駒ヶ岳〜高島トレイルの第一級ブナ林

ブナ林幽玄(駒ヶ越付近にて)
平成20年 9月 7日(日)
【天候】晴れのち曇り一時雨
【同行】別掲


 もともと寒冷地を好むブナなので、近畿近辺のまとまったブナ林といえば若丹や江若、
因但といった中央分水嶺から北側に偏在することになる。そんな中にあって、僭越ながら
小生の少ない経験からいえば、扇ノ山、大日尾根と並んで若狭駒ヶ岳のブナ林は第一級で
あろう。今日はその駒ヶ岳へ二度目の山行である。

 千里中央で例によって拾ってもらって、湖西を朽木に抜ける頃、俄かに青空は影を潜め、
辺りは暗くなる。と見る間にしぶきの上がるほどの雨が降り出す。ところが県境を福井県
側に出て集合地である道の駅熊川宿まで来ると、一転、雨は上がって雲の切れ間に再び青
空が覗く。近頃、世間を賑わせているゲリラ雨らしい。

 道の駅で予定通りHさん、Nさんと合流して河内へ向かう道に折れる。河内川ダムの工
事はまだ続いているらしい。取付け道路の橋が遥か上にある。まもなく建物跡がある明神
谷と河内川の合流点。今回はこの建物跡に車を置いて準備を整える、古い茶碗が転がって
いる。いったい誰が使っていたものやら。

 左の明神谷沿いに凡そ400mも進めば、見覚えのある白石神社跡の前に出る。祭神は
東大寺のお水取りと関係の深い若狭彦(山幸彦)。この前は岩の上にあった神社の祠は既
になく、石橋のみが残る。河内の集落がダムの建設の為に山の上に移転し、神社もその近
くに新築されたのだという。この辺りも湛水されればダム湖に沈むのだろうか?

白石神社は移転。左の山肌付近の道が
ほとんどなくなっている

 今日はここから明神谷の林道を遡って行く。初回とはほぼ逆コースだ。林道はそれほど
荒れてもおらず歩きやすい。懸念されたアブもいない。勿論、ヒルも見当たらぬ。が、雨
上がり、日が射してきてかなり蒸し暑い。杉木立は蒸発する湿気で少々モヤっている。林
道歩きでこれだから斜面登りになったらどれだけ暑いか、と懸念したのであるが、養鱒場
跡を過ぎて暫くした頃からか少し風が乾いた感じになった。雨を境に空気が入れ替わった
らしい。以後は大汗をかくこともなく、そういう点ではこの時期にしては楽な山行であっ
た。

 養鱒場跡には釣り客の車がある。ここから山上のキャンプ場への道があるが、使う人は
ほとんどいないようだ。ここから林道はやや狭くなるが、更に遡ると右の谷川に大カツラ
が立つ。カラメルに似た甘い香りが辺りに漂いえも云われぬ感じ。格好の休憩場所だ。

 360m標高点を過ぎると更に道が狭くなる。単独の釣り客の車を見て、左に大きくヘ
アピンする地点が、前週にSさん達が取り付いた尾根だろう。ケモノ道風のかすかな踏み
跡らしきものがあるが、最初が厳しいようなので我々はそのまま無難に林道を行く。木々
に隙間があれば谷向こうに駒ヶ岳の姿を見るようになる。秋深くなれば錦をまとうはずだ
が、今はまだまだ緑が濃い。
明神谷林道が分岐する先の谷から登る

 この付近までくると道の真ん中にも鹿の糞が散見される。左に深い谷を見つつ、東に方
向を変えると林道分岐点だ。以前はこの付近でおやつに”みたらし団子”を食べたんだな
あ。(^^; 今日の取付きはここ。林道分岐地点から少し進んだヘアピンカーブの辺りに浅
い小さな谷があり、その向こうは杉の植林である。その浅い谷が尽きる所が江若尾根の鞍
部のはずだ。鹿でも通るのか、谷を越えて薄いケモノ道のようなものがある。それを利用
して谷を渡る。良く手入れされた杉が整然と並ぶ明るく緩い斜面は下草もなく歩き良い。
但しテープ類はない。が、その内に作業道のような踏み跡も出てきた。崩れた炭焼き窯跡
もある。浅い谷は左に振りながら上がっていくので、こちらもやや左に方向を変えながら
緩斜面を上がってゆくと、もう杉林の向こうに光が見えはじめ、稜線が近いことを示して
いる。しかし、稜線に近づくに従ってシダが地面を覆いはじめた。結局、稜線上に出ても
シダだらけで、そこには踏み跡が一筋あって白黒テープも立ち木に巻かれてある。江若尾
根の縦走路(高島トレイル)で、横谷峠へ向う道のようだ。GPSで確かめると693m
標高点ピークの西南西100mほどの鞍部である。

江若尾根にはシダのヤブの中に一筋の道が

 熊ハギか鹿の食害除けの青いPPテープが巻かれた杉の間、シダを分けて進むと胞子が
舞い上がるのか少し埃っぽい感じがする。小生はあまり気にならなかったけれど、Aさん
はハンカチで口を押さえている。それよりダニがいそうだなあ。そう考えると体中がなん
だかむず痒くなってくる。

 腹に響くような遠雷が聞こえる。日が翳ることが多くなって灰色雲がこちらへ流れてく
る。にわか雨ではあろうが、強い雨にならねばいいがと願いつつ、744m標高点に向か
って少しずつ標高を上げる。シダの中からひょっこり飛び出しているのはトリカブト。も
う青紫の花を付けている。その向こうは山また山が連なっているが、一際高く大きいのは
蛇谷ヶ峰らしく、その右奥には釣瓶岳と武奈ヶ岳が連なっているのが見える。山峡に黄色
く色づいた田んぼと建物がゴマ粒くらいに見えるのは朽木の横谷の村であろう。

江若尾根にはもうトリカブトの花が。
向こうは蛇谷ヶ峰、朽木横谷の谷筋が見える

 744m標高点ピーク手前で雨が降る前にと昼食をとる。食事時に雨はいただけないが、
近づいてきた灰色雲は我々を上手く避けて通過してくれたようだ。

 744m標高点ピークには横谷山への分岐点がある。以前にはなかったオフィシャル道
標が立ち高島トレイルの整備が進んでいる。それは江若尾根を降りて明神谷林道の終端に
出る次の分岐でも同様で、立派な道標もあって以前に比べ遥かに判りやすくなっている。
ここまで来るとシダヤブもなくなりめっきり歩きやすくなる。

大ブナ。Hさんと比べてみてください

明神谷分岐も今ではこんなに道標がある

 Mさんが云っていた無粋な林道が左に現れた。それは尾根を跨いで右になり、暫く並行
進んだ後、また左に移って降りていくが、この辺りから江若尾根のハイライト、ブナ林が
始まる。その尾根道には古い遊歩道の跡が残る。丸太が朽ちて黒い樹脂杭だけが残ってい
るのだ。一体、誰が設置したのだろうか。森林公園とキャンプ場が整備された時に付けら
れたのだろうと思われるが、よほどその時は資金が潤沢だったに違いない。(^^;

ブナの別天地を往く(1)

ブナの別天地を往く(2)

 尾根の右側に忽然と山上池が現れた。初めて来た時も驚いた大きな池で、長さは50m、
幅も広い所で20mは下らない。静かな水面は周囲の木々を映しだしている。と、池の向
こう側で人の話し声がする。10人ほどの男女パーティはどこかの山の会だろうか。今日、
最初で且つ最後に遭った登山者である。

尾根上の神秘的な池

 尾根は次第に北に振り始める。「ろくろ橋2.9km、駒ヶ岳1.3km」の道標を見た
頃だったか、辺りが急に暗くなってきた。見る間に白いガスが上がってきて周囲の景色を
閉ざし始める。「ガスが流れるブナ林もいいねえ」とはアプローチの林道で話し合ってい
たものだったが、それが現実になるとは...。風が止んで雨も落ちてくる。レインウェ
アを着る人、傘を差す人、ザックカバーを被せる人。しかしブナ林の恵みは自然の傘にな
ってくれる事。ほとんど雨粒が落ちてこないのだ。勿論、風が吹けばバラバラと来るのだ
が、自然の傘がおおいに助かる。そのうち雨もそれほど強まる事もなく、いつの間にか止
んでくれた。

 地形図の682m標高点で小休止。二俣になった面白い形のミズナラのある地点である。
そこからは林道くらいも幅のある遊歩道。直径50cmはあるブナに混じって若木もあっ
て、世代交代が順調に行っているよう。このままブナ林が子々孫々まで残ってくれればい
いのだが。
ガスに煙る駒ヶ越

 駒ヶ越から森林公園への降り始めが最もガスが濃くなった時間か。この天候では展望も
皆無であろうし、時間もやや押していたこともあって、往復30分はかかる駒ヶ岳へは登
らず。一度、山頂を踏んでいることもあって、三角点フェチ?の小生にも未練なし。(^^;
森林公園分岐の小ピークで右に折れる。200m足らず進んで再び左に折れると、尾根を
下る道で谷の源頭へ出る道だ。この辺りは少し分かりづらいが、地面を良く見れば、ここ
でも遊歩道の階段の名残の黒い杭が枯葉に埋まっているのが分かる。高度が下がるとガス
も晴れてきて、周囲の様子も良く判るようになる。ユズリハの繁みを抜けるとやがて林道
終端で、ここはもう森林公園の敷地内だ。

 林道を忠実に下っても良いが、下草もない林の中を真っ直ぐ辿ればショートカットでき
る。明るい雑木林下の踏み跡を伝って、出てきたのは古いトイレの前。中は真っ暗なんだ
そうだ。

 前方の高みに高いアンテナ施設を見る。同じ江若国境の大日尾根でKDDのアンテナ跡
というのがあったけれど、あれと同じようなアンテナである。そこへと至る園内路はボロ
ギクの穂が目立つ登りで、やや疲れた足には少々こたえるところ。だが登り切ると右手に
は歩いてきた尾根筋が見渡せる。その下の深い谷が明神谷なのである。そして無人の管理
事務所の前の広場へ降りる道からは、背後に今はガスも晴れた駒ヶ岳が姿を見せた。

 広場を横切り、荒れの目立つ廃屋と化したバンガローの前を歩いて、白石神社へのコー
スは、道の北側が自然林、南側が植林と二分されている。最近整備がなされたのか、丸木
の階段が新しい。木々の密生した暗がりには紅色のタマゴダケが毒々しい。しかし食べら
れるんだと。でも小生は遠慮したいところ。

 ここまでずっと順調に来たが、最後の最後に試練?が待っていた。突然に道が悪路とな
って、ほぼ消えかけているのである。20mほど下に神社跡や明神谷の流れが見えるのだ
が、はっきりとした道らしいものがない。土の急斜面を引っかいたような踏み跡らしきも
のはかろうじてあるけれど、今までの丸太階段がうそのようだ。雑木にトラロープが巻か
れているので、それが示す方向に、左に見える杉林の中の小さな谷を目指して斜めに降り
ていくのが楽なようで、見ればなんとなく踏み跡らしきものもある。滑らぬように用心し
ながら、何とか降りきって小さな谷の向こう側に出ると、今度はボロギクのヤブが待って
いる。胸まで埋まったおかげで、その白い穂に体はまるで猫の毛が無数に付着したみたい
である。それを10mくらい突っ切るとやっと白石神社の石橋に出ることが出来た。

 3年前に来た時にはもっと明快な踏み跡があったはずである。どうも斜面に木がない所
を見ると、伐採された後の大雨か何かで表土が流されたのではなかろうか。ここを我慢す
ると超明快な道なのだが、こんな状態だと初めて来た、特に初心者の人はこのコースでの
登りを諦めるのではなかろうか。

 ま、兎に角、そんなことでみんな無事に下山。さきほど下山路を横切った雄鹿だろうか、
間近に鹿の警戒音が響く中、川の出合いの建物跡に置いた車までは10分ほどである。着
替えなど整理している間に、また空が暗くなってポツポツ来始めたが、大降りにならずに
止む。

 ほぼ望んだ通りの天候だったのではないか。ピーカンでもなく、さりとて大雨も降らず
当初望んでいた幻想的なガスに巻かれたブナ林も体験できた。立ち止まり立ち止まりだっ
た所為で、駒ヶ岳の山頂には立つ時間的余裕はなかったが、今回も静かな山歩きを楽しめ
たのだった。熊川宿で解散。皆さんご苦労様でした。



■同行 あかげらさん、なかいさん、ハム太郎さん、ひろぴぃさん、みずたにさん
    (五十音順)

【タイムチャート】
7:00千里中央駅(集合地)
8:55〜9:05明神谷・河内川合流点(駐車地)
9:15白石神社跡
9:30養鱒場跡
9:45〜9:55大カツラ(小休止)
11:20林道屈曲点(取付き)
11:32江若尾根
11:49〜12:25744m標高点ピーク手前(昼食)
12:37744m標高点ピーク
12:46明神谷分岐
13:05山上池
13:35〜13:52682m標高点ピーク
14:05駒ヶ越
14:09森林公園分岐
14:39林道終点
15:00キャンプ場管理棟
15:57白石神社跡
14:35明神谷・河内川合流点(駐車地)



駒ヶ岳のデータ
【所在地】福井県小浜市、遠敷郡若狭町、滋賀県高島市朽木
【標高】780.1m(三等三角点)
【備考】 百里ヶ岳から三十三間山に到る江若国境山塊のほぼ中間
に位置する峰です。全山ほぼ雑木に覆われ、特に江若国
境尾根はブナを中心とする林で、春の若緑、秋の黄葉は
見事です。登山コースは福井県側の河内、滋賀県側の木
地山からがメインで、静かな山歩きが楽しめます。尚、
アプローチが不便な為、マイカーが無難です。
【参考】
2.5万図『熊川』



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