奥ノ迷峰〜アケボノツツジ咲く
                 新緑の別天地
 
平成19年 5月13日(日)
【天候】曇りのち晴れ
【同行】別掲
疎林に囲まれた奥ノ迷峰の山頂

 言わずもがなではあるが、大峰山脈の東側を南北に伸びる台高山脈は高見山と大台ヶ原
から採られた名前である。その名の由来となった高見山から大台ヶ原までつなぐルートは、
従前は山深く、笹に蔽われた所もあって完歩するにはベテランでないと少々難しいところ
とされたものである。ところが、近年のモータリゼーションの発達と登山ブームで、例え
ば高見山から明神平の間のように道路事情の比較的良好な部分はよく歩かれるようになり、
しっかりした踏み跡がつくようになってきた。今回のオフの舞台の明神平から奥ノ迷峰も
比較的道路事情は良い方だが、実際はどんな感じなのだろう。名前もなかなか神秘的。ブ
ナの自然林も残るというこの付近、前々から一度行ってみたかった場所なのだったが、い
ざやって来てみれば手垢も余りついておらず、木々の若緑、アケボノツツジのピンクに彩
られた聞きしに勝る別天地なのでありました。 (^^) 

 午前6時半に例の如く桃山台に集合。榛原駅でSさんをピックアップし、起点の東吉野
村大又に向かう。折りよく鷲家の分岐で奈良交通の路線バスとすれ違う。これで狭い道で
の離合でバックすることも無かろう。(笑) 

 大又林道はもう通いなれた道だが、久しぶりに来てみれば終点のだいぶ手前で通行止の
遮蔽物が設置してある。その横の駐車場所には数台の先行車。その中に準備中のNさん夫
妻の顔もある。挨拶を交わしながら靴を履き替えたりしている内に、Sさんもやってきて
7名全員がそろう。8:45出発。
新緑に包まれた明神平への登山道

 少し天気の回復が遅れ気味のようで、道は乾いていて降った形跡はないものの、空は灰
色の雲が足早に通り過ぎる。大降りはなさそうだけれど、ポツポツくらいはあるかもしれ
ないななどと考えながら、ウツギの白い花が目立つ林道を進んで従来の登山口。ここから
は数年前の台風による水害復旧の為に工事用の車道が出来て、ほぼ旧馬酔木山荘近くまで
風情の無いコンクリ車道歩きに変わっている。しかも急傾斜で汗が出る。それでも木々の
若々しい緑は目に優しく、川の大岩には黄色いイワレンゲが咲き乱れている。どこからか
鳥の鳴き声。ジュウイチだそうだ。それが空高く飛ぶ姿を鳥通のSさんに教えてもらう。
岩を登る梯子横にはピンクがかったイチリンソウも目を愉しませてくれる。

 幾度か明神谷の流れを渡りながら徐々に高度を上げる。ミソサザイがさえずる登山道の
周囲で旬を迎えているのはハシリドコロ、ヒトリシズカ、ヤマルリソウ。ニリンソウはも
う盛りは過ぎたようである。ハウチワカエデの中にヒメシャラの特徴ある赤い幹が現れ始
めると道はジグザグとなって、南西に薊岳の特徴ある姿も顔を出して明神平も近い。杉林
を過ぎたいつもの水場で喉の渇きを潤す。相変わらずこの水は美味い。

 明神平への最後の登り。谷からの風がクールダウンに丁度良いと思っていたら、風の通
り道なのか吹き上げてくる風がにわかに強くなり、汗ばんだシャツに寒いくらいだ。水を
汲んだ時に濡れた指先がかじかんでくる。風に追われる様に着いた明神平の東屋で、慌て
てヤッケを羽織ったのだった。

明神平の東屋から三ツ塚方面を望む
スキー場の残骸も見える

 小休止して、薄日が射し始めた中、東屋からバイケイソウの群落の中の踏み跡を南へ辿
る。この辺りは元スキー場。明神岩を過ぎると西に見える三ツ塚の稜線はいつになくたお
やかだ。一見緩やかそうなのに存外堪える斜面を登りきった三ツ塚分岐は、西へ行けば薊
岳、東へ向かえば明神岳方面だ。勢和国境の細尾根についた踏み跡を東へ行く。この高度
になると、ブナの林は下界ではもう若葉を展開しているのに、まだまだ芽が始まったばか
りなのが大半だ。居ながらにして垂直分布が勉強できる感じである。

 遠くから眺めれば目立つ明神岳も歩けば只の尾根で、いつの間にか通り越していて、気
がつけば桧塚分岐に来ている。石灰岩が混ざっているのか白っぽい岩稜を過ぎ、桧塚への
稜線とも離れて踏み跡は下降していく。予想外にはっきりとした踏み跡が続く。更に進め
ば左(北)側には桧塚奥峰、桧塚。この角度から見るのは初めてだ。山頂付近の笹原も文
字通り指呼である。
ミツバツツジの向こうに木ノ実ヤ塚、薊岳(中央)が浮かぶ

 徐々に下ってきたのを40m余り登り返すと笹ヶ峰北峰で、ここで左に直角気味に折れ
る。すると、目の前には広い台地に芽出しが始まったばかりのブナ林の風景が展開する。
それをムシカリの白い花が清楚に彩る。一服の絵であるなあ。でも心ゆくまで楽しめるの
は天候が悪くない時。この辺りの尾根の広さとブナ林のどこも似たような風景に、ガスっ
た時は要注意であろう。

 あんまりピークらしいピークでない笹ヶ峰は文字通りヒメザサに覆われた山だが、ササ
は膝下ほどでそれもほとんど枯れている。最近はどこもササが枯れぎみだけれどもここも
例外ではない。東の尾根からのテープが見られるのは、五段の滝方面からの沢屋のものら
しい。

ブナに囲まれた笹ヶ峰山頂

 笹ヶ峰を越えると尾根は狭まって、ガレたやせ尾根からは西側の展望がよく、山また山
の重なる中に白髭岳や大峰山脈の山々が居並ぶ。そんなことどもに気を取られていたのか、
注意していたつもりの瀬戸越の踏み跡には全く気付かずで通り過ぎる。

 北峰への途中だったろうか。南の中奥川側は急傾斜でちょうどそれへ張り出したテラス
のような岩がある。その上からの景観は素晴らしく、緑の斜面に赤紫の花色が濃いツツジ
が点々とあって鮮やか。コバノミツバツツジとは明らかに花色が違う。ミツバツツジのよ
うだ。その中にあってサーモンピンクの奥行きが浅くふっくらしたツツジが咲いている。
これはアケボノツツジだ。それらのツツジの向こうに薊岳や木ノ実ヤ塚の緑の稜線が浮か
ぶ。緑とピンクのコントラストがいい。
千石山北峰から千石山(奥ノ迷峰)

 千石山北峰は笹ヶ峰と千石山の中間にあるピークで、なぜかビロード苔に覆われた山頂
である。ここまで来ると、小さな三つの峰を持つ千石山(奥ノ迷峰)がだいぶ近づいてき
て、山頂付近のピンクがツツジであることがはっきりする。下りながらやや左に傾いで千
石山への最後の登り。シャリバテには少しきつい登りだ。右前方に赤倉山(赤ー山)らし
い鋭鋒を眺めながら一歩一歩体を持ち上げる。真新しい鹿の糞が窪みにある。そして登り
ついた狭い千石山の山頂には、きれいな三等三角点がなぜか西向きに埋まっていた。

 食事をしている間に風も少し治まって、青空も覗き始めた。日が当たるとさっきの寒さ
も何処へやら、ヤッケを脱ぎたくなってくる。さあ、食事を早めに切り上げて遠くからピ
ンクに見えていた千石山の東尾根を探索だ。ザックは山頂にデポしておけばよい。台高縦
走路に沿って進むとその縦走路は途中で右(南)に直角に折れていく。赤ん坊の頭大の石
を並べて直進しないよう注意が喚起されてある。これが別名奥ノ迷峰の由来なのだろう。
石やテープ類がなければそのまま東尾根へ引き込まれるところだ。

 目を転ずれば縦走路はキャンプ適地の裸地を横に、一旦、ぐんと下がって斜め前方約1
kmほど離れた赤倉山へ登り返ていくが、これが結構なアップダウンなのである。ここから
池小屋山へはまだまだ遠く、明神平から往復するにはこりゃ相当な体力が要りそうだ。(笑)

奥ノ迷峰東峰付近のツクシシャクナゲ

アケボノツツジの向こうに明神岳が顔を出す

 さて、縦走路と別れて、ちょっとしたザレ尾根を過ぎると東尾根は思ったとおり花の回
廊である。シロヤシオはまだまだだが、点在するツクシシャクナゲは鮮やかなピンク色。
そして極めつけは千石山東峰と名づけられた辺りの樹高4mはありそうなアケボノツツジ
の大木の群落で、一斉に咲いた姿はまさに圧巻。千石山北峰付近からピンクに見えたのは
これだったのか。圧倒される思いだ。小さなシャクナゲの実生を避けて峰の突端に出ると、
アケボノツツジの花の向こうには、奥香肌峡に連なる蓮川の源流の深い谷が新緑に包まれ
ているのが望まれる。そのコントラストが素晴らしい。しばし、うっとり。

満開のアケボノツツジの向こうは奥香肌峡の源流だ

アケボノツツジ

 いつまでも眺めていたいけれども、下山の時間を考えればそうもいかない。名残惜しげ
なのは小生だけではなく、皆さんもそうだったに違いない。そんなわけで、千石山に引き
返す足取りもやや重く見える。(笑)

 デポしたザックを回収し、奥ノ迷峰(千石山)にも別れを告げる。明神平までは些か遠
いけれども、この素晴らしいプロムナードが長く続くと思えば苦にならない。行きは曇っ
ていたが、快晴となってまた違う風情。明るいブナの林は最高だ。フカフカの分厚い落ち
葉の絨毯。良く見ればブナの幹の分かれ目にワチガイソウが咲いている。雑木の裾にカケ
スの羽根が落ちていたりなどして、飽きることが無い。去りがたし。自ずから足取りは遅
くなる。

笹ヶ峰付近のブナ林。別天地の風情だ

 時々、鹿の鳴き声がしていたけれど、姿を見たのは三ツ塚辺り。一頭の雌鹿が人間を恐
れる風も無く、ブナ林の奥で悠然と何かを食んでいる。尻毛の白さが鮮烈である。

 3時過ぎに戻ってきた明神平だが人影はない。というよりどうしたわけか今日は全体的
に登山者そのものが少ない様子だ。往路で一緒のカメラグループと東屋に先着していたグ
ループくらいなものである。おかげで緑を独り占めした気がする。(^^)

青空の下、三ツ塚からバイケイソウの斜面を降りる
正面は水無山、左が国見山

 下山もくだんのカメラグループと又一緒になる。相前後しながら5時過ぎ駐車場へ帰着。
往復8時間近くの長丁場は日の落ちるのが早い晩秋なら難しいところ。でも夏至近くだか
らまだまだ明るく助かる。装備を解いてお茶をグイッと一飲み。すると、Nさん夫妻から
リポビタンの差し入れ。「ファイト一発〜つ、安全運転」なんだそうだ。うむ、うむ。有
難うございました。

 今日も無事の山行、山の神さんに感謝。そしてオフ企画のもぐさん、参加の皆さんに感
謝です。明日は仕事。今日は恒例のやはた温泉にも寄らずに帰路を急ぐことにする。



■同行 北山さん、幸さん、スナフキンさん、二輪草さん夫妻、もぐさん、レオンさん


【タイムチャート】
6:30自宅発
8:30〜8:45大又林道終点(駐車地)
8:55明神平登山口
9:45〜9:52明神滝展望地
10:32〜10:42明神平の東屋
10:52三つ塚分岐
11:05明神岳(1,432m)
11:30笹ヶ峰北峰(Ca1,370m)
11:40〜11:45笹ヶ峰(1,367m)
12:04千石山北峰(1,325m)
12:20〜13:05千石山(奥ノ迷峰)(1,380.3m 三等三角点)
13:20〜13:30千石山東峰(Ca1,370m)
13:45〜13:50千石山(奥ノ迷峰)
14:05〜14:10千石山北峰(1,325m)
14:25〜14:30笹ヶ峰(1,367m)
14:56〜15:10明神岳(1,432m)
15:35〜15:45明神平の東屋
16:10〜16:15明神滝
16:47明神平登山口
17:00大又林道終点(駐車地)


 千石山(奥ノ迷峰)のデータ
【所在地】奈良県吉野郡東吉野村、三重県松阪市飯高町
【標高】1,380.3m(三等三角点)
【備考】 台高山脈の中央部、明神平と赤倉山の中間に位置する山
です。山頂から東峰にかけてはシャクナゲ、アケボノツ
ツジの古木が多く、5月のシーズンにはピンクの花が咲
き乱れます。明神平からは約1.5時間の行程です。
【参考】
2.5万図『大豆生』



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