目くるめく地獄鎌尾根から七種薬師
 
西尾根の四等三角点『岩ヶ谷』から七種薬師(右)と十字峰
七種薬師の手前に見えるはげ尾根が地獄鎌尾根
平成20年 3月 9日(日)
【天候】晴れ
【同行】別掲

 寡分にして知らなかった。”地獄鎌尾根”。何ともおどろおどろした名前をつけたもの
だ。今は姫路市に編入された夢前町と福崎町に跨る七種山塊。元々全体が岩がちの山域な
のだが、その中でも特に恐竜の背のような姿が特徴の尾根なのだという。未踏の七種薬師
へその尾根から登り、西の尾根を伝ってゴリラ岩経由で戻ってくるという周回ルートをこ
の日曜日に歩いてきた。正直、どんなところなのか期待と少々の不安とがない交ぜになっ
た気持ちだったのであるが、名前が示すほど危険な場所ではなく、最近良くあるような行
政の手による過保護なまでの整備もなく、適度にワイルドさを残して山の面白さを凝縮し
たようなコースなのでした。それではその一端を紹介しよう。とはいうものの、足元には
十分注意が必要。踏み外せば命に保証はないと少々脅しておきます。(^_ー)

 七種山塊は播但道からも良く眺められ、京阪神からも高速道を使えばアクセスが良い。
家を出たのが7時10分と出勤するより遅い出発だ。(^^; 途中で今日参加する皆さんを
ピックアップして、福崎ICで高速道と並行する県道へ出る。確か途中にコンビニが一軒
あったはず。最近益々忘れっぽいのになんでこんなことだけ覚えてるんだろう。(笑)

 前之庄で右折。ここからがややこしや、ややこしや。なだぎ武になってしまった。(笑)
板坂峠へ向う県道を探すのだが、ちょっと行き過ぎて夢前町の旧町役場まで行きつ戻りつ。
すると役場付近に東へ延びていく車道があって、その角に「宝積院」なる寺の案内看板。
そういえば山の麓のお寺まで下ったというやまあそ氏のHPがあったことを思いだす。そ
の道も行き過ぎてはやや戻り、川にかかる橋の手前で折れて山間へ入って行く道を採る。
要は宝積院の建物を目当てに進めばよいのだった。目敏ければ”薬師”と書かれた赤いプ
レートも見つけることが出来る。

 進むに従って強烈な臭気が襲ってくる。でも人間のに比べれば”屁”でもないなあ。(^^;
が、これで間違いないと思うあかさたな。いや浅はかさなのである。大きな村田牧場の敷
地の中を道なりに進むと桧林の中の荒れた林道となって、適当な所の路肩に車を止めて歩
き始めたのだが、何かおかしいぞ。GPSの示す池までの距離も歩くほどに遠ざかる。M
さんもそれに気付いたらしい。やっぱり取付きを間違っていそうだ。もう一度、車で来た
道を戻ってみると、運良く牧場の作業員の方がいる。
「明王池はどっちへ?」
「ここ曲って真っ直ぐに行けばいいです」
指示通りに北方向へ折れて、牧場内のデコボコ道を進む。すると牧場最奥の牛舎横に駐車
可能な広場。待望の『薬師』の赤いプレートが見つかる。今度こそ間違いなし。ホッと安
堵。これも要は牧場の敷地内に入って直ぐの林道を左に取ればよかったのだ。今から思え
ば地図も見ずに齟齬の数々、反省。
ようやく取付きへ。電柱に「薬師」の文字
明王池までは200m足らずだ

 それにしても強烈な田舎の香水の匂い。それにしても大きな牧場、夥しい牛の数。凄い
牛糞の山である。そんな臭気に押されるようにして準備を急いで歩き始める。と、意外に
早く池が現れ、堰堤の手前に、今回降りてくる予定の西尾根のプレート。青い池のの鏡の
様な水面には、これから向う地獄鎌尾根の岩がちの尾根がきれいに映りこんでいる。上田
井水利組合と書かれた標識のある堰堤を歩いて向こう側へ。地獄鎌尾根のプレートを確認
して早速、尾根に取り付く。9:30きっかり。前述の如くアプローチに右往左往もあった
けれど、何とか予定通りの出発時刻だ。

御船の明王池の鏡の様な水面
地獄鎌尾根の尾根筋は雑木に覆われて地獄には見えない

 台風の爪跡なのか根こそぎ倒れた木々も数々あって、のっけからやや荒れた感じがする
厳しい登りだ。雑木を掴んだりして四肢をフルに使わなければならない時もある。だが小
さなジグザグも切られていて、それ程、歩き難くもない。鉈目も入っていて適度に手入れ
されている感じがする。嬉しいのはグイグイ登るに従って視界が広がり、眼下の明王池や
西尾根のゴリラ岩がはっきり見えてくること。130mほどを一気に登ると尾根の上に出
る。赤松とコシダの繁る尾根には虎ロープと地獄鎌尾根の赤い標識がある。さあ、ここか
らが本日のハイライトを迎える前の前奏曲である。はっきりとした道は小さなアップダウ
ンを繰り返しながら、十字峰に向かって徐々に高度を増していくのだ。

 ゴリラ岩は下から眺めてもピンと来ないけれど、地獄鎌尾根から眺めるとなるほど、や
や上向きのサルの顔そっくりである。近在に実家のあるML仲間のOさんは中学生の頃か
ら登っていて、もうその頃からゴリラ岩と呼んでいたそうだ。そのゴリラ岩と播磨富士と
も呼ばれる明神山のツーショットの場所から写したのが下の画像だ。

地獄鎌尾根から見る明神山とゴリラ岩

 一旦、鞍部に出、登り返して腰までシダに埋まりつつ進む。踏み跡はしっかりしている
が、シダに隠れて下に何があるかわからない。時々倒木が転がっていて躓きかけたりする
ので注意が要る。そして露出した皮膚の部分が痛い。しげしげ眺めるにシダにも茎に棘棘
した部分があるのだ。手袋をしていた方が無難なのだが、感触が鈍るので結局最後までず
ぼらしてしまい、つけずじまいだった。(^^;

地獄鎌尾根の上から眺める本日のコース

 そろそろ露岩の尾根が現れ始めた。377m標高点のまだ手前。確か、「地獄鎌尾根の
始まり」とかいう板切れがぶら下がっているとか聞いたけれど見逃したのか、岩の上を2
0〜30m進むと再び潅木帯。377m標高点の長細いピークを越え、登り返せば再び岩
尾根が現れる。さっき歩いた岩尾根はほんの序章だったようで、これからが本格的な鎌尾
根の始まりらしい。幅2mくらいの切れ落ちたナイフエッジ。視線を上げると、十字峰と
並んで右に立つ薬師峰が大きい。その手前には、以前は赤岩と呼ばれた鎌尾根の核心部に
ある、45度ほどの斜度を持つ大岩が見える。岩の割れ目の申し訳程度の空間に根を伸ば
した松やネズ、ツツジなどの低木。まさに日本庭園を彷彿とする光景だが、それらに気を
とられていると足元がお留守になる。西側は潅木が生えてまだしも、東側はオーバーハン
グしているのか、覗くと100mくらいはあるだろうか、桧林の樹冠まで深い空間が広が
っている。でも存外、怖さはない。かえってこの前、平荘湖の升田山にあった砕石場の突
端を歩いた時の方が怖かったくらい。しかも岩はザラザラでフリクションはたっぷり。雪
でも降らぬ限り問題はない。但し、鉄平石と呼ばれる平板な石がおびただしく転がってい
るので、それに乗らぬよう注意が必要だろう。そしていよいよハイライトは斜度45度の
大岩登りだ。兎に角これを登らないと先へは進めないのだ。

 遠くから見れば大変そうだけれど、近づけばそうでもないことがえてしてあるものだ。
今回も案ずるより生むが易し。でこぼこの岩でしかも途中にテラスというべきか棚という
べきか、中間部に平坦な部分がある。ちょうどいい、ここで小休止。Nさん差し入れのポ
ンカンで口の渇きを癒す。そして地図を見ようと目を下にした時だ...。「?」
2匹のマダニが地図を入れたクリアファイルの中をゴソゴソと。慌てて体中を見回す。(^^;

地獄鎌尾根(赤岩)の核心部の斜度45度の大岩
岩の左側に見える横筋が小憩したテラス

大岩を登る皆さんと鎌尾根をテラスから眺める
上部に取付きの明王池が見える

 手に掴むものを探して岩と潅木帯の境目に沿って登って大岩をクリア。再び雑木林。通
常ルートは岩の右端を登るようで、一旦、テープが途切れたが、20mも登るとすぐに踏
み跡に復帰した。但し、体を引き上げようと握った木がヒイラギ。気がついたらそこいら
中がヒイラギだった。痛てっ!

 岩峰に登る。雪庇みたいに空間に突き出た岩のオーバーハングはなかなか迫力がある。
もう十字峰はすぐそこだ。その小さな岩峰を下って、二本直立した岩柱を過ぎると、常緑
樹林の中となる。「ここで地獄鎌尾根終わり。無事通過おめでとう」ほとんどかすれて判
読しづらくなった木製プレートがかかる。名残惜しいけれどこれで本日のハイライト第一
場の幕である。

 そこから十字峰直下の七種薬師(薬師峰)分岐は間もなくである。多くの残置テープが
あるが、これは地獄鎌尾根−薬師峰の最短路になっていて、兵庫登山会の標識は左手の高
みを15m程度登った先に見えている。そこには帰りに寄るとして、そのまま七種薬師(
薬師峰)へ向かおう。この辺りは常緑広葉樹とその倒木でやや暗く、テープが無ければ少
し分かりにくいのだが、すぐさま明るい快適な尾根道に復帰することができる。圧巻は所
々木々の疎らな部分から見る地獄鎌尾根の姿である。「えっ?うわっ」歩いている最中は
それ程でもなかったのだが、傍から見ると思わずよくあんな所を歩いてきたものだと思わ
せる迫力がある。まるで唐宋の山水画の世界。数十mは切れ落ちた崖は上部からは見え難
かったが、ここから見ると玄武洞の柱状節理さながらである。うーん。地形図に連続する
崖記号書かれているのは伊達ではなかったのだ。(笑)

薬師峰への踏み跡から地獄鎌尾根。奥は下山路の西尾根

 さて、山頂部に近づくに従って傾斜が徐々に厳しくなり、シャリバテの体には些かきつ
いが、これをこなせば食事だと体に言い聞かせて、標高差100mを一気にこなすと二等
三角点の埋まる七種薬師(薬師峰)の狭い山頂だ。ここで初めて北の方角が見渡せるよう
になって、以前登った七種本峰、七種槍や笠形山がある。七種の滝は枯れているのか灰色
がかった岩壁だけが眺められる。ふと見た足元の日陰の繁みにはまだ腐った雪が残ってい
た。

 山頂から南側の一段低い段地に、山名の由来となった綺麗な薬師如来坐像が石の祠に鎮
座している。禅定印を結んだ手に薬壷。光背には梵字。日光、月光菩薩を模した縦長の石
も両脇にちゃんと置かれている。施主は麓の前之庄村とあるが、祠の天井石はザッと10
0sはあるだろう。一体誰が運んだのだろうか。

 南向きでポカポカした段地なので、ここで食事とする。霞みで遠望は効かないが、こち
ら側は中岳と呼ぶらしい円錐形の綺麗な山容の山や、加古川の流れ、播磨平野の伸びやか
さがいい。Nさんから戴いたビールを飲み、ラーメンをすする。なんとも贅沢なものだ。
日の光はポカポカどころか暑いくらいで、暖かさに誘われてもう蝿が飛んできた。

 1時間ほどもゆっくり食事をして、十字峰まで来た道を戻る。往路の鎌尾根分岐から少
し登って兵庫登山会の標識。そこから凡そ50m、北に向って斜面を登ると十字峰の狭い
ピークだ。直進すれば七種山へ、西へ折れれば西尾根コースで、虎ロープに例の赤い標識
がつけてある。牧場まで90分の行程かと、少し休憩していたら、七種山の方から人影が
近づいてくる。地獄鎌尾根から先になり後になりして登っていたいた小父さんで、今日お
会いした唯一の登山者なのである。七種山までピストンと向かったけれど、遠いので断念
したのだそうだ。
十字師の標識。ピークはここから北に50m

 十字峰からゴリラ岩の尾根へと南に折れる屈曲点のピークまではおよそ500m。数年
前の台風の爪あとか、かなりの倒木がありやや荒れ気味だ。しかしここも思ったほど歩き
難くはない。途中、地形図の崖マーク付近には展望の良い岩の台地がある。地獄鎌尾根を
西から見ることができる地点だ。そこから眺めると尾根は雑木に覆われていて、あの峨々
たる荒々しさは感じられない。

十字峰から荒れ気味の西尾根コースへ。倒木がまだまだ残る

 屈曲点ピーク(Ca480m)付近は少しややこしいかもと考えていたが、木々が疎らで
尾根筋が良く見え、また自然にそちらに体が向くからルートファインディングに思案する
こともない。この辺りからも展望が良く、東に歩いてきた薬師峰、十字峰、西に明神山が
ピラミダルだ。だが、何よりも十字峰から屈曲点ピークを繋ぐ尾根へ伸びるスラブ状の一
枚岩が見事なのだった。

 地獄鎌尾根ほどではないが、こちらも岩がちの尾根で歩くと面白い。何だか鳥になった
気分がする。歩いている間、西にずっと明神山が眺められ、山裾の茶色っぽいのはゴルフ
場。夢前川の流れの両側には碁盤状に見事に整地された田圃が敷き詰められ、新庄の集落
の家並みからは家を普請する音が上がってくる。

 岩尾根、シダの密生地や幾度かの細かいアップダウンをこなしながら、またまた生えこ
んだシダを掻き分け小ピークに登りつく。四等三角点『岩ヶ谷』のピークである。流石に
三角点が置かれるだけあって展望が良い。地獄鎌尾根の大岩や薬師峰、十字峰が一望され
る小さな切開きには、三角点の他にNHKの共同アンテナ施設があるというが、もう朽ち
果てて今は残骸が残っているのみである。

 『岩ヶ谷』の山頂から南にこんもり見えている繁みがゴリラ岩の後頭部らしい。そこま
ではシダに囲まれた緩い下り坂だ。ずんずん歩が進むが、それも突然、行き止まりの虎ロ
ープに阻まれる。ゴリラ岩の頭部の崖に出たのだ。ロープを跨いで先に出てみよう。鼻に
当たる出っ張り。というかここから見ると岩盤のへそといった方が良いだろう。牧場の建
物、明王池。尾根の先には宝積院の裏山の行者山。いい眺めだけれど、それよりもここま
でもう臭気が上がってくる。「ううっ」

ゴリラの頭部から眺めると頬と鼻はこんな形
はるか下には牧場の牛舎

ゴリラ岩を下から見ると...。

 ゴリラ岩の崖の手前左手(池側)にテープがあるのが迂回路だ。いわばゴリラの顔の毛
の生え際をなぞるように進むことになる。崖を避ければゴリラの鼻や口にあたる部分は自
由に上り下りすることが出来る。

 岩をヘつりながらゴリラの口の端付近になるだろうか。残置テープがあるのでそれに従
うことにしよう。本来はもう少し尾根を辿ると虎ロープが張ってあって牧場方向を示すプ
レートがあるのだそうだが、池まではもう直線距離で200m程度だし、ブッシュもほと
んど無く、東に下れば池に出ることは明らかなので、潅木の密度が低い所を選んでいけば
問題ない。とはいえテープがあればそれを追うのに越した事はない。こんな感じでズンズ
ン降りていく。

 東尾根への登りに比べて斜度が緩く助かる。と、安心していたら何時の間にやらテープ
を見失ってしまった。あれれと少し探したけれど、牛舎の屋根も見えており、木々の薄い
間隙を狙って降りると木々を透かして明王池の青い水面が現れて、まもなく池の周回林道
に飛び出した。そこは西尾根のプレートの凡そ50m北の地点である。ふーっ。

 戻った駐車地には我々の車のみ。牛が物珍しそうに柵の向こうから円らな瞳で眺めてい
る。ずっと匂いを嗅いでいるとそれも気にならなくなってきた。アンパンを齧ってお茶で
喉を潤す余裕も出てくる。人間の順応力って凄いものなんだなあ。(笑)

 色々バラエティに富んだ山歩きの醍醐味をミックスジュースにしたような薬師峰(七種
薬師)と地獄鎌尾根である。青空の下、満足、満足の思いを胸に後ろ髪を引かれながら牧
場を後にしたのだった。また来たいね。皆さん。



■同行 あかげらさん、なかいさん、もぐさん

【タイムチャート】
7:10自宅発
9:00〜9:10村田牧場奥の林道
9:20〜9:25村田牧場最奥の牛舎横(駐車地)
9:27明王池
9:30地獄鎌尾根登山口
9:45〜9:53尾根到達
10:28377m標高点
10:38〜10:50大岩壁のテラス(小休止)
11:20十字峰手前の薬師分岐
11:44〜12:42七種薬師(616.2m 三等三角点(昼食))
13:00〜13:01十字峰手前の薬師分岐
13:05〜13:06十字峰(Ca550m)
13:20〜13:27展望岩
13:32〜13:34屈曲点ピーク(Ca480m)
13:55〜14:00展望岩尾根
14:22〜14:29四等三角点『岩ヶ谷』 (335.0m)
14:35ゴリラ岩
14:40〜14:45ゴリラ岩の下
15:02明王池周回の道
15:10村田牧場最奥の牛舎横(駐車地)



七種薬師(薬師峰)のデータ
【所在地】兵庫県姫路市夢前町、神崎郡福崎町
【標高】616.2m(三等三角点)
【備考】 七種山、七種槍と並ぶ七種三山の一つです。四等三角点『
岩ヶ谷』や「ゴリラ岩」のある通称西尾根から見る姿は鋭
く、登高意欲をそそります。山頂には薬師如来の石仏が祀
られていて、山名の由来となっています。登山路は東の福
崎青少年野外活動センターからと夢前町の村田牧場からが
ありますが、中でも紹介した地獄鎌尾根の切り立った岩稜
から登るコースはスリル満点です。
【参考】2.5万図『前之庄』



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