遠足気分で若草山

奈良公園新公会堂付近から眺める若草山
平成19年10月30日(火)
【天候】薄曇り
【同行】単独


 興福寺で秋の『秘仏特別公開』が行われている。中学の歴史や美術の教科書で著名な
八部衆の阿修羅それに無著、世親像に会おうということで、空いているだろうと、休日
を嫌って平日狙い。ついでにそれはそれ、低山徘徊派である小生。若草山の三角点もお
まけゲットしておこうという魂胆。ところが秋の行楽の季節だという事を忘れていた。
しかも”毎日が日曜日”のジェネレーションが激増している事を忘れていた。北円堂は
良かったものの、国宝館は満員で八部衆の前では人並みがなかなか動かない。正倉院展
に至っては言葉なし。とはいうものの、遠足気分で訪れた20年ぶり以上になんなんと
する奈良と若草山はそれなりになかなか面白いものでした。とりわけ、若草山は入山料
が必要で、しかも入山期間があるとはついぞ知らなかったのでした。(^^;

 久々、電車で移動。駅前から東向商店街を通って興福寺へ。商店街の中の短い坂道を
左に曲れば興福寺北円堂の前である。八角形をした御堂は開け放たれてある。建物自体
が国宝である中に運慶作の弥勒如来。その両脇に無著、世親の像がある。1966年に
京都国立博物館で国宝展が催され、出品されていたから41年ぶりの再会である。ギリ
シャ彫刻にも匹敵する写実の妙は、今にも動き出しそうな迫力を見るものに感じさせる
ものだ。その周囲を四天王が正確に東南西北の位置について守護する。持国天、増長天、
広目天、多聞天。四天王の名は頭文字を採って『地蔵買うた』と覚えればいいそうだ。

北円堂内陣の弥勒如来と無著、世親像

 クルクル周囲を巡って鑑賞する。室内で撮影は禁止だけれど、開け放たれてあるので
外に出てデジカメを構える。ISO1600だから少々荒い映像なのは仕方なかろう(笑)

 北円堂を後にして、南円堂(ここは西国札所なので10年近く前に訪れたことがある)
を巡って国宝館に入館する。こちらはかなりの人出だ。ツアーの観光バスが到着したの
か、一気に混み始めた。それらの人ごみにまぎれながら間近に見る阿修羅をはじめとす
る八部衆や山田寺の仏頭、天燈鬼像、十大弟子像はいずれも国宝で、迫力ある姿は時代
を超えた凄さがある。鑑賞するうちに人ごみも一段落となり、ぐるりともう一巡りした。

 惜しむらくは同時に見ることが出来る興福寺本坊の大圓堂がいまいちであったこと。
秘仏の聖観音立像はいいのだが、余りに遠く、広くもない庭を一巡りするだけで、これ
だけで500円は如何なものか。あくまで個人的意見だけれど、通し券(千円)は不要
で、国宝館(500円)のみで十分ではないかと感じた次第。

 さて、時間があれば奈良国立博物館で開催されている正倉院展もと思っていたけれど
も、興福寺を出て、県庁前から東へ博物館近くに行ってみれば、入口の前はなんと十重
二十重といっても過言ではないほどの人の波だ。入場制限をしているらしく人の列に動
きは見られない。これでは何時入場できるか...。平日でこれだから休日は推して知るべ
し。リタイア組の力恐るべしというわけで、正倉院展は早々諦めて公会堂前から鹿のた
むろする芝生の中を斜めに横切り、若草山を目指す事にする。

 昔、小学生の頃だったと思う。若草山には父親と登った記憶があるが、あの時は何処
まで登ったやら?行っても行っても次に高みがあったようでついに諦めたような...。

 公園内はいち早いナンキンハゼの紅葉が一際鮮やかだ。鹿の糞に気を使いながら小さ
な谷川を渡り、シルクロード交流館横を進むと若草山の入山ゲート前に出た。芝生の上
では遠足なのか赤いジャージの生徒が思い思いに駆け回っている。

若草山には入山料が必要だとは知らなかった
しかも入山期間と入山時間も...

 ところで若草山に登るのに料金が要るとは寡分にして知らなかった。しかも春と秋し
か入山できないとはなお知らなかった。「へええ...。」料金は150円。おばさんにお
金を払ってフェンスの扉を抜けると、芝生の端に階段道がある。これが登山道なのだが
意外にきつい。芝生が尽きるとフェンス沿いとなり左手は桜の繁る道になる。暑い。一
気に噴出す汗。ここでシャツを1枚脱ぐことにした。その間に外人さんと、遠足の小学
生が先に行く。持参の茶を一飲み。

 舗装された登山道は次第にジグザグを呈し、一登りで再び明るいカヤトの原に出る。
一重目の芝生広場である。茶店跡だったらしい建物がある。南に見える深々とした緑の
御蓋山の景色も時間的頃合いもいいので、鹿糞を避けこの付近で食事とした。

一重目のこの辺りで昼食

 食べ終わったら遠足の団体が上がってきた。場所を譲ろう。二重目へ向って緩やかに
登っていく。登るに連れて徐々に広がる展望はなかなかのもの。ススキの穂の向こうに
大仏殿の大甍。その右手方向には閉鎖されたドリームランドの跡らしい建造物。興福寺
の五重塔も良く見える。生駒の姿は霞みながらも認められたが、金剛、葛城は靄の向こ
うである。
ススキが揺れる中に大仏殿の甍

 ススキの穂が戦ぐのに、まだキリギリスの鳴き声がそこかしこに聞こえる。近頃は季
節感も狂うばかりだ。そんな中、芝生の真ん中に『大三角点』と刻まれた石標がある。
なんだろうと裏に廻ると奈良市が埋設したものだった。何に使ったものだろうか?

 二重目辺りまで来るとようやく山頂が顔を出す。三枚重ねの山なので『三笠山』とは
良く云ったもの。右に緩くカーブして広い尾根道が狭くなると何やらほったて小屋のよ
うなものが見えてきた。荒れた感じがしたので無人かと思ったら、なんとアルバイト学
生風の兄さんが薄暗がりに座ってのっそり「こんちは」と挨拶する。ちょっとびっくり。
逆コースを歩くハイカーの料金徴収所だったようだ。(笑)

「二重目」の尾根道。若草山山頂が見えてきた

 若草山の山頂は実は古墳なのである。仁徳天皇の后、磐之媛の陵墓とも言われ、枕草
子にも記述があることから鶯塚古墳と呼ばれている全長100mを優に越える前方後円
墳なのだ。その説明板の奥の高みが後円部というか山頂のようだ。大きな自然石に『鶯
陵』と刻まれた碑が据えられている。裏にやや摩滅していたが『享保』だかの年号が彫
られていたから、江戸時代からある石碑らしい。(後刻、調べてみると1728年(享
保13年)東大寺の僧康訓が建てたもの)。土砂流出防止用なのか土嚢が敷き詰められ、
その横に三等三角点がある。流石に三角点を置くだけあって、大和盆地のみならず、北
方向の山城方面や東の春日原始林に覆われた花山、芳山方面まで眺められる景観は、低
山にもかかわらず素晴らしい。
鶯陵の石碑の奥に三等三角点

 三角点から引き返して展望台へ。ここにも遠足の児童の群れ。見れば二重目からもさ
っきの団体が上がってくる気配。こりゃ煩くなるぞと追い立てられるように山頂を後に
し、舗装路を東に向かう。誰かが見ているような雰囲気にひょっと目を向けると林の中
に何頭もの鹿だ。こんな所にも鹿がと少しびっくりしたけれど、200mも歩けばドラ
イブウェイの山頂駐車場で、料金所横に春日大社方面へ降りる遊歩道の入り口がある。
麓までは2.5km程度らしい。

春日奥山ドライブウェイ料金所横(右)に遊歩道がある

 遊歩道というよりこれはもう林道といった方が良いような落ち葉道である。周囲は春
日山の原生林で、カシやシイを中心とする鬱蒼とした常緑広葉樹の森だ。首切観音への
道を分けて直ぐのカーブに1台の四駆がある。近くの斜面で何やら採取するうら若き女
性2名。落下した木の実の調査らしく、芦生でも良く見かける網状の黒いネットが仕掛
けてある。どうも大学の自然学教室の学生らしかった。ご苦労様です。(^^;

 常緑樹の森は暗くていけない。いけ好かないなと思いながら下ったのだが、水谷川の
流れを見るようになると、俄かにモミジが増えてきた。まだまだ青い葉っぱのままであ
ったが、もう一月もすれば、なかなかのモミジの名所ではなかろうか。ことに料亭月日
亭付近がなかなか良さげである。
料亭月日亭付近はもみじの名所かも

 料亭からは200mくらいで大きな案内板のある遊歩道の入口に出る。そのまま真っ
直ぐ進めば、左は春日大社の境内である。土産物屋をひやかして歩いていくと、なんだ
新公会堂の前に出てきたではないか。

 少し東大寺に寄って行こう。平日とはいえ秋の行楽シーズン、奈良公園前の土産物屋
の前から多くの人出だ。修学旅行生、外国人、中年女性のグループ。それに鹿。南大門
から先は繁華街の如き凄い喧騒の世界。嗚呼、今日は南大門の仁王さんを見ただけでい
いとしよう。というわけで中門から大仏殿を眺めただけで踵を返したのだった。

 久々に小学生に戻って遠足気分の奈良。数十年前に帰ってのんびり遊ぶのも、たまに
はいいものです。

【タイムチャート】
8:50自宅発
10:26近鉄奈良駅
10:35〜12:10興福寺
12:33若草山入山ゲート
12:50〜13:10一重目(昼食)
13:17二重目
13:26〜13:35若草山(341.8m 三等三角点)
13:40春日山遊歩道分岐
14:20春日山遊歩道入口
14:30〜14:40東大寺
15:00近鉄奈良駅


若草山のデータ
【所在地】奈良県奈良市
【標高】341.8m(三等三角点)
【備考】 大和高原の北の端に位置し、奈良、平城京の象徴という
べき山で、正月15日の山焼きは有名です。鶯塚古墳の
ある山頂からの展望は素晴らしく、大和盆地のみならず、
西に矢田丘陵、生駒、葛城、金剛、南に御蓋山、竜王山
をはじめとする大和高原の山々、北に鷲峰山等の山城の
山々が見渡せます。また南麓は春日山原始林で世界遺産
に登録されています。
【参考】
2.5万図『奈良』



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