近の空き地にHさんの車を
デポし、引き返して生杉ブナ原生林前の三国峠登山口に着く。地蔵峠からの芦生研究林へ
のアプローチが禁止になったと聞いていたから、車が十台程度も駐車していたのは意外で
ある。もっとも、三国峠やブナの原生林を見る遊歩道は入山禁止ではない。少し不気味だ
ったのは、林道を山中に暫く行った辺りで異様なテントや白い布が木々に巻かれているの
を発見した時だ。一時流行ったパナ××とかいう集団でもたむろしているのかと一瞬不安
になったものだ。下山後、聞けば色々なイベントが行なわれていたのだそうである。

 三国峠へは小ぶりの滝が奥に懸かるこれまた小ぶりの谷を左に見て、巻き上がるように
登る急登だ。ここを登るのは何回目であろう。一抱えはあるブナがあちらこちらに佇立し
ている。取り付き自体が標高が高いので、一汗掻くが距離は短い。20分も経ずにユズリ
ハの繁る稜線に出る。テープに従って行くと広やかな盆地状の地形で、真ん中に地蔵峠、
三国峠を示す道標があるのだが、ふと地蔵峠方面の高みに誘い込まれて見落とすこともあ
る場所だ。今回もそちらに向かってしまい、登り返すのは邪魔臭いのでU字型に柔らかな
曲線を描く中央の谷を進む。目の前の高みに上がると、三国峠をぐるりと迂回するような
尾根上の正規の登山道に合流する。すると頭の赤い杭。誰が設置したのか「三国国境」と
ある。確かに三国峠とは云うが、山頂自体は滋賀県内にあるのだ。そこから数分で三国峠
の山頂に飛び出す。
登山道の横にある京都・滋賀・福井3府県境を示す標識

 土俵の如く丸い山頂は今日もなかなかの展望で、百里ヶ岳や蛇谷ヶ岳他の比良の山々の
みならず、琵琶湖と伊吹山が眺められたのには驚いた。集落は生杉が見えるくらいで他は
見えず山深さを実感する。下では無風で暑かったのに意外に北西風が強く、立ち止まって
いると寒いくらい。気温は記憶違いでなければ13℃だったような。単独小父さんがやっ
て来たのをしおに、こちらはクチクボ峠に向かう。

 山頂直下のクチクボ峠への分岐。そちら高島トレイルへの道標は多くなっているようで
あったが、野田畑峠方面のテープがなくなっている様子だったのは、許可なく入山禁止と
なった余波だろうか?ヌタ場か水溜りのような長池を右手に見て進む。この道は野田畑峠
に行くつもりが間違って一度来たことがある。落ち葉で滑りやすい斜面があったが今はト
ラロープが用意されている。

クチクボ峠(ナベクボ峠)奥は若走路谷の登山口へ

 クチクボ(ナベクボ)峠を横断する道は洗掘されていて、昔は江若を行き来する間道と
してよく使われていたに違いない。峠に立つ「○経墓」と刻まれた自然石は何を表すのだ
ろうか。行路病者のものなのだろうか? ○は円満相を表すというが、地蔵峠にも、麓の
県道沿いにもあったような。同一人物?はたまた同一の講中が設置したのだろうか?

 峠から先は概して近江側が杉林、若狭側が自然林だ。少し厳しい斜面となった道を登る
と677m標高点ピークである。ここには挙原への分岐道標がある。地形図を確かめると、
528m標高点近くの林道に向って尾根を降りて行く様子である。ちなみに挙原は名田庄
村の中心部の地名である。
オオイワカガミ繁る照葉樹林の尾根道

 尾根道は概ね明快で、所々の潅木に高島トレイルの黄色いビニールが巻かれている。次
のCa710mピークはのっぺりした丸い感じのピークで、ここにも道標が立ち、オニュウ
峠4.5km、クチクボ峠0.7kmの表示がある。ここで道は広い雑木林の中を北に向かい、
すぐに東に変わる。イロハモミジやハウチワカエデも多いので、秋が深まれば綺麗だろう。

 オオイワカガミの照り葉で覆われた尾根は、狭まったり広くなったりを繰り返す。70
9mピークで小休止した後は黄色のプラ杭が埋まる狭い尾根を803mピークに向っての
ダラダラ登りである。振り返ると蓬莱山上のゴンドラ駅の建物が見える。とすればその北
の高い山が武奈ヶ岳。ほう、意外に近いんだ。

昼食を摂った803m峰。休憩するにはいい場所だ

 歩き始めてほぼ2時間半、正午前だ。江若尾根からやや東、滋賀県側に入った803m
ピークで昼食とする。寄り添うような夫婦ブナとシダの群れが中央にある明るい場所であ
る。湯を沸かしていると、時ならぬチャイムの音。生杉か小入谷に流れる有線放送設備か
らか?正午を告げるチャイムである。

 ノンビリした後は803mピークから西へ戻って府県境に出、更に北に向かう。ぽっか
り空いた空間から若狭の山々が何列も屏風の如く居並ぶ奥に、青葉山と思しき双耳峰が名
前どおり青く目立っている。一番奥は丹後半島だろう。

803m峰付近から見る若狭の山々。中央が青葉山の双耳峰

 右手に池が現れた。「オクスゲノ池」と呼ばれている池だが、U字型の地形の底は池と
いうよりより水溜りといった方が正解か。一部はヌタ場になっているようだ。一帯は山中
とは思えない広やかな場所で清々しい感じがし、ブナのみならずナラやムクの大木が多い。
太い倒木を前にしてデジカメのシャッターを押す。分厚い落ち葉を踏んで、池をぐるりと
巡って左手の高みに登り返した。

オクスゲノ池。清々しく気分のいい所だ

 江若丹尾根の要所に掲げられている小さなエビ茶色の私製標識に「水場の鞍部」と記さ
れたコルを通過する。「この先笹藪、杉植林境界を進む」云々の注意書きがあるが、今は
笹藪とて無くなっており歩きよい。登り返すと根来坂の林道も、まだまだ遠いが視界に入
るようになって、今日のトレイル歩きも後半戦であることを感じさせる。

 再び小広い場所に出ると、一番奥の岩の横に659Pと書かれた小さな標識がある。今
まで稼いだ高度をだいぶ吐き出したらしく、水平の目線で見ていた前方の稜線に走る林道
が、かなり高い場所になってしまった。(えっ?あそこまで登り返す?ちとつらいなあ)
心の悪魔の呟きだが、登り返さねば帰れないのだ。(^^;

 まずは697m標高点を目標に明快な尾根を登る。想像していなかったが、細い痩せ尾
根もあって面白い。コナラやブナの大木の林立する斜面登りであるが、北にコースが振り
始めると、植林が出てくるので少しつまらなくなる。それも697m標高点を過ごし、ポ
ッカリと尾根に出ると一時に開放される。伐採されているので北以外はグルリと見渡せて
時間を忘れるくらいだ。昼食を摂った803mピークはこんもりした森に見えるし、おお、
林道は再び目の高さだ。比良山系のアップダウンも指呼。これこれ、来て良かったと思う
瞬間である。

 尾根の切り開きはブナやコナラの大きな木以外を刈り払ってある。再び潅木帯に入る手
前だったろうか。朽木が倒れていてコクワガタのメスらしい甲虫が緩慢な動きで木屑の中
を這い回っている。そろそろ冬眠の準備かな?

 ここまで来るともうほとんど傾斜はなく、西からの尾根を糾合した小さなピークがCa8
50mピークだ。ここを東に下りてゆくとすぐにおにゅう峠。林道によって出来た新しい
峠らしく、地形図にもある林道記念碑と祠がある。祠の後ろ、おにゅう峠と札がかかった
尾根の上は大展望で、若狭の山々や海やそこに浮かぶ島が指呼の間でいつまで見ていても
飽きない。

 林道が来ているので少し判りづらいが、凡そ100m東へ進めば左のやや荒れた尾根を
指す道標がある。少しきつい斜面。50mほどの登りで、登りきったところが本日の最高
地点955mの展望ピークである。
871m展望峰から眺める日本海

 本日の最高点だけに本日最高の大展望。北側は若狭の海。双眼鏡があれば崖に打ち寄せ
る白い波まで分かるだろう。存外、それほど海が近いのである。青葉山、多田ヶ岳、久須
夜ヶ岳などが目立ち、南は武奈ヶ岳、蓬莱山、蛇谷ヶ峰など比良の山並みが大きく起伏す
る。その手前、山々の間の小さな野はこれから下る小入谷である。

 955mピークからは林道と平行にしかも巧みにそれを避けるようにして道がついてい
る。オオイワカガミとイワウチワの間を行けば、見覚えのある根来坂。口元に紅をつけた
お地蔵さんは健在であったが、少し紅が薄くなったようである。『京は遠ても十八里』と
はいうが現代人にはやっぱり遠いなあ。

これで三度目の根来坂。紅を差したお地蔵さんは健在

 根来坂の古道には芝栗のイガが転がる。中には小ぶりだが明るい茶色の栗の実。途中に
あった京まで52kmの案内標識は現代の鯖街道踏破のハイキングの為の標識なのだろうが、
そういうことにも今更ながらに京都へのつながりが強く意識されているのが分かる。

古道の雰囲気を残す根来坂

 左に百里新道の尾根、右手に歩いてきた江若尾根を見ながら二度ほど林道と交差する。
焼尾地蔵まで来るとほぼ半分か。直線状の林道を進み右に大きくカーブする辺りで再び古
道に入る。深く洗掘された道は以外に狭く、しかも雨が降れば道が川に化けるはずで、荷
物を担いで歩くのはさぞやしんどかったろう。古道はそれらしくジグザグに高度を落し、
徐々に高くなる沢音は小入谷の支流だ。やがて眼下に林道が垣間見えてくる。初めて来た
時より短い時間で下山した感じがする。二度目で勝手が分かっているというのもあるかも
しれない。

 ところでこの林道、最後に小入谷の本流を渡河しないといけないのを思い出した。前回
も何処を渡ろうかうろうろしたことが目に浮かぶ。今回も水量は多く、何処をわたっても
一緒かと思い定め、「エイヤッ!」バシャバシャ走り渡る。が、そのすぐ足元に風船みた
いなものがプカプカしているのに気づかなかった。後で気付いてギョッ! ここで捌いた
のであろう、なんと鹿かイノシシの内臓らしい。そばの涸れた繁みにはあばら骨らしきも
のもあるのも後で気がついた。

小入谷の茅葺民家。ススキが似合います

 小入谷は茅葺の民家もある20軒ばかりの長閑な集落である。ススキの穂が傾いた陽に
光る。今は何かの研修に使われてるらしい茅葺農家を右手に、川沿いにブラブラ歩けば車
のデポ地はすぐであった。

 針畑のルネッサンスセンターへ戻り、車を待つ。中国大陸で戦死した地元の人の碑が二
基。碑文を読んだり、大人しいメスの飼い犬を撫でたりしていたら、山の夕暮れは早い。
気づかぬ間に日もやや翳っている。その内に車が戻ってきて散会。今日も愉しく歩けたな
あ。皆さん有難うございました。



■同行 あかげらさん、スナフキンさん、ハム太郎さん、みずたにさん、(五十音順)

【タイムチャート】
5:50自宅発
6:20〜6:35千里中央駅(集合地)
9:05〜9:17地蔵峠林道入口(駐車地)
9:55〜9:56Ca760mピーク
10:10〜10:18三国峠(775.9m(三等三角点))
10:40〜10:46クチクボ峠
10:55677mピーク
11:20〜11:30709mピーク
11:55〜12:32803mピーク(昼食)
12:43オクスゲノ池
12:57『水場の鞍部』
13:10〜13:17659mピーク
13:42697m標高点
13:45〜13:48Ca850mピーク南の伐採尾根
14:10Ca850mピーク
14:11おにゅう峠
14:25〜14:35871m展望ピーク
14:40〜14:45根来坂
15:12焼尾地蔵
15:35登山口
15:48小入谷バス停(車デポ地)



三国峠のデータ
【所在地】京都府南丹市(旧美山町)
【標高】775.9m(三等三角点)
【備考】 京大芦生演習林の北東端にあり、京都府美山町、滋賀県
朽木村、福井県名田庄村の三国の境にあるので三国峠と
名付けられたようですが、山頂は実際は美山町内にあり
ます。高い木がなくほぼ360度の展望があり、青葉山、
百里ヶ岳、三国岳、比良の山並み、生杉の集落などが望
めます。尚、この辺りは「峠」と呼ばれるのが本来の山
で、「坂」と呼ばれるのが本来の峠である場合がありま
す。アプローチはマイカー以外は不便です。
【参考】2.5万図『古屋』、エアリアマップ『京都北山2』



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