ちょいバリルートで初秋の小野村割岳

 
途中にあったこれでも小ぶりのアシウスギ
筆者と比較して下さい
平成19年 9月24日(月)
【天候】曇り時々小雨
【同行】別掲


 秋分の日を過ぎて、ようやく朝晩はしのぎやすくなって来た今日この頃。久しぶりに北
山へ。目的地は未踏の小野村割岳。城丹国境にあり、降った水は北は由良川、南は桂川に
流れる、すなわち中央分水嶺をなし、小生にとってはいささか気になっていた山の一つで
もある。今回はそれを少しバリエーションルートでアプローチ。当日は程よい曇り空。日
差しに炒られることもなく、さりとて大した雨にも遭わず、山日和に恵まれて初秋の涼風
爽やかな尾根歩きを楽しんできました。

 地道の場合、最近開通した箕面の有料トンネルを利用しても途中休憩を挟めば、北摂か
ら佐々里峠までは順調に行っても3時間の長丁場。美山町廻りで佐々里峠を越えて、広河
原のバス停の南へ少し行き過ぎた辺りの路肩をお借りする。道沿いを流れる桂川の上流に
当たる尾花谷川の河原では、オタカラコウかメタカラコウか黄色い花が花盛りだ。

広河原のバス回転場横から北へ向う。最奥の民家が見える

 ウォーミングアップを兼ねて、舗装路を戻る。喫茶店を左に見て、広河原のバス回転場
横の林道へ折れて最奥の民家の前を抜ける。ボロギクに混じって時季外れのクリンソウが
咲いている。その先は手入れされた北山杉。薄暗く少しジメッとした感じがする。谷川沿
いにしばらく歩くと左手の広場にこじんまりとしたログハウス風の小屋が現れる。掲げら
れた表札には『桃ノ木谷小屋 山城高校WVC』とある。浜村淳や阪神の吉田元監督の出
身校だ。高校でワンゲル部とは近頃ではいささか珍しい。

 小屋を過ぎてまもなく三叉路に出る。右と左に林道が延びるが桃ノ木谷は直進している
沢のようだ。すぐに林道は途切れ、桃ノ木谷そのものの中を行く山仕事用の踏み跡となる。
踏み跡は流れを右に左にと忙しい。時ならぬ闖入者に驚いたのか甲高い鹿の警戒音を聞き
ながら、ふと足元の石に目をやった時である。何やら茶色い蠢く物を発見。なんとヒルだ。
こりゃあ、ひょっとしてあちこちにいるのではないか?慌てて乾いた河原でチェックする
も幸い被害者はなし。とりあえず虫除けを靴にふっておくことにする。

東の稜線に向ってトレースなき急斜面を70mほど一気登り

 桃ノ木谷も流れがチョロチョロとか細くなってくる。そろそろ尾根に取り付く頃合いか
とGPSと地形図を確め、左岸のより手頃に見える斜面に取り付く。それでも地形図から
予想されたことだが、斜面は結構な急角度。こんな所に良く植林したものだと感心するく
らい。それでもあまり滑らない土質なのが幸い。直登や時折現れる獣道みたいな微かな踏
み跡を追いながら、四肢を使って60m〜70mを一気に登って尾根に出る。杉林が尽き
てナラやカエデなどの雑木が繁り、下草もほとんどない明瞭な尾根だ。通り抜ける風も心
地よい。だが、不思議な事にナラ類の根元には微細な木屑が山積し、そういう木の梢を見
上げると、葉が赤茶色く枯れているか若しくは一切葉が無くなっている。初めて実地に目
撃したが、これは以前、芦生について書かれた記事でも見かけたことがあるけれど、木屑
はカシノナガキクイムシという体長1cmに満たない甲虫が、穴を掘った時に出すフラスと
呼ばれる木屑とフンらしい。そのカシノナガキクイムシが媒介する菌によって、水の通り
道である道管が塞がれ、食害されたナラ類は軒並み枯れるのだという。とくに日本海側に
被害が多いというが、時折、覗く谷向こうの山の斜面も赤茶っぽい部分は、それらカシノ
ナガキクイムシにやられた木々の姿なのだろう。痛々しい限りだ。

カシノナガキクイムシにやられたミズナラの根元には
フラスと呼ばれる大量の微小な木屑と糞の混合物が

 こんな尾根にも先行テープがある。ちょうど桃ノ木谷の源頭に当たる、781m標高点
ピークのある尾根との分岐付近(Ca780m)には『KGC』と書かれた私製道標までが
木に設置してある。好事家は何処にもいるようである。(^^;

 この尾根には広葉樹に混じって大きなアシウスギも所々に佇立する。中には1年ほど前
に歩いた赤碕中尾根にも劣らない巨大なものもある。781mピークの東で、小野村割岳
への尾根は右(東)へ一旦折れるのだが、その付近にも1本(巻頭の画像)。再び北に折
れて南北に延びる尾根にも点々とアシウスギが現れる。そのデカさには驚くばかりだ。

こんな巨大なアシウスギもある(もぐさん提供)

 ようやく小野村割岳へと続く東西に波打つ主稜線が視界に入るようになる。城丹を画す
る境界尾根だ。ここまで来るともう急登はなく、徐々に高度を稼ぐので楽なものだ。芝栗
のイガが転がり、色とりどりのキノコが見られ、林の奥でカケスが奇怪な声で鳴いて、流
石に吹く風も初秋を感じさせるが、ナツエビネがまだ花をつけていて、なんだか秋と夏が
入り混じっている感じがする。

 少し明るくなってササやバイケイソウ、ミカエリソウみたいな草が繁茂したあたりが東
西に走る主稜線との合流点だ。『東谷乗越』と目立たない小さな私製プレート。パラパラ
と小雨がやって来たがすぐに止む。出発が早かったので空腹になるのも早い。ちょっと早
いがここで昼食タイムとした。

 食事で一息つく。目指す小野村割岳はここから1km足らずで30分ほどの行程。もう大
した起伏も無いはずなので往復してこよう。尾根を外さねば一本道だ。ただ、注意しなけ
ればならないのは911mピーク付近。尾根が東に直角状に折れる部分で、とりわけ帰途
はここで折れずに直進しがちで、芦生への尾根へと引き込まれることがあると、このルー
トの経験者のKさん。踏み跡も出来ているのでうっかりミスに注意だ。

911mピークは枯れたアシウスギが目印
要注意ポイントの一つだ

 その911mピークは大きなアシウスギの枯れ木が目印である。その枯れ木に注意する
と、風雨にかすれた道標プレートが見つかる。それに従い東方向へ向かい、しばらく進ん
だ頃だ。前方で先行するNさんの声が聞こえる。追いついてみるとNさんが話しているの
は佐々里のヌシのOさんではないか。1年ぶりだろうか、全然、風貌に変わりなし。この
夏も南アルプスへ行って来たというから矍鑠としたもの。とても古希とは思えない。そし
て相変わらずのヘビースモーカーである。(笑)

 しばし談笑してそのNさんとも別れ更に東へ向かう。前方からの話し声にチラチラ見え
るのはヘルメット。そのヘルメットに乙訓郡とあったから、差し詰め長岡京の近くから来
たグループらしい。女性初心者と男性ベテランの5人組。ゲロク谷からきたらしく、この
後、小野村割岳の頂上を踏んで、小憩の後はカヅラ谷の源頭方向の尾根へ下山していった。

 ようやくなだらかな高みが見えてくる。小野村割岳のようだ。その山頂に着いてみれば
尾根上の一寸した起伏であるが、それでも今来た城丹尾根の延長である東の951mピー
クに続く尾根、早稲谷方向への尾根、カヅラ谷方向への尾根と四方に尾根筋を持つ。山頂
の小さな広場には端の欠けた三等三角点標石に、何故だか赤い郵便受が立ち木に立てかけ
られ、中央に焚き火跡が残る。沢屋が暖を取ったのだろうか。それにしても小野村割岳と
は珍しい山名である。昔はヤブの無名ピークだったらしいが、どういう由来があるのか興
味が尽きないところである。
小野村割岳山頂。山名プレートの下になぜか郵便受が

 沢屋のグループが戻っていった後は、須後の方からやってきたという単独兄さん。結構
出入りが多いものだ。いつの間にやら人気の山になっているみたい。この単独兄さんにお
手数ながら記念写真を撮って貰って、涼しい風の吹く村割岳を後にする。

 往路では気付かなかったけれども、ブナらしい木が3本、互いが絡み付くように幹を伸
ばしている。よほどの仲良しに見える。(笑) 少し注意しながら911mピークを過ぎ、
東谷乗越に戻ってくる。往路に登ってきた踏み跡を左に過ごす。この付近は以前は生えこ
んで分かり難かったらしいが、今は明快な踏み跡がある。それでも往時の名残か左右は背
の高さほどの雑木が残り、踏み跡も鍵状に曲がる。ヤマボウシが多いらしく、赤い実がい
たる所に落ちている。一つ拾って口に入れる。少しえぐみはあるけれど、それなりに甘い。

小野村割岳への稜線にて見つけた面白い形の木
ブナだろうか『仲良しの木』と名づけました

 日本庭園の様な趣のあるCa800mのコルに降りて登り返した頃だったろうか。またま
たOさんと一緒になる。大分あちこち、あれこれ観察しながら歩いていたらしい。(笑)
それから佐々里峠まで、Oさんの四方山話を聞きながらの尾根道歩きである。

 1年ぶりの雷杉は健在で、熊が隠れられるような空洞を曝しながら今日も梢を伸ばして
いる。Oさんに連れられて、Hさんらがアシウスギを見物に行っている間、こちらは小休
止だ。
1年ぶりに出会う雷杉

 少し暗くなってきたと思ったら再び雨がぱらつき出し、木々の葉を叩く音が次第に強く
なる。雑木のトンネルで雨粒がほとんど体にかからないのが有難い。前方にドカンと大の
字に寝転んだような大きな倒木がある。石灰質の狭い露岩尾根は覚えているのだが、こん
な倒木あったかな?近頃、記憶が定かでないのであった様ななかったような。ムムム。

 840m標高点ピークを過ぎると須後からの芦生古道との合流点はすぐだ。そしてその
合流点は、以前はやや分かりづらかったのだが、今は赤いペンキで矢印が付けられ間違い
ようもないものになっている。そこから直ぐ、腰掛代わりの丸太が置かれた所で小休止。
一旦止んだ雨がまた降り出したが、西の山肌がまだ余り霞んでおらず、幸い今しばらくは
大降りはなさそうである。

 Oさんによれば、この道も鯖街道の脇道なんだそうだ。当時の道の一部は新しく付け替
えられた道によってもう廃道になっている。そうこうする内に車道を通るバイクの甲高い
エンジン音が響いてくる。もう佐々里峠はすぐそこだ。石室前に置いたNさんの車も木々
の間から透けて見えてきた。

 Oさんの山荘に寄って後、車を回収に広河原に降り、再び佐々里峠へ戻って美山経由で
帰途に着く。下山を待っていたように本降りの雨だ。同行の皆さん有難うございました。



■同行 呉春さん、北山さん、幸さん、たらちゃん、なかいさん、ひろぴぃさん、
    水谷さん、もぐさん(五十音順)

【タイムチャート】
6:00千里中央駅前ローソン横(集合地)
9:00〜9:05広河原付近の府道路肩(駐車地)
9:55〜10:02711m標高点北付近の尾根
10:25781m標高点ピーク東の分岐点
11:45〜12:05東谷乗越(昼食)
12:12911m標高点ピーク
12:30〜12:40Oさんと遭遇
12:45〜12:55小野村割岳(931.7m 三等三角点)
13:18911m標高点ピーク
13:25東谷乗越
13:46832m標高点東の鞍部(Ca800m)
13:59〜14:03雷杉
14:12832m標高点ピーク
14:38芦生古道出合
14:58佐々里峠


小野村割岳のデータ
【所在地】京都市左京区、京都府南丹市
【標高】931.7m(三等三角点)
【備考】 芦生と広河原を隔てる市界尾根上のピークです。北山の
奥部の秘境でしたが、最近、良く歩かれるようになりま
した。なだらかな尾根はブナやアシウスギの巨木が見ら
れ、四季折々の良さが満喫できます。早稲谷から林道を
詰めるのが楽ですが、京大演習林や佐々里峠から登ると
面白く、行程は佐々里峠から約2時間です。
【参考】
2.5万図『中』、『久多』



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