爽春麗らか石庭から大谷山・赤坂山
 
平成19年 4月29日(日)
【天候】快晴
【同行】単独
快晴の大谷山山頂から琵琶湖
海津大崎の向こうに竹生島が浮かぶ


 花と展望の山といえば湖北の赤坂山界隈を上げる人も多かろう。その赤坂山の南にそれ
に勝る展望の山があると聞き、この29日に訪れてみた。しかも当日は快晴に恵まれ、晩
春の爽やかな江若尾根を心ゆくまで堪能することができた。

 久々に早起き。6時に家を出る。お蔭で渋滞も無くスイスイと湖西道路を抜けR161
をひた走れば、2時間もかからずに起点のマキノピックランドに到着。広い駐車場には流
石に車はほとんどない。

 車を端に置いて支度をしていると、駐車場の清掃をしていた係りのお兄さんが声をかけ
てくる。
「大谷山登るの?」
「ええ、石庭(いしば)へ行くのはこの前の道ですか?」
「そう。その道真っ直ぐ。でも電柵あるよ」
「はあ、抜けられると聞いてきたんですけど...」
「へえ〜、そうなんや」

 メタセコイアの『冬ソナ』通りでは早くも、カメラと三脚を持ったおじさんがうろちょ
ろ。交通の邪魔やろなあ。(笑)
若緑のメタセコイヤ並木。帰路はここを歩く

 教えられたとおり西へ。八幡神社の前を抜けると、目当ての大谷山から赤坂山に続く稜
線が春の衣装を纏っておいでおいでをしている。その前には水田風景が広がり、あちらこ
ちらで耕運機や軽四輪が忙しく動いている。田植え前なのだ。もう都会近郊では聞けなく
なったカエルの合唱。うらうらとしたこんな時季を季語では『蛙の目借時』というそうだ。

春爛漫の石庭集落から江若連山。右端に明王の禿

 さてまずはお寺、正眼寺を探さねばならないが山すそに難なく見つかる。また石庭の集
落の道の角にも大谷山への道標があって助かる。それに従って左折し、水を引かれた田圃
の中の十字路を更に右折して寺に向かう。事前情報にあったフェンスは思ったより頑丈だ。
正眼寺へのアプローチ道を利用してフェンスの内側に入り、山門の右側の勢いよく水の流
れる溝沿いに進むと、再び道標が見つかり、杉の幹に大きくテープが巻かれている。ここ
にはフェンスにゲートもあって、鎖を解くとゲートも開くので、寺側に入らずとも、フェ
ンス沿いに農道を進んでも大丈夫だったようだ。

 取付きも見つかったし、さあいよいよと時刻を記入しようとポケットをまさぐった時で
ある。あれ?ない。またまた手帳が...。つらつら考えるに確か神社通過時間を記入し
たはず。そこで神社まで戻って捜すが見つからない。溝にでも落ちて流れたのか?これで
最近三度目。よくよくぼけてきたのかもしれない。(_ _) まだ早かったからいいようなも
のの30分の時間ロスだ。
大谷山登山口。ゲートを開けたところ
フェンスの向こうに道標

 8:50。あらためて登山口。杉林に入ると頭部の壊れた宝篋印塔があって、分岐する
左の山道を道標が示している。大谷山まで2.5時間とある。深くえぐられた道が、直登す
れば厳しい斜面をジグザグに上がっていく。これは昔ながらの古い道に違いない。その杉
林の中にもうカタクリの特徴あるまだらの葉っぱがチラホラ。流石にこの標高ではもう花
は無い。

 遠くで聞こえていた耕運機の音も間もなく途絶え、植林も途切れて辺りは清々しい雑木
林。しばらく進めば傾斜が一旦緩む小広い台地があって、カエデの群落がある。この辺り、
秋も素晴らしいに違いない。

洗掘された道はカエデの新緑に染まる

 再びジグザグ道。結構きつく、久々に汗が額を濡らすが爽やかな風が吹いてきて心地よ
し。土手にはトキワイカリソウやイワカガミが咲き乱れている。ツツドリが直ぐ真上で鳴
いた。「ポウッポウッ」と鳴くだけではなくて笑い声の様な声も出すのだと初めて知る。

 小さな支尾根に出る。左の谷から沢音が上がってくる。右手(北)は植林だがそれが途
切れると間もなく平坦となり、丈の低い雑木がトンネルのように道を包む。地形図を見る
と704m標高点付近だ。そんな時、大したことはないのだけれど、左足の付け根に少し
違和感が出る。が、何よりも少々シャリバテ。小休止して一息つく。一個だけ残った飴を
出す。ついでに靴ヒモを締めなおしていると、目の前の小枝にコガラらしい小鳥。チョッ
チョッと呼ぶと、好奇心豊からしく首を傾げながらどんどん近づいてくる。可愛いものだ。

 眺望ルートとの分岐を過ぎてしばらく、前方の草むらにピンク色の塊を見つける。また、
イカリソウが群れ咲いているのかなとよく見れば、なんとカタクリだ。今年は花が早く無
理かと懸念していたが何とか間に合ったらしい。この辺りではまだイワウチワも咲き残っ
ている。前方にはようやく目指す江若国境の稜線がスカイラインに。しかしまだまだ高い。

749m標高点南西付近の川原谷支谷
源頭付近の柔らかい雑木林

 道は一旦、下って涸れ沢を跨ぐ。トリカブトが目立つ。左に折れ、右に折れ返して小さ
な流れを越える。雪原の場合は少し分かりづらい所だろう。しかし今、辺りは素晴らしい
新緑の林。優美にカールした曲線状の斜面には藪もなく、ブナも現れて惚れ惚れする。い
つまでも眺めていたいほどだ。そこに山頂1時間の道標。「ええっ?」地形図を見ればこ
こを登りきればもうほとんど傾斜はないのだけれど...。(笑)

 案の定、登りきった所からそろそろササが現れ始め、もう稜線が近い事を示している。
そしてムシカリやタムシバの咲く丈の低い潅木帯を抜けると、ササに囲まれた稜線上のT
字路に出た。ここに立つ美浜町山遊会の道標には山頂まで20分。(さっきの道標から1
5分足らずやったけどねえ...(笑))

大谷山の南の江若尾根から大谷山を望む
山頂に人影の様な道標が立つ

 北東に眼を移せば大谷山の山頂。人が立っているのか。じっと確かめるも動かず、どう
も標識らしい。道は少し右に曲って潅木帯を抜けササ原に筋となって、一路大谷山を目指
す。そうして眺望コースを併せて登りついた山頂にはやはり誰もいない。棒状のものと美
浜町が設置したものと二つの山名板が立ち、人と見間違ったのはこれだった。その側に欠
けのない三等三角点。

 聞きしに勝る大パノラマである。マキノの街並みが手に取るように見て取れ、メタセコ
イヤの並木道も直線状に伸びているのが分かる。その先に春霞む琵琶湖。海津大崎の向こ
うには竹生島が浮かぶ。その奥にはうっすらと伊吹山。北は寒風に続く江若稜線。北西の
いかにも山らしい形をしたのは雲谷山で、三方五湖近くの岬が顔を出し、その先は日本海
だ。西から南は大御影山と三重嶽の屏風の様な山並みで、奥には比良らしい高みも見て取
れる。いいわあ。

 展望を楽しんでいると、何処からか湧いたように人が登ってきた。合わせて10人くら
いになったろうか。石庭の堀切川沿いの林道を溜め池付近から登ってきたパーティもいる。
そんなコースもあるらしい。昼食でも摂ってもう少しゆっくりしたかったけれど、この先、
高い木々も見えず、展望はどこでも楽しめるだろうと、食事は寒風まで我慢する事にして
山頂を後にする。下っていると前方の寒風の斜面を大きな鹿が逃げていくのが見える。尻
の毛の白さが印象的だ。
縦走路の北から笹原の大谷山を振り返る

 比良は断層で出来た山並みだというが、この辺りもそうらしく福井県側はなだらかなも
のの、琵琶湖側は険しく脆いためにザレ場が多い。土砂崩れ止めの治山工事が至る所でな
されている。が、そのお蔭で景色は最高。潅木帯の中以外はずっと琵琶湖を見ながらの稜
線山歩だ。しかも登山道には点々とカタクリやオオバキスミレ。それだから70mほどの
下りと100mの登り返しはあまり苦にならない。というのは負け惜しみ。シャリバテと
相まって結構足に来た。(^^; そうして寒風へ。地形図上の丸い等高線ピークだ。大谷山
から1.1km。25分足らずの距離である。

寒風から赤坂山と三国山を3倍ズームにて
右の白い部分が明王の禿

 寒風にも併せれば20人はいたと思う。空いた所にザックを下ろす。カタクリの咲いて
いる横という贅沢さだ。カップ麺用の湯を沸かす。今日の昼食は志賀バイパスを降りた所
のいつものセブンイレブンで買った鯖飯。やっぱりここも鯖街道の一つだもの敬意を表し
て。と言っても実は290円とチープだっただけなのだが。(笑)

 ここから赤坂山までは3.6km。ここ寒風にはキャンプ場からの直登ルートがあって、昼
食中も登ってくる人がいて、このルートを使っての下山も考えられるのだが、赤坂山方面
に続く稜線を見ればこれを歩かないという法はないであろう。雪と風の影響だろう、一本
とて真っ直ぐに伸びたものはないブナ林の間を抜ける。するとまたササ原。点在する岩の
上にもカタクリ。まるで岩が天然の植木鉢の役目を果たしているよう。足下にはキスミレ。
嗚呼、至福の時間だわい。
寒風のブナ林を抜けると眼下に笹原が広がる

 たぬきさんのHPにもあった様に841mピークの肩の登りはきつい。しかしそれを登
れば後は楽。調子ヶ滝へ続く崖状の急斜面を見ながらの稜線散歩だ。右の直下にはマキノ
のオートキャンプ場。色とりどりのテントと車。温泉施設の建物も見える。前方には高圧
鉄塔の向こうに、山頂に沢山の人を戴いた赤坂山。その先の三国山が大きい。右手にはア
ンテナ施設を載せた乗鞍岳。遠く霞むのは金糞岳らしいが、白山までは残念ながら視界が
届かない。

 高圧線の下を潜る。最寄の鉄塔は北近江線甲bP9とある。北の美浜町方面に巡視路が
続いていたので、たどれば折戸谷の林道に下りたてるのかもしれない。この付近になると
人の話し声が聞こえてくる。そう、5分もゆっくり下った先が粟柄越で、今は赤坂山への
メインルートが通るのだ。団体さんが降りていく。ここまで来たのなら折角なので赤坂山
にも寄っていこう。

 岩に彫られた馬頭観音像の横からゆっくりと登り返す。2年前には雪が残っていたのを
思い出す。今年は全くなく、唯一残っていたのは寒風の北の沢筋に少しだけだ。

二年ぶりの赤坂山
乗鞍岳の向こうに金糞岳が霞んでいる

 赤坂山は相変わらず人が多く、小耳に挟んだ所に依ればつい今し方、観光バスで来た登
山ツアー客が引き上げたところだったらしい。山頂の岩の上で一休みして豆大福を一齧り。
その間にも明王の禿方面から帰ってくる人や粟柄越方面から上がってくる人が交差する。
15分ほど景色を楽しんで引き上げることにした。

 後は2年前に利用した道だ。乗鞍岳や明王の禿を眺めながら降りることが出来る。淡々
と下り続けるけれども、沢筋に出る手前であったろうか。カサッと何かが動く気配。ふと
見るとなんと体長15cm位のノウサギの子供ではないか。少し近づいても逃げない。早速、
デジカメに納めたが、3倍ズーム程度じゃあんまりはっきりしない。(笑)

登山道脇の茂みにノウサギの幼獣がうずくまる

 いつもながら不思議な感じがするのは登山道途中の沢筋。登山道の通る幅数メートル程
度の尾根の反対側は山腹の斜面なのである。尾根を貫けば簡単に水を反対側に落とせる。
なんでこんな地形になったのかまことに不思議この上ない。

 さて、東屋にも多くの人が休んでいる。それを横目にキャンプ場の登山口への到着は1
4:34。1時間と少しで戻ってきた。でもピックランド方面行のバスは確か16:22
しかないはず。こりゃ待っていても仕様がない。歩く事にしよう。アクエリアスを1本買
って飲みながら、カエルの声があちこちから聞こえるメタセコイヤ並木をポクポク。やっ
ぱり自転車を持って来るべきだったぁ。(笑) 歩いてきた山並みを眺めながら、それでも
思ったより快調に40分くらいでピックランド到着。あれだけ車がなかった駐車場も今は
ほぼ満杯だ。

 帰路、教えてもらった新旭にある地酒の蔵元で『不老泉』なる上撰酒を買うのに寄り道。
利き酒を勧められたが生憎、運転中。家まで我慢。残念。

 信号でちょくちょく、更に湖西道路では大分混んだけれど何とか明るいうちに帰宅。早
速、ぬる燗で味わったのだった。春爛漫の花の山。満足、満足。この山気に入りました。
秋にも今一度。(笑)


陽光に映え咲き乱れるカタクリ

イワカガミ

トキワイカリソウ
よく見ればエイリアンのようだ

黄色が鮮やかなオオバキスミレ




【タイムチャート】
6:00自宅発
7:50〜8:00マキノピックランド(駐車地)
8:20〜8:50石庭登山口(手帳捜してうろうろ)
10:15〜10:21704m標高点
10:32眺望ルート分岐
10:56尾根道出合
11:08眺望ルート出合
11:10〜11:18大谷山(813.9m 三等三角点)
11:42〜12:20寒風(Ca850m 昼食)
12:46〜12:48841m標高点ピークの肩
13:10赤坂山登山道出合(粟柄越)
13:18〜13:30赤坂山(823.8m 三等三角点)
13:39赤坂山登山道出合(粟柄越)
14:10東屋
14:34マキノキャンプ場(赤坂山登山口)
15:15マキノピックランド(駐車地)


大谷山のデータ
【所在地】福井県美方郡美浜町・滋賀県高島市マキノ町
【標高】813.9m(三等三角点)
【備考】 江若国境を形成する山々の内、赤坂山の南に連なる峰の
一つです。山頂付近は笹原で、360度の大展望が展開
し、琵琶湖と日本海を望む事が出来ます。メジャーな赤
坂山に較べて格段に静かですが、最近は訪れるハイカー
が増えています。登山道はマキノ町石庭(いしば)や寒
風経由等、幾つかのルートがあります。
【参考】
2.5万図『海津』



■大谷山パノラマ画像

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