横山岳〜久しき近百、湖北の山へ
 
杉野集落手前から望むガスがかかる横山岳
平成19年 5月20日(日)
【天候】雨のち曇り
【同行】単独


 青葉繁れる、山行きには絶好の五月。今回は久々の近畿百名山。毎年この時季の第三日
曜に山開きが行われるという湖北の名山、横山岳へ。ついでに湖北の銘酒や十一面観音に
も再会して、天気には恵まれなかったけれどもなかなかそれなりに充実した一日でありま
した。

 少々早めにと6時前に家を出る。絶好の行楽日和という風な予報が出ていたように思う
が、空を見上げれば何だか雲が多いではないか。高速を滋賀に入ると山の上にガスがかか
っていて、比良は雲の中。そのうちにポツポツと泣き出したと思ったら、次第に路面が濡
れるほどにまでなる。通勤割引を利かせるべく彦根からはR8に降りたのだが、一旦上が
った雨も湖北へ向かうと再び霧雨が行く手を遮る。木之本でR303で北東に向かい、杉
野の集落で旧道に入ると、それでもボツボツ、山開きへ向かう車がある。集落を過ぎて狭
い林道を網谷川沿いに遡れば、まもなくテントが見えてくる。手前にコエチ谷と標識もあ
ったから、ここが白谷の登山口らしい。もっと山深いのではと思っていたけれど意外に里
に近い。既に二、三十台の車が駐車している。幸い白谷橋手前の駐車スペースに空きを見
つける。同じ頃に隣に停まった軽ワゴン。降りてきたのは背広の小父さん。木之本町の役
場の人である。「一寸良くないですねぇ」と空を見上げる小生。小父さんも空を見上げて
「回復傾向にあると聞いてるんやけどなあ...」と苦笑い。

第36回横山岳山開きは小雨にもかかわらず盛況

 さて、スパッツをつけ、ヤッケを羽織ってザックを担いでいると、またまたジモティの
小父さんが声をかけてくる。皆さん人懐こいというか、親切というか。コエチ谷の方へ向
かいかけると「そっちは単調で長いし、今日は景色もなあ」「そうですかねぇ」元来、付
和雷同気味な性格の小生、生憎の雨だし、しんどいと聞けばすぐに安逸を貪る性格、直ち
に宗旨替えし、白谷本流コースを選択。ところがこっちも結構しんどい選択だったのだと
後で気づく羽目になる。山に安易はないのです。(^^;

 テントの前では、神主さんが安全祈願の祝詞。お神酒はやっぱり『七本槍』。おお、そ
うだ、そうだ。帰りに寄らなくては。(笑)

山開き会場の近くの林道分岐
左が白谷本流コース、右が東尾根コース

 会場横が林道の分岐。直進すれば東尾根コースで帰路はここへ出てくる予定。ここで折
れて白谷沿いに林道をゆっくりと登っていく。じっとり濡れた草むらにはオドリコソウ。
タニウツギが満開を迎えてそのピンクがよく目立つ。雨で緑が鮮やかになるのはいいけれ
ども、時折の風で雨粒とともにバラバラと梢から雫が降ってくるのには閉口だ。しばらく
我慢して、300mも進むと、山道が逆に折れる形で右の山肌に取り付いている。本来は
この谷沿いに登山道がついていたのだろうが、林道工事で道が付け替えられたと聞く。杉
林の中の急斜面をジグザグを切って登っていく。あちこちでホウチャクソウが薄緑ぶら下
げている。

 湿度が高いので直ぐに汗が噴き出す。汗を拭いているとジモティーのお父さんと小学生
が「去年は絶好の天気やったのにねえ」の一言を置いていきながらスイスイと抜いていく。

 登りきった所が稜線かと思えば山の中腹を這う林道の上。本来なら遠くも見渡せるのだ
ろうが、ガスの中で判然とせず。風も出てきて真ん前から雨粒が当たるわで、こりゃどう
なることやら。(戻ったろかいな)って気も皆無ではなかったが、まあここまで来ればと
思い直す。
白谷に架かる太鼓橋の右から急登が始まる

 道標に従い5、600mも歩いただろうか。右にカーブすると朱塗りの橋が見えてくる。
欄干に擬宝珠まで付けられた太鼓橋だ。そこで団体さんが雨具を着用中。これから先は下
で激しく音を立てる谷川のザレ気味の崖の上を進むみたいだ。すぐに高さ10m位の幅広
の滝。五銚子の滝かと勘違いしたが、これは経の滝。その後は何度か沢を渡渉する。岩や
石が濡れていて油断をすれば少し危ない。道脇にはラショウモンカズラとともに、細かく
白いあわあわした花がおびただしくあって満開を迎えている。こりゃなんだろう?(帰宅
して調べたらシャクという名のセリ科の植物で若葉は食べられるんだそうだ)

 天狗岩なる表示があった辺りだったろうか。(岩はどれかと探したが分からず)先程、
太鼓橋にいた団体さんに追いついた。愛知県は大府市からやってきたんだそう。この先の
五銚子の滝の辺りがやや広いのでそこで先行してくださいと丁寧な言葉。確かにこの付近
はロープ場もあちこちにあって追い越しにくいが、「まあ、ゆっくり行って下さい」と返
す。

 相変わらず霧雨が降り続いている。しかし、振り返れば木之本付近が見え、うっすら琵
琶湖も視界に入る。下界は降っていないのか?こちらも雨が上がってくれればいいのだが。

五銚子の滝。登山道は左を高巻く

 五銚子の滝は一本の滝かと思っていたが、数段の段差がある優美な滝。それぞれ銚子が
異なるので、その名がついたとか。最下段近くが少し広くなった台地で、ここで団体さん
に先行する。しかしここからが最難所なのだった。今までも「えらく登りにくいな」が実
感だったが、五銚子の滝から先は更に厳しい登りが待っていた。滝を左から高巻くように
爪先上がりの登り。岩の部分は濡れて滑りやすいし、足掛かりが足のコンパスに合わない。
粘土質の土の部分は泥濘。嗚呼、下ろして間もない新しい靴が...。(^^;

五銚子の滝を越えても雑木林の中の急登がまだまだ続く

 手足をフルに使っての登りがしばらく続く。手のひらもドロドロで近くの野草の葉っぱ
で拭ったりしていると、「あ、痛っ!」選りに選って棘のある葉っぱだった。(^^;;

 ガスが発生している高度になるとブナが現れ始める。その下で雨に濡れてあちらこちら
で咲いているのはミツバツツジらしい。『あと300mがんばれ』の標識。この頃、よう
やく手は使わなくても二足歩行で登れるようになる。(笑)

 ようやく現れたT字路は左が山頂方面だ。そういえば人の声も聞こえているので、もう
すぐ近くのようだ。20mも行けば、クマザサを切り開いた横山岳の山頂広場で中央に二
等三角点の標石。隅に物置小屋が一つ。白山方面と書かれた標識もあるが、勿論今日は望
むべくもない。

 悪天候にもかかわらず流石に山開きの日だ。山頂には地元の中高生も含めて沢山の登山
客が休憩中で早くも食事に忙しいパーティもある。時間もまだあるし、あまりスペースも
ないしで、ここは先に進んで東峰へ向かうことにする。

多くの登山者で賑わう山頂。左に三角点が見える

 ツツドリの声がし、ミソサザイのような野鳥の声も聞こえ始めたので、雨もやんだらし
い。東峰まで30分などと標識がある。ほとんど起伏はなく、深い木立の中を行く道だ。
この付近は花が多そう。イワウチワはほとんど花柄で咲き残っているのは2、3輪。する
と登山道から少し入った所にエンレイソウ。ふと足元を見れば白い蕾。珍しやサンカヨウ
だ。丹念に探せばもっと変わった植物もあったかもしれない。

 ブナ尾根とあったが確かにブナが多い。大木はないものの本数は相当なものだ。足元に
は夥しい数のブナの実生も見られる。大きさからみると2年前にブナの実なりが豊富だっ
た時のものらしい。上手く育って無事に世代交代して欲しいものだ。

 一旦、ブナ林を脱け出した所が東峰で、杉野山の会がS43年だか47年だかに埋めた
三角点標石に似せた石が埋設してある。高い木も無く、本来なら眺望をほしいままにでき
たのだろうが、ガスと風。そのせいで汗を吸ったシャツが冷たく、手もかじかんでくる。
これでは山頂で食事どころではない。今来た木立の中へ退避するにしくはない。が、どこ
もかしこも濡れているので座れず、仕方がない、ビュッフェスタイルといくかぁ。早く言
えば即ち立食なのだ。(笑) 三十三間山を思い出すなあ。食べている時に気付いたけれど、
ウスギヨウラクが沢山咲いている。視点を変えると違うものが見えてくるものだ。

東峰に来たが生憎のガスの中で風強く寒い

 東峰山頂から東側は細い岩稜で、イワナシは花柄ばかりが残っていたけれど、ミニチュ
アのようなイワカガミが健気に咲いている。そしてすぐまた林の中になる。これが最高の
ブナシャワーロード。道は悪いが、ガスがかかって幻想的な中に、雨に洗われたブナの若
葉が眩しい。それを単独小父さんが大きなカメラと三脚で一心不乱に撮影中である。さも
あらん。
ブナの東尾根は本当でした。(^^/

ガスも晴れてきてブナの若葉が眩しい

 道はやがて南に方向を変える。後は尾根筋を一心不乱に下るのみ。下るに従ってガスも
晴れ、徐々にブナも姿を消しはじめて他の雑木が主体となる。その雑木の木立を抜けてぽ
っかりと草原の斜面に飛び出す。前面に大きく屏風のように立ちはだかるのは金糞岳に連
なる尾根らしい。琵琶湖方面の三角錐の山は墓谷山か。草っぱらを降りて、また林を抜け
ると直下にゴールの林道が見える。かなりの急斜面につづら折れの小道が付けられている
が、これがまたぬかるみ。ほうほうの態で滑らぬように林道に着いた時は正直、「ホッ」。
溜息が出た。一息ついて、持参のバナナ。ついでに喉も潤す。

 ヤレヤレというわけで、道標に従いのんびりと林道を行くと、150m先に左に折れる
ように林道が分岐し、白谷の登山口へはその林道を降りるらしいが、その分岐の先に赤い
橋があって、たもとに水が導かれている。どんな謂れがあるのか、なんと『夜這いの水』
と標識がある。橋の名も『夜這橋』。「なんじゃこれは?」

 ガラスコップが置かれていて一杯いただいたが、名前は兎も角、非常に美味しい水だ。
因みにこの林道を直進すると、太鼓橋。往路の白谷本流コースに出る。

東尾根コースから降りてくると『夜這いの水』
夜這橋の向こう側にある箱に溢れ出ている

 さっきの分岐へ戻って網谷沿いの林道を下る。2kmと少し歩かねばならない。しかし小
生、下山後の地道の林道歩きは嫌いではない。しかも歩いた稜線などが眺められれば最高。
歩いている間に雲間から薄日も射してくる。「遅いんだよ〜う」思わず毒づく。(^^;

 網谷川源流と書かれた標識を見、幾つかの砂防堰堤を過ぎると、路肩に駐車する車が目
に入り、右にカーブすれば白谷登山口の会場である。まだ山開きの会場ではテントの中で
物産を販売している。自然に目がいくのは山野草。エビネがある。ちゃんと植木鉢で、水
受け皿までセットで、更に藤蔓で編んだ籠付きで1200円は安いかなと思わず購入して
しまう。少しは地元にお金を落としていきましょう。(笑)

 往路の約束どおり、木之本の町に出て七本槍の蔵元に寄り上撰を購入。今日の応対は小
母さんだ。山開きに店の車がありましたよと話すと、娘さんが参加しているのだと笑って
いた。

 帰りも高速は通勤割引を使おうと目論むが、それにはまだ少し時間がある。近くの渡岸
寺の十一面観音に久しぶりに会っていくことにする。観音の里資料館の駐車場をお借りし
て、その資料館にうかっと入る。受付で案内を請うと、清楚なお嬢さんが椅子からから立
ち上がる。「十一面観音はこちらに?」と問いかけると、「いえ、もう少し先のお寺の収
蔵庫に」丁寧に教えてくれる。

 なんだか立派な観音道とかいう舗装路。その前に小ぶりの仁王門。茶店もあってこんな
だったか?えらく様変わり。受付で300円なりを払って去年完成したという収蔵庫へ。
沢山の見学客を前に、係員の説明が丁度始まっており、暴悪大笑面の側、つまり裏側に座
って話を聞く。ここの良いのは、ガラスケースに入っていず、直に仏さんを拝めるところ。
ふくよかな大日如来坐像と並んで、衆生に差しのべている手は異常に長いのだが、それが
一つもおかしく見えない。不謹慎かもしれないがちょっとセクシーな腰のひねりも絡んで、
全体のバランスが良い所以かもしれない。いつみても綺麗なものである。

 30分ばかり拝観させてもらって駐車場に戻ると、呉枯ノ峰の稜線が西日に映えている。
伊吹山は晴れ上がっているのに横山岳の山頂はまだガスの中。なんとなく「そうやろ、そ
うやろ」と安堵するのは、晴れているとちょっぴり悔しいからだ。(笑)。彦根に着くと4
時過ぎ。狙いどおりの時間に高速に乗る。阪神も連続完封で勝ったし、気分いいねえ。



【タイムチャート】
5:40自宅発
8:05〜8:30白谷登山口(駐車地)
8:40白谷本谷コース入口
9:05林道横山岳線出合
9:15〜9:20太鼓橋
9:30経の滝
10:00〜10:05五銚子の滝
11:10〜11:12横山岳(1,131.7m 二等三角点)
11:35〜11:55横山岳東峰(Ca1,130m)
13:12〜13:15東尾根登山口
13:18夜這いの水
13:44白谷登山口


 横山岳のデータ
【所在地】滋賀県伊香郡木之本町、余呉町
【標高】1,131.7m(二等三角点)
【備考】 湖北の奥に根を張る山で、高月近辺から綺麗な双耳峰が
見て取れます。三角点のある西峰よりも東峰からの展望
が良く、白山を始め奥美濃の山々、琵琶湖などが望めま
す。登山コースは白谷、東尾根、三高尾根の三つのコー
スが代表的で、地元の杉野山の会によって整備されてい
ます。
■近畿百名山■関西百名山
【参考】
2.5万図『美濃川上』『近江川合』



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