御船の滝〜凍返る氷瀑見物ハイク
 
凍りついた御船の滝全景
手前の人と比べて下さい
平成20年 2月24日(日)
【天候】曇り時々雪
【同行】別掲


 金曜日が春到来を思わせるポカポカ陽気なら、日曜日は一転、今冬一番の寒さだという。
豊中でも土曜日の夜遅くに降りだした雪はあっという間にその辺りを白く変えた。おかげ
で北大阪急行は平常運転だが新御堂筋は通行止。その側道ではあちこちで赤い回転灯が車
のスリップ事故があったことを物語っている。

 今日は奈良の山奥まで氷瀑見物の予定。暖かくなっても困るし、さりとて寒すぎるとこ
れまたアプローチに窮することになる。今朝は少々「寒」側に振れ過ぎたみたい。なかな
か思い通りには行きません。

 高速道の通行止が気になったが、そんなこともなく南下するほどに雪も少なくなって真
っ青な空が広がり、こりゃいい具合かもと車の中でMさんと言いあったものだが、知らぬ
が仏、そうは簡単に問屋がおろしてくれないことがおいおい分かってくるのである。

 近畿道、南阪奈、バイパスと乗り継げば、待ち合わせの橿原神宮駅東口まではほんの1
時間と近い。定刻8時の30分前に着いたが、すでにNさんの車が止まっている。裏六甲
はかなりの積雪なのだそうだ。そのうちにSさん、Hさん、Tちゃんも集合して、本日の
メンバ6名全員が集合し、2台に分乗してまずは川上村のホテル杉の湯を目指す。

 宮滝から五社トンネルを抜けるとR169の道路状況は一変する。積雪が多くなり、氷
点下の気温の為に所々圧雪が凍っている部分がある。雪用タイヤでもややもすれば滑る状
態。だから大滝ダム湖の側を走る時などは何となく尻の辺りがこそばゆい。ガードレール
はあるものの、その先は水面まで50mは下らないコンクリート絶壁なのだ。杉の湯の建
物が見えてきた時は正直ホッ。(^^; そして車を降りて又ビックリ。宿泊客も驚くほど駐
車場の路面はツルツルなのだった。

 小休止をとって更に南へ。白屋を過ぎて左に見えてくる武光橋を渡って右折し、井光川
を遡って行く。こちらは当然国道以上の路面状態である。ついには緩斜面で雪用タイヤも
空転し始める。チェーンを装着してようやく危機脱出である。

井光にある「いひかの里」の駐車場

「いひかの里」にある案内板

 我々同様、物好きはいるようでこんな日にも「いひかの里」の駐車場には数台の先行車
がある。東屋でレインスーツ、スパッツ、手袋を装着して防寒対策。立っているとジワリ
寒さが足元から忍び寄ってくる。早く歩き始めよう。と、みんなの声が聞こえなくなった
と思ったら、もうアマゴの養殖場横の橋を渡って先に歩き始めているではないか。置いて
け堀だあ。(^^;

 橋を渡ると左に井光の集落への村道が延び、出合に案内板がある。ここから林道は3月
まで車の通行止だ。積雪は約10cmか。右を流れる井光川の川音も寒さを募らせる。あち
らこちらにはでかいツララ。中には長さ2mを越えるものまである。あの下に1時間居ろ
といわれたら怖いだろうな。まるでダモクレスの剣だねえ。

 歩くとザクザクと締まる雪。岩戸の滝と東屋を右に見る。余り大きな滝ではないが、川
の本流で水量が多い為か、こちらは全く凍っていない。やはり源流近くの水量少な目の滝
が氷瀑の条件なのだろう。
モノクロの世界、滝へのアプローチの林道を振り返る

 滝から5分ばかりも歩くと聖蹟と奥の宮の案内標識がある。細い吊り橋がかかっている
場所だ。橋を渡った先に村の取水施設があるようである。「熊注意」の注意書きが秘境感
を醸し出している。サーッと上空を一陣の風が吹いたよう。途端に杉の梢に積もっていた
のであろう粉雪が舞い踊りながら落ちてくる。一瞬、辺りはホワイトアウト。
「冷た〜っ!」乾燥した雪は珍しい。ちょっとしたアスピリンスノーである。

御船の滝入口。滝へは130mだ

 歩き始めて1時間あまり。「いひかの里」から3km位だろうか。正面が沢筋となり、林
道が右に大きくヘアピンカーブして斜度を上げる手前に案内標が立ち、御船の滝の在りか
を示す。130m奥だそうだ。沢沿いに付けられた小道を進む。梯子状の木橋が数箇所。
大きな岩の側を抜けると右前方に白い柱状の物体が見えてくる。それが凍結した御船の滝
の姿だった。

 苔むした小さな石燈籠があって、岩を抱えるように生える古木には手書きの説明板が掛
かっている。高さは50m、二段の滝とあるが、どうも50mはなさそうだけれど、そこ
そこの高さを持つ滝であることは間違いない。が、そんな滝が持っているはずの滝壺がな
い。代わりにゴツゴツした岩ばかりだと思ったら、なんとそれは大きいものは直径1mば
かりはありそうな氷の塊なのだった。前述した如く滝壺がないので、滝の直下まで近寄る
ことが出来る。しかしあとから良く考えればこれは危ない行動だった。後刻、向かいの斜
面を少し登った東屋で昼食中のこと。滝周辺でバサリとも、ドサッともつかない大きな音
がしたから、何事ぞと眺めれば、滝の氷が重みに耐えかねて落ちた音だったのだ。これが
何度も繰り返されて、滝壺の辺りにゴツゴツと積み重なった氷塊を作り出していたのでは
ないか。それが見物中、落下していたら...。今頃、背筋が...。くわばらくわばら。

御船の滝(1)
文殊菩薩に見えるだろうか

御船の滝(2)
氷が五百羅漢のようだ

御船の滝(3)
氷が薄青い

 滝は上部はまだ水流を保っているが、中央部以下はほぼ完全に凍りついている。凍りつ
いた姿が文殊菩薩に見えるというが、私には氷塊一つ一つが五百羅漢が立っているように
見えた。いずれにしろ荘厳な感じすらする姿である。しかも水が清澄なので氷は奥の方が
薄い水色を呈して実に見事である。なんとなくカプリ島の青の洞窟が頭に浮かんだ。

 小父さん二人が撮影に余念がない。邪魔せぬようにこちらも適当なところに陣取って、
カメラに収める。淡い水色を収める事ができただろうか。一段落がついたら食事だ。滝の
全景を眺めながら東屋で湯を沸かす。

 林道を歩く間に2、3百mは標高を稼いでいるに違いない。滝の辺りは900m以上は
あるだろう。谷筋で両側の斜面が風を防いでくれるので助かっているが、気温は氷点下3
度は下回っているのではないだろうか。底に雪のついたカップを置いていたら、すぐに凍
りついてしまう。まあその分、かえって雪がべたべたしないので助かるのだが。

良く手入れされた杉林を奥の宮へ

 帰りは吊り橋の所にあった案内標識に従って、奥の宮を見物してハイキングコースを伝
うことにする。良く手入れされた杉林の間はどこでも歩ける。200mばかり歩くと、遠
目には何かの墓みたいな石造物がやや離れて2つ。手前の石柱の向こう側に直径3m程度、
落ち窪んだ場所があるが、そこが「井氷鹿」が現れた井戸の跡なのだそうだ。そして後ろ
の方がその墓である奥の宮らしい。建造されたのは明治33年なので意外に新しいものだ。
井光集落は時の政府から不本意ながら字名を「碇」に改めさせられていたのを、明治34
年、もとの「井光」に復旧したらしいから、この頃から所謂、皇国史観が本格化し、伝承
を実際に当てはめる動きが出てきたのだろうか。

 井氷鹿には尻尾があったというが、これは以前に歩いた葛城古道の高天にあった土蜘蛛
の伝承と同じである。まつろわぬ者や土着の者を異形に表すのだろう。

井氷鹿が現れたという井戸(石柱の後の大きなくぼみ)

 ハイキングコースは石柱の前を西へ延びている。杉林の山腹を巻きながらもアップダウ
ンはほとんどない。しばらくは植林だが、アセビの群落からやがて雑木林に。大きなタブ
ノキもあったりする。小さな沢に架けられた梯子式の木橋が数箇所あって、こういう場所
はTちゃんには鬼門なのだそうだ。やがて物置小屋の前を通り過ぎると、井光の集落の最
奥の民家の前である。
雪の中に静まる井光の里

 せいぜい20軒程度の集落かと思いきや、存外大きな集落ではないか。見渡した所、5、
60軒はありそうである。山里のこととて大きな庭を持つ家はないが、庭木の手入れが行
き届き、住む人の人柄が偲ばれる。人一人通れるくらいのセメント道を下れば、井光のメ
インストリートだ。ギフチョウの飼育場横を折れて、奥に杉の大木がある所が井氷鹿を祀
った井光神社で隣は観音禅寺である。阿弥陀如来の浮き彫りがある梵鐘は江戸時代の作で
先の大戦での供出を逃れたものなのだそうだ。

 それにしても雪を被った里に人通りを見ない。学校などはどうするんだろう?きっとス
クールバスが巡るんだろうな。でも高校になれば下宿なのだろうな。高齢者世帯は買い物
はどうするんだろう?2トントラックの移動スーパーが来るんだろうか?うーむ、たまに
訪れる旅人はいいけれど、定住するとなると山里の暮らしは大変だ。などと思いを馳せて
いると、やがて「いひかの里」が坂の下に見えてくる。でもガチガチに凍った村道で急ぐ
とツルリといきかねない。雪の積もった道端に避けて、やっと往路の林道に戻る。

 迫力の御船の滝。雪嫌いの小生個人なら決して行かなかったろう。紹介してくれたTち
ゃん、そして運転頂いたMさん、Nさん、同行の皆さんに感謝です。帰途は宮滝醤油、そ
して地酒「花巴」に寄って土産にする。夜は久方ぶりにヌル燗です。


■幸さん、たらちゃん、なかいさん、ハム太郎さん、みずさん

【タイムチャート】
6:30千里中央ローソン前(集合地)
8:00近鉄橿原神宮駅東口(第二集合地)
9:40〜9:50いひかの里(駐車地)
10:21岩戸の滝
10:25聖跡入口(吊橋前)
10:45御船の滝入口
10:50〜11:45御船の滝(昼食)
12:06奥の宮入口
12:15〜12:20奥の宮
12:47井光集落最奥の民家
13:10いひかの里(駐車地)

※註) 井光については観音寺の御住職から井光の名についてご教示いただきました。
    有難うございました(筆者)


御船の滝のデータ
【所在地】奈良県吉野郡川上村
【標高】Ca900m
【備考】 川上村の井光集落を流れる井光川の源流域にある滝です。
公称50m二段の滝で、冬季は氷結し、その姿が文殊菩薩
に似るといいます。井光は神武天皇が国つ神の井氷鹿と遭
遇したという伝説があります。
【参考】2.5万図『大和柏木』



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