笹ヶ峰〜静寂の台高縦走路散歩

笹ヶ峰山頂のハウチワカエデ。黄葉、紅葉には今少し
平成19年10月22日(日)
【天候】晴れ
【同行】単独


 ようやく朝晩、秋らしくなってきた今日この頃。そろそろ気になる黄葉、紅葉。その進
み具合は如何なものだろうか。そこへ久しぶりに週末は快晴だという予報。となれば見に
行ってみようとなるのが人情。そういうわけで病み上がり?には丁度手頃な明神平付近を
一人で歩いてみたくなって出張ってみました。

 実は、ここ数日、何だか腰が重い。例によって石かも?としばらく様子を見ていたら、
チョッピリ不安はあるけれど、幸い少し楽になったというわけだ。6時前に起き、窓から
綺麗な日の出を眺めつつ、昨夜準備した持ち物を点検する。腰もどうにか大丈夫そうであ
る。

 日曜の早朝とあって車は少ない。順調に大又の林道までやってくると、木材を集積して
ある広場ではヘリコプターの爆音が響く。手前の県道の工事現場にもヘリコプターがあっ
たし、2機も間近に見るのはなかなか珍しいことではある。出発して2時間。8時半に大
又林道終点近くの駐車広場にやってくる。既に数台の車がとまっている。用意を整えて、
さっき前を走っていたオデッセイから降りた男女グループの少し後から出発する。東に向
かって歩いていくので朝日が眩しい。横を流れる大又川は土石流避けのコンクリート建造
物が幾つも出来てしまい、更に作業林道が馬酔木山荘跡近くまで伸びてしまって昔の面影
は皆無だ。旧登山道の赤い鉄橋のみが昔の面影を残している。

 ウリハダカエデらしい大木が見えてくると林道終点である。ここからようやく山道で明
神谷を二度ほど渡渉して馬酔木山荘の跡を過ぎると、奈良登山会の廃小屋でキワダサコの
横だ。一息入れるには丁度良い場所である。

 明神滝で凡そ半分位の行程だろうか。滝を見物しながら左の斜面を高巻いて行く。滝の
上部からはヒメシャラの目立つ、さながら日本庭園の趣のある斜面をジグザグに登る道と
なる。マムシグサは赤い実を付け、トリカブトは茶色い残骸を曝しているのに、周囲の木
々はやや色づいたものもあるが大半はまだ青々している。ようやく顔を出した薊岳の斜面
もほとんど青いままだ。この辺りが錦秋となるには少なくともまだ10日は必要だろう。

 植林を抜けると水場で、ここで再び一息入れ、手で掬って美味い水を飲む。ここまで来
ればもう明神平は目の前だ。でもこの最後の登りが結構きついのだ。谷から吹き上げる風
が強まる。その風に熱を奪われるであろう、さっき水を掬った手の指がかじかんでくるの
が分かる。荒い息を吐いて左手の踏み跡を登ると東屋の前に出る。10人程度の先行者が
思い思いにたむろしているのに東屋には誰もいない。テーブルにザックを置いて小休止だ。
 
明神平から色づき始めた水無山を望む

 明神岳を目指し三ツ塚分岐へ向う。風の通り道なのか吹く風は強い。尾根付近のブナは
黄葉を迎える頃には、こうして風で葉を散らされてしまうのではないだろうか。しかし何
より、今年は酷暑の影響か、明神平付近のハウチワカエデなど広葉樹の葉の先端が茶色く
縮れてしまっているのだ。こうなってしまってはなかなか綺麗な紅葉は望めない。

 三ツ塚分岐を迂回する踏み跡を辿って東に向う。尾根道に出て行き着いた明神岳には誰
もいない。このピーク、明神平から見ても千石山方面から見ても三角形の綺麗な形をして
いるのだが、登ってみれば只の尾根の高みというのが面白い。

 桧塚への分岐より先の台高縦走路を歩く人は格段に少なくなる。今日はここから先がメ
イン。白い露岩を下って、木々の影がモザイク模様を落とすヒメザサが茂る国境尾根の踏
み跡を辿る。左手には桧塚奥峰、右手遠くには大峰の山並みや薊岳、木の実ヤ塚、ジョウ
ブツ山がうねるのが見える。この辺りは春暖かくなると、ツツジのピンクで彩られるのだ
が、今は緑がかった渋いベージュ色がメインカラーである。

明神岳から笹ヶ峰へは静寂のプロムナードだ

木漏れ日に黄金色が映える(笹ヶ峰北峰の北の鞍部付近にて)

 ヌタ場のあるピークを越える。この辺りは広い尾根のブナ林だ。やや黄ばんだ梢を漏れ
てくる午前の光が柔らかい。朽ちた木には大きなツキヨタケ。シイタケに似て、肉厚でい
かにも美味そうなのだがこれは猛毒のキノコだ。

 所々にあるテープを追いながら、前方のこんもりした笹ピークへ登り返す。笹ヶ峰北峰
と小さなプレートがある。縦走路はここでほぼ90度に左へ折れる。再びヒメザサに覆わ
れた斜面を降り、緩い登りをこなす。登った先が笹ヶ峰本峰だ。勿論誰も居らず、ハウチ
ワカエデの幹に山名プレートとオフィシャル標識が所在無げである。

 やっぱり病み上がりとでもいうのか、体が重くすぐ息が切れてなんだかヘロヘロだ。シ
ャリバテの所為もあるが、あまり体調がもとに戻っていないようだ。時間があれば千石山
あたりまでと目論んでいたが、これは止した方が良さそうである。

自然林に囲まれた笹ヶ峰山頂風景

 代わりに少し笹ヶ峰の東尾根を歩いてみる。地形図で見ると五段の滝方面の東の尾根は
急激に切れ落ちているので沢屋も登ってこないのか、低いヒメザサのあちこちにまだ黒光
りしている鹿の糞が転がるのみで、踏み跡、テープの類は一切ない。台形状の非常に歩き
よい尾根にはブナ、シロヤシオ、トチノキ、ハウチワカエデなどの雑木類が色づき始めて
いる。風と小鳥の声のみの静寂が支配する時間をしばし愉しむ。

 食事の合間に眺望も愉しめ、風も防げる場所をと、きょろきょろと見回しつつ来た道を
戻ってきたら、いつの間にか明神岳の手前付近まで来てしまう。白い露岩で風を防ぎなが
ら、湯を沸かしてきつねうどんを暖める。開けてみたら値段が安いはず。具はきつねだけ
だった。(^^; これは生卵を忘れてきてしまったのが悔やまれるなあ。

 ほんの一月前は残暑が厳しかったのに、もう湯気の上がる暖かいものが嬉しい頃になっ
ている。秋や春の心地よい季節が、年々、段々短くなっているような気がするのは小生だ
けだろうか?それでも食後のコーヒーを飲みながら南を望めば、笹ヶ岳や千石山(奥の迷
岳)、赤ー山の尾根筋が秋を装い始めた姿は綺麗である。

明神岳付近から台高縦走路。左の台形状の山が笹ヶ峰

 ザックに再び荷物をまとめる。腰も大丈夫。すぐに桧塚分岐。以前より明瞭になった踏
み跡を右に見て、50m先が明神岳の頂上。あれ?明神岳の頂上に木の香が漂うほど真新
しい白木の立派な山名標が立てられてあるではないか。確か往路にはなかったはず。そう
いえば往路、明神岳を歩いている時、声がするので振り向けば、何やら長い物を持った二
人組が歩いてくるようだったが、きっと彼らが立てていったに違いない。木柱には墨で黒
々と山名と標高が書かれてある。

明神岳には出来立てほやほやの新しい山名標識が

明神岳付近から望む木ノ実ヤ塚(左)と薊岳(右)

 薊岳から木ノ実ヤ塚への稜線を見つつ、大きな倒木を潜って今度は三ツ塚分岐から明神
平へ下る。朝よりも人出は増えており、すれ違う人も多い。前山や目の前の水無山の斜面
を登るカラフルな蟻の様な姿も見える。天理大学の小屋付近には2、3張のテント。東屋
でお茶を飲み、一息ついて下山にかかる。

 登る時よりも脚に力がかかる。こういう時に脚を滑らせるものだが、案の定、馬酔木山
荘跡近くで沢を渡渉していて、濡れた岩にツルリ。右手に掴んだ岩のお蔭で、すんでの所
で下半身びしょ濡れを免れた。危ない、危ない。

 50分足らずで登山口に戻ってきた。ブラブラ歩いていると往路では気付かなかった花
々があるのに気付く。アケボノソウはほとんど終わりであったけれど、薄紫のハガクレツ
リフネが盛りである。ほの暗い所のジンジソウの白さも印象的であった。

 駐車広場付近は路肩にもびっしりと車列。工事で駐車広場が半分に削減されている事も
あるけれど、久々の好天に沢山の人出であったことが分かる。フー、ヤレヤレ。車にザッ
クを置き、靴紐を緩めて、残ったクリームパンを頬張る。青空に恵まれた台高縦走路の清
々しい一日。やはり山はいいです。(笑)


【タイムチャート】
6:30自宅発
8:30〜8:40大又林道終点(駐車地)
9:05明神平登山口
9:25〜9:28キワダサコ
9:36明神滝
10:05〜10:07水場
10:14〜10:20明神平東屋
10:45〜10:46明神岳(1,432m)
11:12〜11:13笹ヶ峰北峰(Ca1,380m)
11:20〜11:35笹ヶ峰(1,367m)
11:42〜11:43笹ヶ峰北峰
12:08〜13:00明神岳南尾根(昼食)
13:02明神岳
13:13三ツ塚分岐
13:25〜13:26明神平東屋
13:52明神滝
14:10明神平登山口
14:35大又林道終点(駐車地)


笹ヶ峰のデータ
【所在地】奈良県吉野郡東吉野村、三重県松阪市(飯高町)
【標高】1,367m
【備考】 台高山脈の主脈上にあって、明神岳の南に位置する標高
点ピークです。降った雨は東は櫛田川となって伊勢湾、
西は吉野川となって紀伊水道に流れる分水嶺を形成しま
す。山頂付近は丈の低いミヤコザサとブナやハウチワカ
エデの自然林で、明神岳からは約30分の行程です。
【参考】
2.5万図『大豆生』



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