弥山、明星ヶ岳〜梅雨の合間に天女花
 
雨の滴が初々しいオオヤマレンゲ
平成19年 7月 8日(日)
【天候】曇りのち一時雨
【同行】別掲


 花の名所は数々あれど、オオヤマレンゲといえば大峰の弥山。そして小生のオオヤマレ
ンゲ詣でも今年で三回目。咲く時期が梅雨時で、しかも休日となればかなり制約があるも
のだが、いつもそこそこ天気がもってくれる。今年も大して降られることもなく、初々し
い天女花に出会え、無事、所定の目的を達することが出来たのだった。

 Hさんの呼びかけで集まった天女花オフ。集合時間は行者還トンネル西口に8時過ぎ。
前日に飛び入り宣言して5:45自宅発。豊中からだとどうしても2時間半は見ておかね
ばならない。国道の土砂崩れ跡も片側一方通行だが直ぐに通れ、8時15分、ほぼ2時間
半で到着。駐車スペースはまだ余裕があったが、この後どんどん車が登ってきて、8時半
にはほぼ満車状態である。年々、天女花の人気はうなぎ登りの様子だ。

 少し前に到着していたHさんとSさんと落ち合って話をしている内に、Nさんの車も到
着。総勢6名、定刻に無事集合である。青空も覗き始め絶好の山日和だ。但し、この時は
であるが...。
大方の登山者が出発し尽くしたあと、ゆっくりと

 大方の登山者はもう出発したようだ。ハルゼミの鳴き声は相変わらずかまびすしいのだ
が、人声が聞こえなくなると急に静かに感じるから不思議だ。鮮やかな青い花をつけたヤ
マアジサイを足元に、登山口の木橋を渡る。小坪谷の向かいには夥しい花をつけたヤマボ
ウシが綺麗だ。300mも谷川沿いに進めば木橋。谷沿いに登るコースもあるらしいが、
ここはオーソドックスに通常ルートで進む面々である。(笑)

 この石楠花尾根はいつきても半端じゃない。のっけからの急斜面に、エンジンがかかる
前の体にはつらい。風も無し。多湿。どっと汗。これを予測して今日は団扇持参なのだ。
パタパタパタ。それでも「アチーッ」。

 赤いすべすべした幹は白い花の大きさからみてナツツバキらしい。一日で落ちる花。平
家物語で云う沙羅の花である。その群落を右に見て、木の根道をぐんぐん高度を稼ぐ。そ
してシロヤシオが増えてきたら奥駈道との出会いは間もなくだ。人声も聞こえ、薄くガス
が流れる出合では先行していた団体さんが休憩中。「ここから1時間は平坦ですので。」
珍しい女性ガイドが説明している。

ガスがたゆたう奥駈道出合。ふう!だが弥山まで更に2時間

 奥駈道は昨夜来の雨と多くの登山客で、ぬかるみ状態の所も多い。気をつけねばズルリ
と滑ってしまう。石休宿跡を過ぎ、ミソサザイの囀りを聞く。バイケイソウの花の季節だ。
包の間から花茎を立てている。匂うと独特のガス臭がする。ところでショウキランは?と
探していると、ふと目を向けた先に一株。何気なく眺めた先に目当ての花があるとは不思
議である。なんだか、花が見てくださいとテレパシーで呼びかけているような。と考える
のは少し大袈裟か。(笑)
咲き始めたショウキラン。良く見れば蘭特有の形をしている

 弁天の森には三角点がある。ここで少し休憩。次いで大峰修験の中興の祖、聖宝理源大
師の像がある聖宝ノ宿跡でも一息入れる。像の前には誰が備えたかナツツバキの花。なん
となく理源大師像もそれを見て、微笑んでいるような風情。ここでも多くの登山客が休憩
中である。

 ここからは最後の難関、弥山小屋まで一気の登りだ。ジグザグの登りだが、そろそろシ
ャリバテの身にはドスンと来る登り。而して結構長いのだ。晴れていると鉄山などが垣間
見られていいのであるが、今日はちょっと無理。所々にある木の階段をポクポク。弥山小
屋の自家発電のディーゼル音を耳にするまでの我慢である。

 ウーンと腹に響くようなディーゼルの唸りがだんだんはっきり聞こえてくる。頭上に小
屋の輪郭が目に入る。そして『弥山』と書かれた大きな標識板を天河弁財天奥宮の鳥居の
横に見る。弥山小屋の横では公衆トイレの新築工事中。1回100円也で小屋のトイレを
借りずとも済むようになるらしい。

 それにしても今日は弥山の上も繁華街状態だ。都会の喧騒を山の上へ持ってきたみたい。
昼食スペースがあるかと国見八方睨の広場に向かうと、幸い少しスペースがある。早速、
ザックをおろす。今日は久しぶりに自家製弁当と冷えたビールを持参。美味いわあ。でも
閉口なのは虫が多いこと。食べている最中にもわんさかとたかって来る。その中にブヨ系
統もいたらしい。一週間経っても腕に2、3箇所、刺された跡が赤い。

国見八方睨の下付近から眺める八経ヶ岳。近畿の最高峰だ

 食事の後はお目当てへ、八経ヶ岳に向かおう。ガスが取れてコニーデ形の優美な姿がお
いでおいでをしている。弥山と八経ヶ岳の鞍部に降り、鹿よけのネットを張り巡らした中
に鉄扉を開けて入れば、オオヤマレンゲとカラマツソウの園だ。長年の保護が功を奏した
のかオオヤマレンゲは年々樹勢が盛んになっているようで、今年は多くの花を咲かせてく
れている。六甲高山植物園で見たオオバオオヤマレンゲとはやはり少し花が異なっていて、
花の中心のシベが赤くない。顔を近づけると馥郁とした微香があった。

天女花の下にはカラマツソウ

オオヤマレンゲ

 頂仙岳のピラミダルな姿が右にある。弥山小屋が小さくなり、その立つ位置と同じ高さ
くらいになると、人声が林の向こうから聞こえ始める。もう山頂は近い。右に向きを変え
て最後の登り。想像した様にこちらも多くの人である。おりよく団体さんが引き上げた後
でこれだから、混雑時はどんなだったやら。入れ替わり立ち代わりかな?それを知ってか
知らずか、ナナカマドが小さな白い群れ花を咲かせている。

八経ヶ岳山頂から見る明星ヶ岳

 八経ヶ岳の頂上から南に延びる奥駈道を見ると、ガスがたなびく中に三角型のなかなか
美形の山がたたずむのが分かる。エアリアマップを見ると明星ヶ岳だ。直線で700m位
か。その姿に往復40分程度と踏んで、折角ここまできたので足を伸ばしてみる気になっ
た。他の皆さんには先に引き返してもらうことにして、八経ヶ岳の南に延びる奥駈道を下
る。トウヒ、ウラジロモミの林を抜けると、今度はイタヤカエデの林だ。その向こうに明
星ヶ岳と思しき高みが望める。奥駈道はその方向へ向かっていくが、それを辿ると右にオ
オヤマレンゲの保護ネットが現れた。但し、ここのは小さくて丈も低く、規模的には弥山
の鞍部とは比べ物にならない規模のようだ。そのネット沿いにしばらく歩くと前方に標識
を見る。

 狼平・坪内への分岐とある(弥山平)。「あれ?」少し感が狂う。坪内っていうと天川
温泉近くのことだ。弥山からなら分かるのだが...と、エアリアを見て氷解。狼平、弥
山、明星ヶ岳とトライアングルになっているのである。ここから狼平へはオオヤマレンゲ
の保護ネット沿いに行くみたいだが、奥駈道に比べるとやや踏み跡は薄いようである。

明星ヶ岳山頂の荒れた風景

 さて、奥駈道を更に辿ると、天理大VWの黄色い標識から徐々に登っていくようになる。
そして水平道から林を向こう側へ降りていくと猛烈なガスが吹き上がってきた。後はしば
らく下るばかりのようで、こりゃあ行き過ぎたなと戻ることにする。

 なるべく一番高みからと考えていたが、お誂え向きに、ちょうど真東が山頂と思しき地
点に来る。テープも何もないが、藪もないのでここから取り付くことにした。ちょっと獣
くさい匂いがある。コガラが2羽慌てて飛び去る。潅木を潜って高みへと進む内に、トウ
ヒの倒木が累々とした荒れた感じの山頂に出た。白骨木に山名プレートが二つ三つ。ガス
に包まれて遠望はおろかすぐ近くも霞んでいる。というわけで、長居もせず今度はコンパ
スを見ながら真西を目指して下る。程なく奥駈道へ。そこは天理大のVWの標識近くだっ
た。さっきの狼平分岐(弥山平)はすぐで、良く見るとそこからテープが山頂へ向かって
いるではないか。見逃していたみたい。ほんと人間の目なんて当てにならないものだ。(^^;

 八経ヶ岳へ戻るまで人っ子一人にも会わない。あの人混みなんだ?(笑) そして八経ヶ
岳も人が減っており、一組が山頂の脇で食事中の他は誰もいない。一息入れて下山にかか
る。

弥山山頂の天河弁財天社の奥宮

 オオヤマレンゲの群落にもほとんど人影はなく、弥山も潮が引くように人が減っていて、
さっきまでの喧騒は何処へ行ったのやら。辺りには発電用のディーゼル音が低く響くのみ。
本来の静寂が戻ってきたようだ。久方ぶりに弥山の山頂に寄ってみよう。鳥居を抜け、八
経ヶ岳からも良く見えた黄色いポリタンク横を登ると天河弁財天奥宮の建つ山頂広場だ。
少し裏に回ってみよう。すると、累々とトウヒの白骨林が荒涼とした雰囲気を醸し出す風
景が現れた。向こうの高みは頂仙岳らしい。

 四つ手網みたいなもので受けながら、木の枝で頻りにナナカマドを叩いている小父さん
がいる。「何かいますか?」問いかけると「コメツキムシ専門なんですが...。」とプ
ラスチック容器で見せてくれたのは朱色の小さなカミキリムシ。「南紀にしかいない種類
なんですよ。何でここにいるのか不思議だなあ。」「...。」貴重種なのだそうだ。門
外漢には良く分からぬが、こだわりのマニアにはそんなものか...。

弥山山頂から西、トウヒの白骨林を見る。奥は頂仙岳

 さて、先を急ごう。弥山小屋から急降下して聖宝理源大師像までやってくる。小屋近く
の木製階段で男女二人組を追い越した以外はやっぱり誰にも会わない。いつの間にかガス
が濃くなっていて、辺りはもう7時くらいの夕闇が迫ったように暗い。ここが奥駈道で良
かった。(^^; 

 ふと腕に何か冷たいものを感じたと思ったら、ついにポツポツ、次いで木々の葉をたた
く雨音が一気に高くなる。降りだした。しかし不思議と雨粒が当たらない。木の繁みが防
いでくれている。有難いものだ。そんな中を急いでいた弁天の森の手前。久しぶりの人声
だと思ったら、やっぱりメンバだった。やっと追いついた。(笑)

 石休宿跡を過ぎる頃、ガスも徐々に薄れてくる。するとハルゼミが急に賑やかに鳴き始
めた。奥駈出合からトンネル西口までの急斜面はこの雨で滑りやすくなっている。ここは
不思議と何かしらアクシデントに見舞われる人に会うことが多い所なのだが、今日も足を
挫いて仲間と一緒に下っていく男性がいた。

 取り付きの木橋を渡らずに川に下りて顔を洗う。冷たくて気持ちが良い。誰しもここで
一息入れるらしく、他にも2、3の組が休憩中である。聞けばさっきの足を挫いた男性の
お仲間という事だった。

 登山口に戻ると、もう車はポツポツとあるだけ。見上げるとまたガスが尾根付近を覆っ
ている。雨もまた降りだした。いい潮時に戻ってきたようである。

 メンバと別れて、帰りも行者還トンネル経由の道を採ったが、これがまあ凄いの一語で
あった。ガスがトンネル内部に充満しているのだ。おまけに1kmはあるトンネルなのに照
明が一切ないというトンネルは、勿論、出口など見えない。頼りは自車のライトのみとい
う心細さ。フォグライト、ハイビームに漂うのはフワリとした白いガス。三分の二程度進
んでようやく灰色がかった出口が浮かび、やっとこさ通過したと思ったら、東口は視界5
0mもない雨の中の大濃霧でありました。いやあ、凄かった。

 今年も会えた天女花。同行の皆さん、有難うございました。


■同行:あかげらさん、幸さん、なかいさん、ハム太郎さん、水谷さん

【タイムチャート】
5:45自宅発
8:15〜8:40行者還トンネル西口(駐車地)
9:40〜10:05奥駈道出合
10:18石休場宿跡
10:30弁天の森
12:10〜12:45弥山(1,895m)(国見八方睨(昼食))
13:25〜13:36八経ヶ岳(1,915m 三等三角点)
13:47弥山辻(狼平分岐)
13:55〜13:57明星ヶ岳(1,894m)
14:04奥駈道出合
14:08弥山辻(狼平分岐)
14:22〜14:24八経ヶ岳(1,915m 三等三角点)
14:44〜14:56弥山山頂(1,895m)
15:26〜15:28聖宝宿跡
15:52〜15:55弁天の森
16:04石休場宿跡
16:15〜16:20奥駈道出合
17:15行者還トンネル西口(駐車地)


弥山のデータ
【所在地】奈良県吉野郡天川村
【標高】1,895m
【備考】 大峰山脈の主要な峰の一つで、最も目立つ峰でもありま
す。山頂には弥山小屋、天河弁財天社の奥宮があります。
国見八方睨からの展望も秀逸です。
八経ヶ岳のデータ
【所在地】奈良県吉野郡天川村、上北山村
【標高】1,914.6m(二等三角点)
【備考】 紀伊半島の脊梁、大峰山脈の主峰で、八剣山、仏経ヶ岳
とも呼ばれます。弥山との鞍部付近にはオオヤマレンゲ
の群生地があり、7月の開花期は白い天女花が咲き乱れ
ます。山頂からの展望も素晴らしく、大峰の主だった峰
々が望めます。トンネル西口から登れば日帰りが可能で
す。
■日本百名山■近畿百名山■関西百名山
明星ヶ岳のデータ
【所在地】奈良県吉野郡天川村、上北山村
【標高】1,894m
【備考】 八経ヶ岳の南に位置する独立峰ですが、名前の割りに目
立たない山で、奥駈道が山頂の肩を通過しています。山
頂は倒木が累々としており、奥駈道の狼平への分岐から
薄い踏み跡があります。
【参考】2.5万図『弥山』



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