巨神の森再び、そして芦生古道

再会した巨神と筆者
平成20年 5月18日(日)
【天候】晴れのち曇り
【同行】別掲


 急な出勤で土曜の山の計画はキャンセル。MLで同行に挙手された方には大変ご迷惑を
おかけしました。この場を借りてお詫び。m(_ _)m

 さて、翌日曜はMさんの別企画に乗ることにする。芦生の巨神の森だ。私自身は二度目
の探訪である。樹齢千年を超えるアシウスギの息吹を全身に浴びてストレス発散と行きま
しょう。

 コース取りだけれど、前回が佐々里峠を基点に反時計回りだったのに対して、今回は研
究林事務所のある須後を起点にしての時計回りの周回の予定。芦生古道の灰野谷への降下
地点からは、前回気になっていた"芦生古道復活"の道を行こうという計画である。これを
使うと須後に直接降りることが可能なはずなのである。

 一般道を利用しても基点の須後には9:15着。2時間と少しだ。高島側が閉鎖された
影響なのか駐車場はほぼ八分通りの埋まり具合。準備の間にも、美山自然の家のマイクロ
バスがやってきて、観光ツアーらしき人々を吐き出している。

 京大の管理事務所前には橙色のレンゲツツジが鮮やか。新しく建った民家の周りはオダ
マキが咲き乱れている。清々しい空気とあいまって、1年で一番良い季節といっても過言
ではなかろう。由良川に架かる鉄橋を渡り、まずは今日の下山口に当たりをつけるべく目
を凝らす。ウーム、それらしいテープはない。唯一、それらしかったのが”芦生の功労者
田中英明記念樹”の標識。それには"登り口"との記述もあって、これかなと思わせる雰囲
気はあるが....。

 由良川からはカジカガエルの鳴き声、樹上からはミソサザイかなんだかの鳥の声。俄か
バードウォッチャーに変貌する瞬間。でも鳥はどれがどれだか。(笑)

 灰野を過ぎてトロッコ道を遡行すること20分位。崩落箇所をバイパスする木橋が左に
現れる。これを渡らずに直進すると赤崎の二つの谷だ。トロッコの鉄橋は一方は飴のよう
に曲がり、片方は崩落状態だ。この辺りから尾根に取り付くことにする。今回で一番、唯
一といっていい厳しい登りで、前回は滑りつつも下った場所である。勿論、テープ類など
の目印はない。だが良く見ると、なんだかステップが切られているように窪みがついてい
るではないか。ちょくちょく登っている人がいる証拠である。以前は知る人ぞ知る全くマ
イナーな山域だったのだけれど、雑誌やネットのお蔭でここもメジャーになったものであ
る。
劇斜面を一気登りして巨神の尾根へ

 降りるのには厳しいが、持ちやすい立ち木が多いので登るのは思いのほか楽だ。それほ
ど息も切らさずに一気に高度を上げる。あっという間にトロッコ軌道のレールは彼方に。
沢音も小さくなっていく。徐々に傾斜がなだらかに尾根も広やかになってくる。疎らにテ
ープ、何処でも歩けるので、固定された踏み跡がない。適当に休憩を取り、自然の音に耳
を澄ませながら高みを目指す。

 標高が700mを超える辺りから、ボツボツ、アシウスギが現れはじめる。人間の背の
高さぐらいから幾つも株分かれしたウラスギは、周囲10mを超えるものがざらである。
ここら辺りはスギのみならず、ミズナラやトチノキなども大木で、まるでガリバーの国へ
やって来たような錯覚を覚える。前回見かけた、あのごつごつしたミズナラも元気である。

再会した巨神

人間と比べてください

 Ca780mピーク北の標高770m付近で12時を迎える。大きな杉を見ながらここで
昼食だ。この付近には十数人のグループや他にも2、3グループが入っている。以前はあ
まり人の入らない場所で踏み跡も薄かった記憶があるが、今や雷杉から巨木が立ち並ぶ辺
りまでは、畦道のような明確な踏み跡がついてしまっている。流石にそれより北は人の出
入りは少ないけれど...。

 雷杉の周りにも7、8名のグループがたむろしている。小野村割岳方面も道標が増えて
えらく歩きやすそうだ。西に折れて東西の尾根上を歩く。ここは何度も往来した道。83
2mピーク、840mピークを経て凡そ40分で芦生古道との出合である。ここも少し判
り難かったのが、道標はないものの雑木が切り払われていて、非常に分かりやすくなって
いる。かすかにバイクの音がするのは佐々里峠の県道だろう。

佐々里峠方面から灰野への芦生古道にて

 芦生古道を灰野方面へ北上する。薄い雲が出てやや日が翳ってくる。乾いた風に汗ばむ
暇もない。深くえぐれた道にはバイカオウレンが多く、4月末なら白いビーズをばら撒い
たみたいだろう。イタヤメイゲツの木も多く秋の紅葉も素晴らしかろうが、今は艶やかな
若葉が辺りを緑に染める風情でこれも素晴らしい。高い梢でさえずっているのはシジュウ
カラなのだろうか。遠くではキツツキのドラミングの音が聞こえる。ほとんど標高差のな
い尾根道は少しずつ標高を下げて行き、813mピークは古道の横をほんの少し登った小
さな高みで、こんな所にも例の明朝体のプレートがある。

 813mピークから古道に復帰し、大段谷山分岐はほんの5分足らずで、ちょっとした
峠のような風情。少し古道から外れて大段谷山の尾根を歩いてみる。ここも2年ぶり。『
ハイキング不適当』の注意書きが道標にあるが、ここは全然問題なし。黄色いプラ杭やテ
ープが尾根筋にある。かつては笹薮だったと思われる部分も、今は枯れたか切り開かれた
かして歩き易い。花がついた笹があるので自然に枯れたのかも知れない。

 三角点まで予定でいたが、オオダンまで行くと途中のCa820m峰の登り返しがしんど
いので、Ca820m山で折り返すことにした。前回、オオダンの三角点は拝んでいるので
小生は異議なし。でも大勢居るのになんと軟弱な事よ! (^^; 因みにこのCa820m峰
は「間違山」と云うそうな。大段谷山より30mほど高いので、ここをオオダン(大段谷
山)と勘違いするそうだ。現に後から来たパーティがここをオオダンと間違っていたので、
「300m程先でっせ」と教えてあげる。間違山には三角点が無いでしょ。(笑)

 大段谷山分岐に戻り、灰野への道を再び辿る。道は尾根をやや東に外れてつけられてい
て、倒木や雑木の枝が張り出していたりして、先ほどに比べれば少々荒れ加減。幅も30
cm程度しかない。やがて、かつては美山で捕れた活け魚を運ぶ途中、その水を換えたと
いう水飲み場を通過。(ええ?こんな山道、生簀を抱えて歩くなんて本当かなあ?)の思
いもあるが、肝腎のその水はもうほとんど滲み出し水だ。そこからすぐに板(バン)取り
跡で、まもなく道は尾根に復帰し、古道の雰囲気が残る洗掘された道に戻る。そろそろ灰
野の谷に降りる地点が現れるはずと思っていたところへ、タイミングよく道標が現れた。

倒れた『芦生古道復活』の道標
「ハイキングに不適当」とあるがこれは本当でした

 さて、これから辿ろうという復活の尾根道である。ところが2年前は健在だった『芦生
古道復活 平安中高校山岳部』の道標が根元で折れて倒れている。道標が健在ならば、興
味を持つ人があるだろうが、こうなってしまうと、地形図にない道でしかもハイキング不
適当と書いてあれば、こちらを歩く人は少なかろう事は想像に難くない。そして想像通り
全くといっていいほど踏み跡は消えていたのである。

芦生古道復活道?フカフカの清澄な尾根道が続くが
ほとんど踏み跡はない

 地形図に従って尾根を外さず辿ることにする。顕著な尾根なのと、笹が枯れたのか刈っ
た結果なのか、下草がないので大した抵抗もなく歩を進めることが出来る。しかし踏み跡
がほとんどない。あるのは時々現れる黄色いテープのみ。これじゃあ『古道復活』という
よりテープを巻いただけだねえ。その内にその黄色いテープに2004.11.3とある
のを見つける。してみると復活?して3年半しか経っていないのだ。ただ、枝が刈られた
ような雰囲気は残っているので、できた当座はそうでもなかったのだろうが、利用する人
が少ないので自然に還ってしまったようだ。それでもほんの一部、道の痕跡が残存してい
る所もある。
この道標からやや右方向にあるアシウスギが下山路の目印

田中英明氏記念木。スギらしいが枯れている

 小さなアップダウンを繰り返しながら、地形図では舌のように張り出したほとんど高低
差のない辺りに来た。そろそろ下山路が出てもおかしくない頃である。すると高さが20
m位か、大きな杉らしい白骨木が立っていて、10mほど行き過ぎた辺りに、札が架けら
れた植樹を見つける。アシウスギの幼木だったのだろうか?枯れて大分経つようだったけ
れど、あれ?かけられた木札に『田中英明 記念植樹』の文字があるではないか。そうだ
これで解けたぞ。朝、トロッコ道を歩いていた時に見つけた植樹の木札と同じ。『登り口』
とあったが、そこからここまで通じているらしい。だが、どこが降下口なのかはまだ不明。
するとその先で「←佐々里 須後→」の木切れを発見。その又先で尾根はやや二股になっ
ているが、右方向を探ると白いテープとまた芦生と書かれた木札が見つかる。アシウスギ
が1本あるのが目印だ。そして尾根なりに進み、ヤブで行き止まりみたいになっている場
所の右側に繁みにポッカリあいた空間。枯れ木にガムテープがぐるぐる巻きに3本。ここ
が降り口に違いない。
展望尾根から北東への劇下り。矢印の隙間に飛び込む

 しかし安堵するのはまだ早かった。空間に身を入れると、そこはどちらに進んでもいい
ような踏み跡も定かでない薄暗い雑木林の急斜面で、テープも消えてしまう。由良川の水
音が下から上がってきており、崖状の急斜面にさえぶつからなければと、足場の良い場所
を選んで慎重に下ると、PPヒモみたいなものが結ばれているのに気付く。そのうち杉の
植林帯に出る。植林帯ならば、作業道みたいなのがあるはずと探すけれど、何となくそれ
らしいものがあるかなあという曖昧さ。すると長いトラロープが垂らされているのを発見。
更に杉の幹に巻かれたガムテープが下に導いているのが見つかった。多分これがコース?
だろう。しかし依然として明快な踏み跡はなし。耳を澄ませばカジカの鳴き声も伝わって
くるのでもう少しの我慢だ。杉の幹にしがみつきながらどんどん下へ。そのうち先行して
いたMさんから声がかかる。『ピンポイント』成功らしい。やがて、水の流れが確認でき
るようになって、トロッコ道の茶色いレールがわかるようになる。傾斜の緩んだ先には予
想通り例の記念植樹があった。それを確認してドドッとトロッコ道に飛び出した。

トロッコ道との出合。テープがあるがほとんど踏み跡なし

 『フーッ』溜め息と共に40分の悪戦苦闘?が終わった。(^^; そこは由良川にかかる
鉄橋の50mほど東の地点で、あっという間に京大演習林事務所の前まで帰ることができ
る場所だ。豊かに流れる由良川を渡り、事務所の前を過ぎると、レンゲツツジが鮮やかに
橙色の花を風に揺らし、クロアゲハがその花々の前を飛び回っているのは朝と同じ風景で
ある。日が長くなったので駐車場の車もまだ大分残っている。装備を解いて一息入れる。
充実の瞬間。今日も遊ばせてくれた芦生の山。朝と違うのは白い薄靄ばかりでした。



■同行 あかげらさん、修さん、たらちゃん、みずたにさん(五十音順)

行程図はこちら

【タイムチャート】
7:00千里中央駅ローソン前
9:15〜9:25須後芦生研究林駐車場(駐車地)
9:58灰野廃村跡
10:26〜10:30赤崎西谷
11:05〜11:15Ca640m尾根突端
11:58〜12:20Ca780mピーク北(昼食)
12:35〜12:36雷杉
12:44832mピーク
13:08〜13:12840mピーク
13:15芦生古道出合
13:41〜13:43813mピーク
13:47大段谷山分岐
13:56〜14:03間違山(Ca820m)
14:12大段谷山分岐
14:26復活芦生古道分岐
14:35730mピーク
15:02記念樹
15:13尾根降下地点
15:52トロッコ道出合
16:05須後芦生研究林駐車場(駐車地)



赤崎中尾根のデータ
【所在地】京都府南丹市美山町
【標高】800m〜400m
【備考】 樹齢千年以上の芦生杉(ダイスギ、ウラスギ)の巨樹が
林立する尾根です。広い尾根や急斜面もあり、コンパス
と地形図は手放せませんが、2年前に比べれば踏み跡が
はっきりしてきており、近々、オーバーユースと保護が
問題になりそうです。
【参考】
2.5万図『中』




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