侮りがたし!龍蔵寺から母子愛宕山
 
平成19年 2月10日(土)
【天候】曇り時々晴れ
【同行】別掲
龍蔵寺門前駐車場から愛宕山


 二年程前に開催されたボタン鍋オフ。今年は中国地方へ赴任するOさん親子を囲んでと
銘打って再び、丹波渓谷の森のロッジを借りて催される事となり、今日はその当日。午前
中に肉や地酒など全ての準備を整えて、さて、今回もその前に一山こなそうと出掛けたの
は篠山の太平三山。時間がなくなったので、愛宕山のみになってしまったけれども、これ
がなかなか侮りがたしの山。腹減らしになればと安易に構えていたのは大間違いなのでし
た。(笑)

 例の如く千里中央に集まって2台の車で一路、篠山へ。地元のスーパーで野菜一式。地
酒『秀月』の直売店、猪肉のゲットなどで時間をとられて気がつけばお昼前。登山口の龍
蔵寺には11時50分だ。余り遅くなってもというわけで、ここでお昼にして山行は愛宕
山ピストンに短縮することにする。門前の駐車場にはベンチもある。近くに民家が一軒と
公民館らしい建物。その庭の手入れをしていた住民の方が腰を伸ばしてこちらを見ていた。

 廃屋を左に龍蔵寺川を遡ると小さな山門がある。白い老犬が繋がれていたが人懐こい犬
で、怪しい我々にも尻尾を振ってくれる。「こりゃ番犬には無理だねぇ」(笑) 

龍蔵寺全景

 龍蔵寺は高仙寺、文保寺と並んで多紀三山と呼ばれた天台宗の古刹。やはり法道仙人の
開基。丹波の寺院で開基は誰と聞かれたなら、法道仙人と答えたら九分通り正解だろう。
だが、今は衰微して本堂はなく、鐘楼と観音堂があるのみで、その観音堂が本堂の代わり
を果たしているようである。その前にあるサルスベリは直径40cmはあろうかという大木
で、サルオガゼが枝にたなびく老木である。

 パラパラと小糠みたいな雨が通り過ぎる。橋の前から斜めに自然石の石段が上がってい
く。愛宕堂まで700m、愛宕山まで900mの案内がある。こりゃ楽じゃないのと侮っ
たが、これが後で臍を噛むことになる。(笑)
愛宕山登山道を兼ねる愛宕堂の参道

参道脇に鎮座する石仏
地方色豊かでこれは面長だ

 杉林の間をつづらに登っていく参道の所々に置かれている石仏は寄進されたものか。素
朴な顔は中央ではなく地元で造られたものであろうことを示している。それと共に掲げら
れた警句。『深いようで浅いのが知恵、浅いようで深いのが欲』うーん。その通りやなあ。
 食後の重い体はなかなかエンジンがかからない。うんうん云いながらようやく台地にや
ってきた愛宕堂の最後の石段下である。ところがここで一度目のびっくりだ。

愛宕堂最後の石段は老朽化して立入禁止
画像以上に急傾斜である

 愛宕山は全国に数々あれど、だいたい険しい山が多いようだがここもその例外ではなか
った。今いる台地から見る石段は見上げるばかりの急傾斜。よくもこんな所にと思うほど
だ。手入れが行き届かず荒れていて、今は立入禁止になっている。幸い、右に裏参道への
巻き道があり、その案内もある。それに従うとすぐに船●口(●は土偏に幼)に出る。『
ふなさかぐち』と呼ぶらしい。字から解るように、”土偏に幼”は窪地という意味だから、
峠の意味だ。確かに小さな尾根がここから延び始める。山頂へはここから登るようである
が、折角なので愛宕堂へ向かう。

 二間四方程度の小さなお堂。その前に参籠所があるが荒れている。石段上から下を覗く
とこれは凄い。一旦滑ったら命はなかろう。そんな急階段である。杉林で展望はないが、
僅かに北東が開け、篠山盆地南端の八上山(高城山)が望めた。因みに愛宕神社の祭神は
迦具土神(かぐつち)で火の神。イザナミが産み落とした時、火の神だった為に例の部分
に火傷を負い、それがもとで亡くなったことから、怒ったイザナギに殺されてしまったと
いう。閑話休題。

 『ふなさかぐち』に戻って尾根に乗る。しっとりとした明るいいい尾根道だ。大きな岩
が現れた。「何だこりゃ?」岩の前に首がなく、しかも体が縦に真っ二つの石仏である。
岩を避けて再び尾根に戻る。左手下には小さく愛宕堂の薄い臙脂色の屋根。裸木の枝を通
して右手に愛宕山らしい姿を眺めながら進めば『滝谷口』の標識。ほぼ平坦な台地で何か
建物でもあったような雰囲気がある。龍蔵寺は元は山中にあったというからこの辺りにあ
ったのだろうか。そんなことを考えながら、さて、もう一登りだろうとたかをくくってい
ると、前方を行くメンバーから大きな声が。これが二度目のびっくり。なんと文字通りこ
れぞ胸突き八丁、猛烈な劇斜面。岩がちならばまだ足場があるのだけれども、土の斜面だ
から始末が悪い。その上、深い落ち葉ときている。設置してあるロープがなければ立ち往
生しかねない。ここを下れと言われれば、きっと御免蒙ることだろう。立ち木にすがりな
がら、斜めにステップを切って足場を固めながら一歩一歩体を持ち上げる。

 その劇斜面も徐々に緩み始めれば尾根も近い。『向山坂』の横断標識を見れば尾根に出
る。こんな所にも近畿自然歩道の標識があって東に向かえば母子(もうし)の稲荷神社や
美濃坂へでるらしい。ここは西に折れて山頂へ向かう。遊歩道然とした道が通り、すぐに
如意ヶ峰と書かれた標識があり、高みの先に出れば篠山盆地が一望。三岳をはじめとする
多紀アルプスの凹凸が夏栗山や黒頭峰へと続くのが一目。西に遠く白髪岳や松尾山、盆地
を流れる川や街並みまで看て取れる。
愛宕山主峰北側の如意が峰
20m程先に山頂の標識がある

如意が峰から篠山盆地
三岳を主峰とする多紀アルプスに雪はない

 ここの愛宕山は双耳峰で南峰へは一旦下って登り返さねばならない。実は南峰の方が少
々高いのである。(Ca650m)。こちらも南端に出れば母子(もうし)高原が一望であ
る。但し、この辺りの知識がない自分には山名の同定は難しく、山の間にヒョッコリ顔を
出しているのが大船山で、左の円錐形の独立峰が三国ヶ岳らしいとしか解らない。そして
良く手入れされた茶畑の間にぽつぽつある民家が意外に近く、母子高原の標高がかなり高
いことがわかる。おまけにまたまたびっくりしたのは、鹿ネットがあるので近づく事は出
来ないが、最新の地形図にもない真新しい高圧鉄塔が出来ていること。この赤白鉄塔、ひ
ょっとして能勢の赤白鉄塔と同一の幹線に属するものなのかもしれない。

この南峰から西方向へ明快な道が下っていく。摂丹境界だから当たり前か。前方には木立
の間から中ノ尾(中尾ノ峰)が蟠っている。が、やはり修験の道。大岩には鎖もかかる。
しかしこの辺りから関電の巡視道としても使われているらしく、我々にとってはハイウェ
イ?みたいな道になった。しかも緩い傾斜。登りに較べりゃ天国だわい。(笑) それが植
林帯になると地形図にも示されるように再び急傾斜。しかも歩き所を選べるので大したこ
とはない。あっという間に鞍部に降りつく。
母子峠付近は手入れされた植林

 母子峠と呼んでおこう。Ca510mの峠である。茶色い枯れ枝の中にボロボロになった
トタンの看板が転がっている。それを見て「おおっ」と唸る。何とここが武庫川源流なの
だった。南に流れれば母子大池から青野川を経て武庫川へ、北も龍蔵寺川を経て武庫川で
ある。ただ、ここから東の三国ヶ岳から流れ出る水は篠山川に流れ込んで加古川になるの
だから地形というものは不思議である。しかし、その源流ははっきりいって鹿や猪の風呂
場、即ち「ヌタ場」でありました。

母子峠にあった武庫川源流を示す標識

 さて、中ノ尾はまたにして峠を北に向かう。しばらくは枝打ちされた杉林であるが、次
第に谷状を呈するようになる。倒木や朽木が多く荒れた感じがする。しかも苔むした大石
はよく滑るので、足場を選んで歩かねばならない。ずっとこんな調子が続くのかと覚悟し
ていると先行者の残置テープ。そうして石の隙間に水も見られるようになると、はっきり
した踏み跡も左岸に現れた。それは切断面がU字型を呈する部分もあり、傾斜の厳しい箇
所ではジグザグに下っていく典型的な峠道となるから、昔からよく歩かれた峠越えの古道
であったに違いない。どんな人々が歩いたのか、そんなことにも思いを馳せて歩くのも愉
しいものだ。
母子峠から武庫川源流の一つ、
龍蔵寺川のやや荒れた枯れ沢を下る

 30分ばかり歩いて前方が明るくなると林道の始点に飛び出す。右岸に渡ればコンクリ
道になって、道端にはミツマタが植えられ、花芽がもう白く膨らんでいるのが見て取れた。

林道始点に出てきた

 龍蔵寺の鐘楼が見えてくる。道端にチェーンソーで彫られたのであろう円空仏のような
仏像も置かれていて面白い。ぶらぶら歩きで始点から10分。愛宕堂の参道口に戻れば今
日の山行もエピローグ。侮りがたしの愛宕山。ここも趣のあるいい山だ。機会があれば美
濃坂峠から三山を巡りたいもの。そんな気にさせる山でありました。

 腹ごなしもしたし、さあ、後はボタン鍋。ビールを仕入れて急ぎましょうか。



■呉春さん、幸さん、たらちゃん、ハム太郎さん、水谷さん、もぐさん

【タイムチャート】
11:55〜12:25龍蔵寺門前駐車場(駐車地、昼食)
12:30〜12:40龍蔵寺
13:00愛宕堂参道階段下
13:05船●口(ふなさかぐち)●は"土へん"に"幼"
13:10〜13:15愛宕堂
13:18船●口(ふなさかぐち)●は"土へん"に"幼"
13:43向山口
13:48〜13:55如意ヶ峰
13:56愛宕山(648m)
14:00南峰(Ca650m)
14:44〜14:47母子峠
15:16林道始点
15:25龍蔵寺
15:30龍蔵寺門前駐車場(駐車地)



愛宕山のデータ
【所在地】兵庫県三田市・篠山市
【標高】648m
【備考】
篠山盆地の南、摂丹国境を画す山々の西部に位置する双耳
峰で、三国ヶ岳、中ノ尾(中尾ノ峰)と併せて太平三山と
呼ばれています。北麓にある太平山龍蔵寺は天台宗の古刹
で、太平三山はその修験の山であったようです。それを示
すように、南の母子からはなだらかな山容ですが、北側は
急峻で下山に躊躇するくらいです。
【参考】
2.5万図『篠山』


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