規制の前に西大台
 
展望台から千石ーを眺める
平成19年 8月19日(日)
【天候】曇りのち雷雨
【同行】別掲

 環境庁の規制によって、9月からは申請しなければ入山できなくなるという西大台。自
由に行けるのは今月までだというので、ぶらりと歩いて来た。数年前に始めて訪れた時よ
りも、踏み跡は一段と明確になっており、オオバコなどが所々に見られるのは、ハイカー
のズボンや靴に種が付着したのが落ちたからだろう。その為の土落としのマットが入山口
に置かれていたが、歩く人の数に比べたら焼け石に水だろう。これも自然を守る為に致し
方ないのかもしれない。でも寂しいことではある。

 大台や明神平へ向かうのに便利な近鉄榛原駅に8時集合。宇治山田行の急行が丁度その
頃着くのだ。6時に自宅を出たがちょっと早すぎたようだ。7時25分に到着。座席を寝
かせて、時間まで一眠りすることにしよう。

 全員集合、いつものように大宇陀経由で国道に合流する。大台のドライブウェイ。久し
ぶりに大普賢岳や行者還岳の傾いだ姿が車窓から眺められる。

 もっと人出があるのかと思いきや、山上の駐車場にはまだ空きがいくつもある。適当な
所に駐車して歩く準備。ドライブウェイを少し戻る感じで筏場と小処を結ぶ道から森に入
ったのだけれど、結局、大台教会の下まで戻ってしまう。最初からこっちに来ていたら良
かったようなもんだが、自然林をぶらぶら出来たから、これはこれで良かったのかも。

ナゴヤ谷上流部で咲くトリカブト

 西大台の入口には前述のように土落としのマットが敷かれている。靴底の土を落として
まもなく上の道、下の道の分岐へやってくる。まずは松浦武四郎の分骨碑のある上の道か
ら。種をつけたバイケイソウやトリカブトの咲くナゴヤ谷の源流。以前は塚のような盛石
と武四郎に関する説明板があったように思うが、その痕跡はなく、200m位、奥に入っ
た分骨碑への案内が目立つのみ。碑へは一度訪れたので今日はパス。沢沿いからほぼ等高
線に沿った踏み跡を辿る。それにしても今日は入山している人が多い。西大台はこちらと
指導標を立てて誘導しておきながら、人が増えると途端に入山制限する。又繰り返すよう
だが、なんだか行き当たりばったりの役人仕事っていう感じは否めない。

 七ツ池手前の中ノ谷で小休止。時折、ドライブウェイを走るバイクの音がうるさい。そ
れも七ツ池までくれば聞こえなくなる。もう完全に干上がって湿地のイメージはない。近
くで咲くリョウブの花の芳香がする。踏み跡に落ちたオオイタヤメイゲツの葉は人間の手
ほどもある。倒れたブナ、ミズナラは苔むしているが、少し生気がない気がした。

苔むす倒木

 カツラ谷と高野谷に囲まれた平地が開拓跡。高野谷とワサビ谷の流れを渡れば、経ヶ峰
分岐を経て開拓分岐への道である。この辺り、こんな山中にこんな場所がと思えるくらい
平坦な場所だ。

 場違いなチェーンソーの音が聞こえる。芳しい木の香が鼻をくすぐるが、入山規制にな
るというのに、何を整備しているのだろうか?そこから間もなくして開拓分岐。吊橋を渡
って下の道から駐車場へと戻る周回路のターニングポイントだ。ここでもう13時近かっ
たけれど、折角なので大蛇ーの展望台まで足を伸ばして食事ということにした。

 展望台のある尾根。以前はもっと木が茂っていたように思うが今は妙に明るい感じがす
る。人が増えて植生や環境が変わってしまったのだろうか。上北山村の村有林でもある自
然林を抜けて、展望台に着いたのはもう13時を過ぎていた。

展望台から大蛇ー。左下に中ノ滝の上部が見える

 食事している最中に少しうす暗くなってくる。さっき日出ヶ岳方面が雲に閉ざされ始め
ていたけれど、その雲がこちらにやってきたに違いない。後片付けをして戻りかけた時だ。
アッと思う間もなくバラバラと木の葉を叩く雨粒の音。林の下なのでほとんど雨に当たら
ないが、だんだん雨脚が繁くなってくる。そうして傘とザックカバーを出そうかなと思っ
た瞬間である。バリバリ。腹に響くような雷鳴が頭上に響く。「すわっ!」慌てて低地に
ある木の下へ避難する。

 雨は更に激しくなったが、ほんの10分ほどで小降りになり始める。雷も近いのはあれ
1回きりで、後は遠雷が時折聞こえる程度。だが、すこぶる蒸し暑い。その上、タイミン
グの悪いことに吊り橋を渡って、丁度、逆川を右に見てのゴロゴロ石の上り坂を歩き始め
た所だったものだから、一気に汗だくになってしまう。おまけにしつこいアブがワンワン
と頭上を飛び回るからいらいらする。ところが、30分も経った頃だろうか。どうも寒冷
前線が通過して、空気が入れ替わったらしい。急に周囲に涼しい風が流れ始めた。力水の
岩清水が湧き出る辺りだ。岩の下から竹筒で引かれた冷たい水をすくう。美味い。甘露、
甘露。そしてついでにこれで冷たいコーヒーを飲もうということになる。ああ、この美味
さ、何物にも代えがたいなあ。

 いつの間にやら右に見える流れは歩く方向と逆になる。分水嶺を越えてナゴヤ谷だ。そ
の深い谷がすぐ下に見える頃、川原に下りて一服。澄んだ流れで顔を洗う。生き返る心地
がする。

にわか雨にイトザサの緑とブナやミズナラの緑が映える

 先程の雨で、植物は生気を取り戻し、とりわけ苔は青々と光沢を増している。上の道と
下の道の合流点近くの、丈の低いイトザサの繁茂する斜面も生き生きとした感じがする。
が、この風景も9月からは簡単には見ることが出来なくなるらしい。許可を得て歩ける人
は日に数十人ということだ。じっくり見て眼に焼き付けておこう。(笑)

 最後の斜面の登りをこなして合流点。右に進んで大台教会の前から駐車場はすぐだ。も
う半分以上の車が帰途についたらしい。その駐車場で見ていると、同じ型のバス数台が停
まっており、幾ばくもしない内に、数十人のハイカーが西大台方面から戻ってきた。朝日
新聞にも掲載されていた駆け込みツアー客らしいが、芦生といい、ここ大台といい、近頃、
入山規制される地域が増えているように思う。それらに共通するのが商業主義だ。Web
が発達して情報が普遍化すると同時に、団塊の世代のリタイアで大挙して歩く人が増加し、
従来、歩く人も疎らな領域にも、物珍しさを売りに人を入れるようになる。それに参加す
る人の中には、行列について歩いているだけで、自分が何処へ行くのか、はたまた今何処
を歩いているのか全く分かっていないメンバがいるのだ。何かおかしいなあ。山を歩くと
は、民俗学に、歴史に、植物に、動物に、地学に、気象学にと、興味を膨らますことでは
ないだろうか。くっついて歩くだけじゃ面白くないだろうに、とまあ、自分も偉そうな事
を言えた柄ではないが、そんな風に感じる今日この頃である。

 あまり遅くなるのもというわけで、小処温泉に寄るのはやめて帰宅の途に。標高千m付
近は猛烈なガスで視界50mもないくらいだったが、それを抜けるとほとんど雨の形跡も
ない。流石は日本屈指の多雨地帯、大台ヶ原であることよ。妙なことに感心しながらも、
車は一路、榛原駅を目指したのだった。



■同行: 幸さん、たらちゃん、なかいさん(五十音順)

【タイムチャート】
6:00自宅発
7:25〜8:15近鉄榛原駅(集合地)
9:45〜10:00大台ヶ原駐車場
10:20筏場大台ヶ原線歩道入口
10:45大台教会前
11:35〜11:45中ノ谷(小休止)
12:33開拓跡
12:40経ヶ峰分岐
12:46開拓分岐
13:03〜13:40展望台(昼食)
14:05開拓分岐
14:37〜14:50力水の湧水
15:36上の道・下の道分岐
15:45大台教会前
15:50大台ヶ原駐車場

西大台のデータ
【所在地】奈良県吉野郡上北山村
【標高】1,500〜1,300m
【備考】
大蛇グラ、正木ヶ原、牛石ヶ原、日出ヶ岳等がある東大
台に比べ地味な西大台は、本来の静かな山歩きを楽しみ
たい人向けの地域です。大台ヶ原は日本有数の多雨地帯
の為、人が入らない分、道が荒れやすく、やや不明瞭な
箇所があります。赤テープ、番号付きの赤ラベルを見落
とさないようにして下さい。平成19年9月より入山に
は許可が必要になります。
【参考】
エアリアマップ 山と高原地図『大台ヶ原・大杉谷・高見山』



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